メタサガ学園   作:ショウマ

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とあるクラスの朝~ホームルームの光景

 

 

 都市外にある他の学校と同じく、メタサガ学園の一日も教師や生徒達が登校するところから始まる。

 

 それは当たり前のことだと思うだろうが、ここはメタサガ学園。当然、普通ではない。教師や生徒の中には、校舎内で生活している者もいるのである。

 

 皆、都市内に家を持っているのにも関わらず、だ。

 

 部室はおろか、広大な校舎内から空き部屋を探しだして見繕う者。屋上や敷地内でテント生活を送る者。中には授業を受ける教室の一角に生活基盤を作り上げてしまった剛の者まで。

 

 実に自由である。

 

 その点で、教師はやや有利である。担当する特別教室を、授業を名目にしてアレコレ弄れるからだ。おかげで、実際に授業で使われた特別教室の数は、全体の数%にも満たない。

 

 実に自由な校風である。

 

 しかし、自由過ぎるというのは時として問題にもなる。

 

 自由に振る舞う者がいれば、その(しわ)寄せが必ず誰かに押し寄せるからだ。

 

 つまりどういうことかと言うと――――。

 

『――風紀委員よりお知らせです。現在、無断で校庭に埋められた地雷の除去作業を行っております。手が空いていて暇を持て余している生徒は、火器を持って校庭に集まって下さい。併せて、埋めた犯人も現在調査中。判明次第、賞金をかけます』

 

『――保健委員より全学園生徒へ。ミンチ先生の課題をまだ提出していない生徒は、期限が今週末であることを忘れないようにして下さい。遅れた生徒は、強制的にミンチ先生の献体参加となります。それと、レポートでデスクルスを利用する際には、きちんと施設利用申請用紙も提出するようお願いします』

 

『――生徒会より。ここ最近、遅刻する生徒が後を絶ちません。健全な生活を送るよう、皆様にお願い申し上げますわ』

 

『図書委員です! 持ち出し不可な禁書、『オレとアニキと秘密のブロマイド』を持ち出したのは誰です!? すぐに返却して下さい! ……もう、購入したばかりの『レスラー 涙の七㎜機関砲』も、なんか濡れて字が滲んでるし』

 

 このように、全学年校舎を対象とした一斉放送が、発信者こそ違えど毎朝流れるのである。

 

 自由な……自由過ぎる者達が行う様々な出来事の皺寄せは、真面目(ある程度ではあるが)な者達が被っていた。

 

 しかし、彼や彼女達もこの学園に通う者。ちょっとやそっとどころか、並以上のことでもへこたれはしない。

 

 健全な学園生活を取り戻すべく、彼や彼女達は戦い続ける。今日も、明日も。

 

 学園に泊まり込んで。

 

 しかし、こういった者達がいるからこそ、この学園は学園足りえるのだ。

 

 非常識対常識の争いが終わることはない。例え九割五分が非常識だとしても。

 

     ※ ※ ※

 

「オーッス!」

 

「おはよー」

 

「ウッス! でさぁ……」

 

「そうそう、それでね」

 

 ホームルームが始まる五分前の、高等部二年A組の教室。

 

 登校してきた生徒達が三々五々集ってお喋りに興じていた。

 

 今のところ、出席率は三割程度といったところか。

 

 これは、ホームルーム開始三十秒を切ってから席の六割が埋まるこのクラスにとって、ごく普通の光景であった。

 

「おはようー!」

 

 また一人、クラスの扉を開いて生徒が入ってくる。

 

 ショートカットにした明るめの茶髪に丸眼鏡、上下が薄いピンクの制服を着た女子生徒の元気な挨拶に、クラスメート達は次々と返事を返していく。

 

 その教室内の一角、男女混合のグループに居た男子生徒が片手を上げ、気さくな様子で声をかけた。

 

「よう、ミカ。お前にしては遅かったな」

 

 こちらは上から下まで黒尽くめの男子生徒が、チラリと黒板の上に掛かった時計を見ながら言う。

 

 それに対しミカは苦笑を浮かべつつ、自分の席に移動した彼女は机の上に厚みの無い手提げ鞄を置く。

 

「うん、兄さん。昨日はちょっと、夜更かししちゃって」

 

「全く……レイチェルもそうだが、腐るのはホドホドにしとけよ?」

 

「うーん、そうは言っても……って違うよ!? ボクは父さんの仕事を手伝ってたんだよ!」

 

