偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第六話「異界奇譚 6」

 

 ゲッターステルス。

 

 そう呼称された機体に挟まれる形でリョウマの乗るゲッター1は立ち竦んでいた。一歩でも動けば両側から締め上げられるだろう。しかしハヤトにだけ待遇がいいのは何故なのだろうか。コックピットでふんぞり返ったリョウマは文句を垂れる。

 

「……おかしいだろ。おれ達だってゲッターの一員だ。だって言うのに、ハヤトだけいい目を見やがって」

 

『俺は手間が省けていいと思うがな。なにせ、ここは知っているようで知っていない土地だ。俺だって混乱している』

 

 それは自分も同じだ。周囲を見渡すほどに似ている事に気付く。樹海の中に聳え立つ塔のような戦艦。全身これ武器とでも言うようなハリネズミを思わせる機体。ハヤトは大陸間戦争だと言っていたがこれはそのための兵器なのだろうか。

 

「通信チャンネル、アクティブになっているんならこっちの声も聞かせられるよな?」

 

『何をする気だ?』

 

 ムサシの懸念を他所にリョウマは通信に割って入った。

 

「あーテステス。てめぇら……あ、いや、あんた様方達は何者であるか? オーバー?」

 

 我ながら演技が下手である。しかし相手はこちらの通信チャンネルに合わせて律儀に返してきた。

 

『我々はゲッター線の恩恵を待つ者。この地にて待ち続ける事を宿命付けられた種族です』

 

 リョウマは顔をしかめる。相手はレプリカントでないのか。

 

「じゃあ、その、レプリカントじゃねぇのか?」

 

『レプリカント? それは被造物でしょう。幸いにしてその国家との戦争はこう着状態にありますが』

 

 相手の言わんとしている意味が分からない。リョウマは一つずつ、解きほぐす事にした。

 

「レプリカントは、いるんだな?」

 

『連中は数年前に我々を見限りました。そして自分だけの国家を作ろうとしたのです。偽人類との戦争は新たな局面に入り、我々は軍備増強を強いられました。その過程で手に入れたのがステルバーとゲッター炉心を繋げ強力な兵器とする技術。ゲッターの恩恵です』

 

 相手の言葉は分かるものの言っている事はちんぷんかんぷんである。リョウマは分かりやすい回答を求めていた。

 

「……えっと、つまりだ。てめぇらレプリカントじゃねぇのか?」

 

『我々は真人類。トゥルーヒューマンです』

 

 新しく出てきた言葉にリョウマは狼狽する。真人類など聞いた事がなかった。

 

「それは、つまり普通の人間、って事でオーケーか?」

 

『便宜上、普通というのがどの値を示すのかは謎ですが、それで結構です』

 

 やり辛い事この上ない。普通の人間ならばもっと普通らしく喋ればいいものを。

 

「ゲッターの技術ってどこから仕入れたんだ?」

 

『三十六万光年先で戦い続けている前線基地から情報として送られてきました。この設計図通りに炉心を造れ、と。それがお前達を救うだろうと。三十六万光年先のギフトと言えば、我々では通じますが』

 

「おれには通じないんだよ。悪かったな。で? どうしてそのゲッター炉心を造れっていうお告げが来たんだ? その設計図通りに造れたってのもなかなかに謎だけれどよ」

 

『ゲッターの意思は全宇宙の総意。全てはゲッターの皇帝であるゲッターエンペラーの意思の下、統一されているのです』

 

 新興宗教を聞かされている気分だった。リョウマは手を払う。

 

「ゲッターエンペラー? 何だそれ」

 

『ご存知ないのですか? それで、どうしてこれほどまでに完璧なゲッター線兵器を?』

 

 逆に聞かれても答えようがない。ゲッターを造ったのはサオトメだからだ。

 

「おれが知るかよ」

 

『……失礼ながらお名前は?』

 

 その質問にリョウマは怪訝そうな顔をして返す。

 

「あん? リョウマだ、ナガレ・リョウマ」

 

 その言葉を聞いた途端、通信チャンネルが開いている全通信網が一斉にざわめいた。

 

