前回の予告と違う理由はあとがきで。
従業員が釣りに興じている間、店主は夜雀亭で仕込みをしながらいつ来るかわからない客を待っている。
釣りができない自分の代わりに魚を獲ってくる従業員の帰りを待ちつつ、その帰ってくる場所を守っているのだ。
その客が来たのは従業員が釣りに行っている間、つまりは店の中に店主しかいない時であった。
「すいません、鷲田さんいます?」
入り口を開けた女性は背中の羽衣らしきものをたなびかせながら店の中をのぞく。
突然の来訪者に驚きながらも店主は応対するために入り口に向かった。
「ごめんなさい、今進さんは出かけてまして。何か御用ですか?」
「いえ、彼が働いているというお店を見に来ただけです。…居酒屋、ですか?」
「はい。ここは『居酒屋夜雀亭』です。私と進さんの二人で経営しています」
「へえ。ここがそうですか。そういえば自己紹介がまだでしたね。私は永江衣玖と申します」
「ご丁寧にどうも。私はミスティア・ローレライです。…そこの人は?」
店主は来客が一人でないことにここで気付く。
もう一人の来客は二人からは一歩離れたところから興味深そうに店の内外を眺めている。
「こら。総領娘様、しっかりとあいさつしなさい」
「むう。ちょっとぐらいいいじゃない。上では決して見れないものなんだから」
「その前に初対面の人には挨拶をしなさいと何度言えばわかるんですか?はい、挨拶と自己紹介は?」
「ふん、比那名居天子よ。あんたが鷲田の言っていた『大切な人』ね?」
従業員に自分の知らないところで『大切な人』と言われたことに驚きつつも、それを顔に出さないように務めつつ、店主は答える。
「永江さんに比那名居さんですね。私はこの店の店主のミスティア・ローレライです。それでどうしてうちに?」
彼女の疑問には天子が答えた。
「鷲田が働いている店が見たくて来たのよ」
彼女の言いたいことがいまいち理解できない店主に衣玖が助け舟を出す。
「この間総領娘様、天子様が幻想郷を散歩していたら鷲田さんと会ったらしいんです。それで話の流れで鷲田さんが働いている店、つまりここに一度訪れてみるという話になったらしく、今日来てみたという話です」
「それなら少し店内でゆっくりしていきませんか?進さんももう少ししたら帰ってくると思いますし」
「だそうですよ、総領娘様」
「それなら中にいようかしら。外で鷲田を待つのも疲れるし」
中に入った二人に店主はお冷とメニューを出す。
「進さんが来るまで何か食べていきますか?」
「それはいいわね。何がオススメかしら?」
「あっさりしたものが食べたいのならこの冷やし中華がオススメですね。がっつり行きたいならこのスペアリブです」
「なら私は冷やし中華というものにするわ。衣玖もそれでいいよね?」
「はい、私もあっさり行きたいですし、それでいいですよ」
「はい、冷やし中華二人前承りました」
店主が店の奥に引っ込むと二人は店の中を見渡す。
ラッシュ時とは真逆でガラガラの店の中はだからこそ内装のセンスの良さがよくわかるようになっている。
「それにしても話から想像していたものとは違うのね。お酒をメインにしたものを提供する店だからもう少し汚いものだと思っていたわ」
「お酒は人をダメにするものだと思っていましたから、もう少し汚いというか、ガサツなところを想像してました」
「ほんとね。料理も聞いたことないものだし、ちょっと楽しみだわ」
「名前からすると冷やした中華なんでしょうけど、中華って何でしょうか?」
「私に聞かれても困るわよ」
天界では見たことも聞いたこともなかった景色や料理名に心を躍らせる二人。
そわそわして待っているのを微笑ましく思いながら店主は注文の品を持ってくる。
「はい、お待ちどう様。冷やし中華二人前です」
「これは麺かしら?」
「黄色い麺なんて初めて見ました」
「これは中華麺と言う麺です。外で一般的な食べ方はスープに入れるものですけど、夏限定でざるそば的な食べ方をするらしいですよ」
「あ、これモチモチしてておいしいわね。付け合わせの食材ともかみ合っていいわ」
「人が話している最中に食べてはいけませんよ、総領娘様」
「だって、この料理が、おいしそうなにおいを、漂わせているから、食べないほうが失礼でしょう」
「食べながら話すのもダメですよ」
「美味しいのが悪いもん」
「こら、そう言ったらだめです。すいません、こんな娘で」
「ふふ、おいしそうに食べてもらえるのが料理人にとって一番嬉しいことですので、気にしてませんよ。ほら、あなたも食べてください」
「そうだそうだ。衣玖も食べたらわかるよ。これは天界でもなかなか食べられない味だと」
「むう、しょうがないですね」
そして箸を手に取り、未体験の味を感じる衣玖。
その味に驚きつつも、箸を止めることをやめない彼女の様子に店主は嬉しそうにし、天子は自分があっていたといわんばかりのドヤ顔を浮かべる。
そんな三人のやり取りは従業員がバケツ一杯の魚とともに帰ってくるまで続いた。
夜雀亭に新たな常連客が生まれた瞬間である。
各キャラとの好感度のみを書いていくと圧倒的な文字数不足が発生したのでもう少しいいネタが思いついたら好感度と一緒にまとめたものを投稿したいと思います。