偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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悪魔の胎児

 事の真相を話し終えたハヤトは少しばかり楽だった。サオトメ研究所では決して誰にも打ち明けられなかった上に、言っても狂人扱いだろう。

 

 白骨の狂科学者は、「それが全ての始まりか」と呟く。

 

「終わりでもあった」

 

 ハヤトはそう答えるほかない。何故、あの時間軸だったのか、それだけが謎だったがそれこそゲッターの、大宇宙の意思が見せたかったのかもしれない。一つの種の終わりとは、かくも虚しいものなのだと。

 

「重量子ミサイルを撃ったのは、やはり我々なのだな」

 

 シキシマは今の説明だけで理解したらしい。サオトメとは違うベクトルでの天才か、とハヤトは納得する。

 

「ああ。それこそ我らの原罪だった」

 

 煙草を、ハヤトは懐から出す。一服つかなければやっていけない話だった。シキシマも指を差し出す。どうやらこの白骨遺体、煙草を吸うらしい。ハヤトは一本渡して火を点けてやった。眼窩と頭蓋の穴から煙が棚引くのは不気味だったが、今しがた話した事実に比べれば動く死体など生易しい。

 

「この事実を、どう説明すればいい? オレは、リョウマにも、ムサシにも言えず仕舞いだった」

 

「リョウマ、ムサシ。それがゲッターチームか」

 

 シキシマはゲッターチームの情報までは手に入れていないらしい。ハヤトが説明しようとすると、「今分かった」とシキシマは答える。

 

「ナガレ・リョウマ。ベータ部隊のエースか。なるほど、ゲッターの第一のパイロットに選んだのは間違いではない。トモエ・ムサシはルナリアンだな。ネットワークが隔絶されていて月面の情報は全く手に入らなかったがサオトメ研究所にあるネットワークからある程度は仕入れられる」

 

 ハヤトはその言葉に確信を新たにする。

 

「やはり、シキシマ博士。あんたはサオトメ研究所にアクセス出来るのだな」

 

 あの難攻不落の要塞にアクセスし、何の足跡も残さない方法を心得ているのだ。シキシマは、「いい方法を一つ教えてやろう」と片手を持ち上げた。

 

「一回死んでみるんだよ。そうすればどこでも入り放題だ。何せ、死人の足跡なんぞ追っても意味がないんだからな」

 

「違いない」

 

 ハヤトは納得しながら紫煙をくゆらせた。レプリカント云々に関する事実も、死人ならばどこまでも客観的に見られるだろう。

 

「レプリカント……、偽人類の真相をどうするべきか。オレには判別がつけられない」

 

「意外だな、ジン・ハヤト君。いいやもうハヤト君と呼ばせてらおうか。そこまで知ったのならば分かるだろう? ワタシが何故、サオトメを信用していないのか」

 

「サオトメ博士はどうしてだかこの事実を秘匿し、レプリカントとネフィリムを人類の敵に見立てた。現状の管理システムを作り出したのは間違いなくサオトメ博士だ。シキシマ博士。あんたは、その秩序に異を唱えた」

 

「偽りの人々が偽りの秩序を享受する。まさしく偽の上に塗る偽。それを恥だとも思わないのは、どうしてだか人間として許せなくってね」

 

「人間、か」

 

 その定義すら、最早曖昧な部分になってしまった。ハヤトは再び言葉にする。

 

「レプリカントは、偽物は、オレ達自身……。この惑星に繁栄した、人類はかつてもう一種類いた。そちら側こそがゲッターに選ばれた人類だった。……しかし何故だ? ならば何故、あのゲッターは動く?」

 

「君達の乗るゲッターロボは、あれは何よりも偽物だ、という事だろう」

 

 シキシマの見解にハヤトは腑に落ちる事が多々あった。ヨロイのゲッターの存在。明らかに性能で劣るこちらのゲッター。さらに言えばプロトゲッターを何故、レプリカントが動かせたのか。それらの答えは全て、偽人類がこちら側である事を示唆している。

 

「驚きだな。あれだけの化け物がそれでもまだ偽物だとは。ならば真のゲッターは、どれほどなのか」

 

「サオトメはゲッターの意思を継ぐつもりはない。ワタシはだからこそ反対したのだ。この惑星に巣食うゲッターの遺伝子を駆逐し、ゲッターの守り手を破壊する。それこそがサオトメの目的」

 

