厄災の魔法師   作:無為の極

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第27話

モノリスの異変に気が付きながらも、アヤは観客席ではなく他の場所で一人何かに耐えるかの様に美しい顔に苦悶の表情を浮かべながら見えない何かと戦っていた。

既にどれ程の時間が経過したのかすら分からない程に脂汗がジットリと滲み、まるで何かの呪いがかかったかの様に背中には呪詛の様な呪印が広がっていた。

 

この原因は事前に蒼から話があった魔法の行使に関する内容でもあった。元来、蒼の固有魔法は幾つか存在するが、その中でも絶大な威力を誇る魔法が『無限の世界』。本来であれば蒼が単独で使う事が可能ではあったものの、無理をすれば自身にまで大きな影響を及ぼす可能性がある事は事前に聞かされていた。

その原因は蒼がアヤに渡したパス。当初は蒼が単独で使用するつもりだったが、負担の度合いがかなり大きい事をアヤは知っていた。

 

以前に使用した際には身体の不調だけではなく、狂おしい程の痛みを自身が受け続ける。そんな状況下で行使させたく無いからと、アヤ自身が蒼に話をつけていた。

 

事実上蒼とつながっているそれが枷となっているのか、本来であれば補完の為にそれが平行励起するかの様に、アヤにも絶大な負荷がかかっていた。体内の想子がまるで巨大な魔法を行使したかの様に短時間で吸い上げられると同時に、平行励起させた物がアヤを苦しめるかの様に激しく活動していた。

 

これは通常の魔法とは違い、固有の結界の様な物を発生させると同時に、それを維持するとなれば膨大な想子の消費が求められていた。入学当時に行使したのは僅かな時間だった事から身体には影響が無い事は確認出来たが、今回は僅かでは無く時間にして約10分程維持する必要がある。それがどれ程の負担になるのかすら一つの実験として行使する事に居なっていた。

 

 

「そう言えばアヤさんはどうしたんだろ?」

 

「気分が悪いとかで、休憩するとは聞いてますけど…」

 

この場には居るはずの人物が居ない事に違和感はあるものの、事前に気分が悪いと言われれば、それ以上の言葉は何も出てこない。ただでさえ目の前の競技が何かしらの違和感はあるものの、それが何なのか察知する事も出来ず、今はただその試合の行方を見守る事した出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな物なのか。この国は未だ戦時中である事にどうして気が付かないのか不思議だな」

 

「なんだ当然?」

 

十文字の件はこのまま様子を見る事で落ち着いていた。既にあと一人となれば倒されるのは時間の問題でもある。精彩を欠きながらの動きはともかく、今は蒼の零した言葉が何を示しているのかが、辰巳はただ気になっていた。

 

 

「この国は家柄を重視するのは理解出来る。何せ魔法は遺伝するからな。ただ、物事の本質が見えているのか、それとも気が付いていないのかは知らないが、誰もがそれに気が付かないと言うのは不思議な物だと思ってな」

 

蒼の言葉の意味が理解出来ない。確かに魔法科高校は魔法師としての技能を高める為の教育機関であるのは周知の事実ではあるが、それに何の問題があるのかが分からない、当たり前の事を当たり前だと言った様な気にはなったが、それでも蒼の言う言葉の意味が理解出来なかった。

 

 

「どう言う意味だ?」

 

「言葉の通りだ。モノリスに限った話では無いが、客観的に事実を認める事が出来ないのであれば、最悪はどこかで足元を掬われる事になる。人間は自身を動かし、速度が出れば出る程加速的にリスクが増える事を理解しながらも、その事実に目を瞑り、己の出来る事だけをやり遂げようとする。その結果が自身に牙を向く可能性は一切考慮する事が無いのと同時に、最悪の状態になって初めて気が付く事になるのであれば、それが何時の日になるかと思ってな」

 

蒼の言葉は何を指しているのか理解出来ない。既に相手の選手を追い込んでいる以上、ここから先の展開がどうなるのかは、誰もが予測出来る。もう競技は終了かと思われた頃だった。

突進していたはずの十文字の動きが止まると同時に、自身の魔法でもあるファランクスを周囲に展開し出す。それが何を示すのかに気が付いた人間はこの場に居る蒼だけだった。

 

