「鷲田ぁ!今日という今日は成敗してやる!」
扉を開けてそう叫んだのは物部布都。
物騒な彼女の発言に臆することなく従業員は対応する。
「いらっしゃいませ。カウンター席なら空いてるぞ」
「それはありがたい。なら駆けつけに一杯発泡酒を頼む」
「あいよ。ビール一杯入りましたー」
その声に反応した店主がキンキンに冷えたビールを持ってくる。
それを布都は豪快に一気飲みした。
そしてグラスをカウンターに叩きつけて一言。
「うん、うまい!って違う!」
「あれ?ビールの注文だったよな?間違ったか?」
「いや、確かに注文したのはビールだけど、そうじゃなくて!」
「ああ、おつまみを忘れてましたね。何がいいですか?」
「なら小松菜を、でもなくて!鷲田を成敗しに来たんだよ、我は!」
「そうか。今日はいい小松菜が入ったんだけどな。いらなかったか?」
「それは食べたいけど、それは後だ!鷲田、表に出てこい!」
「あ?俺は料理を作らなきゃいけないから後で頼むな」
「なら今日の営業が終わったらすぐにこいよ!」
「いや、できたら明日の朝一がいいんだけど」
「そうか、それならそれまで待ってやろう!我は寛容だからな!」
チョロイ奴だな、と内心思いながらそれをおくびにも出さず従業員は注文を取る。
「なら今日は何を注文するんだ?さっき言った小松菜料理にするか?」
「そうだな。それと後は軽い丼ものを頼むぞ」
「軽い丼ものだぁ?また無茶ぶりをするな…」
そう言って従業員はうんうんと唸りだす。
彼が丼ものと聞いて思い浮かべるのは牛丼やかつ丼などどれもこれも決して軽いとは言えないものばかり。
布都個人に対しては色々と思うことがある従業員ではあるが、ここではあくまでも一人の客。
客の注文に答えられないのは従業員のプライドに大きくかかわることであるため、何とか答えを出そうとしていた。
そんな様子の従業員に布都はいぶかしげに話しかける。
「どうした鷲田?まだ料理を作らないのか?」
布都自身は自分の注文の難しさに気付いてないだろう。
そのことを痛いほど理解している従業員は悪態をつくこともできず、頭を抱えた。
「軽い丼ものですか。あ、お茶漬けとかどうでしょう?」
頭を抱えた従業員のつぶやきが届いたのか助け舟を出したのは店主であった。
「お茶漬けって丼ものなのか?」
「ご飯に具材を乗せているじゃないですか。その具材が少し汁っぽいだけですよ」
「そう言われたらそうだな。うん。ミスティア、助かったぞ」
「ふふ。こういう時はお互い様ですよ」
「鷲田?いちゃついてないで早く料理を作ってくれよ。おなかすいたぞ」
「了解。今から作るからちょっと待ってくれ」
そう言って従業員は料理を作り始める。
作るものが決まった彼の手際は慣れたものであり、作る手を止めなかった。
「はい、注文のお茶漬け」
「おお、ありがとうな」
布都はその出された料理を美味しそうに食べる。
そして食べ終えた後、会計を頼みながら彼女は言った。
「それじゃ、鷲田。明日の朝一で来るから首を洗って待ってろよ!」
「あぁ、覚えてたら行くわ」
「なら覚えておけよ!」
そして彼女は満足そうに去っていった。
翌朝。
昨日の騒ぎを聞いていた暇な人たちが夜雀亭の前に集まっていた。
その人たちがしていたのは単純明快。
「おい、俺はあの従業員に千円だ!」
「何を言ってるんだ。あの幸せな奴はここらで一発ガツンとくらわせてやらねえと!と言う訳で俺は仙人に二千円だ!」
「ダブルノックアウトに千五百円」
「はいはい。賭けをする人は紙に書いてこの箱に入れてくださいね」
「みすちー!俺はみすちーに一万円かけるぞ!」
「私という選択肢はありませんよ?」
これから行われる二人の決闘をダシにした賭けであった。
それを取りまとめるあたり店主も強かだろう。
夜雀亭で時々見る従業員と布都の二人の決闘。
始まりは人間に仇をなすと勘違いした布都が鷲田に吹っかけたのがきっかけである。
そこからおよそ実践行われた今までの戦績は意外や意外にほぼ互角と言ったところだった。
だからこそ見ている客の応援や賭けにも力が入るのであった。
ちなみに。
今回の二人の決着は開始後すぐに従業員が決めた背負い投げからの腕ひしぎ十字固めでけりがついたとか。