※ こ、こっちも忘れてないよ。ちゃんと書いてるよ(震え声
休み時間。
地域イベントや季節の行事といったモノを除き、日常的な学校生活においてもっとも活気があるであろうそれは、ココ――メタサガ学園においても例外ではない。
授業中は蚊の鳴くような声で音読していた女子生徒は大声で喋って――おい、さっきもそれで喋れよ――たり、教師の読み上げを子守唄代わりにしていた男子生徒が走り回って――今走ってたよな? 「体調悪いから保健室」ってなんだよ――いたり。
他にも早々と弁当を広げる者。
次の授業でと前もって指名されていたのにも関わらず、土壇場でその部分を写させて貰っている者。
次が移動教室だからとグループで席を立つ、購買部へ消耗品の補充に向かう、談笑していたかと思えば重火器や戦車を持ち出して決闘を始めるという、そんなどこにでもある光景。
しかし、この日は少しばかり様子が違う。
教室の外、廊下を通行中だった他クラスの生徒がそれに気付き、思わず足を止めた。そして気味の悪いものを見たとでも言いたげな表情を浮かべ、今度は足早にその場を後にする。
『中に誰も居なくても騒々しい』
それは興味のある授業以外をボイコットし続けたとある黒衣の留年メカニックマンの仕掛けた嘘在室テープの所為であったが。
そんなクラスがシンと静まり返っていた。
その教室の中。
「あー……酷い目にあった」
朝と同じことを言っているが、そんな些末事はとうにはんたの頭から抜けていた。
今は動きたくないし、何も考えたくない。そんな気分。
グデッと机に突っ伏すはんたの耳に、ガララと出入口の扉が開かれる音が聞こえた。
ただいまー! という
どうやら入ってきたのはメカニック科の面々のようだ。
そういえば帰ってきた時に居なかったなと、はんたは今更ながら思い出した。
一時間目は
億劫ではあったが、無視するのは後から何か言われそうで
「あ゛ー」だの「う゛ー」だの、妙に存在感のある死人のような声を上げる友人に、気付いた二つの気配はそちらへと歩みを進める。
「はんた、どうしたの? というか、ハンター科のみんな死屍累々って感じだけど」
そう、教室内に居るのははんただけではない。クラス委員のローズを始め、ハンター科のクラスメイトの姿があった。ただし全員がはんたのように机、あるいは床に倒れている。
「それに、ひのふのみ……人数も少ないし?」
「まるで一戦やり終えた後みてえだな」
誰も彼も、口からエクトプラズムでも出しているかのような面持ちだ。
「似たようなモンだ……。アルファのヤツがな? こっちのシミュレーターの筐体に変な装置を仕込みやがってさ」
突っ伏したままの状態では「モゴモゴ」という声にしかならないため、仕方なくはんたは顔を上げる。ピンクと黒、トレードマークとも言えるツナギ姿の二人に先ほどの専攻授業で起きたことを話して聞かせた。
「――それでシミュレーター内で戦闘不能になれば筐体がデストラップに早変わり。電撃マッサージならぬ電撃麻痺で本当に医務室送りってワケだ」
「なるほどねー」
つまり今ここに居ない生徒は……
「うーん、この場合はレバンナ先生……それともミンチ先生の方かな? 随分と思い切った手段に出たね」
「イヤな方向へ思い切ってくれたな」
勘弁してくれと呻く彼の肩を、「ちょっといいか?」とキリヤがつついた。
なんだ? と視線を向ければ珍しく難しい顔をした悪友の姿。
「その割には生き残りが多くねえか? あのティアマットの性能なら全滅してもおかしくないはずなんだがな」
「ああ……それならデータの処理落ちだよ」
「処理落ち?」
はんたの説明に、ミカは首を傾げる。
その横で、それを聞いたキリヤは俯きながら舌打ちを一つ。「アイツ、やりやがったな。やっぱり追い付かなかったか」と小声で呟いていた。
「あの改造ティアマット、厄介だったのは半球状のバリアと、どこから何を撃ち込んでも対応可能な迎撃システム。『それなら対応仕切れないくらい、全員で全弾お見舞いしちゃえば良いじゃない』って言い出した奴がいてな?」
言ったのはB組のレナ。思い切りの良さに定評のある彼女が、このままじり貧で全滅するよりはとそれを提案したのだ。
その後、鉄屑にしてやれと言わんばかりに一気呵成に攻め立てるハンターチームと、その全てを撃ち落とした上で逆に殲滅せんとすティアマット側。
双方の嵐の如く飛び交う砲弾その他諸々により、ついに処理が追い付かなくなったサーバーはとうとうダウンしてしまった。
「一番ヒドかったのはドラムカン先輩だなぁ」
「あー、『お前が死んでも俺のバルカンは止まらない!』は名言だよねー」
「……ホントか?」
そしてその作戦が決行される前に撃破された者は医務室へ、相撃ちの形となった者が今ここにいるような生ける屍みたいになっているという。
