深淵歩きの翔ける空   作:城縫威

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第一章 風の出会い
エピソード1


 ザンクティンゼルを飛び立ったアルトリウスらは、一時期は優雅な船旅を送っていた。それは飛び立って三十分ほどの間である。近隣の島へと向かう彼らは新たな旅の導きに身を任せるようにして、その胸に大きな期待を膨らませていた、といった出だしまでは綺麗だったものの、改めて考えて見ると、彼らの中で一人として操舵の経験のあるものはいなかった。風を捉え、自由に空をかけようとした船が黒煙をあげて翼の折れた旅鳥のように無様に高度を下げていくのは必然であった。けれども、故に最初の一歩は、豪快に進めることは出来たようだ。無理矢理に舵を切って、緑が柔らかく香る草原の大地に彼らは降り立った。

「……っ。はぁ、無事か?」

アルトリウスが投げ出された身体をゆっくりと起こし、頭に響く鈍痛に呻きながら辺を探る。各々、多少の負傷はあれど、余程のことはないようだ。

「しっかし、どうして落ちたんだ?」

ビィが痛む頭をさすりながら、言った。

「すまない。私のせいだ、こんなにも飛空艇の操縦が難しいとは思わなかった。」

答えたのは渋い顔をするカタリナだ。けれども着陸は出来たし、皆無事だし大丈夫だとカタリナを励ますルリアとビィを尻目に、アルトリウスは損傷した機体を確認しようと飛空艇の傍まで寄った。

ーー動力部の損傷に……ふむ、竜骨もか。もはや飛ぶことはかなわない、か。

少しは予想していたアルトリウスではあったが、現状、また空へ旅立つ時の足が潰れたことは、痛い、困ったように顎に手を当て、今後の身のふりをどうしようか、そんなこと考えることにした。

「おいおい、こりゃひでぇことになってんな。」

唐突にアルトリウスの横に現れた男が、アルトリウスを真似するように顎をなでて言う。

「ああ、肝となる部分が全ておじゃんになっている。もうこれで空を飛ぶことが叶わなくなった。」

アルトリウスの答えに、だろうなぁと呟くようにその男は頷いた。

「あの、すまない……君はいったい。」

いつのまにやら現れていた男の存在に、不時着の後で多少気が散漫していたとはいえ、気づけなかったカタリナは少し後悔と焦りを滲ませて聞いた。

「……あんたら騎空団なのか?つっても、人数見る限り駆け出しもいいところってな感じだが。」

名前を明かすことをせずに、男は切り出す。少なからずむっとしたカタリナをおいて、男の言葉に興奮したのはビィだった。

「騎空団か!いいなぁ、そうだぜ、オイラたちも騎空団作って旗揚げしようじゃねぇか!」

若々しさあふれるような情熱が滾るビィを見て、男は鼻で笑って言った。

「ふっ、やめとけよ、騎空挺をろくに飛ばせる奴がいねぇってのに騎空団だぁ?無理無理、せめて操舵士の一人でも仲間にいるってんならわかるけどな。ま、せいぜい頑張んな、騎空士殿ってか。」

男はくつくつと笑って、その場を後にした。

「んだよ、感じワリィな!」

気を悪くしたビィが唸る。

「だが確かに彼の言うとおりだ。今後、帝国から逃げるためには足が必要だ。しかし、いつまでも商船等に頼るというのも……。」

怒るビィをなだめながらカタリナがうつむく。眉間に少し力がこもり、かなり真剣に今後のことについて考えているらしい。

「ま、まずは街に行ってから考えましょうよ、ね!折角いい天気なんですから、ゆっくり歩きながら考えるでもいいじゃないですか!」

そういって明るい声でルリアがいう。それにカタリナとビィがそうだなとうなずいて、四人はゆっくりと待ちへと向けて歩を進めた。

彼らが歩き出してから、幾許かして、ずっと遠くの方に騎空挺が飛んで行くのと、大都市らしき建物の影が薄っすらと見えた。

「風によって流された方向を考えると、ここはポート・ブリーズ群島の主島になる、エインガナ島だろう。交易が盛んなところだから、欲しいものがあれば、なんなく揃えられるな。」

カタリナの言葉に燦爛と目を輝かせたルリアがカタリナに聞く。

「ねぇねぇカタリナ!、お空の旅って、何が必要なのかな?」

そうだな、とカタリナは一つ一つ応えていく。現状必要なものの最も優先的なのは騎空挺と操舵士であるのはもちろんだが、加えて空図が必要であることをカタリナは言った。飛空艇を仮に手に入れたとして、空図がなければ、空を分断している瘴流域を越えられない。

「それらに加えて、ここらはファータグランデ空域と呼ばれる帝国の勢力圏の中でもある。街の中で完全に気を緩められらいということだな。」

帝国を離反して一日と経たぬが、カタリナは改めて頭の中にある帝国勢力圏を思い浮かべ、心の中で苦笑する。敵はやはり、巨大だ。

「まあ今の所は、そういった大きいことは考えてもしかたがないだろう。とりあえず、小さい所から済ませていかないとな。」

アルトリウスは一つカタリナの肩を叩いてやると、カタリナとルリアの間をすり抜けるように追い抜いて、ずんずんと進む。それに一同はうなずいて、明るい顔で彼の後を追った。




ま、かるい息抜きにどうぞ
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