厄災の魔法師   作:無為の極

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九校戦編
第11話


「何で俺が?」

 

試験も終わると校内の感心事は夏休みが開催された直後の九校戦へと意識が向き始めていた。

各魔法科高校によるこの対抗戦はテレビの中継も入ると同時に、各方面のスカウトの人間の注目を大いに浴びる事から、ある意味では実技に関しての集大成とも取れる内容であると同時に、選ばれた選手は学校の名誉を背負うと同時に夏休みの課題の免除と言う大きなアドバンテージを受ける権利が発生する事から、各部や選手に近い部分の人間にとっての一大イベントでもあった。

 

 

「だって蒼君は討論会の際に、はんぞー君に宣戦布告したでしょ。折角だから君の実力を知らしめるには良い機会だと思ったんだけど」

 

「俺は関係ないぞ。それに知らしめた事をした所で俺には何のメリットも無い」

 

蒼は突如として生徒会に呼ばれていた。当時の件はあの場で謝罪した事により、わだかまりは多少あるものの特に気にする事はしていなかった。そもそも蒼からすれば一々あの程度の事で目くじらを立てるつもりは毛頭なく、ただ結果が出ていない事から態と大きく事を運んだだけに過ぎなかった。

 

 

「赤城君。あなたはあの場で正式に挑戦状を叩きつけた訳ですから、今回の件に関しての拒否権は存在しません。我々の思惑がどうであれ、それは発言した者の責務であると考えています」

 

あの一件から冷静に論理的に話を進めなければ簡単にひっくり返される事を学んだのか、生徒会側はあえて鈴音を前面に押し出し蒼と話をしていた。生徒会側の思惑の一番の点は、今年で3連覇がかかっている事は勿論だが、一番の要因は模擬戦での蒼の戦闘能力の高さがどれ程なのかを今一度確認したい思惑があった。

他の一科生が聞けば何だと思うかもしれないが、真由美や摩利の中では実力が有る者が選ばれるのであって、その対象が1年だからとか、二科であるからとか考えては居なかった。

3連覇と言う偉業を成し遂げた学校は今までに一度も無く、今年はその最後の年でもあるのあれば万全を期したいと考えた結果だった。

 

 

「その件に関してであれば、俺が言った台詞が何なのかも覚えているんだよな?服部が相手になるのであれば、あいつの魔法師生命の保証は一切し兼ねるがそれでも良いのか?」

 

この一言が模擬戦での結果を物語っていた。あの時に戦った人間は結果的には魔法師生命を絶たれたに等しく、その結果として退学を余儀なくされていた。その言葉を正しく理解すれば、生徒会側は人身御供として服部を差し出す事になる。

一人の人生をくだらないプライドで破綻させても構わないと思っているのだろうか。今の蒼はそんな程度にしか考えていなかった。

 

 

「我々としても服部副会長を失うのは惜しいと考えています。しかし、これについては本人からも応諾を得た上での提案となりますので、我々としても自己責任の名の下でやって頂く事での一筆を貰っています」

 

鈴音は事前に用意してあった用紙を蒼の前に差し出していた。服部の文字かは分からないが、署名と捺印がしてある。ここまで用意されているのであれば蒼としてもそれ以上言う事は無かった。

 

 

「どうやって書かせたんだか……で、模擬戦で良いのか?」

 

「その件に関してですが、今回は以前の様な模擬戦ではなく夏に行われる九高戦でのモノリスと同じルールで戦ってもらう事にします。何かあった際にもお互い致命傷だけは避けたいと考慮した結果ですが、如何でしょうか?」

 

この時点で鈴音は自分の心臓の鼓動が大きくなっている事に気が付いていた。あの言葉通りならば態々モノリスのルールにする必要はどこにも無く、模擬戦と同じルールであれば服部は間違い無く負ける事も予想されていた。

 

しかし、殺傷レベルが制限されたルールの中で蒼が乗ってくるかどうかは別の話。ここに気が付くかどうかが一つの賭けだったのか、作業をしているフリをしながらこちらを伺っているあずさに至っては既に手が動いていなかった。

 

 