「あのネフィリムが全て、ゲッターロボであった。その事実……」

 

 しかし分からぬ事もある。過去世界の人々は何故、それでもなおネフィリムを送り続けてきたのか。何らかの目的があったのではないのか。

 

「未来世界の救済にしては、過去から送られてくるネフィリムは多い。それに加えて、迎撃されるという事は、失敗だと分かっているはず。それでも送ってくる理由とは何だ?」

 

 シキシマは立ち上がりモニターの一つに電源を入れる。そこに映し出されていたのはプラネットシェルに覆われた惑星だった。衛星カメラを使っているのだろう。

 

「銀色の外殻に覆われた我らが母なる星よ」

 

 かつて自分達もその殻を砕こうとした。何の意味があるのかも分からずに。しかし、今ならば理解出来る。殻を割る事に意味はあったのだ。

 

「何かが、サオトメ博士は何かの覚醒を恐れて、プラネットシェルを推進したのだな?」

 

 ネフィリムとレプリカントの脅威は絶好の隠れ蓑だ。それを言い訳にすればプラネットシェル程度の文句は通る。

 

「これはワタシの推測だがね」と白骨のシキシマは手を掲げた。

 

「秘密があるとすれば、この惑星そのものではないのか。つまり、惑星そのものを銀色の外殻で覆い、管理する必要性があった。サオトメは、この惑星を制御下に置かねばならなかった」

 

「何を覆い尽そうとしていたのだと思う?」

 

 ハヤトの質問にシキシマは、「君のほうが真実に近い」とからからと嗤った。

 

「……早乙女、向こう側の早乙女博士は言っていた。ゲッターの意思。全ては大宇宙の意思であり、それに沿って計画は進められているのだと。オレには、最初その意味が分からなかったが、一度ゲッターの声を聞けば今もな。少しだけ聞こえるんだ。ゲッターの声が。そして、間断なく重なる鼓動が。脈動が」

 

 ハヤトの耳朶を打っているのは決して幻聴ではない。この脈動は自分のものではなく、もっと大きな存在のものだ。すぐ傍に巨大な生き物の気配を感じられる。この惑星の、どこにいてもそうだった。特にサオトメ研究所ではそれが顕著であった。誰も、その音が聞こえていない事が不思議なほどだ。

 

「最初は、頭がおかしくなったのではないか、とオレも疑ったさ。しかしそれ以上に、オレが確信していたのはあちら側の世界での出来事は必要不可欠であった。オレ達、いいや、このジン・ハヤトがゲッターについて知るには一度あの世界を体感せねばならなかった」

 

 ハヤトは煙草を捨てて踏み消す。シキシマは、「求道者か」と呟く。

 

「同じ眼をしとるよ。サオトメと君はね。どこまでも自分の道を問い質す求道者の眼だ。そして、それが間違っているなど露ほども感じていない」

 

「当たり前だろう。オレは、真実が知りたいだけなのだから」

 

 シキシマはくっくっと笑う。

 

「長生き出来んよ」

 

「ゲッターに乗った時点で、長生きなんて考えちゃいない」

 

 ハヤトの言葉にシキシマは、「よかろう」と手を掲げる。

 

「見せるのは君が初めてだ」

 

 シキシマの白骨化した指先からさらに極小のサブアームが伸長し、高速のタイピングを可能にした。瞬時に組み上がったプログラムが送信され、先ほどの衛星画像に色を添える。

 

 その映像は驚嘆すべきものだった。

 

「惑星の中に、何か、いる……」

 

 そうと形容するほかない。X線か、あるいは熱源反応だろう。透過された惑星の核に近い部分に、地殻ではない、何かの物陰があった。身体を胎児のように丸め、惑星の中で息づいている。ハヤトは思わず後ずさる。

 

「これは……」

 

「ワタシが発見したが、サオトメは揉み消した。このような事実は存在しない、と。その後だ。たちまちワタシの研究は糾弾され、サオトメ研究所から半ば追放の憂き目にあった。それも全て、これが原因であるのは言うまでもない」

 

「胎児、のようだな」

 

「そう。ワタシはこれをこう名付けた。エンブリオ、と」

 

 エンブリオ。その言葉に惑星の中に潜む謎の生命体が脈動を走らせたのが感知させられた。この惑星は、怪物を内に抱えたまま生きているというのか。

 

「早乙女博士も、同じ事を言っていたな。エンブリオのために手を取り合うべきだとも」

 

