迫り来る剣撃を流し、弩によって放たれる矢を払い、アルトリウスは身軽に立ちまわった。まさかこうまで反抗されるとは、帝国兵達も驚いて、その腕がしどろもどろに震える。アルトリウスは日光に剣をきらめかせて、一つ、二つ、思い切り帝国兵の腹を打ち付ける。刃を通してないとはいえ、鎧越しに伝わる大きな衝撃に帝国兵は立ち上がることかなわず、呻きながら伏してしまった。
「へっへん!さっすがアルトリウス!あいも変わらず惚れ惚れする腕だぜ。」
「そうか?」
「あたぼうよ、アルトリウスにかなう剣士はこの空の中一握りしかいやしないさ。」
「ははっ、そう言ってもらえると照れるな。」
呻く帝国兵達を見向きもせず、長身の女性兵が駆け寄ってくる。身のこなし与えられている鎧といい、それなりのものだとアルトリウスは辺を付けた。
「ルリアっ!大丈夫か!?」
「カタリナ!良かった……カタリナも無事だったんだ。」
少女と女性兵が寄り添い合うのを見て、姉妹だろうかとアルトリウスは思案していると、遠くから又別の走りよる音が聞こえる。
「君達がルリアを守ってくれたのか?」
「ん?ああ……。」
アルトリウスは生返事だけを返し、近づいてくる気配に気をやっていた。何やらビィやらルリアやらが興奮したように喋っていたが、とりあえず流すことにアルトリウスはした。
「カタリナ中尉ィ!!」
ワックスか何かで髪の毛を整えぴりりと髭を立てた中年兵が来た。
「ポンメルン大尉……。申し訳ありません、ただちにルリアの保護を……。」
なるほど、中尉と大尉か、小隊程度を纏める者達か、だがそれにしても、何故こうもルリアに、このお嬢さんに執着する、アルトリウスは首をひねったが、答えが出るはずもない。
「全く白々しいですねぇ!ルリアを逃したのは貴方でしょう、わかっているのですよ!全く、偉大なるエルステ帝国に刃向かおうとはいい度胸です!黒騎士様が知ったらどうなるか……わかっているのですか?星晶獣を操るためにルリアは鍵となるもの……重罪ですよぉ?」
ねちりねちりといじめるようにポンメルンは言葉をつなげていく。カタリナの顔が苦虫をかみしめているような苦い顔になっている。
「ポンメルン大尉殿、本当に星晶獣を操ることが正しいのでしょうか、星の民の遺産、星晶にはまだ解明されていないことが多々あるはず、危険では……。」
「話題をすり替えないで欲しいですねぇ!まったく、くだらないことをダラダラダラダラ、もういいです、手っ取り早く片付けてしまいましょう……これほど辺境の地なのです、証拠など、いくら消しても咎められることはありませんからねぇ!!」
唐突にポンメルンを中心に禍々しい黒色の光が溢れ出す。閃光がほとばしり、落ち着いたそこには、数多に首の別れた龍がいた。
「ヒドラっ……何故……。」
「お、おい、なんでこんな化け物がいるんだよ!?あのおっさんがやったのか!?」
「こんな、こんなことのために星晶の力を、ルリアの力を使おうと帝国はしていたのか……!!」
カタリナは怒りを露わにして、その手にもつスラリと伸びる剣が震える。
「素晴らしい、素晴らしい!この力、なんて素敵なんでしょうか!さぁ、死になさい、圧倒的力の前にねぇ!」
巨体が動く、素早く、そして巨大な力が振るわれる。
「……っ!危ない!」
その姿に未だ硬直していたルリアとビィをアルトリウスは無理矢理その場から離脱させる。しかしアルトリウスは無防備となってしまった。
「アルトリウス!!」
ビィの声が聞こえる。それを背にアルトリウスは、ふむ、ドジを踏んでしまったな、どうしようか、いや、どうしようもないか、そんなことをのんきに考えている。襲いかかる衝撃、体の一部が抉れ、中身が混ざる。骨は折れ、思考は切れかかっているかのように明滅している。
ーーあゝ、まさかここまでやられるとは、身体が重い、目が、かすれる。だが、まだ立てる、立たねば、守らなければ、小さな命がまだ燃えている。親父殿に拾われた命、せめて、よく使わねば……。
剣を杖に、無理矢理身体を起こす。剣を伝って血が土を汚し、喉から出る息はか細くひゅーと音を立てている。
「お、おい、アルトリウス、立つなよ!死んじまうぞ!」
「はぁ、……はぁ。ビィ、向こうへ行ってろ、お嬢さん、中尉殿、逃げなさい、少しだけなら時間を稼いでやれる。」
「で、でもっ。」
詰め寄るルリアを、一度柄から手を離して押しやると、ヒドラとその隣にいるポンメルンを見る。ニタニタに笑って勝利を確信してやまない顔、確かに、状況は不利、けれども、引き分け程度にはしてやる。
「満身創痍のお前ごときが何が出来るっていうんですかねぇ?後ろの人達も頼りな言ったらありゃしない。抵抗せずにさっさと死になさいよぉ!」
伸びるヒドラの首、むき出しなるギザギザの歯、アルトリウスは地面に突き刺したままの剣を引き抜いて、構えをとる。両者が、かち合う瞬間、凛とした、涼やかの声が響く。
「一人で、戦わないでください、傷つかないでください、私だって、私だって一緒にっ。」
眩く、発せられる光。あまりの眩しさにヒドラは怯み、その首をひっこめる。
「星晶が、反応している、お嬢さん、君はいったい……。」
暖かなアルトリウスの傷口から入り、じんわりと身体を癒していく。
「っ!まさか、君は、やめろ、そんなことはやってはいけない!」
「……大丈夫です、今、助けますから。」
ルリアは少し申し訳なさそうにして、笑った。
続きです
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