それでも大丈夫な方のみどうぞお楽しみください。
暦の上ではもう秋なのにまだまだ暑いとある昼下がり。
夜雀亭の厨房裏にある小川ではスイカを食べる少女たちの姿があった。
「暑いですね、サグメさん。地底が恋しく思えてきます」
そういいながら赤い果肉を頬張るのは地底の住人、古明地さとり。
その隣では片翼の少女が無言で小川に素足を浸らせてた。
サグメと呼ばれた彼女が何も話さないことを全く気に介さず、さとりは話をつづける。
「地底が恋しいなら戻ればいいじゃない…確かにそうですけど、なんか一度地上にきたら戻るのも億劫になってしまいまして。こうやって涼んでいるところです」
「ところでサグメさん。鷲田さんに聞いたんですが、月の住人らしいですね。月もやっぱり暑いのですか?」
「『えあこん』…?なにがそれかはわかりませんが、それがあるから快適ですか。うらやましいですね」
「普段快適なところにいるからここの暑さはきつい、私と同じですね」
「でも地底と違って冬はあったかいのが『えあこん』の素晴らしいところだ。本当にうらやましい限りです」
そんな話をしているとサグメがさとりに手を差し出してきた。
「どうしました、サグメさん?…あぁ、塩ですね。はいこちらに」
「スイカに塩をかけるとおいしくなりますからね」
「なんでおいしくなるのかは私にもよくわかりませんが、おいしいからいいじゃないですか」
「楽観的って初めていわれました。もっとも人とめったに合わないからかもしれないんですが」
「引きこもりならよく言われます。鷲田さんに」
しばらくするとスイカを食べ終えたのかサグメがスイカの皮をさとりに差し出してきた。
「おかわりですか。なら鷲田さんを呼んできますね。すいませーん」
さとりが厨房に声をかけると、中からスイカをもった従業員がやってきた。
「ほい、スイカのおかわりだ。サグメも楽しんでいるか」
「楽しんでいるそうですよ」
「さとりも楽しんでいるか?」
「ええ。私の能力を忌避するどころか歓迎する人との会話なんて初めてですから」
「こういった人もいるからたまにはお前も引きこもらずに外に出てみろって」
その言葉にさとりはサグメのほうを向いて言った。
「ほらまたいわれました引きこもりって」
そうしてサグメとさとりが笑いあった。
それにあっけにとられた従業員だが、すぐに正気に戻って二人に話しかける。
「お前ら、いったいどんな話をしてたんだ?」
「よく私が引きこもりって言われる話を」
「事実を事実として言って何が悪い?」
「サグメさーん、鷲田さんがいじめまーす」
さとりが笑顔でサグメに泣きつくと、サグメが彼女の頭をなでる。
そんな二人の様子を見た従業員は苦笑気味な表情を浮かべる。
「お前らいつの間にそんなに仲が良くなったんだ?」
「ついさっきです」
「さいで。じゃ、俺は厨房に戻るからスイカとか塩とか足りなくなったり、帰りたくなったりしたら声かけてくれよ」
従業員が厨房に戻るのを見届けた二人は互いに笑いあう。
普段の二人を知っている人たちからは信じられないような笑い声が残暑が厳しい小川に鳴り響いた。
スイカがおいしい季節。
萃香ではなくて西瓜ですよ。