求聞口授を読む限り、鳥獣伎楽はみすちーと響子の二人っきりらしいですね。
流石にそれじゃあ寂しいのであの三姉妹にも出てきてもらいました。
「みんなー!準備はいいー!?それではライブ、始めるよー!!」
夜中、里の人間が寝静まったころに一際騒がしい声が響く。
マイクを持って叫ぶのは普段は命蓮寺の門周辺で掃除をしている妖怪山彦、幽谷響子。
彼女は一息つくと、隣にいる、これまたマイクを持った女性に合図をする。
「『鳥獣伎楽』の定期ライブの一曲目はこれだ―!!」
山彦の妖怪に負けじと大声を張り上げるのは夜雀亭の店主であるミスティア・ローレライ。
二人とも普段からは考えられない黒づくめの衣装を着、黒いサングラスをかけている。
夜雀の声に合わせて後ろにいるプリズムリバー三姉妹が激しい音をかき鳴らしだす。
長女のルナサはバイオリンと同じ弦楽器だからかギターを、次女のメルランはいつもとは違ってサクソフォーンを、三女のリリカはいつも通りのキーボードをそれぞれ弾いている。
勿論、彼女らにとっての弾いている楽器は象徴的なもので、ベースやトランペットの音も聞こえてくる。
全てに共通するのはいつも以上に騒がしい音であることぐらいか。
そんな騒がしい前奏に合わせてボーカルの二人が歌いだす。いや、歌いだすというよりかは叫びだすというほうが適切かもしれない。
こうして『鳥獣伎楽』のライブが始まった。
彼女ら鳥獣伎楽は外の世界では廃れた『ブラス・ロック』のバンドである。
ブラス・ロックとはロックに金管楽器(ブラス)を導入したものである。普通のアレンジと違うのはギターと金管楽器が対等な存在感をもっていることだろう。
それを意識してるのか、彼女らのライブのなかではギターソロやブラスソロも存在する。
それ故鳥獣伎楽のライブにはプリズムリバーのファンも詰め掛け、いつもと違う三姉妹の演奏を堪能する。
かといってライブの観客となるのはプリズムリバーのファンだけではない。
二人のボーカルそれぞれのファンや、鳥獣伎楽自体のファンなど多くの妖怪や人が観客として駆けつける。
こうしたこともあっていつも彼女らのライブは大盛況となるのであった。
「よーしみんなのってきたねー!!じゃあ、次の曲はー」
「「「「「カンパーイ!!」」」」」
ライブが大盛況に終わった後。
いつも通り鳥獣伎楽のメンバーは夜雀亭で打ち上げを行っていた。
店主が打ち上げのメンバーの一人なのでこの時は従業員が一人で店を回している。
「うん、今日も盛り上がったねー」
「修行でのストレスも取れたし」
「新しい音楽も試せたし」
「今日のライブも大成功!!ってことだね」
彼女らは今回のライブの出来に満足しながらグラスの中身を呷る。
中身を一通り呷った後、響子が従業員を呼び止める。
「わしだー、今日のおすすめって何ー?」
従業員はどこか困ったような表情でその注文に答える。
「今日はいい香辛料が入ったんだけど、喉を酷使した人に辛いものを出す気はねぇぞ。と言う訳で、お前らへのおすすめは喉を傷めない雑炊かなんかだけど…」
その返答に一部を除きブーイングが上がる。
「そんなのいやだー」
「私たちは喉を使ってないから辛いのでもいいですし」
「そうだぞー姉さんの言う通り―」
「わ、私は別に雑炊でもいいですから、ね」
お前らは女子高生かと内心思いつつ、従業員はあきらめたように答える。
「分かった分かった。とびっきり辛いもん作ってやるからそこで待ってろ。ミスティアはどうする?あいつらと同じものにするか?本当に辛いからな」
「そうですか。辛いのは苦手ですし、私はちょっと喉がかれてますので雑炊で」
「やめとけやめとけ。ミスティアの喉は俺にとっても大事だからな」
そういって従業員は腕まくりをしながら厨房に向かう。
残ったミスティアには先ほどの従業員とのやり取りに対し周りから冷やかしの声が上がる。
「いつも言ってる気がするけど、熱いお二人ねー」
「これがおしどり夫婦ってやつかしら、鳥だけに」
「いや、姉さんそれは鴛鴦という鳥から来てるし」
「それを言うなら比翼連理じゃないかなー?」
「「妹よ、それだ」」
からかわれた張本人がどんどん顔を赤くする横でそうやって盛り上がる四人であった。
そして数分後。
従業員が四つの皿と一つのお椀を持ってきた。
「へい、お待ちどう。カレーライス四つと雑炊一つね」
そう言って従業員は料理を置く。その料理に異常を感じたリリカが持ってきた張本人に問いかける。
「鷲田さん、カレーライスって赤い食べ物でしたっけ?」
彼女の問いかけに従業員は嫌味たっぷりの笑顔で答える。
「いったろ、激辛だと。香辛料百倍の超激辛カレー、どうぞ、召し上がれ」
そのセリフに赤い料理を前にした四人の顔は引き攣るばかりであった。
そして誰からともなくその料理に手を伸ばし、一斉に食べる。
「「「「~~~~~~!!!???」」」」
声にならない叫びがライブの時以上に響き渡った。
※このあと激辛カレーは某亡霊がおいしくいただきました。