鵺の外見は一体なんであるのか?
一説には頭は去る、体は狸、手足は虎、尻尾は蛇であるらしい。
このよく知られた鵺の外見は実は唯のキマイラの一種であり、鵺自体はもっと別な姿をしているといわれることもある。
鵺の本質を考えるとこうした議論も不毛なものでしかないかもしれないが。
木の葉が色づき始めたある日、夜雀亭の店主と従業員は二人で買い出しに出かけていた。
そしてその帰り道に何気なく空を見上げた店主が叫んだ。
「進さん!なんか変なものが空にあります!」
「鳥とかじゃないよな?」
「鳥は煙を出しませんよ!ほらあそこ!」
従業員は店主が指さした先を見る。
そこでは主翼と尾翼そして二つのエンジンを持ったものが煙を吐きながら空を横断していた。
どこか朧気なそれに見覚えのあった従業員はその名前を言う。
「あれは飛行機か?幻想郷にあったか?」
「ひこうき?なんですかそれは?」
「空を飛ぶ乗り物だな。幻想郷にはないものだと思っていたが、河童が作ったのか?」
「飛行機ってあんな細長いものなんですか?」
「細長い?翼があるだろ?」
「ないですよ?」
二人の会話がかみ合ってないことに二人は気づく。
まるで二人が見ているものが違っている具合のかみ合わなさに従業員は一つのことを思いつく。
「ぬえでもいるのか?」
その思い付きに答えた声があった。
「ありゃ?もうばれた?」
その声のした方を見た二人は軽い悲鳴を上げる。
そこにいたのは頭から黒い布をかぶり、白いお面をつけた異形の存在であった。
尤も、この姿は従業員にとって見えた姿であり、店主からしたらまた別の姿に見えたのかもしれない。
「なんで二人ともまるでこの世のものとは思えないものを見たような反応をしたのさー?」
「だ、だって、真っ黒な何かが真っ黒な何かを引きずりながらぬえさんの声で話しかけるんですよ」
「あぁ。そういえばまだ変化を解いていなかったね」
そう言って彼女、封獣ぬえはいつも通りの姿に戻る。
ホッとした店主に対し、従業員は無言でぬえに近づく。
「ん?鷲田、どうしたの?は!まさかボクに愛をささやきに来たとか!キャーッ、照れるー!」
そう両頬を抑えて黄色い声を上げ始めたぬえに特に反応を返さずに従業員は頭を掴む。
そしてそのまま片手だけでぬえを持ち上げた。
「痛い痛い痛い痛い!ちょ、このままだと頭がぐしゃって!今ミシミシ言ってるし!」
「うるせえ。そうならないよう力加減は見極めているからな」
従業員のその言葉に嘘偽りはない。
鷲としての性質を持つグリフォンの握力で頭を握りつつ、握りつぶさない程度の力加減をしていた。
アイアンクローをかけられている側からしたらそれは気休め程度にすらならないのは事実である。
「そういう問題じゃないでしょ!例えそうだったとしても!痛いのに変わりはないから!」
その言葉に耳を貸すことなく、従業員は無言でその手を放すことはなかった。
「痛かった~。ボクの頭がザクロみたいにはじけるかと思ったよ」
アイアンクローから解放されたぬえは頭をさすりながらぬえがぼやく。
「自業自得っていう奴だ」
「なんでよ~。妖怪が自分の業をして何が悪いのさ。…ハッ!まさか、これが噂の照れ隠し!?」
「もう一回食らわせてやろうか?」
「ごめんなさい冗談ですからアイアンクローはやめてください」
即座に謝ったぬえに対し従業員はだしかけた手を引っこめる。
そんな二人のやり取りに店主は苦笑を浮かべていたがふと疑問を思い浮かべる。
「そういえばあの煙を出すものって何を変化させたものですか?」
「あれ?あれはロケット花火という新しい花火だよ」
「ロケット花火ですか?」
「そうそう。花火の火薬をすべて推進力にした斬新すぎる花火だよ」
「それって花火として成立しているんですか?」
「どうだろうね?火が飛んでいくのは花火じゃないのかな?」
「ていうことは私にはそのまま見えていたかもしれないということですか?」
「そんなこともあるんだ。ボクの能力ってあいまいだからね」
「本人が把握してないのか?」
「ほら、正体不明がボクの本質だし」
そういうぬえの表情はどこか自慢げで、どこか不満げで、よく分からない表情であった。
妖怪というのは分からない、理解できないところから生じるという。
そう考えると妖怪に姿を求めるのは鵺に限らず、全てのそれに対して不毛なことなのかもしれない。