偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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最終話「聖なる未来へ 3」

「リョウマ達は、ゲッターチームはどうなった?」

 

 サオトメの声に研究所の人々が次々に報告する。

 

『現在調査中ですが、マントルを超えて、このままでは地殻に入って行きます!』

 

『ゲッターロボ、なおも潜行中! 緊急停止信号受け付けません!』

 

 サオトメはプロトゲッターの操縦桿を握りながら歯噛みする。プロトゲッター、つまり純粋なるゲッターの主が動ければリョウマ達のゲッターは助けられる可能性がある。

 

 ――いやそれよりも。

 

 サオトメの脳裏を掠めたのはプロトゲッターさえ使えば、この惑星を脱出出来るかもしれない、という事だ。エンブリオ覚醒時に惑星は崩壊する。プラネットシェルでこの時を待って重ねてきた準備も全く意味を成さなかった。ネフィリムの一斉蜂起に、プラネットシェル外殻は無意味だったのだ。サオトメは悔しさよりも今は、とゲッターウイングを展開する。

 

「逃げねば……。そうでなければ、ゲッターと心中など」

 

 プロトゲッターは名前こそ試作品を関しているがその実は真なるゲッターである。航行能力は充分であった。ゲッター戦役の本丸に突っ込まなくともゲッターの恩恵は得られる。サオトメは発進させようとして全く動かない事に気が付いた。

 

「システムが、全部エラーを起こしている……。何故……」

 

 原因はすぐに分かった。ゲッターを掌握出来るプログラムなど自分は二つと知らない。

 

「ミチル、お前か……」

 

『博士……。あなただけ、逃げる事は許されない』

 

「たばかるか。創造主に向かって」

 

『その口ぶり……。あなたの嫌う、真の人類そっくりですよ』

 

 舌打ちを漏らしたサオトメは操縦桿を滅茶苦茶に動かした。それでもゲッターは応じない。

 

『無駄です、博士。ゲッターの運動系統は全て、私が掌握しましたから』

 

「何をやろうとしている? ミチル、このままでは滅びるのだ。さぁ、行こう。お父さんと一緒に」

 

 その言葉にミチルは逡巡の沈黙を挟んだ。抱え込めたか、と感じたサオトメにノイズの走る映像が投射される。映し出されたのは生前のミチルの顔を再現したものだった。

 

『……あなたに、父の資格はない』

 

 サオトメは思わず叫んでいた。

 

「おのれ! プラネットシェルとゲッターのために生かしておいたその命、ここで使おうとも思わんのか!」

 

『ゲッターのためには使います。ですが、あなたの意思には添えません』

 

 プロトゲッターが勝手に動き出す。何をするのかと思えば、ゲッター線を充填し始めた。照準は研究所である。

 

「まさか……、やめろ、ミチル。彼らは生きているのだぞ」

 

『あなたに、そんな事を言う筋合いはない』

 

 研究所から人が次々と逃げていく。恐らくは別の命令系統でミチルは避難誘導を既に行ったのだろう。

 

「たわけ……、父の言う事が聞けんのか!」

 

『私の身は、ゲッターのために使います。全てはエンブリオを止めるため。それに、リョウマさんが待っている』

 

「あの男は、お前のような醜いAIなど、待っているものか! 脳みそでしかないくせに、ワシを裏切るなどと……!」

 

 放たれた罵声にもミチルは臆する事はない。

 

『リョウマさんのために、地獄の釜を開けます。プロトゲッター、いいえ、真ゲッターロボ』

 

 充填されたゲッター線が血脈となり、プロトゲッター――真ゲッターロボが両手を重ね、光の球体を作り出す。

 

「まさか、そんな……!」

 

『ストナーサンシャイン』

 

 放出された光の球体が研究所を焼き払い、瞬く間にクレーターを開けた。その爆心地の底には地獄の釜へと続くゲッターの死骸が積み重なっている。ストナーサンシャインの一撃でも葬り切れない怨念が渦巻き、地獄門を閉ざしていた。

 

『もう一撃……』

 

 ストナーサンシャイン発射形態に移ろうとすると直後に右肩に何かが命中した。よろめいた真ゲッターはその対象を見据える。

 

『ゲッターノエル?』

 

 視線の先にはゲッターノエルがトマホークを投擲した形で佇んでいる。先ほどのストナーサンシャインで倒せなかったのか。それにゲッターエンブリオに迎えられなかったと言う事は恐らく……。

 

 真ゲッターは降り立ち、ゲッターノエルと同じ地表に立つ。

 

『何の用ですか? 言っておきますが、あなたを相手取っている時間もない』

 

