居酒屋 夜雀亭   作:アンフェンス

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その32 河童

 

「鷲田かみすちー、いるー?設備の点検しに来たんだけど」

 

夏の暑さがまだやむ気配を見せないころ。

夜雀亭の裏口にやってきたのはこの店の備品の整備を一括で担っている河童、河城にとりであった。

口では不在かどうか聞きつつも、その足は勝手知っている厨房の中に入っていく。

店の主に許可をとっていないため、詳しくいじることはできないが、それでもパッと見で設備の不良がないかどうかの点検をしていく。

そうやって簡単な点検をするがてら、にとりはとあるものを探す。

そのあるものは店の裏手、小川の流れに浸けられたザルの中にあった。

 

「お、あったあった」

 

彼女が捜していたのは河童全体の好物である胡瓜。

小川の流れで十分に冷やされた新鮮なそれに彼女は手を伸ばしてくすねようとした。

しかしその手が胡瓜を掴むことはなかった。

にとりが胡瓜が入っていたザルを横から掻っ攫っていった人物を見るとその人物は呆れた顔で彼女に話しかけた。

 

「よう、にとり。こんなところで何をしているんだ?」

 

ザルを掻っ攫った従業員に対して若干膨れ面でにとりは答える。

 

「何って、私が作った機械の調子を見ているんだよ」

「こんなところでか?少なくともここにそういった類の機会はないように見えるんだが?」

「気のせいじゃない?」

「気のせいもくそもあるかよ。…胡瓜なら後で出してやるからとりあえず今は点検してくれ」

「それもそうだね。なら早速仕事に取り組みますか!」

 

いきなりやる気を出してきたにとりは意気揚々と店の中に入って行った。

 

夜雀亭は幻想郷では珍しい明かりを火に頼らない店である。

たいまつはもちろん、ランタンや行燈も使わない店は幻想郷ではここと香霖堂ぐらいであろう。

ではここではそういったものの代わりに何を明りとしているのか?

答えは今従業員の目の前にいる河童の発明品である。

彼女は自分の発明品のテストができ、夜雀亭側は明かりなどにかかるコストを抑えることができるといういわば一挙両得な関係性である。

そのため定期点検を時々にとり自身が行うのである。

 

店の中に戻ったにとりは店に来てすぐ行った点検(という名の胡瓜探索)とは違い、機械のふたを開け、中まで調べていた。

 

「あっと、ここの線が切れかけてるね。最近このランプの調子悪いでしょ?」

「確かに最近暗かったな」

「あれ?点滅してないの?そうか、こういうすり減り方をすると点滅しないんだ」

「普通は点滅するものなのか?」

「今までラボで実験してた時は殆ど点滅したからね。…これをこうして、よし、もう大丈夫のはずだよ」

「ありがとうな」

「それはこっちのセリフでもあるけどね。ラボでは見れなかった現象が起きたから」

 

そう言いつつも彼女の手は次の明かりに移る。

 

「これも似たようなすり減り方をしているね。一応線を変えておくよ」

「ならいっそのことここら一体の明かりの線も変えてくれ」

「言われずともそのつもりだよ」

 

彼女は慣れた手つきで明かりの線を取り換えていく。

その様子を従業員は頼もしそうに見ていた。

 

その後も点検は続けられたが明かり以外に不具合はないことが分かった。

全ての点検を終えたにとりは道具を片付け、言う。

 

「はい、これで終了。明かり以外はまだまだ大丈夫だね」

「それは重畳。いつもありがとうな」

「おっと、お礼はいいから何か食べさせてよ。朝からずっとやったんだから、おなかすいちゃった」

 

彼女の言う通り、朝から点検を始めたにもかかわらずもう正午を回った時間である。

従業員自身も空腹を感じているのは事実であるので、早速昼飯を作り始める。

 

「昼飯のご希望は?」

「胡瓜メインの料理で」

「ですよねー。河童巻きでいいか?」

「お、それでいいよ」

「へいへい。河童巻き一人前入ります、と」

 

従業員が作った河童巻きをつまみながら二人は話す。

 

「そういや、今日みすちーは?」

「バンドの打合せだとよ。なんか次のライブで新曲出すらしいんだって」

「へえ。それは楽しみだね。…ん?その打合せって朝から?」

「いや、昨日の夜から。プリズムリバーのところに泊まり込みで練習するんだとよ」

「それはそれは…新婚さんにはさぞ寂しかっただろうね」

「言ってろ」

 




ここのにとりはエンジニア気質が強いです。

ちなみに鷲田とミスティアの店を空ける頻度はほぼ同じぐらいです。
鷲田は仕入れ等で、ミスティアは趣味等でと空ける理由は違いますが。
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