新月の夜であった。
店の扉を開けて中に入ったのは金色の髪に黒い服を着た一人の女性。彼女は店に入ると何も言わずにカウンター席に座った。
「みすちー、熱燗一つ」
女性の注文に対して怪訝な表情をした店主。見知らぬ人が自分の愛称をつかったのだ。そうなるのも無理はないだろう。
「了解しました」
だがここは飲食店でしかも自分は店を動かす立場にある者。客からの注文を一先ずは受けた店主は厨房に引っこんでからそこにいた従業員に話を振る。
「進さん、あのカウンターに座っている金髪の女性ってしってますか?」
「あの人?…あれルーミアだな」
「ルーミア?彼女ってあんな大人びてましたっけ?」
従業員の回答に店主は驚いたように聞き返す。彼女が知っているルーミアの姿というのは決して今カウンターに座っているような大人の女性の姿ではなく、もっと子供(あるいは幼女)の姿である。しかし従業員の言葉からかなりの確信を感じた店主はどういうことか従業員に聞き返す。
「ルーミアは元々強力な妖怪だったんだけど、そうであったがゆえに封印を余儀なくされてたらしいんだ。けどその封印が時々解けてしまうことがあって、その時はあの姿で行動してるとか」
全部彼女の受け売りだけどな、と従業員はこぼす。その説明に一応の納得を示した店主であった。そんな店主は注文の品をルーミアの所に持っていく。
「はい、ルーミア。熱燗です」
「おお、ありがとうな」
「摘みとかはいるかしら?」
「そうだな…それなら枝豆を一人分頼もうか」
「了解です」
枝豆をだした店主はルーミアの様子を見る。彼女がとてもおいしそうに、そして大事そうにお酒を味わっているので店主はつい話しかけてしまった。
「随分とおいしそうにお酒を味わうんですね」
「この一時的に封印が解けられた状態でないとお酒を味わうことができないからな。貴重な時間なんだよ」
「そういえばなんで封印をされてるんですか?されなければいつでも味わえますよ」
「封印されてないと、今日は新月だからいいけど、満月の時にこの幻想郷中を闇で塗りつぶすほど力があふれるんだよ。それで昔妖怪の賢者に叩かれたことがあって、それ以来封印されているというわけ」
「力を持つというのも大変なんですね」
「『制御できない強大な力ほど恐ろしいものはないのよ』ってあの時賢者にも言われたしな」
そうして談笑してると店の扉が乱暴に開かれた。
「ちょっとみすちーに進、ここにルーミアが来なかった?」
入り口から声をかけるのは少し変わった(と従業員は思っている)巫女服に身を包んだ、恐らくはこの幻想郷で一番有名な人間である博麗霊夢であった。
彼女はカウンターで熱燗を楽しんでいるルーミアを見つけるとその隣に座る。
「ルーミア、あんたどこに行ってたのよ?そろそろ封印が解けそうだから神社に一度来なさいって言ってたでしょ?」
「ここで酒を飲んでいた。私はあんたたちと違っていつでも酒を飲めると言う訳ではないからな」
「あぁ、もう!今日は新月だからいいけど、もし満月になっていたらどうする気よ!?全力で暴走状態のあんたをぼこぼこにするのってかなり骨が折れるんだからね!」
ある程度怒鳴り散らした後、霊夢はこう告げる。
「こうなったらあんた、私に今日のここの飲食分を奢りなさい!それで許すわ!」
その言葉を聞いたルーミアは霊夢に見えないように苦笑を漏らしながら店主に言う。
「と言う訳だ。すまないが、彼女にも何か出してやってくれないか?」
「はいはーい。熱燗一人前追加ですね」
今宵は新月。妖怪の殆どが力を無くす、そんな夜。