居酒屋を営んでいる二人の朝は早い。
前日使用した食材の整理や、腐りかけの食材の処理、その日の営業に向けての仕込みなどするべきことが大量にあるからだ。
そういったことをすべて終えて店の入り口に掛けた『準備中』の札を『営業中』にひっくり返して一日の営業が始まる。
咲いた桜の花が散り始めたころ。夜雀亭の入り口に『準備中』の札が掛かっているのにもかかわらず扉が叩かれた。
「お二人さん!わたしです!美鈴です!」
外で叫ばれる声と名前に憶えがあった従業員は店の扉を開ける。
そこにいたのは緑色の帽子に緑色の服、それに赤い髪をした少女、紅美鈴だった。彼女は手ぶらではなく大きめの袋を三つ抱えていた。
「美鈴か。こんな時間に来たということはアレか?」
「あ、鷲田さん。おはようございます!ええ、頼まれていたアレ、もってきましたよ!」
そういうと彼女は担いでいた袋を地面に下ろす。そして一つずつ袋を開ける。
「はい、お茶の葉っぱです。これが緑茶用、これがウーロン茶用、そしてこれが紅茶用になってます」
三つ袋の中身は美鈴が言う通り、三種類の異なるお茶の葉っぱであった。どこか自慢げに彼女は言葉を継げる。
「私が育てたのをパチュリー様が加工してくれたんです。どれも味は保証しますよ」
「これを収穫したのは何時だ?」
「昨年ですけど、咲夜さんが時を止めて保存したので品質も問題ありません!」
「それなら大丈夫だな。いつも助かるよ。お茶っ葉自体は人里にもあるけど、ウーロン茶とか紅茶とかまでは作ってないからな」
「私以外の人たちにもそれは言ってくださいよ」
「あいつらがここまで来たら言っとくぞ。それはさておき、美鈴は今日はこの後どうするんだ?紅魔館に戻るのか?」
「いえいえ。今日はもうお休みです」
「そうか。だったら今日はうちを手伝ってくれないか?前、美鈴が中華料理をふるまった時があるだろ?」
「ああ、そんなこともありましたね」
「あの時の奴が案外好評だったからまたやってほしいんだよ」
従業員が言う通り、美鈴は前に夜雀亭で中華料理を提供したことがある。そしてその時の料理が好評だったのか、それ以来時々客に「またあの姉ちゃんは料理を振るわないのか?」と言われることがあるのだ。だからこそ従業員はこのチャンスをのがしてはなる
まいと提案したのだ。
「あの時の奴楽しかったですし、いいですよ」
「ありがとな。それなら早速で悪いんだが、冷蔵庫の中を確認して何ができるか決めてくれ」
「了解でーす」
話を付けた二人は一緒に店の中に入る。
その日は何時もより盛況だったことは言うまでもない。
その日のある客と美鈴の会話。
「おや、紅魔館の姉ちゃんがいるなんて珍しいじゃねえか。嫁入りでもしたのか?」
「いやいや、そんなわけありませんよ~」
「にしては満更でもなさそうな顔だな」
「えへへ。ここだけの話ですけどもしもできたらいいななんて思ってたり」
「そんなこと言っちゃっていいのか?みすちーに言っちゃうぞ?」
「もう。内緒にお願いしますよ。注文は肉まんでしたよね?」
「冗談だって。ま、肉まんのとびっきりの奴を頼むわ」
この会話を聞いていた人は彼ら以外にいなかったのは果たしていいことか悪いことか。
緑茶と紅茶とウーロン茶の葉っぱは同じだとか。