一輪が散々騒いだ後逃げるように店を後にした次の日。
互いに愛を確かめ合ったミスティア・ローレライと鷲田進は結婚の報告を各所にして回った。
どこの人たちも二人の報告に祝いの言葉を述べる。
一部、「まだだったの?」という人たちもいたが、それもご愛嬌ってものだろう。
その他にも別のことを心配する人がいたが。
「それで、挙式はどこでするんですか?」
守矢神社に報告に行ったとき、代表として一通り聞いた東風谷早苗はふと抱いた疑問を投げかけた。
外の世界から来た彼女にとっては結婚式を挙げるということはごく自然なことだろう。
それは進にとっても同じことだが、彼はそれをする気はさらさらなかった。
「結婚式はどこでもしない予定だが」
自分と同じ(自称)外来人が示した否定の返事に早苗は首をかしげる。
「挙式しない結婚とはなんか不可解ですね?」
早苗の言葉に苦笑しながら進は答える。
「だって、そんなことしようとしたら宗教戦争が始まる」
「あぁ…成程…」
宗教戦争、と聞いて早苗の脳裏に浮かんだのは記憶に新しい異変。
当時彼女をはじめとした守矢神社勢はそれに参加しなかったが、一体何があったのかは噂程度に聞いてた。
仏僧が己の肉体だけで弾幕に文字通り打ち勝ったり、尸解仙が辺り一面を焼け野原にしたり、巫女が出会う者すべてなぎ倒して行ったりと最後のはいつものこととしても相当なことがあったと聞いていた。
一組のカップルの結婚式ごときでそれが再発するとは普通なら考えられないことではあるが、彼らなら話は別。
彼らの結婚式を挙げることが少なくない影響を与えることにつながるのである。
だからこそ、戦争は言い過ぎかもしれないが、それに似たことが起こるのは想像に難くない。
それを理解した早苗は進と同じように苦笑した。
「でも、披露宴は一応するつもりだけどな」
「ほうほう。それは実に興味深いですね」
突如後ろから掛けられた声に二人が振り向くと、そこには一匹の烏天狗がいた。
「実に興味深い話をしてますね、お三方」
「どうした、駄カラス。新聞のネタになるようなことはここにはないぞ」
「あやややや。そこまでつっけんどんにしなくてもいいじゃないですか」
つれませんねぇと言いつつ射命丸文は話の輪に加わる。
「それで、誰と誰の披露宴が行われるんですか?」
メモ帳とペンを取り出し、取材態勢に入る文。
隠すだけ無駄だと悟った進はその質問に答える。
「俺とミスティアだよ」
「流石にただでは教えて…えぇ!?」
まさか答えてもらえると思っていなかった文は予想もしなかった答えに驚く。
「いや、二人の結婚は時間の問題だと思ってましたけど、なんでそんないきなり!?もうちょっと、こう、なんかあるものじゃないですか、ふつ―!?」
「残念だなぁ、お前のネタにならなくて」
「くやしいのう、くやしいのう。で、本当、どういう風の吹き回しですか?」
一通りバカなやり取りをした後、真面目な顔をして文が質問する。
「あぁ、まぁ、色々あったんだよ」
「ほうほう。ナニか言えないことがあったんですね」
「うるせえなぁ。その羽へし折るぞ」
「照れ隠しですね。私にはそれが本気じゃないと分かりますよ!」
「よし、わかった。お前後でうちの店に来い。とびっきりのもの食らわせてやる」
「おお、こわいこわい」
結局、バカなやり取りをしている二人だった。
守矢神社から次の目的地に移動する途中、ミスティアが進に話しかけた。
「進さん、ちょっとお願いがあるんですけど」
「何?」
「私、ウェディングドレスを着てみたいんです」
「あぁ。それぐらいならいいぞ。というか、元から着させるつもりだったし」
「本当ですか」
お願いが通ったミスティアは花のような笑顔を浮かべる。
ああ、この笑顔とともに生きていくのかと思った進は彼女の頭をなでる。
「どうしました?」
「いや、撫でたくなったから撫でた」
「それなら仕方ないですね。~~♪」
地底の橋姫が見たら嫉妬する前に逃げ出しそうな空気を醸し出していた。
数日後。
夜雀亭で行われた二人の披露宴は大盛況のうちに終わった。
花嫁のウェディングドレス姿に触発された人がいるとかいないとか。それはまた別の話。
次回はその20までのあとがき的なものです