「こんにちはー。飲みに来たよ」
その日、暖簾をくぐったのは堀川雷鼓。
ドラムの付喪神である彼女はいつもとは違い、楽器を持たずに入店した。
そんな彼女に店主が接する。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「3人。カウンター希望だけどいい?」
「問題ないですよ。なら、こちらにどうぞ」
そうやって案内された席に座ったのは雷鼓とほか二人。
ほか二人も雷鼓と同様の楽器の付喪神である。
琵琶の花をつけたほうが琵琶の付喪神で、名を九十九弁々。
カチューシャをつけたほうが琴の付喪神で、名を九十九八橋。
彼女ら三人は輝針城が誕生した異変の時に打ち出の小槌の魔力を受けて誕生した付喪神たちである。
雷鼓はほかの二人が座ったことを確認するとちょうど目の前でグラスを洗っていた従業員に注文した。
「んじゃ、生を三つお願い」
「どこでその単語を…あぁ、お前は外の魔力を得ているんだったな」
この夜雀亭ではビールも提供されているが、この幻想郷ではビールを注文するときはただ単に『ビール』と注文されることが多い。
ビールのことを『生ビール』と注文するのは時たましかやってこない外来人くらいである。
なのになぜ雷鼓があんな注文をしたのか。
それは単純に彼女が外の魔力を得ているからである。
外の魔力を得ているということはつまり、外の世界の影響を受けることであるからだ。
もちろんこれは雷鼓だけが得ているものなので、ほかの客はもちろん、隣に座っている二人の付喪神も知らないことである。
「雷鼓さん、生って何ですか?」
「外で一般的なお酒の一種の呼び方の一つよ」
「へー」
「ほい、ビール三つ。料理は注文するのか?」
「なんか適当に出して。今日のオススメは何?」
「今日は餃子かな」
「餃子かー。ならそれ三人前頂戴」
「了解」
従業員が料理を作りに去っていくのを見送った三人は目の前のグラスを掲げる。
「これが生?」
「正確には生ビールだよ」
「きれいな黄金色した飲み物ですね。泡立っていますけど」
「それがいいんだよ。じゃ、乾杯」
グラスを鳴らした三人はビールを飲む。
そしてほぼ同時にグラスを机に置いた。
「これが外のお酒?」
「そうそう。これがビールっていうお酒」
「日本酒のほうが好みかな…」
「私は好きですよ」
「まぁ外でも好きな人と嫌いな人で分かれるし、いいんじゃないかな」
わいわい、がやがやと三人はお喋りしながらビールを飲む。
途中からはそれに料理も付き、より彼女たちのペースは上がっていった。
それからしばらくして。
彼女たちが飲み食いするペースは落ちていき、彼女たちの宴も終わりを迎えてきた。
「ふい~。まんぞくした~」
「今日はありがとうございます、雷鼓さん」
「いいって。たまにはこういうのもいいからね。というわけでお会計お願い」
「了解しました」
そうして店主が提示した金額を支払った三人は帰路についた。
その数分後。
再び夜雀亭の扉があき、入ってきたのは先ほど帰ったはずの雷鼓だった。
「店主さん、ウイスキーってある?」
「ウイスキーですか?ちょっと確認してみますね。鷲田さん、ウイスキーって仕入れてますか?」
「ウイスキー?あぁ、あるぞ。ちょっとまってくれ」
従業員が持ってきたボトルを見て満足そうに雷鼓は頷く。
「うん。それとこの店ってボトルキープってできる?」
「ごめんなさい、
「そっか。それならしかたないね。じゃあボトルキープはあきらめるとしてグラスと氷をお願い」
「了解です」
そうして用意された物を使って一人お酒を楽しみ始める雷鼓。
彼女が一人でボトルの半分を開けようとしていたころ、その隣に店主が座った。
「店主さん、仕事は?」
「もうほぼ終わりですよ。人もほとんどいませんし」
「そう。隣に座ったということは一緒に飲む?」
「それもいいですけどね。ちょっと話がしたくて」
「ん?何のこと?」
「雷鼓さんって私たちが趣味でやっていることは知っている?」
「あぁ、バンドね。それがどうかしたの?」
「それで私たちと一緒に音楽してみない?」
「…一つだけいい?」
「何ですか?」
「九十九姉妹…弁々と八橋も一緒に入れてくれる?」
「それならいいですよ」
「じゃあ、あの二人には私から伝えておくわ」
「ありがとうございます。なら話も終わったところで」
「一緒に飲みましょう!乾杯!」
本日二回目のグラスがぶつかり合う音が響いた。
個人的に輝針城で一番お気に入りのキャラ、雷鼓さんの登場でした。