偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第二話「出撃指令! ゲッターロボ 1」

 銀色の外殻を割ったのはハンプティダンプティの童謡のような調べではなく、それこそ破砕の物音だった。

 

 砕け散った銀色の破片が他の外殻に突き刺さり連鎖爆発を起こす。これはプラネットシェルの弊害とも言える部分である。プラネットシェルは他種の落下物、あるいは邪魔な部品を即座に始末する装備が常時起動しておりこれによる外敵センサーに引っかかったのは皮肉な事に自らの一部であった。外敵だと判断したプラネットシェルの防衛システムが砲塔を出現させ間断のない攻撃を加えている。それを目にして人々が震撼した。

 

「おい、システムエラーか?」、「いや、これはテロだ」

 

 誰かの発したテロという声にまさかと不安が伝播する。その時、街頭モニターの一つに砂嵐が走った。異常を異常として認め始めた人々の合間を縫うようにモニターに表示されたのは赤色の旗だった。ちょうど卵の殻に亀裂の走った図柄が表示され人々は理解する。これは反プラネットシェル計画団体によるものだと。

 

『聡明なる諸君。ごきげんよう。我々ハンプティダンプティはこの狂った社会秩序に亀裂を走らせるべく、今日も活動を行った。君達の頭上を覆っている無知蒙昧の殻を今日も破ったのだ。君達はそろそろ自覚するべきである。覆われている殻の正体は安全を保障するものとは程遠い、それこそ害悪の象徴なのだと』

 

 声紋は操作されており男のものなのか女のものなのか判然としない。だがそれが自分達の生活を脅かすものである事だけははっきりしていた。

 

『ハンプティダンプティは君達を救うために活動しているのである。それが理解出来る者のみが終末において生き残り、この偽りの殻の外へと脱出する事の出来るであろう』

 

 武装隊が出撃する。銀色の外殻に覆われた空を空中機動形態で飛行するのはベータの編隊であった。円形の反重力装置と重火器を下腹部に備えたベータがテロ組織を追うべく出撃したのだ。人々は安堵し元の生活に戻っていく。それを遮るかのように声は続けた。

 

『無知蒙昧なまま死ぬか、それとも生きるか、君達は選ぶといい。それこそが真に生きるという事なのだから』

 

 その言葉を潮にして通信は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジン隊長、今日も素晴らしい演説でした」

 

 拍手を送る恰幅のいい男の声に振り返ったのは痩せぎすの男だった。眼だけは妙に炯々としてまるで昆虫か何かのようである。長身だがそれを精悍と呼ぶのはどこか違う。むしろ後ろめたさを感じさせる風貌の男はマイクを傍に控えている部下に渡した。

 

「オレの通信は」

 

「辿られませんよ。いくらベータ部隊とはいえ、飛んでいるだけです」

 

 恰幅のいい男は肩を揺らして笑う。思いもしないだろう。テロ組織の隊長格がこの国で最も富める男に匿われているなど。彼を匿っている中年男性は視線を振り向けた。

 

「それにしても見事な演説。民衆の心を射止めるようでしたな、ジン隊長」

 

 賞賛にも男は答えない。頑として口を閉ざしているように映った。男は気に食わないのか話題を逸らす。

 

「ハンプティダンプティ、随分と大きくなりました。反プラネットシェル計画を扇動する団体がここまで大きくなれたのは誰のお陰でしょうかね」

 

 暗に自分の利権をちらつかせるとようやく男は口を開いた。

 

「感謝しております」

 

 まるで心にも思っていないような声音だ。死人の出す声に聞こえた。男は背筋を走る寒気を覚えながらも、「なに」と応ずる。

 

「ジン・ハヤト。あなたがハンプティダンプティのボスに相応しいのは全て了承しておりますから」

 

「……お前のほうが偉いような言い草だ」

 

 当然だろう、という言葉を飲み込んで男はジン・ハヤトという男を観察する。見れば見るほどにこの男には掴みどころがない。痩せぎすで長身。街ですれ違えばそれだけの印象に違いないのに凝視すればするほどに深淵を覗いているかのような薄気味悪さがある。相手が目を向けていないのに観察されているかのようだった。灰色のコートを身に纏っており、今時それは目立つと忠告したがハヤトは改めようとしなかった。

 

「その、コートをお預かりしましょうか」

 

 これ、と自分の部下に命じてコートを預からせようとする。するとハヤトは目にも留まらぬ速度で蹴りを放った。部下が吹っ飛ばされ鼻血をぶちまける。高級な絨毯が血に濡れた。

 

「何度も言ったはずだが? オレに触るなと」

 

 忠告を無視したのは自分のほうだ。男は背筋が震え出すのを隠しつつ、「失礼」と返す。

 

「何分、コートを預からぬほうが失礼だと思いまして」

 

「このコートも、身につけているもの一つ取ってしてみても、オレの物だ。他の誰にも渡さん」

 

 プライドの塊め、と胸中に毒づく。この男の極めて高い身体能力さえなければ今頃は周囲の部下達で羽交い絞めにして札束で頬を叩いてやるものを。だが周囲の部下達も震え上がっていた。その中にはハヤト直属の部下もいるのだが彼らさえもハヤトの暴力に恐怖している。まるで御し切れないとでも言うように。

 

「失礼しました。では今回の成功報酬ですが」

 