「ワタシはそんな思想には反対だな。何せ、こいつはゲッター以上の破壊神、いいや、ゲッターそのものとも言える」

 

 シキシマの言葉にハヤトは眉根を寄せる。

 

「どういう意味だ。エンブリオとゲッターには、因果関係があるのか?」

 

「ハヤト君、ゲッターに乗っているのならば知らないかね? 地獄の釜の存在を」

 

 サオトメが隠しているサオトメ研究所地下に眠るゲッター線の地獄。その番人、プロトゲッターが思い起こされハヤトはハッとする。

 

「地下のゲッター線量が膨大なのは、偶然ではない……?」

 

「ようやく気付いたか。ワタシは何年も前にそれを提唱しようとして追い出されたのだ。地下に眠るゲッター線。ゲッター線兵器を造る上ではなるほど、確かに有効ではあるし、何よりも守らなければならないものだ。だが、その守りを鎖に繋がれたプロトタイプのゲッターが成しているのだと知った時、ワタシは素直に信じられなくなった」

 

「プロトゲッターが成立したのは、つい数年前ではないのか?」

 

 ハヤトの疑念にシキシマは頭を振る。

 

「違う。これは物事の前後の問題だが、サオトメ研究所がゲッターを造ったのではない。ゲッターがあるからサオトメ研究所があり、プロトゲッターを造ったのではなく、プロトゲッターがあの場所に在ったのだ」

 

 シキシマの言葉にハヤトは理解に苦しむように額に手をやった。

 

「……だとすれば、いや待て。そもそもサオトメ研究所はいつからあった? どうしてサオトメ博士はゲッターロボを、何の原型もないところから造り出せた? 全ては、素体があっての事だ。そのはず。ならば、素体を造ったのは誰か……」

 

「素体を造ったのは、ゲッター線に適合した人類のほうだろう」

 

 ――ゲッター線は敵ではない。

 

 レプリカントの発した言葉が今さらに思い出されハヤトは全てが繋がったのを感じた。

 

「レプリカントにとって、ゲッター線は害毒ではなかった?」

 

 ある種の推論だったがシキシマは首肯する。

 

「だとすれば、何故、ネフィリムはゲッター線兵器であるゲッターに弱い?」

 

「あれは弱いのではないよ。ベクトルの違うゲッター線なのだ」

 

「……どういう意味だ?」

 

 シキシマはカプセルへと身体を向ける。緑色のゲッター線。その光がスパークを起こしていた。

 

「ワタシは、我らの発見したゲッター線はもしかすると原始的な、とても微弱なものではないのか、という推測を立てた。何故ならば、光体としては不完全に過ぎ、純粋なエネルギーにしては危険が多いからだ。これでは一般流通など出来ない。だからワタシはこう考えた。このゲッター線は原初のものなのだと」

 

「オレ達のよく知るゲッター線が、原初?」

 

「原始的、と言い換えたほうが適切かもしれないな。ゲッター線は何の加工も、あるいは年季も入っていない状態だと、この緑色の常態になるのではないか、という推論だ。これに、ある種のスペクトルを混ぜて年数を経てたものが、これだ」

 

 シキシマが手を掲げると床からせり出されてきたカプセルがあった。ハヤトは瞠目する。

 

 赤い光が、カプセル内でぶつかり合って干渉している。

 

「赤い、ゲッター線」

 

「ワタシはこれを、次世代のゲッター線、ネクストゲッター線と名付けた。レプリカントとネフィリムの用いるのは、あの赤い光はネクストゲッター線である可能性が高い。つまり、この惑星に順応し、ある程度の進化を遂げたゲッター線なのではないのだろうかと」

 

「待って欲しい。ゲッター線は、では進化すれば赤くなると?」

 

「一つの派生系として、この赤い光がある。純粋進化を繰り返しても、緑色のままの場合もあった。恐らくは亜種なのだ。ネクストゲッター線は、ゲッターという進化の一つの可能性」

 

 今まで敵だと思い込んできたネフィリムがゲッター線の亜種であり、ゲッターロボであった。その事実はハヤトに震撼をもたらしたが同時に納得もあった。何故、ゲッター線でなくてはネフィリムを即時迎撃出来ないのか。亜種を駆逐するのに純粋種が最も相応しいではないか。

 

「ヨロイのゲッターも、赤いゲッター線であった」

 

