偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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最終話「聖なる未来へ 1」

「惑星の声とゲッターの意思を聞かない者はこの場において排除される。その理があるというのか」

 

 ジャガー号が軋みを上げる。ゲッターノエルの出力は明らかにこちらより上だ。やはり亜種のゲッター線、それそのものが血肉として流れているゲッターノエルは進化した種だと認めざるを得なかった。

 

『ハヤト……。何かを知っているのか?』

 

 感知したムサシの声にハヤトは返す。

 

「何でもない。ただ、常人よりも真理に近いだけだ」

 

『真理だとか、んなもん、どうでもいいだろ』

 

 リョウマの声に同調し、ゲッター1がひねり上げられた片手を掲げる。

 

『全て叩き切るにはよう、こんなもんじゃ生ぬるいってんだ!』

 

 リョウマの声がゲッターの血潮となり、折り曲げられた手首にゲッター線の血脈が宿ったかと思うと右手首が修復した。その事実にハヤトは瞠目する。

 

「リョウマ……。人のたがから外れようというのか」

 

『今さら人間めいた事言ってんじゃねぇ。ヨロイの野郎を倒せるんなら、悪魔にでもなるぜ! ネフィリムの駆逐にもな!』 

 

 リョウマの張り上げた声に呼応してゲッター1が跳ね上がりEトマホークを打ち下ろす。ゲッターノエルは片腕を翳した。すると腕に収納されていたカッターが露出しEトマホークの刃と干渉し合う。片手を開いたゲッターノエルが肩越しに視線をやった。その先には刺し貫かれたプロトゲッターがいる。

 

『ミチル……、私のミチルが……』

 

 サオトメの嘆きが聞こえてくる。ジャガー号に収まっていたミチルは即死か、とハヤトは断じた。プロトゲッターを貫いていたトマホークがゲッターノエルの呼び声に従ってその手に収まった。

 

『トマホーク相手になら、トマホークでいいだろう』

 

 ゲッターノエルの手に渡った事により赤いゲッター線の刃が顕現する。振り払われた一撃にゲッター1がよろめいた。ゲッターノエルの一閃はこちらの最大出力に匹敵する。Eトマホークが押し負けてゲッター諸共煽られる。

 

『嘗めやがって……。エンブリオだ? んなもん、知るかってんだ! てめぇらレプリカントだってなら殺し尽くしてやらァ!』

 

 興奮状態にあるリョウマはEトマホークを振るい下ろしゲッターノエルを捉えようとするがそれよりも速く相手は背後に回っていた。

 

『この速度……』

 

「オープンゲットする!」

 

 ジャガー号に備え付けられていた緊急信号が走り、三機が分離した。先ほどまでゲッター1の胴があった部分をトマホークが引き裂く。

 

「落ち着け! リョウマ。奴は何もデタラメを言っているわけじゃないんだ」

 

 ゲッター1の状態ではリョウマを説得出来まい、と考えての分離だった。先ほどまでのネフィリム戦ならば分離など考えられなかったが相手はゲッターノエル一機。まだ渡り合える。

 

『落ち着けだと? てめぇこそ、おかしくなったんじゃねぇのか? レプリカントがおれ達だなんて性質の悪い冗談だろ!』

 

 そうであって欲しいのは心情だろう。しかし、とハヤトがどうやってリョウマを説得するべきか考えているとムサシが声を差し挟んだ。

 

『……ゲッターの導きだ』

 

 どこか上の空のような声音に二人ともムサシに注目する。

 

『ムサシ? どこかやられたのか?』

 

『いいや、リョウマ。ハヤト。言わねばならないと思っていた。しかし言えなかった。全ては俺の招いた事でもあった。真の人類と、偽人類の確執。三百年前の重量子ミサイルの着弾が、全ての始まりだったんだ』

 

 どうしてだかムサシは自分と同じ見解に至っている。疑問よりも今は一人でもリョウマを説得出来る人間がいたほうがありがたい。

 

「聞いた通りだ。リョウマ。レプリカントは奴らじゃない。オレ達こそがレプリカントと呼ばれる生命体だったんだ」

 

『嘘こけ! じゃあ何で、おれ達は普通に生活しているんだよ』

 

「それが普通じゃなかった、って話さ。何の能力も持たない人類こそが出来損ないの側で、牙や爪を持っている人類こそがゲッター線に選ばれた存在だった。リョウマ、ムサシもどうしてだか同じものを見ているし、サオトメ博士だってそうだ。今に聞いてみろ。博士、こんな時になんだが、我々こそがレプリカントであり、あんたは原初ゲッター線を生かすために、このプラネットシェルという磐石な平和を築いた。違うか?」

 

 応じるようにプロトゲッターが軋みを上げて手を伸ばす。腹部を貫かれており、分離変形も儘ならないのだろう。

 

『……始まりはたった一発。どちらが宣戦布告したわけでもないが、きっと我らが祖先、最初期ロットのレプリカントは危うさを感じたのだ。ゲッター線に選ばれなかった事。そして、造られた人類は所詮、造られたものでしかないという事実を。鳥籠の屈辱を』

 

『ジジィ、てめぇついにもうろくしたか』

 

 リョウマの声にサオトメは冷静に答える。

 