『ナガレ、だと?』、『あり得ない。その名前は……』、『だがゲッターの意思で統一されているのならば』、『博士は? 博士は何と言っているんだ?』

 

 喧しい声の数々にリョウマは、「うるせぇ!」と一喝する。

 

「人の名前にケチつけるんじゃねぇ!」

 

 しかしゲッターステルスに収まったパイロットは納得いかないらしい。

 

『その名前を名乗れるのは、何故なのです? だって、その名は……』

 

 それ以上は憚られるとでもいうようにゲッターステルスのパイロットは震え出した。リョウマにはわけがわからない。

 

「勝手にざわめいて勝手にビビッてんじゃねぇよ。おれ達が悪い事したみたいじゃねぇか」

 

 ムサシはしかし、連中の様子を目ざとく観察していたらしい。リョウマへと告げ口する。

 

『おい、あそこ。甲板の端のほう』

 

 メインカメラからの映像が拡大される。リョウマはその瞬間、心臓を鷲掴みにされた感覚に陥った。

 

「何で……」

 

 視界に入った白衣の影は他でもない。自分が忘れるはずのない人物であった。思わずコックピットから飛び出して声を張り上げる。

 

「タツヒト!」

 

 リョウマの声にその人物は視線を振り向ける。その顔は間違えようがない。サオトメ・タツヒト本人であった。だがタツヒトはどうして自分が呼ばれたのか判然としていないようだ。

 

「……失礼ながら、初対面のはずだが」

 

「んなわけがねぇ。てめぇが、何で生きている?」

 

 タツヒトは仲間である研究員達に何事か耳打ちしている。まるで自分を無視した態度にリョウマは苛立った。

 

「おい! 無視してんじゃねぇぞ!」

 

「初対面であるし、何よりもゲッター線兵器から出てきたお前を、見過ごせとは言われていない」

 

 甲板に出てきた軍人達がアサルトライフルを構える。取り囲んでいるゲッターステルスも攻撃姿勢に移った。

 

「何のつもりだ……」

 

「牽制攻撃ならば許されている、と言っているんだ。今はお前達の仲間の一人が博士と話しているからこそ、恐らくはゲッターの意思で統一されているのだと推測される。だがそれを外れた行動は許されない」

 

「んだと……。てめぇ! 信念も何もかも! 忘れやがったのか!」

 

 リョウマの張り上げた声にもタツヒトは冷たい眼差しを返すばかりである。

 

「分からない。何を言っているんだ? やはり野蛮人か?」

 

 タツヒトは背中を向けて何やら指示をしている。リョウマが今にもコックピットから飛びかかろうとすると、『動くな!』とゲッターステルスが制した。

 

『撃てとは言われていない。だから動かないで欲しい』

 

「ざけんな……、勝手な理屈押し付けやがって。ハヤトの奴もそうだ。自分で勝手に納得してやがる。おれは! 一言だって納得してねぇ!」

 

『動くなと言っている!』

 

 ゲッターステルスが構えを取る。リョウマは舌打ちを漏らした。

 

「とんだお笑い種だぜ。見知らぬ異郷の地で見知った人間に裏切られるってのはよォ!」

 

 リョウマの声をタツヒトは渋い顔をしていなし、「放っておけ」と言い放った。

 

「何も理解出来ていないんだ。ゲッターの意思の偉大さも。それは何をもたらすのかも。引き上げてくれ」

 

 タツヒトの命令で戦艦の陰から何かが巻き上げられる。リョウマはそれを目にして絶句した。

 

 それは先刻自分達が破壊したトーテム型ネフィリムの残骸そのものであったからだ。

 

「何でだ……。てめぇら! やっぱりレプリカントか!」

 

 リョウマの声にゲッターステルスのパイロットが、『落ち着け』と声を被せる。

 

『あれは我がほうの新型兵器だ。レプリカント打倒のために必要なもので実験中であって……』

 

「うるせぇ! もうてめぇらの言う事なんて聞かねぇぞ!」

 

 リョウマはコックピットに収まり、ゲッター1に機動をかける。ゲッター1の払った腕がゲッターステルスを下がらせた。

 

『何をする? 貴公らは客人であろう!』

 

