偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第六話「異界奇譚 7」

 通信網を震わせるのは雨のように間断のない声だった。

 

 呼びかけているのだ、と感じた時ようやくその輪郭が明らかになる。

 

『……さん、リョウマさん! ゲッター! 応答してください!』

 

 ミチルの声だ。リョウマは手を伸ばしたままの姿勢でコックピットに収まっている事に気付いた。全ての通信機器がショートしており残っていたのは原始的な通信網だけである。ボタンを押してリョウマは応じた。

 

「……こちら、ゲッター。位置情報は?」

 

『よかった……。ゲッターより応答!』

 

 オペレーター達の声が相乗して聞こえてくる。リョウマはモニターの一つを点けた。すると木々が乱立しており、自分達は樹海の中にいる事が分かった。

 

「おい、ここは……」

 

『位置情報特定。ネフィリムの放散爆発の痕です!』

 

 ミチルの声にリョウマは周囲を見渡す。サオトメ研究所が望める景色はいつもと変わったところはない。

 

「おれ、達は……」

 

 帰ってきたのか? その疑問を口にする前にミチルが喜びに満ちた声を出す。

 

『よかった。たった三十分でしたが、消息不明で』

 

 その言葉が信じられなかった。リョウマは聞き返す。

 

「……何だって? 三十分?」

 

 リョウマの様子がおかしいと判じたのかミチルも疑問の声を出した。

 

『ええ、三十分ですよ。放散爆発の余波で通信網がおかしくなっただけみたいですね』

 

「通信がイカれただけ? じゃあおれ達は? あの四日間の出来事は?」

 

 要領を得ていない質問だったのだろう。ミチルは、『四日も何も』と返した。

 

『まだ一日も経っていません。捜索隊を出すべきか悩んでいたんですが、急にゲッターの反応が復活したので』

 

「急に? そんな馬鹿な。おれ達は、確かワケが分からん世界に呼び出されて……、それでミサイルの迎撃に、失敗して……」

 

『疲れているんですよ。連日の戦闘ですし。帰還してください。それとも、こちらから部隊を送りましょうか?』

 

 間もなく研究所からベータが発進する。代わり映えしないベータの機体。その姿にゲッターステルスの機影がだぶる。

 

「……夢でも見ていたのか?」

 

 ハヤトの呻り声が聞こえてきた。リョウマは早速繋ぐ。

 

「ハヤト? 生きてんのか?」

 

『ああ。辛うじて、な』

 

「おれ達、妙な世界に行っていたよな? それこそ、この惑星と寸分変わらない……」

 

 ハヤトは何も答えない。ムサシはまだ気絶しているようだった。ベータ部隊がゲッターを回収する。リョウマは未だにこれが現実なのか、夢なのかの判断がつけかねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漂っている、という感覚があった。

 

 サオトメは報告を聞き流しながら、「またしても」と口を開く。

 

「正体不明の現象に我々は立たされたわけか」

 

『しかし、シグナル消失の三十分間にパイロットの心肺も全く見られず、これは行方不明になった、というよりも』

 

「別の時空へと飛んだ、と言うべきか」

 

 サオトメの声にミチルは、『いえ、ありえませんよ』と応ずる。

 

『放散爆発はこちら側で起こった事です。もし次元を飛んだとするのならば……』

 

 濁した先をサオトメは言い放つ。

 

「ゲッターチームは奴らと出会った可能性が高い」

 

『でも誰も言わないのが奇妙なんですよ』

 

 ハヤト辺りが突っかかってくるかと思っていた。それにリョウマとて黙っていないと。だが実際にはゲッターチームは口を閉ざしている。何が起こったのかは推測するしかないが恐らく自分達の想像以上だろう。

 

「ゲッターはあの次元に飛んだのだとすれば、口を閉ざしたくもなるかもしれない」

 

『ですがあちら側の事は秘中の秘。もしリョウマさん達が誰かに教えるような事があれば』

 

「あり得んな。あれは人類全体の業なのだ。一つでも漏らせば自分達が抹殺されかねない事くらいは理解しているとて」

 

 サオトメは修復されていくゲッターをモニターの一つに捉える。それでも未だに拭えないのは浮遊感とも言える感覚だ。

 

「向こう側で恐らくワシは死んだな」

 

 サオトメの述懐にミチルは声を差し挟む。

 

『向こうで、の出来事は記録出来ません。よしんば記録したとしても、こちらの履歴を削除すれば』

 

「ミチル。お前がシステムAIを務めている以上、情報漏れはあってはならない。ゲッターのレコーダーは」

 

『無論、削除済みです。その中に気になる事が』

 

 ミチルの提示したデータにサオトメは首肯する。

 

「……やはり、得ていたか。これはハヤトの組み上げたデータだな」

 

『疑似餌の可能性もありますが』

 

「ここまで嘘八百を並べられんさ。どうせ奴が喚いたところでこの研究所の人間は皆、ワシの言う事を聞く。ハヤトには人望がない事も全て承知の上よ」

 

『了解しました。ジン・ハヤトの組み上げた仮説は』

 

「棄却せよ。なに、奴も馬鹿ではあるまい。これが妄言だと言われかねないと分かっていて口を閉ざしておるのだ」

 

『では引き続き、ジン・ハヤトの監視を厳とします』

 

「ゲッターの秘密に辿り着く人間がいるとすれば、あれ以外にあり得ない。リョウマは本能だ。分かっていても、いや分かっているからこそ口を閉ざす。そういう性質だよ」

 

『ムサシさんは、どうなさいます?』

 

「ルナリアンの言う事をまともに聞く人間がこのサオトメ研究所にいるとでも?」

 

『では監視は継続で』

 

 サオトメは椅子に腰かけて呟く。

 

「真のゲッターの継承者は何者なのか。それを知るには奴らはまだ青い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何者なのか、か」

 

 ハヤトは自室でヘッドフォンを片手にそれを聞き届けていた。システムAIであるミチルの目を掻い潜るのはこの研究所ではほとんど不可能に近いが一つだけ、それが可能な場所があった。

 

「さしものAIでも地獄の釜を常に見張っているほど暇ではあるまい」

 

 ハヤトが自室から掘り下げて向かっていたのは地獄の釜のすぐ傍である。ゲッター2の機能試験を兼ねた実験動作の時、間違えて掘ってしまった事を装って既に穴は開けておいた。そこに通信機器を置いて中継点とし、地獄の釜での傍でも通信傍受が可能となった。サオトメはすっかりもうプロトゲッターに自分が関わらないと思い込んでいる。しかしハヤトはこのプロトゲッター――地獄の番人でさえもこの謎を解くための必要な存在であると悟っていた。

 

「博士はオレ達にわざと隠している。次元を渡った事も。そしてその次元の行き着く時間も」

 

 ハヤトの個人レコーダーにはゲッターから既に消去されたデータがバックアップされていた。ネット接続時の端末に繋げばそれだけ足がつきやすい。ハヤトは年代物のスタンドアローン状態端末を使い、その情報を整理していた。

 

 もう一つの次元。ネフィリムが送り込まれているであろう惑星。そこで出会った「早乙女」を名乗る研究者。聞き出した真実――。

 

「もし、これらが本当ならば、オレ達がこのサオトメ研究所にいる事自体が仕組まれている。それがゲッターの意思なんかではなく、一人の狂科学者の、エゴに過ぎない事だとすれば……」

 

 ハヤトは拳を握り締めて覚悟を決める。

 

 すると年代測定結果のコンソールに結果が映った。その結果にハヤトは瞠目しながらもやはりと確信を得た。

 

 今より遡る事三百年前、とそこには記されていた。

 

 

 

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