かなり不定期更新になると思いますが、どうぞよろしくお願いします。
居酒屋『夜雀亭』
迷いの竹林と人里の間にポツンとあるそのお店にはいつも客がいる。
それほど人気の店なのに従業員は二人。
そのうちの一人、鷲田進は非常に困っていた。
主に目の前にいる女性の烏天狗によって。
「射命丸、大丈夫か?」
「だいじょうぶだよぉ~、じぇんじぇんよってなんかいないからぁ~。それよりもさぁ、私のぐちをさぁ、きいてくれない?」
目の前の烏天狗、名前は射命丸文というが、その烏天狗はすでに出来上がっていた。いや、出来上がっているだけならまだいい。その出来上がった状態で従業員に絡んでくるのだから質が悪いのである。幸か不幸か射命丸以外の客は全員帰っており、絡まれた従業員は逃げ出すタイミングを見失っていた。
「ねぇ、こっちのはなし、きいてます?」
「はいはい、聞いてるよ。それで、一体全体なにがどうしたんだ?」
別のことを考えているのを察したのか、射命丸は従業員の手首をつかんでグイッと引き寄せた。引き寄せられた従業員は逃げることをあきらめて彼女のぐちに付き合うことにした。
「私が最近、その、好きな男の人がいるんだけどね、その人が全く私の気持ちに気づいてくれないのよ」
彼女の口から出たその言葉に従業員は、まるで面倒くさいから他でやれと言わんばかりに顔を顰める。
それに気づいているのかどうかは分からないが彼女は話を続ける。
「こちらから色んなアピールをしているのにあっちは知らん顔してるんです。しかも最近は別の女性と仲良くやっているみたいでさぁ」
「嫉妬か」
「…そうよ。嫉妬してるのが自分でもわかってて、もう嫌になってくるの。ねぇ、どうすればいいの?」
「ならその思いをぶつければいいんじゃないのか?」
「へ?」
間抜け顔をさらす射命丸に従業員は話を続ける。
「告白だよ、告白。どんな男でも女性に告白されたら逃げ場はなくなるからな。応えてくれればもちろんハッピーエンドだし、そうでなくても多分踏ん切りがつくと思うぞ」
「そういうものですか?」
「そういうものだ。ほらもう今日は遅いしそれ飲んだら帰った方がいいぞ」
そういい残し従業員は調理道具の片づけをするために厨房に戻っていった。
彼の態度に納得していない射命丸がコップの中の酒をちびりちびり飲んでいると今度はもう一人の従業員で店主でもあるミスティア・ローレライが隣に座ってきた。
「何の用ですか?」
「少し晩酌に付き合うだけよ」
酒を取り出した店主はそれをお湯で割りながら射命丸に話しかける。
「納得がいってないみたいね」
「そうじゃないんです。ただ単に自分も理解していることを言われたのが釈然としないだけです」
「成程ね。ならやることは決まったかしら?」
「えぇ。そういえばミスティア」
「何かしら?」
「あなたは恋をして幸せですか?」
「それは愚問ってやつよ、文さん」
「そうでしたね。はい、お勘定」
「毎度」
射命丸が帰った後に営業中の看板を片付ける。そして閉店作業を終えた夜雀亭に二人っきりの時間が訪れる。
「全くあの駄烏め。一体何がしたかったんだ?」
「勇気を貰いに来たんじゃないかしら?」
「居酒屋に?酒に貰った勇気はそれはいけない奴だと俺は思うぞ」
「居酒屋、というか料理屋には料理以外にもいろいろあるのよ」
理解できないと言いたげな従業員の表情を見ながら店主は小さく微笑む。
「全く、千年も生きてて何を怖がってるのかしら」
言葉にしないと伝わらないことは多々ある