「ゲッター、チェンジ!」
リョウマの声に応じてイーグル号が機首となり両翼を折り畳む。その後ろからジャガー号が続き接合した。ベアー号が合体し脚部を展開したと思うと両腕も出現し、ウイングがゲッターの両腕の背部へと接合する。最後に一対の角が割れ亀甲型のエネルギーパーティションに緑色の血潮が滾る。ゲッター1へと合体を遂げた三機のゲットマシンは襲い来る三体の襲来者を目にした。
翼の生えた卵と両腕の生えた卵、頭部の生えた卵。どれも今までとは違うネフィリムだ。頭部の生えたネフィリムは樹海を踏み潰しながら進んで来る。
『どうやら反重力で浮いているらしいな。しかも、ゲッターよりも強力だ』
ハヤトの推測にリョウマはどのネフィリムから倒すべきか考えた。出来れば迅速に、一体ごとに倒さなければ。
リョウマの思案を他所に、最初に動いたのは両腕のあるネフィリムだった。逞しい両手を開くとそこから拡散された赤い光線が次々に発射される。ゲッター1はウイングを展開させて機動する。
「拡散粒子! どうやって避ければいい? ミチル」
当然、ミチルのバックアップを期待していたのだがミチルは反応を寄越さなかった。その事に驚愕している間に眼前へと現れたのは頭部だけのネフィリムだった。
「いつの間に……」
『空間転移か……』
忌々しげに放たれたハヤトの声を聞き届ける前に頭部だけのネフィリムから巨大な光条が放たれる。リョウマは慌ててゲッター1を上空へと昇らせた。樹海が焼かれ、眼下に広がったのは地獄絵図である。
「あの威力……」
『一発でも食らえばまずいな。リョウマ。頭だけの奴を最初に叩く。異論はないな』
「ああ、そうだな。それで……」
その声を遮ったのは甲高い高周波である。リョウマは思わず耳を塞ぎ機器に突っ伏す。ハヤトとムサシにも影響しているらしい。
『何だ、この音は……』
ムサシの呻きにリョウマは視線を走らせた。両翼の生えたネフィリムが殿で佇んでいる。戦闘は二体に任せ、さながらバックアップなのだろう。こうして妨害する事でゲッターを無力化しようというのだ。
「しゃらくせぇ! ゲッター、Eトマホーク!」
左肩のウイングの皮膜を仕舞い、Eトマホークを顕現させる。リョウマはゲッター1を両翼のネフィリムに走らせた。Eトマホークで両断しようとするも空間転移してきた頭部だけのネフィリムがバリヤーを張る。走った青白い電磁にリョウマは歯噛みする。
「この野郎!」
頭部を掻っ切ろうとするがその時には背後に佇んでいた両腕のネフィリムがゲッター1を拳で叩きつけていた。重力そのもののような重たい一撃にゲッター1の機体が樹海へと墜落する。
「チクショウ! ゲッターがまるで赤子だ!」
『今まで複数のネフィリムを相手取る事なんてなかったからな。ゲッターとはいえ、ここまでなのか』
『リョウマ、ハヤト……』
二人の弱気な声にリョウマは奮い立たせる。
「ブルってんじゃねぇ! おれ達はいつだって戦ってきた。前に進むために、人を守るために、だ! その邪魔をする奴は、誰だって許さねぇ!」
Eトマホークを保持したままゲッター1が跳ね上がる。頭部だけのネフィリムを切り裂こうとしてまたしても妨害電波が邪魔をする。ぶれた攻撃射程の隙を逃さず両腕のネフィリムが腕を突き出し、太い光条を弾き出した。一発は回避するがもう一発がゲッター1の機体表面を焼く。エネルギーパーティションに亀裂が走り、循環路に問題が発生した。
『このままでは……。リョウマ! なぶり殺しにされるぞ!』
「だからと言ってゲッター2や3じゃ、こいつらの動きを押さえ切れねぇ! ゲッター1でやっとだ! オープンゲットしている間の隙を狙ってくるに決まっている」
ゲットマシン単騎になればそれこそ危うい。リョウマはどうするべきか思考を走らせる。それをせせら笑うかのように両翼のネフィリムから高周波が放たれゲッターの動きを阻害した。
「……なんつー連携だ。恐れ入ったぜ……。ネフィリムとレプリカント野郎は、マジにおれ達を殺そうってのか」
リョウマは声に憔悴を滲ませる。このままではやられる。そのような予感にリョウマは歯噛みする。
「せめて、一瞬でも隙が出来れば……」
この敵の注意を逸らす事が出来れば、もしかしたら。そのような楽観主義を踏み潰すように三体のネフィリムが密集してゲッターを押し潰そうとする。
その時、ミサイルの発射音が響き、ネフィリムに命中した。リョウマは顔を上げる。ベータ部隊が改八式を駆って出撃していたのだ。
「ベータ……。研究所のじゃ、ない」
機体に刻印されていたのはこの国の防衛組織のものだった。
「タツマ……!」
『よう、生きているか、リョウマ』
繋がった通信にリョウマは声を荒らげる。
「馬鹿野郎! ネフィリムに対してベータじゃ」
『勝てない、ってか? だが、お前はいつだって確率論を無視して戦ってきた。その助けをしたいのさ。行くぞ! 全機、空中変形!』