「客? 悪いがこんな趣味の悪い星にお邪魔した覚えはねぇなァ!」

 

 ウイングの皮膜が閉じてゲッターEトマホークを右手に保持する。明らかに攻撃に移ろうとしているゲッター1に相手は戸惑っているようだった。

 

『馬鹿な……。ゲッターの意思では分かり合えるはずなのに……』

 

「どこから仕入れた宗教だ? おれ達ゃ、お天道様も何もかも信じちゃいねぇのよ! てめぇら全部、偽物だァ!」

 

 Eトマホークの刃が発振しゲッターステルスの機体表面を叩きつける。ゲッターステルスは手首から赤い剣を発生させてそれを弾いた。干渉したゲッター線のスパークに眼が眩む。だが慣れているのはこちらのほうであったらしい。リョウマはゲッター1に踏み込ませて一気に薙ぎ払った。ゲッターステルスの右腕が両断される。うろたえた様子のゲッターステルスパイロットは、『どうしてだ……』と理解出来ていないようだ。リョウマはゲッター1にEトマホークを構えさせる。

 

「ゲッターの意思だぁ? そんなもん、知ったこっちゃねぇのよ。てめぇらゲッターの下で仲良しこよしと言いたいんだろうが、生憎とレプリカントの知り合いはいないんでね」

 

 ゲッターステルスが一斉に飛行する。上を取れば有利だと考えたのだろう。リョウマはゲッター1を駆け抜けさせる。ほとんど面食らっている相手に向けてEトマホークを振り下ろした。相手の反撃が鈍い。今が好機であった。

 

「こいつら、叩き切るぜ!」

 

 その声にムサシが反論する。

 

『だがハヤトは待てと言っていたぞ』

 

「待て、だと? おれ達ゃ犬か? 待てと言われて敵陣のど真ん中で悠長に待てるほど、馬鹿じゃねぇつもりだよ」

 

『愚かな……。全てはゲッターの意思の下、統一されているのに』

 

 ゲッターステルス部隊がゲッター1を取り囲み各々の武器を出す。引き出された赤い剣をそれぞれゲッター1に向けた。

 

『やはり、そちらはゲッターに選ばれていない様子だ』

 

「選ばれるだと? んな事、最初から望んじゃいねぇ!」

 

 叫んだ声が掻き消える前にゲッター1がEトマホークを突き出して一機へと猪突する。ゲッターステルスが剣で応戦した。

 

『ゲッターの意思を理解出来ないのならば、お前らは敵同然だ』

 

「敵で結構、好かれちゃ困るんでな!」

 

 Eトマホークを薙ぎ払う。ゲッターステルスは対ゲッター用には出来ていないのかこちらのパワーよりも随分と低いようだ。

 

『全機、ゲッタービームを放て』

 

 各機がゲッター線を充填する。赤いゲッター線の光がそれぞれの胸部に寄り集まり次の瞬間、ゲッター1に向けて放たれた。しかしリョウマはそれを避けようともしない。それどころかゲッター1に命じたのは動くな、であった。

 

「そんなこけおどし!」

 

 ゲッター1が身を翻す。その動作で竜巻が発生しゲッター1へと攻撃されようとしていたゲッタービームが霧散する。

 

『ビームを……弾いた?』

 

「この程度も出来ねぇのかよ。腑抜け共め!」

 

 ゲッター1が一機、また一機とゲッターステルスの羽根をもいでいく。連中がレプリカントならばこのやり方でいいはずだ。何よりもタツヒトの偽物を用意した事が許せない。それは自分とタツヒトの間にあった漢の誓いを侮辱するものであったからだ。

 

『馬鹿な……。どうして分からない? ゲッターの意思を! 理解しようともしない蛮族が!』

 

 先に右腕を破砕してやったゲッターステルスが戦艦に取りついて攻撃指令を出そうとする。リョウマはゲッター1を先行させ甲板へとほとんど飛び蹴りを放つ勢いで着地した。戦艦が傾ぎ、人々が悲鳴にまみれる。

 

「んなもん知るか! 悪いがこの戦艦は厄介なんでね。牽制はさせてもらうぜ」

 

