光が収まった先、自らの血に染まっていた筈の世界が明け、新緑の中にざすヒドラが鋭い視線で持ってこちらを睨んでいる。身体にめぐる己の血潮の他に、芽吹く小さな花、あるはずのない異物、なるほど、やはり予想した通り、アルトリウスは心中複雑な気持ちで思う、だが、こうなってしまった以上、最早後に引くことも出来ない。逃げるタイミングも、結局は自分が抑えた所でそう長い時間稼げたわけでもない。仕方なく受け入れよう、これもまた、運命のようなものだ、アルトリウスは自分なりに折り合いをつける。そして口を開いた。
「お嬢さん、この際何も言わん、勝算はあるかっ。」
「……!任せて下さい、だけど、少しだけ時間がかかります!。」
「了解仕った、中尉殿、お嬢さんを後方に、ヒドラは私が抑えるが、それ以外の帝国兵は抑えられん、ビィ、中尉殿に付いて索敵にあたれ、いいな!」
「な、なんでさっきまでボロボロだった貴様がピンピンしているんですかぁ!?……いくら回復したって無駄ですよぉ、何度でも何度でもヒドラに寄って踏みにじられるのですぅ!行け!ヒドラ!!」
ヒドラの巨体が動く、カタリナは直様ルリアを抱いて後ろに下がった。アルトリウスは自らの身体の調子を即座に確認する。果たして、上々、重症であるならまだしも、健在であれば抑えこむことは出来る。アルトリウスは剣を握り締め、ヒドラの挙動々々を細微に渡って観察する。一瞬、ビクリとヒドラの身体が硬直する。
ーー……来るっ!
伸びるヒドラの首、アルトリウスは自らの身体を地面に摺り合わせながら、自らを飲み砕かんとする一つの首を避け、刃をきらめかせる。
ーーむぅ、首を落とすには長さも重さも足りん、首周りを撫ぜるだけかっ。
ヒドラの黒い首から、黒き血潮が舞う。アルトリウスの剣の先には粘着質な高温の血が付着している。軽く剣を振り血を払う。みるみるうちにヒドラの全ての顔が牙を向き、ただ一人アルトリウスを睨んでいる。迫り来る数多の本流、アルトリウスは歯をギリリと食い締めながら、襲いかかるヒドラの猛攻をいなしていく。剣で体で、隙あらば刻み、柄頭で思い切りヒドラの脳を叩き揺さぶる。しかしどうにも攻め足りない。まさかヒドラと対等に立ち回れるとはとポンメルンは驚きを隠し得ない表情でアルトリウスを見るが、視線を後方に控える帝国兵たちに送る。帝国兵達がカタリナ達の所に踊り出る。
「十時の方向、三時の方向、敵兵、来るぞ!」
ビィが声高に叫んだ。
「伏せろ!九時の方向弓兵、撃ってくるぞ!」
飛んでくる矢をカタリナは剣で払い、迫る帝国兵達をビィと協力して打ち払っていく。だが確実にじりじりと追い詰められていた。
「……アルトリウスさん!」
「っ!出来たか!」
「はいっ!」
アルトリウスは戦線離脱し、ルリア達のもとに寄る。
「アルトリウスさんの中にある、力、そこに意識を深く沈めてください。」
「沈める?」
「大丈夫です、私がそこまで導きます。目を閉じて、自分の中に入り込むイメージです!」
「ふむ……中尉殿、頼む。」
カタリナは頷き、再度剣を構える。アルトリウスは目を瞑り、意識を沈めようとする。頭がぼんやりとし、深い穴に落ちていくように、奥へ、奥へ、沈んでいく。その気に、一欠片の光を、見つけた。ぱっとアルトリウスは目を見開く。瞳の奥に、燃える光を宿し、声高らかに謳う。
「鼓動せよ、太古の龍よ、脈動せよ、封ぜられし龍よ、今、高く天に舞い、愚かにも踊る哀れな蛇に、安らかな破壊を、飛翔せよ、星晶獣、プロトバハムート!!」
地を割り、黒き光が空を舞う。身体を拘束具に固められた夜を纏う古龍は、空高き所で、顔を覆う鎖を解き放つ。全てを砕く、破壊の息吹が、咆哮と共に放たれ、ヒドラをつつみ、消した。役目を終えた龍は、光とともに空に消えた。
「な、なななななななな、なんですってぇ!?ヒ、ヒドラが一撃で……嘘です、嘘です嘘です嘘ですよぉ!?」
