春告精は今まさに春にならんとする場所以外では見られない。
それが幻想郷での常識である。
「は、はるでしたー」
従業員は目の前にいる縄で縛られた妖精の存在に困惑していた。
今は梅雨時期。ならば目の前にいる春告精は何なのか?
これが異変の兆候じゃないことを祈りつつ、とりあえずコンタクトをとる。
「何をしているんだ?」
「三妖精にいたずらされましたー」
「今は梅雨時期だろ?なんでお前が存在している?」
「そう邪険に扱わなくてもいいじゃないですか。見ないだけで一年中存在しているんですよ」
「そういうものか?」
「そういうものですよー」
そもそも妖精に存在しているかどうか聞くだけ無駄だったことに気づいた従業員は息をつく。
そんな様子に安堵したリリーホワイトは従業員に頼みごとをする。
「それで、納得したならこの縄をほどいてもらえませんか?」
「いいぞ」
実害はないと判断した従業員は手に持っていた荷物を降ろしてリリーホワイトの縄をほどく。
所詮妖精が縛った程度であるため、縄は苦戦することなく簡単にほどけた。
「よし、これで大丈夫だな」
「ありがとうございます。このまま放置されてたらどうしようかと思っていたとこでした」
「それはぞっとしないな。ところで三妖精にいたずらされたって、どんないたずらをされたんだ?」
「ただ単純なものです。森の中をふらふらと飛んでいたら音を消した月の妖精に後ろからつかまれたんです」
「それでそのまま簀巻きにされた、と?」
「そうです」
「災難だったな」
「まあ、自由になれたからいいですよ」
「気にしないんだな」
「気にするだけ無駄ですし。多分またいたずらされると思うので」
「本人がそれならいいか」
俺なら一発殴るけどな、という従業員にリリーホワイトはクスクスと笑う。
「それじゃあ、ありがとうございました」
「ああ、気を付けてな」
リリーホワイトが飛んでいくのを従業員は手を振って見送った。
リリーホワイトを見送った後しばらく従業員が歩いていると、また倒れている人を見かけた。
今度は簀巻きではなく行き倒れている様子ではあったが。
見てみぬふりをするのも気が引けた従業員はその行き倒れた人を揺り起す。
「大丈夫か?」
「う、うーん?」
従業員が揺り起した相手をみると、これまたこの時期では見かけることが稀である妖怪、レティ・ホワイトロックであった。
珍しいことは重なるものなんだなと従業員が思っているとその相手は完全に覚醒した。
「は!なんで私はここに…?」
「お、目が覚めたみたいだな」
レティは自身に声をかけた人物を見るとそこから飛び退く。
「危ない危ない。また退治されるところだったわ」
目覚めるなり警戒態勢をとったレティに対し従業員は苦笑いを浮かべる。
「いきなり警戒されるなんてちょっと傷つくな」
苦笑いを浮かべつつも、元気そうなその様子に満足した従業員はその場を立ち去ろうとする。
その時であった。
二人の間に大きな腹の虫の音が鳴ったのは。
腹を鳴らした張本人であるレティは顔を真っ赤にして言う。
「い、いきなり警戒したのは謝るからさ、何か食べ物頂戴…」
従業員の顔に浮かんだのは先ほどとは少し違う苦笑いであった。
「ちょ、酸っぱい!何このみかん超酸っぱいんだけど!」
「あれー?はずれのみかん渡しちゃったかなー?」
「何その棒読み!確信犯だよね、絶対!」
「そんなわけないじゃないかー。警戒したことに対して謝ってくれたしー」
「嘘だ!まだ許してないでしょ!」
「だから許したって言ってるじゃん。その証拠にもう一個ぐらいだったらみかんあげるから」
「絶対それも酸っぱいでしょ!」
幻想郷においてレティとリリーは夏場に会えないのが常識である。
尤も、常識から外れた存在が集まった幻想郷ではその常識も存在しないものに等しいかもしれない。
そろそろネタが尽きてきましたw
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