「断る。俺にそんな制限された魔法は生憎と持ち合わせていない。そもそも模擬戦とモノリスでは内容に大きな隔たりが発生する以上、先だっての話の約定とは違う」

 

鈴音の賭けは敗北に終わっていた。ああまで一語一句を違える事が無い人間に対して言葉のやり取りだけで勝てる道理はどこにも無かった。

確かに服部から貰った際にはこちら側が有利になる様交渉するからと真由美から念を押した上で署名して貰っている以上、このままでは悲惨な末路しか見えなかった。

 

 

「だが、条件次第では考えても良いぞ…と、その前に確認だ」

 

思惑が恐らくは透けて見えたのか、蒼は笑みを浮かべ魂の契約を囁く悪魔の様にも見える。このままこの話を進めても良いのかと鈴音は躊躇していた。

 

 

「確認って何?条件にしても内容によるわよ」

 

「おい真由美!何を口走ってるのか分かってるのか?」

 

この部屋の沈黙を破ったのは真由美だった。この時点でどんな条件を出されるのかを確認しない事には先に進む事は無い。しかし相手は蒼である以上、最悪の場合はまともな条件が付く可能性は極めて低い。

悪魔との契約がどんな結果を及ぼす事になるのかを考えれば、摩利が止めるのは無理も無かった。

 

 

「今回の戦いに関しての確認だ。結果は校内に公表するのか、それとも得意の隠蔽するのか聞かせてくれ」

 

「はんぞー君が了承するなら公表するのは構わないわ。これはあくまでも個人を尊重すべき事でもありますから」

 

「なるほど……あとはレギュレーションに関してはどうするつもりだ?そんなCADなんて持ち合わせてないぞ」

 

蒼は魔法を行使する際にCADを殆ど使う事が無い為に、現在開発中の物を除けば格下とも言えるCADは持ち合わせていなかった。実戦に重きを置けば置くほど無意味な物に成り下がる為に、そんな競技用の物は持ち合わせていなかった。

 

 

「それについては風紀委員室にある備品を提供しよう。これは達也君が常時メンテナンスしている物だから、競技用の物であっても動作は保証しよう」

 

摩利はなぜか得意満面な顔でCADの提供を口に出していた。これについては意外だと蒼は考えたものの、確実にメンテナンスしてあるのであれば、こちらとしても調整の時間がかからない。

時間が短縮出来るのであれば、こちらとしても構う事は無いと考えていたが、他の生徒会のメンバーが今までの風紀委員室の惨状を知っての表情までは見ていなかった。

 

 

「ただ、それだけでは俺にメリットが発生する事は何一つ無いな。そうだ、単純だが賭けをしないか?大した事にはならないから安心しろ。それが俺からの条件だ」

 

何かを思いついた結果なのか、蒼の笑みを額面通りに受け取る事が出来ないでいた。この時点で冷静になれば良かったが、話のペースが完全に握られながらの進行は既に誰の下でコントロールされているのかを確認しないままに進んでいた。

 

 

「賭けねぇ……学生の本分から外れているんじゃないのか」

 

「そちらが持ってきた条件に対して大幅な妥協をしているのはこっちなんだ。どうやって一筆書かせたかは知らないが、それは俺の都合には一切関係無い。だったら模擬戦で決着つければ問題ないだろう?どうせ何かあっても交渉でこちらが優位にするからとか言いながら書かせたんじゃないのか?」

 

蒼の一言で真由美の猫の皮が外れる一歩手前まで来ていた。まるでその場を見ていたのかと思う程に的確な内容は確かにその通り。いくら取り繕っても悲惨末路が一瞬だけ見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事があったから、すまないがこれの調整をしてくれ」

 

「何で俺が関係するんだ?詳しく説明してほしいんだが?」

 

その日の放課後、蒼は達也のクラスで唐突に話を進めていた。達也が混乱するのは無理も無かった。突然来たかと思えばこの見覚えのあるCADを調整してくれと言われてハイそうですかと安請け合いするほど達也も暇ではない。

 

ただでさえ望まない風紀委員の仕事も去る事ながら自身の研究とやるべき事は山積している。そんな中での話にはどこか疑いをかけながら当事者でもある蒼に聞くしかなかった。

 