愕然とするポンメルン、それはルリア達を囲む帝国兵も変わらない。
「今だ、逃げるぞ!」
アルトリウスの声とともに、一同は道に立つ帝国兵を退けて走って逃げた。
「お、追いなさい、今直ぐ追うんですよぉ!」
ポンメルンが気づいたように号令をかける、だが、動揺している兵たちに直ぐには伝わらない、動き出すまでに少々の時間がかかった。
「……ふぅ、なんとか逃げ切ったか?」
疲れきったようにビィが漏らす。
「そ、そうだ!アルトリウス、怪我は、怪我は大丈夫なのか!?」
ビィは思い出したようにアルトリウスに詰め寄り、アルトリウスの周りを確認するように飛び回った。
「はは、大丈夫だビィ、問題ない。……そうだろ?お嬢さん。」
「……はい。」
ルリアが小さく頷いた。
「む、どういうことだ?」
カタリナが、怪訝そうにルリアとアルトリウスを交互に見る。ルリアはゆっくりと口を開いた。
「アルトリウスさんはヒドラの一撃で重症を負っていたの、それこそ命の輝きが失われるくらいに。だから……私の命とリンクさせたの。助けてくれたアルトリウスさんを、今度は私が助けるために……!」
「なっ、それでは!」
カタリナは驚きに目を見開いている。ビィも信じられないような表情をしていた。
「そう、これから私とアルトリウスさんは一心同体、ひとつの命を共有することになる。だから……ゴメンなさい、アルトリウスさん、不便な身体になっちゃいました……でも、あの時はこうするしか……。」
落ち込むルリアの額をアルトリウスは指で弾くと、困ったように笑った。
「別に私は困らない。困るのは君だ。全く、自分の命をもっと大切にしなくては行けないぞ?お嬢さん。」
「なっ!それを言うならアルトリウスさんだってそうじゃないですか!」
ぷんすかと怒るルリアはあまり恐ろしくはない。
「まぁ、二人がいいならオイラは別にいいんだけどよぉ、しかし分からねぇのがなんで星晶獣が召喚できたんだ?星の民にしか呼び出せねぇはずだぜ?」
ビィが疑問を投げかける。
「それなら、恐らくルリアの力だ。」
カタリナが答える。
「え?でも、呼び出したのは、アルトリウスじゃねぇのか?」
「私は自らの内にある声に応じただけだ。恐らく、声を私の中に宿したのは、お嬢さん、君だな?」
「はい、声が、したんです。私を呼べっていう声が。でも、私は切掛を作っただけなんだと思います。」
「ん~結局どういうことなんだ?ふたりともなんだか抽象的でオイラわかんねぇよ。」
「えと、私はあの場所で、星晶獣の声を聞きました。それに答えようと、私の方からも星晶獣の方へ意識を傾けました。そしたら星晶獣の気配がアルトリウスさんの中に移りました。だから。」
「私が意識の奥底にいた星晶獣の所まで行き、後はなすがままに呼び出したのか。」
「はい、そういうことになると思います。でも、呼び出せたのは多分、アルトリウスさんの意志が強かったからだと思います。」
「へぇー、オイラ前からアルトリウスの事はすげぇって思ったけど、もっともっとすげぇやつだったんだな!」
「さて、な。たまたま運が良かっただけだろう。ふむ、敵兵達がやってくるようだ、気配からして少数、増援の様子もなし、とりあえず黙らせたほうが得策のようだな。」
「ああ、そのようだ。改めて私も加勢させてもらおう。」
「良いのか?中尉殿、もう戻れなくなるぞ。」
「なに、ルリアを逃した身だ、もとより戻るつもりなどない。」
「そうか、なら、心置きなくやろうか。」
「了解した、背中は預けるぞ!」
二人の剣技が捕縛しようとやってくる帝国兵を伸すまでそう時間はかからなかった。
青龍を倒してポイント稼いでたら時間がかかってしまった……
でもフローレンベルグは手に入れてやったぜ!
まだランクが低いから戦力強化は必要不可欠……そしてすり減る時間……