居酒屋 夜雀亭   作:アンフェンス

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その60 人狼と人魚と首と読書

 

夏の日。

紅魔館のそばの霧の湖のほとりにて従業員はある作業をしていた。

 

「…ッセイ!」

 

従業員の掛け声とともに太刀が振り下ろされる。

そして従業員の目の前にあった竹がきれいに縦に真っ二つになった。

半円筒状となったそれを従業員はそばにいた少女たちに渡した。

 

「これの節を取り除くのをお願いできるか」

「もちろん。そのために来たようなものだし」

 

彼女らは普段『草の根ネットワーク』として活動している比較的おとなしめの妖怪たちだ。

人里に住むろくろ首の赤蛮奇、この霧の湖に住む人魚のわかさぎ姫、そして迷いの竹林に住む今泉影狼。

彼女らは現在従業員の手伝いをしていた。

影狼が持ってきた竹を従業員が真っ二つにし、その節を赤蛮奇とわかさぎ姫の二人で取り除く。

そういった作業を続けていると、魔法の森のほうから一人の少女が飛んできた。

 

「おーい、みんな何してるー?」

 

鳥の羽をもった彼女は名無しの本読み妖怪こと朱鷺子。

彼女の疑問に答えたのは竹の先端部分であるものを作っていたわかさぎ姫だった。

 

「鷲田の手伝い。竹の加工をしているの」

「へえ。こうやって加工しているということはそうめん流しかな?」

「そうそう。今夜夜雀亭主催のそうめん流し大会があるから、その準備中。朱鷺子も手伝う?」

「暇だし、そうしようかな」

 

手伝うこと決めた朱鷺子を含めた五人が作業をしていると今度は竹林のほうから二人組の少女たちがやってきた。

彼女らの手には大きなざるとそれにあふれんばかりに詰められたそうめんがあった。

 

「進さん、そうめん持ってきましたよ」

「父さん、私も持ってきたー」

「ミスティアにシルビア。お疲れさま」

 

そうめんを持ってきたのは店主とその娘。

彼女らはつい先ほどまで店でそうめんを作っていたのだ。

 

「このそうめんはいつもの場所にもっていけばいいんですか?」

「あぁ。そこに料理とかお酒とかを置いておく場所があるからそこにおいてくれ」

「分かりました。ほら、シルビアも行くわよ」

「はーい」

 

二人が料理等を置いているところに向かうのを見送った従業員は手伝っている四人に声をかける。

 

「よし、ミスティアたちも来たし、休憩にするぞ」

「「「「はーい」」」」

 

 

休憩に入った従業員達が木陰で休んでいると店主がやってきた。

 

「みなさん、お疲れ様です。差し入れのスイカを食べてください」

 

店主が持ってきたのは切り分けられたスイカ。

それらを従業員達に配っているとシルビアが従業員に話しかけた。

 

「今回のそうめんね、私も手伝ったの」

「ほう。どんなことをしたんだ?」

「そうめんをゆでるのを見てた!」

「…確かにそれは重要なことだな。えらいえらい」

 

そうやって従業員がシルビアの頭をなでると、得意げに彼女は胸を張る。

そんな二人の様子を見ていた四人はひそひそ声で話し出した。

 

「娘に接する鷲田の姿って斬新」

「普段絶対に見せない顔よね」

「あの鷲田も子煩悩となるの」

「シルビアちゃんもかわいいからね、仕方ないね」

「シルビアちゃんはみんなのアイドルだからね」

「ほんと彼女はこの幻想郷に舞い降りた天使だよ」

 

四人が話していることに気付いた従業員は慌てて取り繕うように話す。

 

「お前ら何の話をしているんだ?」

「鷲田も父親になったんだな、っていう話」

「シルビアちゃんは天使だという話」

「ゴホン…休憩を終えたら作業再開するぞ。シルビアはミスティアの手伝いを頼むな」

「わかった!」

 

 

 

その日の夜。

霧の湖のほとりでは人妖問わず多くの人が集合していた。

水着を着たその人たちは竹でできた容器を片手にその時を今か今かと待っていた。

そうして店主が開催の声を上げる。

 

「それじゃ、今からそうめん流し大会を始めます」

 

年一回の夏の特別な宴会が始まった。

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