「何のつもりだ?」
ハヤトの声に前を行く早乙女が顔を振り向ける。
「何の、とは?」
「オレ達に対する態度が、あまりにもよ過ぎる。オレが推測するに、お前達はオレ達の呼ぶネフィリムやレプリカントの主であるはずなんだ」
ハヤトの糾弾混じりの声に早乙女は嘆息をついた。
「ネフィリム……。そう呼ばれているのか、彼らは」
初めてそれを知ったような言い草にハヤトは困惑する。相手はそうと分かっていて侵略行為を進めているのではないのか。
「待って欲しい。人類に、宣戦布告したのは、あんたらだ」
「確かに宣戦布告はした。だが人類に? まさか」
早乙女は嘲るように口にする。
「もう人類は統一された意思の下、合い争う事なんてないのだよ。今までの諍い、付和など大宇宙の意思の前では無意味だという事に気付けたのだ。この惑星の人類は物分りがよかった」
この惑星の、と区切った辺りに引っかかりを覚えつつもハヤトは尋ねる。
「物分りがいい? ならば何故、侵略してくる? オレ達の世界を奪おうとするんだ?」
「誤解があるようだから言っておこう。人類同士、あるいはもっと簡単に言いかえれば、ゲッターに選ばれた存在同士が戦うのは非常に無意味で、理解に苦しむのだよ」
ゲッターに選ばれた? ハヤトは問いを重ねる。
「ゲッターに、意思でもあるような言い草だが……」
「その通りだ。ゲッターには意思がある。その意思が命じたのだ。この惑星を引き渡せ、と」
「何だと?」
驚愕の事実にハヤトは緊張を走らせる。比して早乙女は冷静であった。
「引き渡せ、と言っても何ら不都合はない。我々は死んでも光の中へと還れるのだから」
早乙女の言葉に何らかの宗教か、とハヤトは判ずる。それを見透かしたように、「原始宗教は」と早乙女が続けた。
「全てゲッターの意思の代弁者であった。ゲッターが何を言っているのか、噛み砕くために言語があり、救世主がおり、世界があった。ゲッターの意思、それ一つで惑星の文明が動いた。この惑星は、今にゲッターの意思通りに進むため準備を始めている」
「それが、ゲッターステルスか?」
ハヤトの問いに、「あれは尖兵だ」と早乙女は答えた。
「ゲッターの、いずれ来る大戦争に備えて、我らも準備をせねばならぬ。その軍勢に入るための、試験のようなものだ」
ハヤトは額を押さえて後ずさった。早乙女の言葉の半分も理解出来ない。
「理解が不能、か。分からなくもない。最初にゲッターの意思を受信した人間は狂人とされてきた。集団の異端者だと」
「博士、あんたもそうではないと?」
「ワシはな、ジン・ハヤト。ゲッターさえあれば何もいらん。そうとさえ思えてくる。この胸を満たすのは充足感だ。ゲッターの存在が、ワシの心を満たしているのだ」
胸元を引っ掴んで早乙女は訴えかける。しかしハヤトにはそれさえも狂人ではないのだと判じる術はない。
「……分からんだろうさ。しかし、その決定的な違いがもうすぐ訪れようとしている。ある一つの生命の終点、この惑星における循環が巻き起こる」
「それも、ゲッターが教えているというのか?」
冗談じみた声にサオトメはこめかみを突いた。
「ゲッターに選ばれた人類達の中でも、ワシは特別耳がいい。ゲッターの声が聞こえてくる。囁いてくる。もうすぐ滅びが訪れる、と」
「滅び? お前らが、か?」
「ワシらが、ではないよ。この惑星上で、全ての人類が同じ意思に統率された。だから戦争は起きないはずなんだが、ワシらは一つだけ、禁を破ってしまっていた。ゲッターの囁きが聞こえてくる頃にはもう遅かった。神の領域に、手を伸ばしていたのだ」
早乙女が中空を掴もうとする。ハヤトはその迫力に気圧されたように訊いていた。
「何を、造ったんだ?」
早乙女は口角を吊り上げて言い放つ。
「人間だよ。もう一つの人間の形を、ワシらは造り上げた後だった」
「人間。人間か」
ハヤトの話を黙して聞いていたシキシマはその響きがおかしくって仕方がないように笑い声を上げる。ハヤトはそのような気分になれず、沈痛な顔を翳らせた。
「太古の昔、神は土をこねて自分の似姿を造った。最初の人間、アダムは神の造った土人形だった」
「博識だな、ジン・ハヤト」
シキシマの賞賛を風と受け流し、ハヤトは言葉を継いだ。
「そういう事だったらしい。つまり、神に成り代わった人類は、もう似姿レベルならば造れたんだ。一つの大陸を与え、一つの文明を与え、一つの言語を与え、もう人類は新たなるフロンティアに旅立とうとしていた。旅路は、ゲッターが大宇宙で戦争を繰り広げる前線へ。ゲッターの進化の先を目指すために、その戦線へと加わろうとした、その準備期間にオレ達は訪れてしまったのさ」
「軍備増強。つまり、その一端こそが」
そこまで言葉を継がれてハヤトは言わざるを得なかった。
「ネフィリムであった」