夏の終わりも近づき、台風が来るのが恐ろしく感じられてきたころ。
いつぞやのごとく、従業員は川辺で釣り糸を垂らしていた。
川辺に浮かぶ浮きに視線を向けていると後ろから声がかけられた。
「釣れますか?」
「イチかゼロかで聞かれたら釣れてるけど、まだ目標までは足りないというところだな」
「分かりやすい答えでよろしいですね…隣、空いてますか?」
「あいてるぞ、映姫さん」
従業員に声をかけたのは普段幻想郷では会うことはない地獄の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥ。
彼女は従業員の隣に座ると浮きをもの珍しそうに眺めた。
「この丸いのは外の世界の道具ですか?」
「そうだな。魚が食いつくと沈むからアタリが分かりやすくなるとういう道具だ」
「それは便利ですね。尤も三途の川では意味をなさないでしょうが」
「三途の川で釣りをする酔狂な奴がいるのか?」
「ふふ、案外暇を持て余した地獄の職員がしているかもしれませんよ」
「そいつは暇を持て余し過ぎじゃ…ところで映姫さん、仕事はどうしたんだ?」
従業員の質問に映姫は頬を膨らませて反論する。
「今日は休暇です。まさか私がサボっていると思ったんですか!?」
「いや、幻想郷担当の死神がしょっちゅうサボっているから、ついな」
「むう、あとできっちり叱っておかないといけませんね。確かに最近死人も出ませんから暇なのはわかりますけど」
「『客がいない状況で客商売もあったもんじゃないねぇ』的なことを言ってたぞ」
「なら今度会ったときに『客商売じゃなくてお役所仕事です』と伝えておいてください」
「自分で言っといてくれよ。お役所仕事か。その割には随分のんびりしているんだな」
「今日からお盆ですから。地獄は全館休業で幽霊たちには帰省してもらってます」
「胡瓜でか?」
「茄子も忘れないでくださいよ」
「今年もUターンラッシュすごそうだな」
「戻ってくるときは大混雑なのはいつものことですから。そのためにお盆休みで英気を養うんです」
「映姫さんだけに?」
「何を言っているんですか。そんなつまらないギャグは黒ですよ」
「さいで」
時々釣竿をあげながらも二人の会話は続く。
「そういえば映姫さん、あなたから見て俺は白黒どっちですか?」
「今すぐ死ななければ白な人です」
「つまりは今すぐ死んだら黒になるということだよな。その心は?」
「新妻を未亡人にしてはいけませんよ」
「ああ、確かにそれは黒だな」
ここで従業員の頭に一つの疑問が思い浮かぶ。
「映姫さんって妖怪を裁いたことがあるのか?」
「ありますよ。とても珍しい事ですけど、本質を肉体に持った知性のある妖怪が肉体的な死を遂げたときのみですけど」
「あ?どういうことだ?」
「例えば妖精は裁いたことはありません。妖精は肉体的な消滅を迎えても本質はそこにありませんから」
「阿求も言ってたなぁ。あいつらの本質は自然現象であり、それが物体を持っただけだと」
「けど、万が一風見さんが肉体的な死を迎えたらそれは裁きの対象になります」
「彼女はあくまでも肉体を本質とした妖怪だからか。彼女が死ぬとは思えないけどな」
「モノのたとえですよ」
「それは分かるけど。それで?知性のない妖怪をさばかないのはなんとなくわかるが、肉体的な死ってどういうことだ?」
「妖怪が存在を失うのには主に二つの要因があります。一つは肉体的な死、二つ目は存在としての消滅です。前者はその妖怪を構成している肉体が破壊された時、後者はその妖怪を構成している本質が忘れ去られた時におきます」
「あーなんとなくわかった。畏れを失った妖怪と肉体を失った妖怪の違いか?」
「その通りです。でもこの幻想郷の成り立ちからして妖怪が畏れを失うことは滅多になくなりましたけどね」
「ここは忘れ去られた者たちが集う場所らしいしな…ん?でもその妖怪として認識されてない奴もいるよな、ここには。俺とかミスティアとか」
自分たちがなぜ存在しているのか考え始めた従業員に映姫は優しく答える。
「それはここにいる妖怪の殆どが妖怪としての本質とともに名前で認識されているからです」
「名前もそれを構成している一部だから、と言う訳か」
「そういうことです。何が言いたいかというと、私が妖怪を裁くことは稀によくあることですから、気を付けてください」
「ああ、気を付けるわ。ミスティアを悲しませたくはないしな」
「その意気です。彼女を悲しませることがあったらそれはあなたの人生において大きなマイナスになりますから」
「おお、こわいこわい」
従業員と映姫の二人は笑い合った。
笑い合った後、映姫は立ち上がる。
「さて、私はそろそろ移動します」
「地獄に戻るのか?」
「地獄に戻った後同僚と飲みに行く予定なので」
「うちに来るのか?」
「閻魔が押し寄せたら迷惑でしょう?地獄にもそういう店はあるので安心してください」
「そっちが来るのは迷惑じゃなくて、面白そうなんだけどなぁ」
「それならば、考えておきますね」
「来ることが決まったら連絡しろよ」
「はいはい、わかりました」
そうして彼女は立ち去った。
「夫婦において片方の幸せがもう片方のそれなら逆も然り、ということなのかなぁ」
従業員のつぶやきに答える者はなく、水面に吸い込まれて消えた。
次回はいつものペースならEXですけど、いいネタが思いつかないです。
従業員と各キャラの好感度や感情的なサムシングでも書こうかな…?