「ワタシもそれを考えていたのだ。このエンブリオはただの胎児型のゲッター線放出体ではなく、むしろゲッターそのものではないか、とね」
飛躍しているが、ゲッターからゲッター線が放出されるのは既に実証済みだ。ハヤトはよろめいて呟く。
「何てこった……。この惑星は、最初からゲッターの、その卵だったってわけなのか?」
「正しくは母体であった、というべきもしれない」とシキシマは補足する。
「惑星のエネルギーを吸い上げ、全てを枯渇させてまでも、このゲッターエンブリオは成長を続けようとしている」
その言葉に早乙女の事実が重なった。ゲッター戦役に加わる事には既にこの惑星は存在しない。
「まさか……、ゲッターエンブリオが生まれる事を、過去世界の人々は知っていた? 知っていて、この時間軸にネフィリムを送っているのか?」
ハヤトの言葉を受け止めてシキシマは、「そう考えると」と口にする。
「ネフィリムを送っているのは胎児の守りか。なるほどな。何も考えず数だけを送ってくるわけだ。当然、最初のほうはエンブリオ自体を傷つけないために弱いネフィリムが送られてくる」
「強化されていくネフィリムは、胎児の成長速度を試算しての事だった……」
ネフィリムにレプリカントが乗っているのならばその成長記録の意味もあったのかもしれない。しかしそのネフィリムが次々に迎撃され、過去世界へと戻されていけば焦りもするだろう。
「過去世界の人々はネフィリムによる観測が出来ない事に業を煮やしている頃合だ。本気が来るぞ。それこそ、未来世界の、我ら偽人類を本当に殺すためのネフィリムが、今に……」
シキシマの予言に、ハヤトは額を伝う汗を拭う事も出来なかった。
何もかもが不明のまま、事態だけが転がっていく。
歯噛みする間もなく、ハヤト脱走とムサシの異変が耳に入り、リョウマは自室で動けずにいた。自分はどうするべきなのか、まるで分からない。誰かが告げてくれれば早いのだがこういう時、道を示してくれるハヤトがいないのは痛かった。
「おれは、どうすりゃいいんだ……」
『リョウマさんは、何もせずともいいのだと思います。今は、休息されては』
「んなわけにはいかねぇのさ。おれは戦い続けなきゃならねぇ」
あの異世界で見たゲッターと似た人々。それらをミチルに言及しようとしても恐らくはサオトメが握り潰す。サオトメは自分がゲッターを動かす適度なパーツとしてしか考えていないだろう。そのパーツが二個も損傷した。最後の一個である自分だけはどうしてもここで踏み止まらなければならない。
発狂も、脱走も出来ず、ただただ、ゲッターの戦闘を待つだけ。これでは死んでいるのも同じだ。
「なぁ、ミチル。タツヒトが、生きてりゃよかったんじゃねぇかな」
だからか、弱気な言葉を発してしまう。ミチルは、『とんでもない』と声にする。
『リョウマさんがいなければ、ゲッターロボは稼動していません』
「でもよ。おれが来なければタツヒトは死なずに済んだ。ひょっとするとよ、おれは疫病神なのかもしれねぇって思うときもあるのさ。ムサシを月面からこの惑星に連れて来たのもおれだ。ムサシは、月面で仲間と一緒にいつまでも暮らしていたほうが幸せだったのかもしれねぇ」
『そんな……! リョウマさんは、誰よりもよくやっています! 誰よりも、人類の平和を』
「その平和ってのも、よく分からなくなっちまった」
果たして人類の平和は本当に必要なのか。異世界で目にした物事がちらつき、一枚岩でない事を物語る。自分は何を信じて、戦えばいいのだ? ここに来て正義が揺らぐ。ネフィリムを倒せば人類に明日があると思い込んでいた。ベータ部隊で戦っていた時はそれだけ考えればいい。しかしゲッターに乗ってから、その事実は一変した。陰で死んでいく人々、ゲッター線という魔性に誰もが取り憑かれているようだ。亡霊達を一度は振り払ったと思っていた。だがここに来て亡霊の魔の手が囁くのだ。
――惨たらしく死ね。
安息を許してはくれない。ゲッターに乗らぬのならば存在価値はない。逆にゲッターに乗るのならば、最も惨い方法で死ねと命じる。リョウマはベッドの上で身体を折り曲げた。
誰も助けてはくれない。自分より先にハヤトとムサシが参ってしまったのだ。ここで自分まで逃げるのは筋違いである。
その時、ミチルが何かを感じ取ったように声にした。
『面会人……? リョウマさんに?』
その言葉にベッドから身体を起き上がらせる。
「面会人……。こんな時に誰が」
『通してもらうとごねている? でも博士は絶対に許さないでしょうに……。えっ、許可は出た?』
ミチルも信じられないように声にする。リョウマはぼんやりする頭で誰が来るというのか、考えていた。
『……リョウマさん。面会人です』
「誰だよ。ハヤトも、ムサシもいねぇぞ」
『あなたにですよ、リョウマさん。タツマ、と言えば分かる、との事ですが』
タツマ。その名前にリョウマは目を戦慄かせる。どうしてこの場所にタツマがやってくる。理解出来ないでいるとミチルが尋ねた。
『どうします? 博士の許可が下りたとはいえ、面会、という場合ではないでしょうし』
ミチルは自分を慮ってくれている。しかしタツマとなれば、リョウマも避けて通る事は出来ない。自分の分身であり、誰よりも理解者であるからだ。
「……分かった。会おう」