『それはこちらも同じだ。ゲッターエンブリオは同化現象に入った。由々しき事態だ。エンブリオ、真のゲッターの後継者が吸収するのがよもや原初でも、亜種でもない、偽物のゲッターなど』

 

 その言葉にサオトメは瞠目した。

 

「やはり、エンブリオは同化現象を起こしておるのだな?」

 

 ゲッターノエルのパイロットが尋ねる。

 

『早乙女博士か』

 

「ワシを知っておるのか?」

 

『別の〝サオトメ〟だな。そのような些事は関係がない。今、エンブリオを止めねば惑星崩壊どころではない。ゲッター戦役に影響する。この惑星で連綿と戦い継がれてきたものが無意味と化すんだ。ゲッター線の後継者が、真でも、亜種でもない、偽物など、絶対に許されない』

 

『リョウマさん達は、偽物じゃありません』

 

『ここで言い合っていても仕方なかろう。地獄の釜を開けて、そこからエネルギーを得る。その状態で、エンブリオに突っ込むしか、方法はあるまい』

 

 その言葉にサオトメは肌が粟立つのを感じた。地獄の釜は開いてはならない。禁断の代物だ。そこから溢れるゲッター線を浴びれば人間ではただでは済まない。

 

「純粋ゲッター線を浴びれば、レプリカントであるワシは……」

 

『喧しいぞ。サオトメ、貴様はこの期に及んで自分の保身しか考えられないのか。だから繰り返すんだ。ゲッターに弄ばれる歴史を』

 

「何を言っている? ワシは……ワシは……」

 

 サオトメの脳裏に蘇ってきたのは銀河の渦であった。螺旋の光の向こう側で何人もの自分の似姿がゲッターの道を切り拓き、死んでいく。それが正義に殉ずる場合もあれば、悪に染まった場合もあった。

 

「これは……、ワシは何を見ている?」

 

『見えたようだな。ゲッターの輪廻が』

 

 ゲッターノエルのパイロットは見透かしたように提案する。

 

『ゲッタービームを併せれば、恐らく』

 

『地獄の釜は、開く』

 

 同時に真ゲッターとゲッターノエルが踊り上がる。サオトメはコックピットで頭を振っていた。

 

「ワシは……。ワシは……」

 

 その先に待っていたのは情けないほどに純粋な意思だ。死にたくない。それだけだった。そのようなサオトメの意思を無視するように二機のゲッターが光を帯びる。ゲッター線の共鳴現象。亜種のゲッター線と純粋ゲッター線がそれぞれの輝きを解き放った。

 

『貫け!』

 

『ファイナルゲッター、ビィーム!』

 

 赤いゲッタービームとピンクのゲッタービームが重なり合い、それぞれのエネルギーを高めて地獄の釜へと着弾する。地獄の釜を塞いでいた唯一のたがが外れ、間欠泉のようにゲッター線が噴き出した。あまりにも強力なゲッター線の瀑布に真ゲッターが出力過多を起こす。

 

『これが、本物のゲッターの導き……』

 

 ミチルは自分の身体を動かしていた。驚くべき事だが、先ほどまで脳髄だけのカプセルだったのに、今の自分には血肉があった。懐かしい自分の手、肉体という概念が蘇ってくる。

 

「これは、幻?」

 

 声ももう電子音声ではない。声帯を震わせていた。

 

『いいや。ゲッターが、システムではこの先を突破出来ないと判断したのだろう』

 

 ゲッターノエルのパイロットはどこか冷静であった。人工知能が受肉するなど普通に考えればあり得ないのに、どうしてだかその程度は当然だと考えているようだ。

 

「……行きます」

 

 ミチルは操縦桿を握り締める。ここから先は確かに人工知能「ミチル」では辿り着けまい。息を吸い込み、ゲッター線にまみれた空気を肺に充填した。

 

「ゲッター線の大量放出地帯に突っ込む!」

 

「やめろぉ、ミチル。これ以上は、ワシは……」

 

 最早、サオトメに意識はほとんど存在しなかった。ただこれ以上は自我が持たない。しかしサオトメの制止を振り払うだけの力強さをミチルは湛えていた。

 

「お許しください、博士。いいえ、お父さん。私は、リョウマさんのところへ」

 

 真ゲッターがゲッターウイングを展開し噴き出したゲッター線へと特攻する。ゲッターノエルも同時に突入し、声が相乗した。

 

『「シャインスパーク!」』

 

 原初のゲッターと亜種のゲッター、それぞれの記憶の奥に刻まれた技を発しながら二機のゲッターはこの惑星の核へと向かった。

 

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