偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第七話「崩壊への序曲 2」

 

「ゲッターロボとは何なのか」

 

 その命題を打ち込んでもやはり満足のいく返答は帰ってこなかった。

 

 ハヤトは煙草を吹かしながら端末と向き合っている。サオトメの管轄下ではあるが、ハヤトは好奇心を抑えられなかった。あの世界、あの出来事、全てが未だに生々しい。だというのに、全ての事象はあの世界を否定している。空白の三十分。放散爆発の向こう側。

 

 自分達は確かに別の惑星に降り立っていたのだ。四日間もの間、別の星にいたというのにその事実がレコーダーにも書き込まれていない。ハヤトがまず疑ったのはメカニックや研究員連中で、彼らの端末を盗み見たが、それらしき改ざんはなかった。ならば、と今度はミチルに裏からアクセスしようとするもミチルの権限を越えるだけのアクセス権はこの研究所には存在しない。仕方なしにハヤトが持ち出したのは反政府団体所属時に使っていた端末である。別口から研究所のネット経路に潜り込もうとしたところ、一発で端末の回路が焼き切られた。今使っているのはもう三台目である。

 

「問おう。ゲッターロボとは何なのか」

 

 検索をかけてみてもやはりサオトメによるゲッターロボの完成までの日取り程度しか出てこない。研究レポートが一つとしてない事にハヤトは疑いを持っていた。何よりもあの世界の、あの早乙女の言葉――。

 

 ハヤトは検索する文字列を変えた。

 

「レプリカントはどこから来るのか」

 

 裏資料が並ぶがどれも満足いく答えではない。異次元からの侵略者説、別宇宙の侵略者説、あるいは某国の科学兵器……。全てがノン、であった。

 

「どれも、オレの納得行く答えを出してはくれない」

 

 やはりサオトメに直接掛け合うしかないのか。そう思ってハヤトは画面をスクロールさせる。すると、ある一つの論文に行き当たった。

 

「ゲッター線は人類の侵略者……、おいおい随分と攻めたタイトルだな」

 

 論文を開くとそこにはゲッター線がどこまで残酷なのかを示す論説が載っていたが、どれも推測や主張ばかりで客観的事実に欠けている。

 

「こんな論文、誰が書いたって言うんだ?」

 

 著者を見やる。シキシマ、とあった。ハヤトはシキシマの経歴を洗う。すると驚くべきところに着地した。

 

「……おいおい。これはオレも予想だにしない」

 

 シキシマの所属していた研究団体。その一つにサオトメ研究所が上がっていた。ゲッター線を否定する研究者がいた。その事実だけでもセンセーショナルだ。

 

「ゲッターは、人類の味方ではない?」

 

 ハヤトの問いに端末も何も答えない。その代わり、彼は立ち上がっていた。端末を持ったまま格納庫へと歩み出る。ハヤトの姿を見つけてメカニック達が三々五々に散った。彼らの了承を得ずに、ハヤトはアイドリング状態だったベータに乗り込む。それをようやくと言った様子でメカニックが見咎める。

 

「は、ハヤトだ! ジン・ハヤトが脱走するぞ!」

 

 その声には電光石火の如く、駆り出された職員達だがハヤトはこう言い捨ててベータを発進させた。

 

「安心しろ。逃げやしない。どうせオレはもう、ゲッターに取り憑かれているのさ」

 

 その言葉を誰も否定する事は出来ずに、発進したベータを見送る事だけが彼らの務めだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハヤト脱走、の報はすぐさまサオトメのいるブロックに届いた。しかしサオトメの取った方針は、「慌てるな」である。

 

「ハヤトの位置は逐一モニター出来る。いつでも奴の首輪を爆破出来るのだ」

 

 その証拠にミチルはハヤトが出る前にハヤトの異常行動をモニターしている。ハヤトは端末を手にベータに乗った。目的地のない逃避行ではない。

 

『博士、やはりジン・ハヤトは』

 

「分かっておる。勘付いた、か。あるいは消されたものに取り憑かれたようだな」

 

 抹消された記録。ない、のならば記録としても不完全なそれだがハヤトは異世界を見ている。あの世界に何が起こり、何が生まれたのかを知る者はこちらでは数少ないが、リョウマも気にしている様子がミチルから報告されてきた。

