夜雀亭のカウンターで三人の少女が睨み合っていた。
それに巻き込まれて困り果てた顔をしているのはこの店の従業員。ほかの客に対応しながらもひやひやとした様子で彼女らを見ているのはこの店の店主。そして殆どの客は彼女らの成り行きを興味本位で見ていた。
彼女らの喧嘩の原因は非常に単純なものであった。
「月見が一番いいに決まっているでしょ!」
「いや、きつねが一番だろ?」
「二人とも何を言っているんじゃ。タヌキこそが至高じゃろ?」
何の話かというと、うどんの具のことである。彼女らはおいしいうどんの具は何かについて喧嘩していただけである。そんなくだらない(と本人は思っている)喧嘩に巻き込まれた従業員はたまったものではなく三人をなだめようと口を出す。
「お前ら落ち着けよ。どのトッピングもおいしい、それでいいだろ?」
「「「あなたはちょっと黙っててください!」」」
一蹴であった。歯牙にもかけないとはこのことか、と従業員は場違いなことを思った。勿論それだけで引き下がるわけにはいかず、なおも口を開く。
「マミゾウ、鈴仙、藍。お前らちょっと落ち着いてこれでも食ってろ」
そういいつつ三人の前に三つずつ小さい器を置く。それら九つの器にはうどんが入っていることは同じだが三つずつ異なる三種類の具が入っていた。つまり月見、きつね、タヌキの三つである。
「これは…?」
「お前らがいつまでも譲る気がなさそうだから、とりあえず三人分出してみた。ほらそれぞれで食ってみろよ」
三人の少女は言われて渋々と目の前の3種類のうどんを食べる。
勿論そのどれもが従業員の自信作であることに変わりはなく、食べる三人はただただ唸るばかり。そして従業員は自信満々に口を開く。
「ほら、どれもおいしいだろ?食べ物の好みで争うなんて不毛なことなんだよ」
なおも納得がいってなさそうな三人の様子に彼は言葉を続ける。
「はぁ。そんなに嫌ならこの店を出禁にしてもいいんだぞ?」
冗談じゃないと一斉に首を横に振る彼女らに従業員は少し苦笑いを浮かべる。
「唯のジョークだ。本気にしなくてもいいだろうに」
またもや同時にホッとする三人。そんな反応に従業員は気を良くする。
「あぁ、でもまた争うようなことがあったら今度こそ出禁を考えるからな」
そう言い残して従業員はたまってきた注文の処理をするために厨房に向かった。
残された三人は和気あいあいと食べていたとか。
その日の夜中。
客のほとんどが帰り、残った客も晩酌がてら少々つまむ程度な時間帯。
カウンターには今日喧嘩を繰り広げていた三人の少女のうちの一人、二ツ岩マミゾウだけが座っていた。
彼女は客が少なくなり、少々余裕が見えた従業員を改めてつかまえた。
「今日はすまなかったの」
「…!?」
「露骨に驚かれるとかちょっと傷つくぞ。なんじゃい、謝ったらいかんのかい」
「悪い。まさか素直に謝るとは思わなかったからな」
「それはそれで傷つくぞ…まさかあいつらと同類と思ってたのか?」
「え?お前らって同じ妖獣だろ?」
「確かにそうじゃが、あいつらとは年季が違うのじゃよ」
「年季っていったら藍のほうが…いや何でもない。何でもないからその怒りを鎮めてください」
「ふふん。分かればいいのじゃよ」
「それはさておき、実際三種類のうどんは美味しかったか?」
「さておかれるのかい。そうじゃな…どのうどんもおいしかったぞ。タヌキが一番であることに変わりわないがな」
「それは上々。今度うどんを注文するときはタヌキ以外にも注文してくれよ」
「覚えてたら注文するぞ」
そういって彼女は不敵に笑った。
作者は肉うどん派