ふむふむと頷いていたミカが「あれ?」と声を上げた。
「じゃあ、はんたも撃破されたの?」
「いんや? 装甲タイルは全部持っていかれたし、Cユニットやエンジンも中破したけど生き残ったぞ?」
「でも、さっきまで死んでなかった?」
「怠いんだよ……。お前もやってみれば分かるさ。こっちの回避パターンを読んで飛んでくる、悪趣味な七色光線を掻い潜るのがどんなにつらいか。疲労は半端じゃないし、ずっと見ていたら目はチカチカしてくるし」
「たはは……遠慮しとく」
話を聞いてるだけで既にお腹いっぱいだ。
見れば、はんたは本当に疲れているらしい。
「なんでアイツはああもえげつないんだ」と、言いながら再び机に沈んでいる。
そんな彼にミカは苦笑しながら、「お疲れ様」と労う。
「そういや、そっちも二時間目は移動だったんだな」
ゴロンと机に寝そべったまま、頭だけ横にしたはんたはふと思ったことを口にした。
「そうだよー」
「メカニック科の教師って誰だったっけか?」
「俺達のところはしょっちゅう変わるからな」
キリヤの返答に、はんたもそうだなと頷く。
この都市では戦車乗りであるハンターが普通というだけあって、それを整備する者も当然ながら存在している。
しかし人気職なハンターと比べると、地味と言われがちなメカニックの数は圧倒的に不足していた。
おかげでメカニック科の教師達も、時間があれば街へと駆り出されている。中には街にいる時間の方が長い者すらいる始末。
「教師として学校に雇用されたと思ったら街で整備士をしていた。何を言っているのか分からないが(ry」
はんた達の学年でも、三クラス合わせて十人に足りないと言えば、その不人気具合が分かるだろうか?
高等部では三年に進級した際、専科ごとにクラスが分かれる。……のだが、メカニッククラスは一クラスに満たないことがザラだった。
さらに悪いことに、この街には(当然な話ではあるが)優秀なメカニックも何人かいる。つまり腕が悪ければ将来の道もほとんど閉ざされているも同然だ。
逆に言えば、優秀な者なら引く手あまたな状況ではあるのだが……引く手が多すぎるとも。
過労か安泰か、メカニック達の明日はどっちだ!?
「今日はブレークダウンさんの実践演習だよー」
「ブレ……って、前にローズん家の家に潜り込んで戦車を解体しまくったっていう、解体魔の?」
「うん。そのブレークダウンさん」
かつては神業の持ち主として天才メカニックに数えられていた男。それが今では道を踏み外し、反対に分解することに魅力を感じるようになっているという。
「あん時はローズがぶちギレてたからなぁ……」
はんたが視線をそちらへと向ければ、自分と同じく死闘を終えたばかりのローズがやはりグッタリと机に突っ伏している。
はんた達の話は聞こえているようで肩がピクピク震えてはいるが、さすがの彼女も今は立ち上がる気力は残っていないようだ。
「それで、今日は丁度オーバーホールするのに良い実験材料があるからって」
「ふむふむ……ん?」
ミカの話を聞いていたはんただが、何か引っかかるものがあった。
胸騒ぎ的な。
そんな友人の様子を知ってか知らずか、ミカは話を続ける。
「実戦で素早く解体するやり方と、そこからどう組み立てるかを習ったんだ」
「お、おいミカ。それ」
「分解できたのは兄さんだけだったけどねー」
「もしもーし? 聞いてますかー、ミカさーん?」
「いやー、近くで見たのは初めてだったけど、やっぱりスゴかったよー」
「目ぇそらすな! 耳を塞ぐな! やっぱりそれ俺のメルカバか!?」
「あ、予鈴だ。次はソロモン先生の生物だよね」
「話を聞けーーー!?」
※ オマケ
〜♪
「キリヤ、ケータイが鳴ってるぞ」
「お、アルファからだ」
「アルファから? へぇ、アイツがキリヤにメールって珍しいな」
「そういえば、はんた。そのアルファは?」
「ああ、『わたしは事後処理をします』って、この時間は休むそうだ」
「なるほど」
「じゃ、じゃあ、どうせフケる予定だったし、ちょっくら行ってくるわ」
「ああ、ちょっと待て。キリヤ」
「んん? ……お、おい、どうして俺を羽交い締めするんだ!?」
「なあ、キリヤ? どうしてお前があのティアマットの性能を知っていたのか、教えてくれないか?」
「(ギクリ)ナ、ナンノコトカナ?」
「兄さん、棒読みー。そうだよね、ボクも変だと思ったんだ」
「………………」
「不思議だよなー?」
「兄さんは学校で暮らしてるから、夜に何かしてても分からないしねー?」
「か、考えすぎだって。別に博士達から手を貸すように頼まれてなんか」
「聞いたか、みんな! コイツも犯人の一味だ!」
『ウオォォオーーッ!!』
「フクロだ、フクロ!」
「保険医への提出物(意味深)にしちまえ!」
「お前ら元気じゃねえか! あ、おい、ゾンビの微笑みで近寄るな! ……ギャーーース!?」