 謝礼をちらつかせるとハヤトは顎を突き出して、「奴にくれてやれ」と部下の一人を示した。突然の事だったのだろう。部下も狼狽する。

 

「は、ハヤト様。俺がもらってもよろしいんで?」

 

「構わん。好きに使え」

 

 薄汚いハヤトの部下がこちらへと歩み寄ってくる。体臭に鼻が曲がりそうだった。ハヤトは部下をどう扱っているのだ。

 

「これだ」

 

 謝礼の入ったカードを与える。部下はよだれを垂らしてカードを懐に入れた。何とも金汚い。

 

「今回、プラネットシェルのシステムを逆手に取った戦法、どう編み出されたんで? 是非とも聞かせていただきたいものです」

 

 その言葉にハヤトは、「なんて事はない」と応ずる。

 

「白血球が正常な細胞を攻撃してしまう事があるように、プラネットシェルにも同じものだと感じただけだ。思い付きだ。他意はない」

 

 この男はだから読めないのだ、と歯噛みする。絶対に自分の秘密は明かさない。他人に戦術の一つを取ってしてみても自分の所有物だと言ってのける。スポンサーを買って出ているのだ。これ以上の証拠を得なければ元も取れない。

 

「例えばどのような?」

 

 質問するとハヤトはぎょろりと睨んだ。それだけで身が竦み上がるようだった。この男とすれ違う程度ならば分かるまい、遠目でも分かるまい、だが眼を見れば分かる。狂犬だ。この男は狂犬そのものなのだ。血に飢えた狂犬にゆるりと質問するなど愚の骨頂であった。

 

「聞きたいのか?」

 

「……いえ、失礼」

 

 男は質問を飲み込む。何か一つでも言ってしまえばこの男の前では引きずり倒されて頭蓋に穴が開くまで痛めつけられる末路しか思い浮かばない。

 

「それがいい、賢明、という奴だ」

 

 ハヤトは先ほど吹き飛ばした自分の部下の首根っこを引っ掴む。部下が自分に助けを求めた。だが顔を伏せて首を振る。もうお前はハヤトのおもちゃだ。せめて気が済むまでなぶられてくれ。

 

 同じ人間でありながらこうも力関係に愕然とする。金や権力の問題ではない。純粋な暴力の前では札束も、金塊もまるで無力。ましてやコネで築き上げてきた地位など一瞬で塵芥だろう。男は一つだけ質問する。それさえも禁に触れかねないと思いながら。

 

「次の攻撃目標は?」

 

 ハヤトは足を止めて振り返らずに答えた。

 

「この国で最も裕福なる者と、プラネットシェルを推し進める本体に仕掛ける」

 

 その言葉に男は困惑した。まさか、という思いに口走る。

 

「本体……、まさかサオトメ研究所に?」

 

 ハヤトは肩越しに睨みつけた。たったそれだけの動作だ。だというのに男は心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。

 

「いえ、その……」

 

「何か、問題でもあるのか?」

 

 大有りである。自分はサオトメ研究所へと資金提供している。それはもちろん反プラネットシェルを掲げる彼らには教えていない。自分の側近でさえも知らない情報だ。だがこの世の中裏の顔を持たぬほうがおかしい。サオトメ研究所を切るか、それとも反政府団体を切るか。

 

「これからの事」

 

 だからハヤトの声音にはびくついた。これからの、と繰り返す。

 

「何でございましょう?」

 

「オレ達への資金提供、きっちりと頼む。まさかサオトメ研究所に喧嘩を売るからと言って、ここで怖気づく輩では」

 

 男はふるふると首を横に振った。ハヤトは口角を吊り上げる。

 

「よぉく、分かった」

 

 そう告げてハヤトは部屋を去った。ようやく、と言った様子で男は椅子に腰かける。まだ四十に差し掛かったばかりだがハヤトの前では十も二十も年老いた。

 

「あの狂犬め。いつか恩を仇で返すな」

 

 男はリモコンを取り出す。そのボタンを押すと先ほどのカードに仕込んだ爆弾が二十分後には爆発する仕組みだ。金を手に入れようとしたハヤトを上手く爆死させられるはずだろう。

 

「悪く思うなよ、ジン・ハヤト。全てはお前が悪いのだからな。サオトメ研究所への離反など知れれば私は国家反逆罪だ。そのような罪で捕まるよりかは、君らを切るよ。それが賢いのだからな」

 

 部下を呼び出して命ずる。車を回せ、と。男はエレベーターで降りてリムジンに飛び乗った。この非常事態をサオトメ研究所に告げ口すれば自分はむしろ褒められてしかるべきだ。国の救世主だとおだてられるかもしれない。

 

「あの狂犬の下につくくらいならば、私は賢い道を選ぶ」

 

 男はふぅと息をついてふとリムジンの床に落ちているものを目に留めた。部下は車の掃除も怠っているのか。ハヤトの前で溜まったストレスを発散するべく男はそれを手に取って部下に忠言する。

 

「おい! 掃除もろくに出来んのか、このスカタンが!」

 

 その時、フロントミラー越しに部下が男の拾ったものを見て慄いた。指差されて男はそれをよく見る。拾ったのは先ほどハヤトに与えたはずのブラックカードだった。その表面が赤く点滅している。爆弾が起爆している証拠だった。

 

「なっ、まさか――!」

 

 その先の言葉は爆発の衝撃と破壊に遮られた。

 

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