冬であった。
雪は降り止むことを知らず、ほとんどの植物が己の青いところを捨てる、そんな季節であった。
そんなある日のこと。
冬季限定メニューであるおでんの注文が山のように飛び交うそんな夕方の書き入れ時。
店主と従業員が客の対応に追われているときにその客はやってきた。
「進さん、席あいてます?」
扉から入ってきたのは人里の花屋を営んでいる藤林春明。友人の来店に嬉しそうな従業員は彼に話しかける。
「珍しいな、春明がうちに来るなんて。いつもは家で食べているんだろ?」
「ええ。本当は家で食べる予定だったんですが、どうしてもこの子がおでんを食べたいとごねったので」
そういいつつ春明が背中から降ろしたのは一人の女の子。その女の子はこういった店に来るのが初めてなのか怯えるように春明の後ろに隠れる。しかし従業員はここで一つの疑問を覚える。
「ん?お前って子供はおろか、奥さんすらいないはずだろ?」
そう。春明の家族というのは彼自身の他に両親の二人だけ。曲がりなりにも彼に子供がいるはずないと感じた従業員はそれをぶつける。
「そうなんですけど、まぁ、実際に見せたほうが早いでしょう。ほら、そこの従業員に挨拶して」
春明がそう女の子に促すとその女の子は恥ずかしいのか小さい声で自己紹介をした。
「かざみゆうか…です」
その言葉を聞いた従業員は少しの間思考停止したのちに、春明を捕まえて彼に質問を浴びせる。
「…は?え、ちょっ、おま、どういうことだ?」
「驚きました?彼女はあの花妖怪、風見優香です」
「同姓同名の別人じゃなくて?」
「正真正銘、風見優香ですよ」
ここで改めて従業員は『かざみゆうか』と名乗った女の子の姿を見る。確かに彼女のトレードマークでもある緑色の頭髪とチェック柄の服を身にまとっているが、彼女があの『風見優香』と信じられない従業員はなおも春明に質問をする。
「本当に風見優香なのか…?」
「ええ。博麗の巫女もそう言っているので、信じるしかないでしょう」
「それならなんでこんな姿になっているんだ?」
「これは博麗の巫女の推測ですが、彼女の妖力の素となっている花、ひいては植物全般が力を失った。それ故彼女自身も力を失ってこんな姿になったのだとか」
「しっかし、風見優香が妖力を失うなんて。明日は槍でも降るんじゃないか?」
「冗談でもやめてくださいよ。まぁ、そういうことですので二人分席を用意できますか?」
「そうだったな。カウンターしかないけどそれでもいいか?」
「並んで座れるならどこでもいいですよ」
「ならこっちだ。好きなとこに座りな」
従業員が二人をカウンターに案内すると春明は幽香にメニューを見せて一言。
「ほら、好きなものを注文して」
「わかった。えーとね…」
その二人の所業がまるで親子みたいだな、と従業員は思った。
かなり短いですが、今回はこの辺で。