「この惑星の進化に引かれたか、あるいは、先に言ったエンブリオに関連しているのかもしれない」

 

「シキシマ博士。あんたは、ヨロイのゲッターに関しては、何か?」

 

 返答如何によっては、とハヤトは銃のグリップを握り締める。しかしシキシマは首を横に振る。

 

「何も。残念ながらね。あのゲッターがいつから、どこにいたのかなどまるで分からなかった。最近のサオトメ研究所のデータベースに上がったのが最初だ。だからワタシはあのゲッターに関しては知らんよ」

 

「まるでサオトメ博士は知っているかのような口ぶりだ」

 

 指摘するとシキシマは、「そうとも言える」と応じる。

 

「サオトメは、奴はこのヨロイのゲッターに関して何かしら知っていて、黙っている可能性がある。そもそもワタシのような凡才とて、赤いゲッター線が亜種だという事に気付けた。あの――悔しい事だが、天才、サオトメが、亜種だと言う事を見抜けないはずがない」

 

 そうだとすれば全て知っていた上でどうしてサオトメはネフィリムを駆逐せねばならなかったのか。疑問は深まるばかりである。

 

「亜種、である事を前提条件に話を進めるが、ゲッター線の亜種であるネフィリム、ヨロイのゲッター。この二つが共謀している可能性は?」

 

「無きにしも非ずだが、それは君達の戦闘データが否定していてね」

 

 ゲッターとの戦闘データ。しかし純粋種のゲッター線対亜種のゲッター線と考えればしっくりと来るではないか。

 

「亜種と純粋種の、潰し合いだった、とは」

 

「考えられんね」

 

 シキシマは即座に否定する。

 

「何故だ」

 

「そうなれば、ハヤト君。君の言っていた事実と相反する事になる」

 

 あちら側の、過去世界で聞いた物事が成り立たない。ゲッターの意思通りに物事は進んでいるという事が。

 

「それこそ、向こうの早乙女博士の勘違いであった」

 

「それはないな。同じサオトメの名だろう? オリジナルであれ、レプリカントであれ、差はない。そう感じられる。もし、ゲッターの意思とやらが全て物事を進めているのだとすれば、純粋種のゲッター線から進化を果たした亜種のゲッター線に対して施しを授ける意味がない」

 

「純粋種のゲッター線を残す、か」

 

 もしも大宇宙の意思とやらが存在するとすれば、の話だが、大げさすぎてハヤトにも確証はない。

 

「亜種のゲッター線が宇宙の残りカス、言ってしまえば間違いの上に成り立っているのだとすれば、ゲッターの意思は味方するはずがないのだ。どうしてゲッターの声を授けたのか。その命題にこそ、答えはある」

 

 ハヤトはいくつか想定した答えがあったが、一つだけ明確なものがあった。

 

「この推論は、あまり自信がないが」

 

「言ってみるといい」

 

 シキシマに促され、ハヤトは言葉にする。

 

「ゲッターの意思は、エンブリオを守る意思のある者、意思のある種を選んだとすれば? つまり、亜種であろうが、純粋種であろうが、どうでもよかった。エンブリオを敵視するかしないかで、施しを受けさせるべきかを判断していた」

 

 さすがに飛躍し過ぎか、と感じたがシキシマは、「なるほど」とその答えに納得する。

 

「エンブリオが、全てのルーツであった。このエンブリオ、ワタシの研究では純粋ゲッター線の放出に関係していると思われる。模式図を用意した。これを見たまえ」

 

 モニターに映し出されたのは先ほど影しか見えなかったエンブリオの全体の予想図だ。その姿に息を呑む。

 

「これは――ゲッターじゃないのか?」

 

 一対の角。亀甲の図柄の並んだ顔面、未発達の四肢を持っているその姿はゲッターを想起せざるを得なかった。

 

「その通り。ワタシは、この惑星のゲッター線の源が、このエンブリオにあったのではないか、と考えている」

 

「待って欲しい。ならば、過去世界でオレの見た連中は」

 

 ハヤトの推測にシキシマは先んじて答える。

 

「そう。ゲッター線をこのエンブリオに頼る方法論を見出し、これこそがゲッターの意思だと考えていた可能性が高い。あるいは知っていたのか。ゲッターの意思が、これを守る者にこそ使命を与える事を」

 

 ゲッターの意思の集った胎児。その姿も併せてハヤトはこう呼称せざるを得なかった。

 

「……ゲッターエンブリオ」

 

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