「釣れるかい?」
その言葉に従業員が振り返るとそこに立ってたのは青い和服に身を包んだ赤い髪の死神、小野塚小町であった。
「小町か。今日は非番なのか?」
「いいや、仕事はあるけど休んできた」
「おいおい、それって許されるのか?」
「客がいない状況で商売する必要性を感じなかったし。隣いいか?」
「怒られる時に俺を巻き込まないならな。・・・客?」
「あたしが幻想郷の担当死神だってことは知ってるよな?そこからの死者の魂がいないんだ。客がいないといってもいいだろ?」
「客がいなくとも店番は必要だろ?ほらさっさと戻った」
「ちえ、つれないねぇ。なら戻るとしますか」
口ではそう言いつつもなかなか立ち上がろうとしない小町に従業員はあきれる。
「戻らないのか?」
「戻る理由もないしねぇ」
「…もう勝手にしとけ」
従業員は相手にするだけ無駄なことを察したのか視線を釣り糸に向き合う。
暫くして従業員が垂らしてた釣り糸が引かれた。
「進、引いてるぞ」
「わかってるって!」
従業員がそれに反応して釣竿を引くも、よっぽどの大物なのかびくともしない。
「おいおい、ちっともつれる気がしないじゃないか」
「見てるだけなら、手伝ってくれよ!」
「はいはい、了解しましたよっと」
小町も釣竿を引くのを手伝うも、それでもなお少しずつしか岸に近づかない。
「すごい大物だなぁ。河童でも釣ったんじゃないのか?」
「それはぞっとしない、な!!」
その声と一緒に竿が大きく引き上げられて釣り針にひっかかったモノも一緒に釣り上げられる。
ようやく釣り上げた相手を二人が見る。
その視界に映ってたのは、一人の少女。
「河童かと思ったら、」
「船幽霊が釣れたってとこだねぇ」
「…きゅう」
セーラー服に身を包んだ船幽霊、村紗水蜜が倒れてた。
「…は!?ここはどこ?私は誰?」
村紗が目を覚ましたのはそれから一時間ほど経過した後であった。
従業員の釣果は上々。十分すぎるほどの魚を釣り、さて帰ろうかとしていた時のことであった。
「ここは幻想郷の川岸でお前は村紗だ。一体全体どうして釣り針にひっかかったんだ?」
「あれ?進?そっか。川に流されたのか」
「川に流された?船幽霊も溺れるものなのか?」
「幻想郷の河童だって時々溺れて湖に流されるでしょ?それと一緒よ」
「舟幽霊と一緒にされる河童も可哀想だとは思うが、そういうことだとしとくよ」
一通り話して村紗がどうも大丈夫らしいと判断した従業員はそばにいた小町に話しかける。
「ま、いいか。小町、待望のお客さんだ。とっとと連れて行ってくれ」
「確かに幽霊を連れていくのは死神の仕事だが、あたしの管轄じゃないのでね。勝手にするわけにはいかないんだよ」
「ボーナスとかもらえないのか?」
「むしろ怒られるよ。『勝手に仕事をするな』って」
「世知辛いんだなぁ」
二人の会話の意図を察した村紗は顔を青くする。
「まさか、二人とも私を地獄に連れていくつもりなの?」
「地獄というか彼岸にだけどね」
「幽霊を現世に放置するわけにはいかないし」
「でも私霊は霊でも念縛霊だよ!勝手に連れて行っていいの!?」
涙目になりながら叫ぶ村紗に対し二人はこらえきれないように笑い出す。
「ははは…まさかこんなに嵌ってくれるなんて思わなかったよ…」
「ひー。ひー。綺麗に決まってびっくりしたねぇ」
急に笑い出した二人に村紗は自分がだまされたことに気づく。
「…!あーっ!だましたわね!この、二人ともまとめて溺れさせてやるんだから!」
「「おお、こわいこわい」」
「このっ、うがーっ!」
その日の川辺はいつもに比べてひどく騒がしかった。
イカしたナワバリ争いが楽しくて仕方ない今日この頃。