『ミチルが使い物にならんようになったのは衝撃だが、まだいかれとらんわ、馬鹿め。全て、ハヤトとムサシ、そしてヨロイのゲッターのパイロットの言う通りだ。リョウマよ、認めるがいい。我々こそがレプリカントであり、偽物の人類だった』

 

 衝撃的な事実にリョウマは言葉をなくしているようだ。ハヤトはジャガー号に組み込んでおいたシステムで強制変形を試みる。ジャガー号が機首となりベアー号、イーグル号と合体していく。リョウマは、『嘘だろ……』と声にしていた。ゲッター2へと変形した状態でハヤトはゲッターノエルと相対する。速さでは引けを取らない。問題なのは相手の言うエンブリオの実態。

 

「リョウマ。今さら偽物、本物を論じたところで仕方がない。重要なのは、このままでは世界が滅び、惑星も砕け散る、という事だ」

 

 ハヤトの声にリョウマは、『どういう意味だ?』と問う。

 

「この惑星の地殻にはマントルじゃない、ゲッター線の塊であるゲッターエンブリオとやらが眠っている。赤いゲッター線を持つネフィリムがプラネットシェルを攻撃するのはそれがエンブリオを封じる術だったからだ。エンブリオ解放のために、ネフィリム共は戦っていた。まぁ、偽人類の一掃も兼ねて、だったのかもしれないがな」

 

 最早、真実などどうでもいい。問題なのは世界各地で同時出現したオベリスク型。もう相手は手をこまねいている場合ではないと悟ったのだ。ゲッターの手が回る前に、あるいはプラネットシェルが惑星を覆い尽す前に決着をつけようとしている。

 

『ゲッターエンブリオ……。今の話じゃ味方って感じじゃねぇな』

 

「どうかな。エンブリオそのものは意思なんてないのかもしれん。敵味方の区別ではなく、ただ単に産まれようとしているだけなのかもな」

 

『俺は、ゲッターエンブリオはいずれ来る戦線を切り拓くために必要なのだと聞いた。だから、この惑星は本来の旅立ちの時に比べてもう三百年遅れているんだ。本当は、三百年前にはもう、エンブリオと共にゲッター戦役に加わるべきだった』

 

 いやに詳しいムサシの言葉はリョウマを説得するには充分だっただろう。レプリカントは自分達自身。それを知って、この男が立っていられるのかハヤトにすら分からなかった。

 

『おれ達が、偽人類……。じゃあこのゲッターも』

 

 ハヤトはサオトメへと通信を繋ぎ、「そうだろうな」と声にする。

 

「真のゲッターではない。恐らく、プロトゲッターを基にして造った模造品のゲッターロボ。さしずめ、ゲッターレプリカ、というべきか」

 

 模造品とはいえ何人もの血を吸ってきたこのゲッターロボは正真正銘の悪魔である。しかしそれでも埋められない隔絶が存在した。

 

 ゲッターノエルがトマホークを手に一直線に向かってくる。ゲッター2の速度を活かし、ゲッターノエルは残像を切るに留まった。

 

『なるほど。速い、な』

 

「月面戦や、その後の戦闘とはもう別物だと思ってもらおうか」

 

 ハヤトは相手のパイロットに話しかける。しかし、この違和感は何だ。相手の声、戦い方、立ち振る舞い、全て他人とは思えないのは。

 

 それを払拭するようにツインEドリルを出現させ、ゲッター2が臨戦態勢に入る。ゲッターノエルは漆黒の機体に赤い血潮を滾らせた。

 

『先ほど、ストナーサンシャインを顕現させたのを目にした。あれは、真ゲッターロボのエネルギーを転化したな』

 

 どうやら相手からすればプロトゲッターの名は真ゲッターロボと呼ぶらしい。ハヤトはゲッター線貯蔵量を視界に入れる。

 

「一時的なもののようだ。この偽ゲッターは、炉心のシステムが奴さんやプロトゲッターとは違う。一時的に蓄えて放出する。どこからゲッター線を得ていたのかといえば、さしずめ地殻からか。地表にも微量ながらゲッター線があるのかもしれないな」

 

 ハヤトの声にムサシが応ずる。

 

『このゲッターは完成品ではない。だからゲッター戦役には加われないし、ともすればここでヨロイに破壊されるのも、運命なのかもしれない』

 

 あれほどゲッターノエルに敵意を燃やしていたムサシだがどこか達観している。何かを感知したのか、あるいは何かを知ってしまったのか。以前までのルナリアンではなかった。

 

『……ざけんな』

 

 リョウマの押し殺した声にハヤトはムサシ共々聞き返した。

 

「リョウマ? 何を――」

 

『ふざけんな、って言ったんだ』

 

 リョウマは諦めていない。この期に及んでリョウマは何をしようというのか。ゲッターノエルのパイロットが問いかける。

 

『ナガレ・リョウマ。惑星は滅びに向かい、選らばれしゲッターロボは戦役に加わる。名誉な事だ。その現象の前に偽りは無意味なだけ。どうして受け容れられない? エンブリオの誕生を祝うのは人として生まれたのならば当たり前の事』

 

『当たり前? 馬鹿言ってんじゃねぇぞ、てめぇ。惑星ごと壊して生まれるゲッターなんて、それこそ悪夢だろうが』

 

『ではナガレ・リョウマ。お前は何のために戦う?』

 

 ゲッターノエルがこちらを指差す。答えの如何によっては、とハヤトは強制的に権限を委譲するボタンに指をかけていた。

 

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