「ちょっと、キリヤ! 腐るって何よ!? だいたい、教室(ココ)で寝腐ってるアンタと違って、アタシとミカは真面目にパパ達のお店を手伝ってるのよ!? それに、アンタなんかもっとヒドいオタクでしょうが!」

 

 ノリツッコミをするミカと、もう一人。バン! と机を平手で叩きながら、近くの女子生徒が椅子音高く立ち上がる。ストレートな赤みがかった茶髪に、気の強そうなつり目が特徴な少女だ。

 

 余談だが、レイチェルの着る制服はミカと同じデザインなのだが、色は彼女の髪と似たような赤茶色である。これはどちらかが間違っているというわけではなく、高等部は高等部で指定されたデザインの制服であれば、色やアクセントは好きにしていいという学校の方針が関係していた。

 

 私服が許されるのは大学以上の生徒だけ。

 

 おかげで、それ以外の生徒達の間では、『限られた装備でいかにして自分のカラーを出すか』が競われていた。

 

 本当に自由な学校だ。

 

「なっ!? おいコラ、レイチェル! オレはオタクじゃねえ!」

 

 レイチェルの指摘に、ミカの兄であるキリヤは聞き捨てならないとばかりに座っていたロッカーから飛び下りた。

 

 フン、と鼻を鳴らすレイチェルと真っ向から睨み合う。

 

「そうだよね、兄さん。レイチェル、兄さんはオタクなんかじゃないよ」

 

「そうだそうだ! 言ってやれ、ミカ!」

 

 二人の間に立ったミカは一つ頷き、胡乱げな視線を向けてくるレイチェルに説明を始めた。

 

「兄さんはとても広い分野の知識を、重箱の隅をつつかれても平気な位に身に付けてるんだよ。一つ一つでさえマニアックなのに、その範囲がとても広い兄さんは、ただのオタクという言葉には収まらないよ!」

 

「その通り!」

 

「イバんな、バカ!」

 

「あべし!」

 

 ミカの言葉に胸を張るキリヤの顔面に、レイチェルがどこからか取り出して投げ付けたおぼんが縦に突き刺さっている。

 

「つまり、もっとヒドいってことじゃない、この超ド級ティアマットオタク!」

 

 倒れたキリヤを呆れ七割諦め三割成分のジト目で見下ろしながら、レイチェルは憤然と胸の前で腕を組んだ。

 

「ま、待て……」

 

 顔に刺さったままだったおぼんを引き剥がし、キリヤが身を起こす。

 

「異議あり!」

 

「何よ、変に顔とポーズを決めて」

 

 訝しげに眉を寄せるレイチェルへ、キリヤは自信満々に口の端をつり上げた。

 

「いいか? 超ド級とティアマットは並び立たない。そもそもド級のドについてなんだが、これはドレッドノートという戦艦が」

 

「だ・か・ら……聞いてないわよ、アンタのオタ知識なんか!」

 

「うぼぁー」

 

 格闘ゲームで負けた男キャラのような声を上げながら、再び顔面におぼんを生やしたキリヤが宙を舞う。

 

「YOW WIN!」

 

「イェーイ!」

 

 ミカのナレーターに合わせて、レイチェルの方もノリノリで拳を突き上げる。

 

 その時、校舎からやや離れた場所からの爆音が連続で轟いた。振動により教室の窓がカタカタと揺れている。

 

 しかし、そんな音が聞こえてきても、いつの間にかほとんどの席が埋まっているクラスメートの誰も見向きもしていない。

 

 少なくとも、呆れたような視線を窓の外に向けている、二人の少女以外は。

 

「またはんたかしら?」

 

「うん、はんたのメルカバだね。ボクが整備してるから間違いないよ」

 

 ミカがキッパリと断言する。家が戦車工房『ジャンク・マード』をしており、本人も整備に携わっているだけあって、彼女自身もそれ関係の知識は深い。

 

 だがそんなミカより、今は床の上でピヨピヨ言っているキリヤの方が知識も腕も上なのだが。

 

 天才肌なキリヤは、ミカの説明通りそれを活かした多芸多趣味を極めている。そして、それが高じ過ぎて走った結果が、歳の離れたミカと同じ学年にいるという結果だ。

 

 ちなみに、彼は運動をやや苦手とするものの、各ペーパーテストでは満点を取っている。出席日数が足りないだけだ。

 

 ミカとキリヤの兄妹、二人の家の隣でこの場にはいないはんた、さらにその隣で父親が喫茶店を営むレイチェル。他にも何人かいるが、四人は小さい頃からの幼馴染みである。

 

