ゲッター3に攻撃してくる勢力は三日目になっても出現しない。
どうやら高高度戦闘に適したものを用意するのに時間がかかっているか、あるいは存在しないと思われる。ゲッター3は伸ばした腕から受信される音声を日々ハヤトのジャガー号へと優先して繋いでいた。リョウマは聞いているだけで疲れるとの事で既に受信を諦めたようだ。ムサシも頭がこんがらがるというのでこちらからの情報しか与えていない。
コックピットの中でハヤトは息を殺しヘッドフォンから聞こえてくる音声に耳を傾けていた。
「地軸の安定性、及び座標の一致に関してはまだ情報不足だな。だが少しだけ分かった事がある。リョウマ、聞いているか?」
『……んだよ、今寝てたんだぞ』
「一つだけ、決定的な事がある」
『何だ? つまらなけりゃ聞かねぇぞ』
「連中、戦争をしているようだ」
ハヤトの声にリョウマが息を呑んだのが伝わった。そのままハヤトは続ける。
「大陸間戦争だ。どうにもオレ達の最初に降り立った島国は大国の一部であり、拠点でもあったらしい。あの島国にあるサオトメ研究所の位置に存在する戦争のための前線基地に飛び込んだわけだ。未確認機であるオレ達が。そりゃ、おっとり刀で返すのも分からなくはない」
『ちょっと待て! 大陸間戦争だって? じゃあ何でネフィリムをこっちに送ってくるんだよ』
「言ったろう。相手がレプリカントだとは限らないと。もしかしたらレプリカントやオレ達の闘争とは全く別の次元の可能性もある」
『ここまで似ていて違う、ってのも腑に落ちねぇな』
相手の科学技術も、ネフィリムに似た兵器の放った攻撃も解析に回されていたがやはりゲッター内のコンピュータだけでは解析不可能なものが多い。ハヤトはせいぜい情報をたくさん持って帰ってシステムAIに判断してもらうしかあるまい、と考えていた。
帰れれば、の話であるが。
こちらの指定した時刻では深夜時間、動きがあった。ハヤトは漏れ聞こえてくる音声に混じった僅かなノイズを聞き逃さない。反政府時代に培った神経がノイズの指向性を直感していた。
――これは暗号化通信だ。
すぐさまハヤトは暗号の解読に移る。どうやら一定周期のノイズはその時間分だけ巻き戻した情報を読み取れ、という事らしい。ハヤトは早速レコーダーに入っていた情報と音声を逆回しした。
「……我が国、発見せり。ゲッター線兵器、未確認……、三十六万光年向こうより、だと?」
途方もない情報にハヤトは額に手をやった。三十六万光年先のゲッター線兵器をわざわざ発見した、というのを暗号化せねばならない。その事実から逆算されし事柄は――。
「この惑星の人々はゲッター線兵器を知っている?」
その前提に立った時、ハヤトは自然と今まで謎であった部分が拓けたような気がした。ゲッター線による福音。待ち望んでいる人々のメンタリティ。ネフィリムとゲッターを合わせたような兵器の存在……。
「リョウマ。緊急発進をかける」
『進展でも?』
リョウマはとっくに諦めているようだったがハヤトは違った。まだ自分達には出来る事があるはずなのだ。
「ゲッター1へとチェンジ。今度はあの戦艦へと特攻をかける」
その言葉にはさしものリョウマとはいえ驚愕したに違いない。少しの沈黙の後に、『いや、でもよ』とうろたえた声が発せられた。
『あの戦艦に突っ込むなって言ったの、てめぇじゃ……』
「連中の持つ情報を衛星軌道だけで受け取るには限界がある。なに、もう四日待った。相手側も準備が整っているはずだ」
『整っているって……、その根拠は?』
「大陸間戦争とゲッター線兵器。それに暗号化された情報にその尖兵たるゲッターに似た存在。恐らく、連中が待っているのは純粋なゲッター線兵器」
何を言っているのか分からないのだろう。リョウマは、『ワケわかんねぇ!』と呻いた。
「だろうな。オレも半信半疑だが」
三機を分離させると先ほどまで眠っていたのかムサシの操るベアー号の挙動が遅れていた。
「ムサシ、ゲッター1にチェンジだ」
『おっ、おう? どういうこった?』
「いいから、チェンジしろ」
有無を言わさぬハヤトの声音にリョウマとムサシが従ってゲッター1へとチェンジを果たす。ゲッター1は四日前と同じように大気圏を突き破って降り立った。当然、相手からの迎撃が来ると思い込んでいたリョウマは随分と肩肘を強張らせている。
「緊張を解け、リョウマ。オレの考えでは攻撃は来ない」
『どうだか。おれはてめぇを全面的に信用しているわけじゃねぇ』
リョウマならばそう言うと思っていた。だがゲッター3のままでは大気圏を突破出来ない。ゲッター1になるのは必然であった。それに四日前と同じ形態でなければ意味がないかもしれない。
『おいでなすった!』
リョウマの声が弾け、ステルス型の機体が戦艦から跳ね上がってくる。当然、リョウマは戦闘神経を走らせようとしたがハヤトが制する。
「やめろ! こっちからは攻撃の意思を出すな!」
『出すなって言っても、取り囲まれちまう!』
ステルス型の機体が変形しゲッターの姿を顕現させる。当然、攻撃はあるものだとリョウマは感じていたのだろう。しかし、取り囲んだだけでどの機体からも攻撃は読み取れない。
