ある日のこと。
従業員がその異変に気付いたのはほぼ偶然と言っていい程の奇跡であった。
「ん?おかしいなぁ…料理が減ってるぞ?」
従業員が気づいた異変というのは準備中の料理がほんの少しずつ、しかし確実に減っていってるというものであった。
普通ならばここで無意識下に『気のせいか・・・』と思うところではあったが、誰がこう言ったことをするのか心当たりがあった従業員はその相手を捜す。
「こいし、いるんだろ?」
従業員が捜しているのは普段は地底の地霊殿に住んでいる古明地姉妹の妹である古明地こいし。彼女は自身の能力である『無意識を操る程度の能力』によって自身を意識の外においやり、誰からも認識されない状況を作り出せる。
しかし、それも従業員の能力にかかれば無力化される。程なくして従業員はこいしの居場所を見極める。
「ホイ、捕まえたぞ。この無銭飲食者め」
「むー。なんで鷲田さんは私の能力にひっかからないのかなぁ?」
「俺の能力との相性が悪いだけだろ」
そんな時従業員は視界の端に普段は見ない姿が映ることに気づいた。その姿はこっち、特にこいしの様子をチラチラと窺うように見ている。そこで従業員はこいしにそっと耳打ちする。
「おい、あっこでこっちを見ているやつは誰だ?」
従業員が彼女に気づいたことを察したのだろう。こいしは慌てた様子でその少女に声をかける。
「あ!こころちゃん、早く逃げて!」
その声を聴くや否や逃げ出す少女。同類かよ、と息をついた従業員はこいしを抱えたままその少女を追う。
「ちょっと鷲田さん!なんで抱きかかえたまま走るの!?」
「お前を放したらまた捕まえるのが面倒だからに決まってんだろ!」
「私、逃げないから!おとなしく待ってるから!」
「うるせえ!手前のそのセリフは信用ならねえ!」
そんなやり取りをしていると、従業員は追っていた少女を見つける。そしてそのまま捕まえることに成功した。
「捕獲じゃー!」
「きゃあああああああ!?」
「…で、何か言うことはありますか、鷲田さん?」
「全てこの二人が悪いんです…ウソでした、自分も悪いんです」
営業後の夜雀亭。二人のつまみ食い犯と従業員は仲良く並んで正座していた。
三人の前にいるのはこの店の店主。彼女は店の中で騒ぎ立てていた三人に怒り心頭であった。
ちなみにあの後捕まった古明地こいしと秦こころの二人はつまみ食いへの罰として皿洗いをさせられていた。
「こいしちゃんとこころちゃんも勝手につまみ食いしたらダメですからね?」
「「はーい」」
「うん、素直でいいですね」
「みすちー、俺に対する態度と違ってないか?」
従業員が漏らしたその一言に店主は冷静に反論する。
「確かにつまみ食い犯を捕まえたことは素晴らしいですが、そのために必要以上に騒ぐのはどうかと思うんです」
「ア、ハイ」
「まぁ、こいしちゃんとこころちゃんは皿洗いをしてくれたので良しとしましょう。今日はもう遅いですし家の一室も貸しますしね」
その発言に二人の顔が明るくなる。
そして続けられた一言に一人の顔がさらに青くなる。
「けど、鷲田さんはまだ許してません」
「え…」
「ですのであとは部屋でゆっくりお話ししましょう」
「はーい…」
そういって四人は店の近くの従業員と店主の家に入っていった。
その家の客室に通された二人の少女は店主と従業員の様子を見ながらこう話した。
「ねぇ、こいしちゃん。あの二人は何をしてるの?」
「結局イチャイチャしてそうだね…」
「覗いてみる?なんか希望の感じがするし」
「さすがにやめておこう、うん。出歯亀すると馬に蹴られると聞くしね」
「そんなもの?」
「そんなものらしいよ」
夜になっても妹が帰ってこないことに心配した地霊殿の主が幻想郷を探し回ってたのはまた別のお話。
気が付けばもう10話です。
次回は幻想郷縁起風のキャラ紹介をしたいと思います。
ではでは