「鷲田、来たよー」
「おーっす、鷲田!今日もやってるー!?」
夜雀亭の入り口の扉を壊さんとばかりの勢いで開けたのは二人の鬼であった。
その名は小さいほうが伊吹萃香、大きいほうが星熊勇儀である。
二人は店に入るなり、ずかずかとカウンター席に座る。
「いらっしゃいませ」
彼女らに対応するのは従業員でなく、店主であった。
そのことに驚きを隠さない萃香が疑問をぶつける。
「ありゃ?みすちー、鷲田はどうしたんだい?」
「今、進さんにしか作れないメニューの注文が入ったのでそれを作っているところです」
「となると、外の料理か?」
「はい、何も『炒飯』という混ぜご飯の一種らしいです」
「へえ。ならしょうがねえや。私たちにもそいつを頼むよ」
「後、何か外の酒を一本頂戴ね」
「了解しました。炒飯二人前追加です!」
その声に店の奥から従業員の了解の声が返ってくる。
「それで外のお酒ですね。何か要望はありますか?」
「うーん、清酒以外なら何でもいいや。勇儀もそれでいいよな」
「ああ。たまにはこの盃を使わずに酒を飲みたいもんだよ」
そう言って勇儀は自分の盃を掲げる。
酒を注げば大吟醸に変えるというその盃は普段自分たちだけで飲む時には申し分ない性能ではあるが、ここは居酒屋。居酒屋ではそういったものに頼りたくないのも頷ける話である。
しかし並の酒では満足できないのも事実。
だからか、彼女らの注文はここでは味わえないような酒になるのも当たり前なのかもしれない。
それはさておき、彼女らの注文は店主を困らせるのに十分であった。
「外のお酒ですか…ちょっと待っててくださいね。今探してきますから」
「あー。それならば、ちょっとわがままかもしれないけど『わいん』っていうお酒があるならそれにしてくれないか?」
「ワインですね。了解しました」
店主がカウンターを離れる。
残された二人の鬼は最近の互いの状況を話し始める。
「最近、勇儀が地上で見られるていう噂なんだけど何してるの?」
「巫女とか魔法使いとかを探してるところだよ」
「あったら何をするんだい?」
「再戦」
萃香の疑問に対し勇儀の答えはたった一言であった。
しかしその一言で萃香は大まかな事情を察する。
「あぁ、そういや言ってたねぇ。久しぶりにいい人間を見つけたって」
「スペルカードという制約上であったとしても私と対等に戦え、それでいながら性格もしっかりしてると来たもんだ。いい人間でない訳がない」
そう断言する勇儀に萃香はうなずく。
「確かに霊夢と魔理沙の二人は今では見なくなったいい人間だからね。その気持ちも分かるよ」
「でも霊夢は捕まらないし、魔理沙は魔法の森から出てこないしで合えてないんだよ、これが」
「霊夢が捕まらない?珍しいことがあるんだね」
「多分だけど妖怪の賢者が絡んでいるんじゃないかなと思ってる」
「紫かい?なんで彼女がまた?」
「博麗の巫女が倒れるわけにはいかないと思ってるんだろうね、あの支配者気取りの妖怪は」
「ならしょうがないのかねえ」
「幻想郷が壊れると困るのは分かるけど、それでも私は対等な存在と戦いたいんだよ」
「鬼と対等の存在なんて、花妖怪とか吸血鬼とかあそこら辺ぐらいじゃないのか?」
「やめてくれ。鬼が本気を出すと冗談抜きで地形が変わるから」
二人の会話に割って入ったのは炒飯をお盆に乗せた従業員であった。
「はい、炒飯二人前と赤ワインだ」
「お、やっと来たね。待ちくたびれていたよ」
「ん?米料理なのに蓮華で食うのかい?」
「炒飯は箸で食べにくい料理だから、蓮華とかスプーンとかの方がオススメだな」
「ま、おいしけりゃ何でもいいや」
そう言って二人は料理に手を付ける。
料理を食べながらも二人は従業員に話しかける。
「そういや、鷲田って私たちと戦う気ない?」
「お、いい提案だな。聞くところによると刀の扱いにたけてるらしいしな」
「やめてくれ。俺はまだミンチになりたくはないんだ」
「ははは、さすがにそこまではしないよ。多分、おそらく、きっと」
「おい、その自信のなさは何だ」
「つい、力が入っちゃう可能性は否定できないな」
「否定しろよ」
「まあ、極力そんなことが起きないように気を付けるから、一戦どうだい?」
「だから、俺は死にたくねえんだよ!!」
従業員の叫びは喧騒に吸い込まれた。