『どうなってんだ……』
「やはりな。こっちの情報が行き渡っている証拠だ」
ゆっくりと降り立つように、と相手の機体が誘導する。リョウマはほとんど狐につままれた様子でそれに従った。
『罠、って事は』
「あり得るが、ここで罠にはめるくらいならばあらゆる手段が残っている。この国はゲッターを受け容れる姿勢が出来た、という事だ」
釈然としないリョウマは、けっと毒づく。
『何だかてめぇの思惑通りみたいで気が乗らねぇな』
「安心しろ。オレとてこの考えが合っているのかどうかの信憑性はない。ほとんどギャンブルだ」
戦艦の甲板へとゲッターが降り立つや否や青い光線が照射される。リョウマが身構えたが、「抑えろ!」とハヤトが声にする。
「オレ達で言うところのレンダリングビームだ。攻撃性能はない」
その言葉通りに照射された装甲には傷が一切なかった。ほとんど原始本能の獣同然のリョウマを飼い慣らし、ハヤトは通信を開く。
「チャンネルは、626だ」
広域通信チャンネルを開くと分け入ってきたのは今まで聞き馴染みのある声だった。
『来たか。ゲッターが』
その声の主にリョウマも驚愕する。ハヤトも半ば予想出来ていたがすぐには信じられなかった。
『今の声……』
「ああ、恐らくは。出てくるぞ」
甲板に出てきた人々の中に明らかに異色な白衣の老人がいる。リョウマは震える声でその名を口にした。
「サオトメの、ジジィ……?」
その姿はサオトメに瓜二つであったからだ。信じられないのはハヤトも同じであったが、ある程度心の準備が出来ていたお陰か、幾分か冷静だった。
「降りるぞ、リョウマ」
『冗談。ゲッターから降りた途端に銃撃されるぞ』
「ではオレだけでも降りよう」
ハヤトはコックピットハッチを開ける。久方振りに外界の空気が肺に染み渡った。ゆっくりと降下するとサオトメの似姿の老人はゆっくりと歩み寄ってきた。下駄を履いているのも同じだ。
「よく来てくれた。ゲッターの使者だな?」
やはりサオトメそのものの声にハヤトは直感する。この戦艦も、ステルス型のゲッターも、製造したのはこの老人だと。
「こっちでははじめまして、でいいのかな」
ハヤトの声に相手は口角を吊り上げた。
「冷静だな。取り乱してもおかしくないのに」
「取り乱すよりかは、四日間かけてお前らがこちらの理解をしようとした、と思ったほうが建設的だ」
「よかろう。ついて来い。後の二人は」
「ゲッターの守りにつかせる。オレが言えばそう従うだろう」
「結構。他のゲッターステルス部隊にも達しておく」
ゲッターステルス。やはりゲッター線兵器なのだ、とハヤトは改めてその全容を眺めた。分離機能はどうやらオミットされているようであるが戦闘機としての質はこちらよりも上のようだ。
「どう呼べば?」
ハヤトの声に老人は振り返る。
「そちら側では、ワシは何と呼ばれていた?」
「サオトメ博士、と」
「ではワシもそう名乗ろう。早乙女だ」
老人の胸にはよく見れば名札があった。「早乙女」と書かれている。
「久しく見なかったな。もう存在しない文字だ」
ハヤトとて文献資料でしか知らない。その文字との対面に感動している間もないのだろう。早乙女は来るように促す。
「ゲッターへ。そのまま待機」
ハヤトの命令でリョウマが、『うーい』と返した。ムサシは状況が飲み込めていないらしい。ハヤトだけが戦艦の中に入る事を許された。内部には様々な精密機械が並んでいる。
「技術力だけ言えば、そちら側と対等か、それ以上だろう」
早乙女の声にハヤトは返していた。
「いつ頃から、ゲッターの建造を?」
早乙女が指差す。その先には初代ゲッターロボと思しき素体の写真があった。こちらで言うプロトゲッターの装甲を剥がしたような姿だ。
「ゲッター線がこちらで見つかったのはもう二十年は前の話だ」
「あんまりあちら側と変わらないな」
ハヤトの声に早乙女は、「落ち着いておるのだな」と声にする。
「叫び出したい気分だが、生憎オレが取り乱せば、後の二人が黙っていない」
ハヤトが肩を竦めると早乙女は振り返って両手を掲げる。
「このタワーの建造が始まったのがもう四十年ほど前。こちら側の主力兵器、ステルバーを改造しゲッター炉心を取り付けたのが最近の話だ」
よってゲッターステルスか。ようやく得心したハヤトはまず口火を切った。
「こちら側から、あちら側は見えているのか?」
「本来なら干渉も許されぬ領域よ。だが、ワシらは干渉しなければならなかった。近しい未来に訪れる破滅を回避するために」
ハヤトは立ち止まり頭を振る。
「聞いているだけでは頭がパンクしそうだな。一つずつ、こちらの質問に答えてもらう」
早乙女は手招いて人影のないブロックへと誘導した。ここならば、とハヤトも腰に備えた拳銃を思考の隅に留める。
「レプリカント、とオレ達が呼んでいるのはあんたらだな?」
「そう呼ばれているのは知っておるが、好ましくない名前だ。その理由は」
「ある程度、推理はしてきた。あんたにはそれが合っているのかどうか、確認だけしてもらいたい」
ハヤトの声に早乙女はフッと口元に笑みを浮かべる。
「よかろう。答え合わせと行こうか」