居酒屋 夜雀亭   作:アンフェンス

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その15 現人神

夜雀亭には人妖問わず多くの客が訪れる。そのためこの店では時たま勧誘が行われる。その内容は人里での仕事からルールを脱した妖怪の退治までさまざまである。店主と従業員の二人はそれを特に止めるようなことをしないため最近ではそれも一種の風物詩や見世物になりつつある。

 

「ですからみなさんも、あの妖怪神社や妖怪寺じゃなくてうちの守矢神社を信仰しましょう!」

 

その日行われてたのは守矢神社の風祝、東風谷早苗による宗教勧誘であった。

人々の信仰心が神の力や存在にダイレクトに影響することを自覚している彼女は宗教勧誘に対してすさまじいほどなまでの情熱を注いでいる。

 

「別に妖怪の山に登ってくれなんて言いませんが、なにか神様に頼みごとをするときにうちの二柱の好きな方の神様の御姿を思い浮かべるだけでいいのです。それが信仰心を生むのですから」

 

こうして口上を上げるのも何度目になるか本人も店主も従業員も分からないが、少なくとも客がこれすら肴にするほどには行っている。

 

「よ、早苗ちゃん。今日も熱が入っているねぇ」

「ええ。御二柱のためには私はいつでもどこでも勧誘をしますよ」

「おいおい、話ではあんたも神様なんだろ?自分のことはいいのか?」

「いいんです。御二柱に信仰が行けばそのうち自ずと自分にも来ますから。それにほら、こういっちゃあなんですが、私は現人神ですので神としての力が無くても人として生きていけますし。それよりも神様としてしか存在できない御二柱のほうが重要ですので」

 

話しかけた客は酒が入っていたのか、普段では絶対にしないような質問をしてしまう。

 

「ふ~ん。そういやあ、あんたのとこの神様って何の神様なの?特にあのカエルっぽい神様とか」

 

その発言に対して早苗の目が光る。そんな早苗を見て客は失言をしたことに気づいた。だが時すでに遅し。彼女は自分が敬愛し、信仰してやまない二柱について語りだした。

 

「まず背後に注連縄を背負ったのが八坂神奈子です。彼女は建物の特に建設をつかさどる神様で、命蓮寺の建設も行いました。あんな派手な姿をしてますが、それは威厳を示すためのもので、彼女自身は普通の感性をしてますよ。そしてもう片方、先ほどあなたがカエルっぽい神様と言った方が洩矢諏訪子です。彼女は大地を操る力を持っていて、彼女の手にかかればどんな不毛な土地も実り豊かな大地に出来ますし、その逆も可能です。カエルっぽい格好をしているのは人に受け入れやすくするためだとか。後彼女自身がカエルが好きだからだといってましたね」

 

ここまで話して早苗は喉が渇いたのか水を飲む。

この隙を逃してなるものかと話しかけた客が口をはさむ。

 

「わかったわかった。ちょっとは落ち着いてくれ。あんたが二人のことを大好きなのは十分に分かったから」

「むう。まだ話足りないですけど分かってくれたのならいいでしょう」

 

彼女の話が途切れた隙にその場から客が逃げるようにして自分の席に戻る。

話し相手がいなくなった彼女はまた客全体に向けて演説を始めた。

 

「大地や建物を操る二柱を皆さん、信仰してください!」

 

 

 

その後、夜も更けたころ。

 

「そういえばお二人は何かしら信仰しているんですか?」

 

客足もまばらになったため、早苗の勧誘の矛先が店主たちへと向かった。

いつもはこんな時間までいない早苗は珍しい機会を逃してなるものかと二人に話しかける。

 

「俺は特には信仰とかはしてないなぁ。外にいたころからそうだったし」

「私は元々人食いの妖怪ですし。人と同じものを信仰するわけにはいきませんよ」

「そんなことを言わずに。些細なタイミングでいいですから、うちの神様に神頼みするだけでもいいですから」

「宗教勧誘の常套文句じゃねえか、それ」

「うちは新興宗教とかとはちがって歴史がありますから」

「歴史のあるなしとかそういう問題じゃないだろ」

「つれませんねぇ」

「つれるつれないの問題じゃないと思うけどな。なんか飲むか」

「ミスティアさんか進さんが信仰してくれればここの客もしてくれると思いますけどね。あ、烏龍茶をお願いします」

「ミスティア、烏龍茶一杯頼むわ。で、なんだ。その言い方をすると俺らが神様かなんかみたいじゃねえか」

「信仰されてはないと思いますけど信用はされてるじゃないですか。神様じゃなくて先生みたいなものですよ」

「先生に信仰させたいなら俺らよりも効果的な人がいるぞ」

「慧音さんのことですか?彼女は頭が固いですし、ちょっと難しそうだったので」

「そーなのかー」

「そーですよー」

「それで今日はどうするつもりだ?もう夜だし今から帰るのは面倒じゃないのか?」

「うーん、とりあえず烏龍茶は飲むとして、まぁ飛んで帰ればすぐですし、多分飲んだらすぐ帰ると思いますよ」

「気をつけてな」

「この私を誰だと思ってるんですか?」

 

早苗はドヤ顔で付け加えた

 

「奇跡を操る神様ですよ!そこら辺の妖怪に負けませんから!」




ずっと早苗のターンでした

次回はリクエストにあったあのキャラの予定です
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