 Eトマホークの刃を艦橋部分に向ける。人々の中にはタツヒトのレプリカントも混じっていた。

 

「何をやっているのか、分かっているのか? ゲッターの意思を理解出来ぬ種族に、未来はないのだぞ」

 

 タツヒトの姿形をしたレプリカントの喚きをリョウマは無視する。

 

「だったら、その薄汚い擬態を解きやがれ! レプリカント野郎が!」

 

 リョウマの罵声を人々が屈辱の表情を浮かべて受け止める。

 

『馬鹿を言え……。レプリカントとは、偽人類とは、こちらではなく……』

 

 その時、不意に通信が入ってきた。切迫した声にリョウマは耳を傾ける。どうやら広域通信らしい。甲板にいる人々もゲッターステルスもそれを聞いていた。

 

『何だって? 重量子ミサイルが発射された……? ここへ向かって?』

 

 要領を得ない言葉の数々にリョウマが胡乱そうな目を向けているとハヤトが戦艦から飛び出してきた。

 

 舌打ちを一つしてから、『動くな、と言ったはずだが』と声にする。

 

「うるせぇ! てめぇ勝手におれ達が従うと思っているのか?」

 

『……まぁいい。後で言いたい事は言ってやる。今は、早乙女博士』

 

 やはりサオトメと寸分変わらぬ姿の人影が歩み出てくる。それもレプリカントに違いないとリョウマはEトマホークを向けた。

 

「そいつも、レプリカントなんだろ!」

 

 リョウマの声にサオトメと思しき人影は肩を揺らして嗤った。

 

『げに恐ろしきは無知なる者だな。一つだけ、歴然とした事実だけを教える。数分前。この国に向けて敵性国家から重量子ミサイルが発射された。巨大な重力崩壊が巻き起こり、この場所が消滅する。地図から消えるのも時間の問題であろう』

 

 ゲッターステルスのパイロットや戦艦の乗組員達も震撼したようだった。タツヒトにしか見えない人物が、「しかし博士」と声にする。

 

「こちらには重量子ミサイルに対抗する手段がありません!」

 

 ほとんど悲痛な叫びに近い声にも白衣の老人は淡々と応じる。

 

『いいや、希望は残っている。観測者だと信じて疑わなかったが、どうやらお前らはワシらの敵らしいな』

 

 観測者、という言葉にリョウマは不明な点を感じたが敵だというのはその通りだろう。

 

「ああ。てめぇらみたいなイカれた野郎をぶっ潰す」

 

 リョウマの声に白衣の老人はくっくっと嗤う。その姿でさえもそっくりだ。

 

『なるほど。ならばその怒りの矛先が消えるのは不本意ではないのか? 我々は恐らく滅びる。敵対国家の手によって。それが恐らくゲッターの伝えてきた滅びの時。我々がいくらゲッターの意思を継ぎ、この惑星を守ろうとも敵は何も分からずただ闇雲に突っ込んでくるのだ。そこでゲッターチームに提案したい。我らと共に、重量子ミサイルの着弾阻止を』

 

 思わぬ言葉だった。リョウマが瞠目しているとハヤトが声をかける。

 

『あんた達はここで死ぬわけにはいかないのだな?』

 

 どこか達観したような物言いにタツヒトの姿をした男が答える。

 

「もちろんだ! ゲッターの意思が潰える!」

 

『ならば、リョウマ。迷っている暇はないぞ。重量子ミサイルが目の前で暴発すれば、オレ達とて危うい』

 

 究極的に利害の一致で戦おうというのか。リョウマはそれでも納得出来ない。

 

「何でだよ……。こいつらが敵だろう?」

 

『分からないのか。真実を知ろうと思えば、ここで連中に死なれれば迷惑なのはこっちも同じなんだ』

 

 ハヤトだけ分かった風な口を利く。それが気に入らないが目の前で敵だと断じた連中が滅びるのはもっと胸糞が悪い。

 

「わぁったよ! ハヤト、乗れ!」

 

 コックピットハッチを開いてゲッター1を屈ませる。ハヤトは最後に白衣の老人に向けて振り返った。

 

『最後に。オレの推測通りならばこの重量子ミサイルでの出来事こそが未来に影響を与える』

 

