ハッと気がつくとメカニックや研究員達がベアー号に取り付き、自分に救命措置を施していた。ムサシの目が開いた事にミチルが声を上げる。
『よかった……! ムサシさん!』
「俺、は……」
指先の感覚を確かめようとする。救護班がムサシの脈をはかっていた。
「脈拍、正常です」
『急にベアー号で昏倒されて。それで意識がなかったものですから。ムサシさんの言葉通りに放っておく事は出来ずに、私……』
自分はまだベアー号にいるのか。ムサシは周囲を見渡しベアー号のキャノピーとコックピットのアームレイカーを視界に入れる。
「俺は、ミチルさん。俺は、何時間くらい倒れていましたか?」
何時間、という問いかけにミチルは言い辛そうに返す。
『いえ、たった三分間ですけれど……』
またしても自分は時空を超えたのか。ムサシは自分の指先を確かめつつ救護班に手を払った。
「いや、もういい……。もう大丈夫だから」
『不安ですよ。ムサシさんにまで何かあったら、って』
「……俺にまで?」
まるで他の連中にも何かあったかのような言い草だ。ムサシが勘付いたのが伝わったのかミチルは答える。
『ハヤト……さんが、つい先刻、研究所を脱走したのです』
「ハヤトが……」
何故、という思いよりもムサシにはある予感がついて回った。ハヤトはあの世界での出来事を自分やリョウマよりも克明に記憶しているはずだ。当然、この世界に馴染めるはずがない。
「確かめに行ったんだ」
どこへ、という主語は抜けていたがムサシには確信があった。重い頭を振るって意識を鮮明に保とうとする。しかし意識の糸に緊張を走らせようとすると今度は先ほどの大戦争の様子が網膜の裏に再生された。思わず目をきつく瞑り、「ミチルさん……」と声にする。
『何でしょうか?』
「ゲッターは、本当に人類の救済者なのか? 教えて欲しい。サオトメ博士に、直接聞きたい。本当に、ゲッターは人類を救えるのか。そもそも、このゲッターは」
その段になってムサシは計器の一つに触れ、どこか夢見がちに呟く。
「――このゲッターは、本物なのか?」
訪れたのは孤島であった。木の一本も生えていない禿げ上がった大地に小さな半球状の家屋があった。ほとんど鉄製で、ハヤトはインターフォンを押す前に壁を叩いてしまったほどだ。
「鋼鉄の家、か」
それを皮肉ったのは孤島の周りが全てプラネットシェルの外殻で覆われているからである。ここに居を構える主人はもしかすると絶対の孤独の中に浸りたかったのかもしれない。しかしプラネットシェルのネットワークがそれを許さなかった。
現にシキシマの居所を突き止められたのもプラネットシェルの管理するネットワークからであり、この孤島が真の意味で孤島であったのは三年前までだ。周辺の海域は埋め立てられ、最早残存する生命体はいなかった。そういう点では海ごと干上がった土地とも言えなくはない。緑一つない土は脆く、踏み締めるとからからに乾いている。
「草木を使って水を沁み込ませる、という事すら知らんのか」
そんな相手が果たして本当に目的の人物なのか。ハヤトには幾ばくかの不安があったがインターフォンを押してみる。すると、『どちら様かな』と電子音声が発せられた。ハヤトは即座に飛び退いた。
先ほどまで自分の頭があった空間を引き裂いたのは赤い光線である。動物的本能がなければ確実に首を落とされていた。加えて警戒心を持っていた事が幸いした。まさか出かけに他人の首を掻っ切るような相手だとは思わないからだ。
「……危ない事だ」
『惜しいな』
扉の上から出てきたのはアイカメラである。単眼のカメラがハヤトの姿を拡大した。
『珍客だったものでね。このワタシを頼るなど』
「それもそうか。狂科学者、シキシマの自宅を訪問するなど、正気の沙汰ではないのかもしれん」
『おや、ワタシの事を知ってもなお訪問するというのか』
「ああ。あんたに用があってきた。こう言えば通じるか? ゲッターのパイロットだと」
その言葉に扉がキィと音を立てて開く。誰かが立っている気配はない。
『罠ではないよ。来たまえ。話をしよう』