 

「生徒会からの提案で服部と模擬戦をするんだが、なぜかモノリスのルールになった。で、お前の上司の渡辺が委員会からCADを提供する話の流れで来ただけだ。実際には俺も調整は出来るが、生憎と他の準備が忙しくてな。悪いがやってくれないか?勿論大半は俺がするが、細かい微調整だけしてくれれば良い」

 

蒼の言葉に達也は内心頭を抱えたくなっていた。ただでさえあのメンバーは会長を筆頭に面白い事を率先してやりたがる傾向があるのは薄々知っていたが、まさかこんな場面まで顔を出すとは考えてもなかった。

 

確かに風紀委員会の備品は調整しているのは自分でも、問題なのはインストールする魔法だった。詳細は分からないが、あの時に見た物は明らかに魔法の体をなしている別次元の何かにも見えていた。

となれば調整をするのであれば確実にその中身を見なければ何も出来ない事は間違い無い。この時点で面倒事と知的好奇心が天秤に乗ったが、結果は見るまでも無くあっさりと知的好奇心に軍配が上がっていた。

 

 

「そうだな……で、いつやれば良いんだ?」

 

「これからだ。因みに渡辺の了解は貰っているから安心しろ」

 

ため息交じりに肯定の言葉を聞いたからなのか、蒼は何事もなくこれからだと口に出していた。本来であれば許可がどうだとか考えるも、冷静に考えればあのメンバーに委員長の渡辺摩利が入らない訳が無いと考え直し、短時間だからの言葉に揃って工房へと足を運んでいた。

 

 

「ここの一角だけやたらと厳重なんだが、まさかとは思うがお前がやったのか?」

 

指定された部屋に来ると、とある一区画だけがやたらと厳重になっていた。本来学校の工房に秘匿する程の内容は無く、また誰もが気軽に使える事からオープンな状態になっていた。しかし、目の前には明らかに異質とも取れるパーテーションに、幾つもの視覚や音声を遮断する魔法がかけられている。これでは一企業のCADの開発と何も変わらないレベルだった。

 

 

「ちょっと研究中の物が中にあるからな。本来であれば自宅でやるのが一番なんだが、家よりもここの方が機材の数が多いから何かと楽なんだよ」

 

「そうか。それはそうと、時間が勿体ない。CADを見せてくれ」

 

達也の一言に蒼は惜しげも無くCADを簡単に手渡していた。本来各自の魔法は秘匿すべきはずの物であって、そう簡単に見せて良い物では無い。これではまるで見たければ勝手にどうぞと言いたくなるほどの無造作ぶりにはただ驚くだけだった。

 

 

「本当にこれだけなのか?」

 

「見ての通りだが、どうかしたのか?」

 

達也はデータを見た瞬間絶句していた。本来であればCADに入っているデータは起動式。しかし、このデータをそのまま使えば魔法が発動する条件を満たしていない為に、発動する事はあり得ない。

蒼の言葉が本心であれば、本来の考え方からすればあり得ない内容だった。

 

 

「これだと魔法が発動する事は無いと思うんだが、一体何をどうやって使うつもりなんだ?流石に現物を見ない事には俺でもどうしようもないぞ」

 

「なんだ?生データだけで結果が分かるのか。見せるのは構わないが見ただけで分かるのか?そう言えば起動式が見えるんだったな」

 

達也が生データだけで判断した事を意外と思いながらも驚く事がないのは恐らくは蒼も達也と同じ様な調整をしているからなんだろうとは予想はしていたが、まさかそらが当たり前だと言わんばかりの言葉は達也にとっても想定外だった。学生レベルであれば通常は確認の際には専用のOSを使わない事には確認するのは難しく、何気に出された物は最初からデータの塊だけだった。

 

 

「モニタリングすれば問題無いだろう。これだけでやれと言われても本人以外にはどうしようもないだろうな」

 

まるで試したかの様にも思えたが、以前にも話に出た様に蒼の能力を考えれば妥当なんだと自分に言い聞かせ、2人は工房から演習室へと足を運んでいた。

 

 

 

 

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