 未来? 何を言っているのだ。リョウマの思案を他所にどうやら白衣の老人は全てを悟っているらしい。

 

『そこまで分かっていながら、ここで重量子ミサイルの阻止に入る、そのこころは何だ?』

 

 ハヤトは呟いた。その言葉は聞き取れなかった。

 

『……なるほどな。抑止力か。だがそれが発生するのが今だとは限らんぞ』

 

『今でなくては、説明のつかない事が多い』

 

「だべってねぇで早く乗れ!」

 

 リョウマの催促にハヤトがジャガー号へと収まる。ゲッター1が立ち上がるとゲッターステルス各機も発振準備にかかった。戦艦からの伝令が通信網を振るわせる。

 

『ゲッターステルス、全機発振準備!』

 

『タワーは全砲門開け! 何が何でも重量子ミサイルを爆発圏から遠ざけろ!』

 

 リョウマにはまるで分からない。何が起こり、何が起ころうとしているのか。これから先、どのようにこの惑星が変異するのか。

 

『リョウマ。理解しようと思うな』

 

 その様子を察したのかハヤトが通信を繋いだ。

 

「理解せずに戦えって?」

 

『重量子ミサイル爆発の阻止。今は、それだけでいい。その過程で何が起ころうとも、今はそれだけを考えていろ』

 

 まるで何かが起こるような言い草だ。リョウマは納得がいかなかったが今はハヤトの言葉を信じるほかない。

 

「行くぜ、ゲッター1! 出撃!」

 

 ゲッター1がウイングを展開し他の機体より先んじて上昇する。ハヤトがリアルタイムで重量子ミサイルの弾道予測を送ってきた。

 

『タワーの情報だ。恐らく間違いはない』

 

「間違っていたらお陀仏なんだろ? じゃあ間違えねぇな」

 

『なぁ、俺にはまだよく分からないんだが』

 

 ムサシの声に自分とて分からないと叫び返したかったが今は状況を動かす事だけを考えるほうがよさそうだ。

 

 ゲッターステルス部隊がゲッター1に追いついてくる。連中も弾道予測地点に機体を配置し、それぞれ防衛ラインを敷いているようだった。

 

「何機いやがるんだ……」

 

 あの戦艦の中に数十機のゲッターステルスが内蔵されていた事になる。それでも物量で押されていれば負けていたのはこちらだ。

 

『リョウマ! 弾道予測空域にゲッター1で飛ぶ! 用意はいいな?』

 

「もちろんだぜ! 飛べ、ゲッター1!」

 

 ウイングを広げゲッター1が高機動形態に入る。重量子ミサイルだか何だか知らないが所詮は弾道兵器なのだ。ならば最新鋭のゲッターが勝てない道理はない。

 

「見えてきた!」

 

 ゆっくりと煙を棚引かせながらミサイルが拡大された視野に入る。リョウマは制動をかけてゲッター1に武器を構えさせる。

 

「ゲッタービームで撃ち落とすは危険だろ? Eトマホークで引き裂く!」

 

 右肩のウイングをトマホークに変異させEトマホークの刃を発振させたゲッター1が突っ込む。そのまま、ゲッター1の攻撃が重量子ミサイルを両断するかに思われた。

 

 だが、それを阻んだ機影があった。リョウマはEトマホークを掴んだその影に瞠目する。

 

 黒い機体に、赤いエネルギーパーティションが映えている。悪魔の威容を持つ機体が黄色い眼窩でゲッター1を睨んだ。

 

 見間違えようのない。それはまさしく――。

 

「ヨロイの、ゲッターだと?」

 

 ヨロイのゲッターに違いないのだが、その体表には赤い鉱石は存在しない。純粋な形でゲッターに近い。

 

『こいつ、重量子ミサイルを守ったのか……』

 

 ムサシの声にリョウマは弾道予測がゲッターの試算を追い抜こうとしている事に気付く。

 

「させっか! 追うぞ!」

 

 ゲッター1が駆けようとするがその行く手をヨロイのゲッターが遮る。リョウマは舌打ち混じりに呟く。

 

「……そうかよ。やっぱりてめぇは、おれらの敵ってワケか!」

 

