雪も解け、冬の終わりが近くなってきたころ。夜雀亭に一組の男女が訪れた。
女性の方は慣れたようにカウンターに座り、男性に隣に座るよう勧める。男性はこの店に来るのは初めてなのか興味深そうに周囲を見渡し、その後に誘導された席に座る。
彼が座るのを待ってから女性は丁度調理器具を洗ってた店主に声をかける。
「ミスティアさん、今日のおすすめって何ですか?」
「今日のおすすめは栗の炊き込みご飯です。秋姉妹が持ってきたとっておきのものが入りましたよ」
「ならそれを二人前お願いします」
「はいはーい。炊き込み二人前入りまーす」
店主のその呼びかけに厨房から了解の声が帰ってきて、それを聞いてから店主は洗い物に戻る。
注文を終えた少女――紅魔館のメイド、十六夜咲夜――と彼女と一緒に来た少年は今日のことを振り返る話に入った。
「それでこの世界、幻想郷はどうですか?」
「ここまで人と妖怪がそばにいるというのは少なくとも自分らの世界では考えられないこと。それを実現させているここはいろんな意味で楽しみなところがありますね」
「あら、元の世界に帰る気にはならなかったのですか?」
「多分ですが、元の世界よりも幻想郷のほうが自分に合っているんでしょう。今日でそれを感じましたし、ここだと居場所がありますし」
「何があったのか気になるところですが、聞かなかったことにしましょう」
そのあとも二人は今日あったらしい人一人一人についてあの人はああだ、この人はこうだ、と話していく。それに夢中になっていると店主がお椀を二つ持ってきた。
「はい、栗の炊き込みご飯が二つですね」
コト、と置かれたその椀から見えるのは白と黄色の二つの色。恐らく新米からできたであろうご飯とおいしそうに色づいた栗がいいにおいをただよせている。多分秋姉妹が栗と一緒に新米も持ってきたんだろうなと推測した咲夜はその料理を口に運ぶ。口に入れ
るとそこからあふれるのは米と栗の二種類の甘味。同じ甘味という言葉を使っていても全く違う種類の二つの味は決して喧嘩することなく上手にかみ合っている。そしてそれを一段と引き出させてくれるのはほんのり感じる塩気。
思わずそれを食べるのに夢中になっていた二人だったが、思い出したように箸を止め、店主に話しかける。
「そういえばミスティアさん、忘れる前に言ってくことがありまして」
「どうしたんですか?」
「この度紅魔館に新しいメンバーが追加されたのでその報告を」
「は、はぁ。態々こんな小さいお店にありがとうございます」
「いえいえ。これからもお世話になると思いますから。今のうちにしておこうという話です」
「それなら進さんも呼んだ方がいいでしょうか?」
「それでお店の方が大丈夫というならそちらの方がいいですけど、どうですか?」
ちらりと厨房の方を見る店主。そうした彼女に目に映るのは料理を作っている最中の従業員の姿。店主が手伝う必要があるほど忙しそうにはしていないが、従業員が手を放せるほど暇でもない様子である。
「…多分厳しいですね」
「なら彼には後で話してください。また後日来ますし」
そうして咲夜は隣に座っている彼に自己紹介をするよう促す。彼は今日一日ずっと各所で自己紹介したのが分かるぐらい慣れた口調で自己紹介を行う。
「初めまして。この度紅魔館の執事となりました阿部青夜と言います」
「阿部…?初めて聞く苗字ですけど、外来人なので?」
「そうです。この冬に紅魔館に来ました」
「紅魔館?あそこって結界の綻びとは無縁の場所のはずじゃ?」
その疑問に答えたのは青夜と名乗った少年ではなく、咲夜であった。
「恐らく妹様の力が原因でしょう。彼女の力の余波が結界に歪みや綻びの類を生んだとパチュリー様は推測しました」
「『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』でしたっけ?」
「そうですね。他の綻びとかは既に巫女が処理をしたらしいのでもう紅魔館内に外来人が落ちてくることはないでしょう」
「成程。それで青夜さんが新たに執事として加わったのですか?」
「そんなところです…っと話がそれましたね。彼が新たに加わった青夜です。で青夜、この夜雀が居酒屋の店主のミスティア・ローレライよ」
「初めまして。『居酒屋 夜雀亭』の店主、ミスティア・ローレライよ。この店にはあと一人一緒に働いてる人がいるけど、また後日紹介しますね」
「ミスティアさんですか。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしますね」
「さて自己紹介も済みましたし、冷める前に料理を食べてしまいましょうか」
「そうですね。冷めてしまってはどんな料理もおいしくなくなってしまいますから。どうぞ味わってください」
店主の言葉を聞いた二人の意識は料理に戻る。そんな二人を店主は微笑ましそうに見ていた。
その日最後の客が帰った後。店主と従業員が片づけをしているときの会話。
「そういや、今日咲夜と一緒に来たやつって誰?」
「新しい紅魔館の執事だそうですよ。なにも外来人だとか」
「外来人?そりゃあけったいなことで。でも何故紅魔館にいるんだ?」
「彼にも何かあるんでしょう」
「まぁいいか。俺らが気にするだけ損ってやつかもな」
「そうですね」
「でも一度はその執事と会話したいなぁ。久々の外来人だし」
「そのうち来るらしいのでその時はいいですよ」
「お、サンキュ」
まだ見ぬ邂逅に胸を躍らせる従業員であった。
今回出てきたオリキャラはこれから先もちょくちょく顔を出すと思います
それではこの辺で。