「はんたの相手は、生徒会としてのローズさんかな」

 

 既に十秒を切ってほぼ全ての席が埋まっている中、ミカが自分の座る席の真後ろ、並んで空いている二つを見ながら言う。

 

「もう一人いるみたいだけど?」

 

 ミカの左後方にある席に着くレイチェルが、さらに右後方――ミカの二つ後ろの席を指し示す。

 

「あれ、アルファも? 風紀委員の仕事で忙しいのかなぁ」

 

「ミカさま、もうレバンナ先生が来られますわ」

 

 右隣からおっとりと声をかけられ、慌てて正面に向き直るミカ。

 

「いつもありがと~、カエデさん」

 

 白の上着に赤いスカートという、どこか巫女服を思わせる少女がやんわりと笑む。

 

 長くツヤのある黒髪もあってなおさらその印象が強いが、事実、彼女はここトリカミ町にあるタイシャー神社の巫女さんであった。

 

 男女を問わず“さま”付けで呼ぶおっとりした性格の彼女だが、一度キレるとクラスの誰よりも怖い、隠れ最強の異名を持っている。

 

「うふふ、どういたしまして。はんたさま、早く来られるといいですね」

 

「ローズさん、最近負けが込んでたからな~。腕も良いし、お金持ちだけあって資金もたくさんあるから、そろそろ大改造してきそうだけど」

 

「全員、揃ってるか?」

 

 チャイムが鳴ると同時に教室の扉が開き、頭に戦車乗り用のゴーグルが付いた帽子を被った青年が入ってきた。

 

 鍛えられ、引き締まった体にベテランの風格を纏わせた彼こそ、曲者揃いの二年A組の担任教師であるレバンナだ。

 

 都市内で発生した事件の大半を今でも専門に解決する、現役にして“生ける伝説”の二つ名を持つハンターでもある。

 

 犯人からすれば、“逝ける伝説”といったところだろう。

 

「起立、礼。……着席」

 

 クラス委員であるカエデの号令が終わり、生徒達が着席した教室内を、レバンナは獲物を探すような鋭い眼差しで見渡す。

 

「はんたとローズ、それにアルファか。はんたも仕方のない奴だな。むしろ、後ろで寝てるキリヤは良い度胸だ。教室で生活しておきながらの遅刻だからな、相応は覚悟しとけよ」

 

 教室の後ろで寝ている人物に、不敵に笑ったレバンナは出席簿に何やら書き込んでいく。

 

(アチャー……ゴメン、キリヤ)と心の中で呟いたレイチェルは、左隣の空席をバツが悪そうに見やった。

 

 やがて、パタンと音を立てて出席簿を閉じたレバンナから連絡事項が伝えられていく。

 

「俺からは一つ。もうすぐ学祭が始まるが、出し物は早め早めに決めるように。去年のような、マッスル病院とミンチ先生が喜ぶような騒ぎだけは避けろよ」

 

「(アレは不思議だったよね)」

 

「(そうだよな。今でも分からんぜ)」

 

「(学祭が最強出店決定戦になって、それが全校挙げての大乱闘に発展したからなぁ)」

 

「(噂では、大学のとある先輩が発端らしいよ)」

 

 レバンナの話を聞いた生徒達は、思い出して不思議そうにする者、顔を青くする者など様々だ。

 

「コラ、私語は慎め」

 

 シン……と静まりかえったところで、ホームルーム終了の鐘が鳴る。

 

「よし! 二のA、今日も全力で生き残れ!」

 

「「「オオーーーッ!!」」」

 

 レバンナの号令に、生徒達も拳を突き上げながらの大声で応えた。

 

 こうして、メタサガ学園の一日が始まるのである。

 

 






他のクラスでも似通った光景が繰り広げられてたり。

去年の学園祭は、とある先輩の「どこのお店の料理が一番美味しいか」という一言で、生徒達が“腕を振るって”頑張った結果です。
 
 
 
メタサガ学園図書委員会

学園一、利用者が少ない場所。購入図書はその年の委員の趣味で決まるため、偏りが激しい。その分、専門書より濃い本があったりする。良くも悪くも。


メタサガ学園保険委員会

学園一、人の出入りが激しい場所。なお、学内の治療はほぼ委員の仕事である。生徒に治せないものは、学園裏に併設されているマッスル病院に送られ、それ以上になってから初めて校医の出番となる。
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