その声で飛行形態のベータの編隊が一斉に変形機動に移る。メインアームが背部から伸び、サブアームを脚部としてビーム兵器を備えたベータが全部で六機ネフィリムへと銃口を向けた。
『一斉射撃だ!』
タツマの命令で攻撃が成される。ネフィリムは突然の火線に戸惑う事なく対応した。両腕のネフィリムが腕を交差させて防御し、頭部のネフィリムはバリヤーを張る。だがそれに臆する事なく、一機のベータが頭部のネフィリムへと突っ込み、銃口を押し込んだ。
『見ていてくれよ、ナガレ! これが俺達の……』
名も知らぬベータ部隊の人々が次々に特攻紛いの事をしてネフィリムの注意を逸らそうとする。全てはゲッターの攻撃に繋ぐために。
「やめろ……、やめてくれェ!」
人を守るためにゲッターに乗っているのだ。だというのに、自分達のために犠牲が出るなど。
『リョウマ。お前が守るべきものはもっと大きなものだ。僕達はその助けになれて光栄なんだよ』
「死んじまったら! 死んだら意味ねぇだろうが!」
喚いたリョウマの声に隊員達の声が続く。
『いいえ。リョウマさんが居てくれたから、空中変形を試みる事が出来た』
『あなたがやったから、可能性が拓けたんですよ』
雄叫びを上げながらベータ部隊の機体が一つ、また一つと炎に包まれていく。リョウマは頭を振った。
「そんな事のために……、命を散らすんじゃねぇ!」
『いいや。お前は地獄への片道切符だと言った。今まで率先して戦ってくれてありがとう。僕らなりのケジメだ。散れ! レプリカント!』
タツマの操縦するベータがビームを掃射しながらネフィリムへと突っ込んでいく。頭部のネフィリムの攻撃で脚部が溶解し、両腕のネフィリムの張った対空砲火で次々に機体が焼かれていく。
『リョウマ! 僕の屍を超えていけ!』
響き渡った声に最後のベータが両翼のネフィリムへと特攻する。爆発の光が広がり、ネフィリム達の目を一瞬だけ眩ませた。
「……すまねぇ。タツマ」
ネフィリム達が再びゲッターへと視線を向けようとする。しかしそこにゲッター1の姿はなかった。既に上空へと躍り上がったゲットマシン三機が合体軌道に移っている。
「詫びは、地獄で済ませるさ。行くぜ、ハヤト! ムサシ! チェンジ、ゲッター!」
ジャガー号を機首としてベアー号、イーグル号が合体する。両腕のネフィリムが赤い光条を走らせた。それを掻い潜ってゲッター2がEドリルを突き出す。
『Eドリルハリケーン!』
掲げられたドリルからゲッター線の旋風が頭部のネフィリムへと攻撃を加える。ゲッター2はそのままネフィリムを貫いた。卵型の身体が引き裂け、放散爆発が巻き起こる。爆発の光を引き裂いて出現したのは節のついた両腕だった。網のように伸長した腕が両腕のネフィリムを絡め取っている。
『全ては託された命の果てに。六分の一G殺法、一の陣、奥義!』
ゲッター3が暴風を作り出し両腕のネフィリムを暴風圏に引き込む。ネフィリムは内側から弾け飛び嵐のように螺旋の腕が駆け抜ける。
『大・雪・山おろし!』
ムサシの声に相乗して放たれた攻撃に両腕のネフィリムが崩壊する。その爆発の合間から駆け抜けたのはミサイルの群れだった。一斉掃射されたミサイルが両翼のネフィリムへと突き刺さろうとする。その直前に両翼のネフィリムが火線を張った。赤い光条で塗り潰されていく景色の中、ゲッター3の両腕が伸長してネフィリムへと迫る。両翼のネフィリムは翼から真空の刃を発生させて引き裂いた。両腕が切り裂かれる。しかし引き裂かれた煙幕の内側にもうゲッターはいない。
三機のゲットマシンがイーグル号を機首として再び合体する。エネルギーパーティションにゲッター線の血が宿り、黄色い眼窩がネフィリムを睨む。両翼のネフィリムからビームが一射されるが赤い機体が跳ね上って回避した。その手にはEトマホークがある。
「ダブルEトマホーク、ブーメラン!」
両腕に保持していたEトマホークを接合させ、ゲッター1が投げ放った。両翼のネフィリムがバリヤーを張って防御する。ゲッター1はすかさず追撃した。胸部にゲッター線を充填させエネルギーの瀑布を広げさせる。
「これで! ゲッタービィーム!」
ピンク色の攻撃色に転じたゲッター線が一挙に放たれ両翼のネフィリムを塗り潰していく。光の向こう側へと両翼のネフィリムが消えた。
ゲッター1が手を掲げる。その手へとEトマホークが戻ってきた。
「やったか?」
しかしリョウマの安息を消し飛ばすように両翼のネフィリムから放たれたのは複数の赤い光条だった。慌ててゲッター1が回避機動に入る。しかし今までと違い赤い光線はどこまでも追尾してきた。
「ホーミング性能だと!」
『フレアを焚け!』
ハヤトの指示にリョウマはフレアを焚いて追尾から逃れる。ゲッターのアイカメラに映ったのは、卵のネフィリムではなかった。
両翼を頭部に備えた人型である。まるで神のように、赤い眼がゲッターを見下ろしている。その巨大さはゲッターの比にならない。まるでスケール感が違った。
「このネフィリムは……」
『まさしく巨人、か』
『こいつが、卵の中に入っていたってのか』