 Eトマホークを顕現させてヨロイのゲッターに飛びかかる。相手は赤い刃を発振させてトマホークで打ち合った。火花が散り、成層圏で二体の機影がもつれ合う。

 

『リョウマ……! ヨロイに頓着するな』

 

 ハヤトの警句にも耳を貸そうとしたがヨロイのゲッターは密着していて離れない。

 

「野郎が離れてくれねぇんだよ!」

 

 蹴りを放ったがヨロイのゲッターはそれをいなして拳を打ち込んできた。後ずさったゲッター1がゲッター線を充填する。攻撃色に転じたエネルギーが光条として放たれた。

 

「ゲッター、ビーム!」

 

 ゲッタービームを受けてヨロイが後退する。どうやらこの状態のヨロイのゲッターは自分達の戦った時ほど強くないようだ。

 

「今だ!」

 

 駆け抜けようとすると今度は新たな接近警報に目を見開く。ゲッターステルスがヨロイのゲッターを守るように取り囲みゲッター1へと重火器を向けていた。

 

「……何でだ」

 

 自分達は守ろうとして戦っているのに。通信を繋ぎリョウマは叫ぶ。

 

「何でだ! てめぇら!」

 

『福音はこちらであった。やはりお前らはゲッター線に選ばれなかった存在。ゲッターノエルは守らなければ。それがゲッター線を受け継ぐ者の宿命である』

 

「……よく分からねぇが、敵対するって事なんだな?」

 

『リョウマ。頭を冷やせ! 今は重量子ミサイルだ!』

 

『あんな規模のミサイルが爆発したんじゃ、この惑星もお終いだぞ!』

 

 ハヤトとムサシの声にリョウマは辛うじて熱しかけた思考を抑える事が出来た。ゲッター1がウイングを拡張させてミサイルに追いつこうとする。だがどうしても埋めようのない速度の差があった。

 

「ゲッター1じゃ、追いつけねぇ……」

 

『止むを得まい! チェンジだ』

 

 しかしそれは了承出来ない。今の速度で分離すれば機体が分解しかねない。

 

「こんな加速度でチェンジしたらおれらも無事じゃ済まねぇぞ……!」

 

『最後の手段しかあるまい。ゲッター2にチェンジ後、Eドリル最大出力でミサイルを破壊する!』

 

 どうやらそれに乗るしかないらしい。ゲッター1では出力の限界値に達していた。

 

「やるぞ! 吐くなよ、ハヤト、ムサシ!」

 

 分離した三機がすぐさま合体軌道に入る。ジャガー号を先頭としてベアー号、イーグル号が接合し最後にジャガー号に合体した瞬間、ロケット型の頭部が引き出て鋭い双眸を湛えさせた。

 

『Eドリルハリケーン! 最大出力!』

 

 ゲッター線の皮膜を受けたゲッター2が音速をも超える速度でミサイルへと肉迫する。既に戦艦から弾丸が放たれておりミサイル迎撃のために動いていたがあまりにも鈍足であった。

 

 ミサイルは真っ逆さまに戦艦へと向かっていく。ゲッター2のEドリルがミサイルに届くかに思われた刹那、何かがゲッター2に命中してその軌道を逸らした。

 

 リョウマは確かに目にする。戦艦の過剰な防衛攻撃が逆にゲッター2の進路を阻んだのだ。その一瞬が明暗を分けた。

 

 重量子ミサイルが着弾した瞬間、音が消えた。

 

 全ての音が消失し、光が弾け飛ぶ。戦艦はどうなったのか知れない。全て白色の向こう側へと持っていかれた。それはゲッターとて同じであった。爆発の余波がゲッター2の装甲を叩きつけそのまま光の渦の中へと吸い込まれていく。

 

 リョウマは自分という存在でさえ捩じれの中に引き込まれていくのを感じた。

 

 光で染まる視界の中に黒点が映る。それはゲッターステルスを全て破壊したヨロイのゲッターであった。衛星軌道からこちらを見ているのがどうしてだかこの時、リョウマには分かった。

 

 手を伸ばそうとする。その瞬間、感覚でさえも光が消し去った。

 

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