 

「リョウマは並行世界と。奴らしからぬ難しい考えよ」

 

 サオトメは手を組んで熟考する。ここからどう出るか。ゲッターチームの内部分裂すらあり得るが、それを危惧する気持ちはサオトメにはない。むしろ、ゲッターチームが今までになく行動力を発揮している証拠だと感じているほどだ。しかし、ミチルは気が気でないらしく、『博士……』と不安げな声を振り向けた。

 

『このままでは、ゲッターの運用に支障が出ます』

 

「ゲッターがいざという時に動かせぬ、か。ミチルよ。お前はまだ、奴らを完全には理解出来ておらぬようだな」

 

『理解も何も、リョウマさんはまだ、心中は分かりますが、ジン・ハヤトの身勝手な行動、それにムサシさんはああ言ってもルナリアンですし……。正直、今のゲッターチームは空中分解寸前です。ここで誰かが働きかけねば』

 

「では、お前がその軸となるか? AIであるお前が」

 

 サオトメの言葉にミチルは二の句を継げなくなったらしい。鼻を鳴らし、「何も心配は要らん」と口にした。

 

『何故です。何故、博士はそこまで向こう見ずにいられるのです?』

 

「ワシの行動が向こう見ずに映るか?」

 

 思わぬ言葉にサオトメは聞き返す。ミチルは若干の反感を込めた口調で返す。

 

『ええ……。リョウマさんを死地に追いやったり、ハヤト侵入を分かっていて止めなかったり、危険な月面任務を充てたり、博士……。本当に、ゲッターチームを生かすつもりなんですか?』

 

 AIから説教を受けるとは思わなかった。サオトメは口角を吊り上げる。

 

「そうまで言われてしまえば立場はないな」

 

 ミチルはハッとして、『失礼を』と佇まいを正す。サオトメは片手を上げた。

 

「いい。思っている事を口にしてくれる部下は久しく失っていたものでな」

 

 タツヒトの事を忘れたわけではない。しかしリョウマさえいれば、と言ったのも嘘ではない。あれは強がりでもなんでもなく、本当に「ナガレ・リョウマ」さえいれば問題なかったのだ。

 

『……リョウマさんは、背負っています。タツヒトさんの分までも』

 

「背負わせておけ。どうせ、連中はこの惑星の存亡をかけておるのだ。一個人レベル、背負えないのはおかしい」

 

 サオトメの言い草があまりにも人間離れしていたせいか、ミチルは糾弾する。

 

『博士! リョウマさんやゲッターチームを思うならば今の言葉は暴言ですよ!』

 

「ああ、分かっておるさ。しかし、ミチル。随分とまた、……暴言とは、人間らしい言葉を使うようになったのだな」

 

 ミチルが言葉をなくす。サオトメは中空を睨んで、「何も心配いらんよ」とこぼす。

 

「全ては万事順調なのだ。奴らが異世界に行ったのも、いずれは知らねばならぬ事。ワシの口から言ったのでは奴らは信じぬだろうからな」

 

『……ゲッターが最終的に何を目指して設計されたのか、そろそろ教える頃合なのでは?』

 

 ミチルは知っている。知っていながら黙っている事に耐えられなくなっているのだ。それほどまでに、彼女は人間らしくなってしまった。リョウマと邂逅したこの数十日で。

 

「まだだ! まだ連中の誰にも知らせるわけにはいかん。地獄に落ちた事だけを、連中は知っていればいい」

 

 サオトメの言葉は時に暴力のような情け容赦のなさを感じさせるだろう。しかし全ては人類のためなのだ。それを理解しているのは悲しいかな、ミチルだけである。

 

『博士……、ですがゲッターが』

 

「最悪、リョウマとムサシで行かせろ。自動操縦でももう奴らはオベリスク型程度に遅れを取らん」

 

 ハヤトは、とサオトメは考える。あれは自分と同じ目をしている。求道者の目、世界の真実を知る事を許された者の目だ。あの輝きを持つ目の持ち主を無理やり止める術はない。

 

『全て、ゲッターと人類のため、なんですよね』

 

 この期に及んで確認してくるミチルにサオトメは言いやった。

 

「くどいぞ。その通り。ワシは人類とゲッターの安寧のためならば地獄の羅刹にでもなろう」

 

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