十文字が展開した魔法に着弾したのか、周囲の砂を飛ばしながら粉塵が巻き起こる。この場所からでは分からないが何かしらの攻撃を受けた事だけは理解出来るも、それが何なのか理解出来ない。まるでみえない敵と戦っている様な錯覚さえ覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十文字家の当主代理として、今回のモノリスは半ば茶番とも取れる程に下らない内容である事は最初から理解していた。その言葉通り、今はただ単独で行動しているにも関わらず、どこか違和感を拭いきれないまま現在に至っていた。

 

気が付けば自身の思考能力が僅かに落ちたのか、魔法の展開速度が少し遅れている。本来であればすぐに気が付くはずではあったが、師族会議で決まった内容をそのまま実行するのであれば、一秒でも早く戦いを終わらせる事に終始した結果、自身の感じた危機管理の能力に蓋をしていた。

 

 

「これは!」

 

まるでそれが最初からあったかの様に十文字の周囲を何かが取り囲んでいる。冷静に感知出来るのであればそれは多大な魔法陣の中に単身突っ込んだ結果である事が理解出来た。

 

防御の魔法は常時展開し続けるのは無呼吸で動く事に等しく、その結果として一定時間で解除し、再び展開させる息継ぎの様な部分が必要だった。しかし、その息継ぎの部分を今やれば周囲を取り囲んだ魔法が一瞬にして十文字に襲い掛かる。単純に戦うだけならば数発は被弾しても問題無いとも考える事が出来るが、現状ではそれが許される場面では無かった。

 

十師族としての責務と考えたからなのか、回避する事無くその力を誇示するかの様にそのまま耐える事を選択していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう。口だけじゃなかったか。流石は十文字家の次期当主と名乗るだけの事はあるな。そのタフさは賞賛に値するぞ」

 

『無限の世界』の最大の特徴はその異空間を完全に支配する事が出来るのが最大の特徴でもあった。完全な状態であれば何ら問題は無いが、今の蒼は全盛期の半分の力も無い。有体に言えば、力の半分が無い状態のままで魔法を行使している部分だった。

 

アヤの消耗が激しい事に気が付いているが、この状況に慣れない事にはここから先に進もうとすれば確実にお互いが分断され処分される可能性がある。その為にはこの状況に慣れる事によって、自身の状態を少しでも引き上げる為に考えた結果でもあった。

 

内容に関しては単純に現状はどこまでが有効なのかを確認する必要がある。本来であれば将輝相手にすれば良いだろうとも考えたが、今回の九校戦であればそれなりの力量を持った人間が出場するのであれば、それで検証するのが簡単だと結論づけた結果だった。

高濃度の酸素の中でもあれだけ動けるのであれば、検証のデータが大量に入手できる。この国の魔法師にとって十師族がどれ程の物なのかは一高に入学した時点で理解していたが、果たしてその意味を理解している人間がどれ程いるのかが疑問だった。

一部の人間を除けば『入れ物だけあっても中身は空っぽ』これが蒼が出した結論でもあった。

 

与えられた能力を、まるで自身の能力だと勘違いし、それがまるで当たり前であると考える人間は最終的には足元を掬われる。高校生にそれを理解している人間がどれ程いるのかは分からないが、それを理解しないまま漫然と過ごす物は、その力が無ければその人間の存在そのものが空虚であると言っているのと同義でもあった。

 

 

既に時間の経過からすれば残りはあと僅かである事は確認出来る。それならばこれで検証は終了だと言わんばかりに次の魔法を行使していた。

十文字の周囲にはまるで何かが爆発したかの様に地面から次々と衝撃が走る。それが一条家秘伝の魔法とも言える爆裂と同程度の魔法でもあった。これが直撃するのであれば即オーバーアタックとなるが、周囲に及んだ事もあってか審判からの警告は何一つ無い。

魔法だけではなく、周囲を巻き込んだ事で砕けた岩が弾丸の様に十文字へと襲い掛かる。粉塵で見えない状況が最悪の状況を作り上げていると考える事が出来た人間は殆ど居なかった。

 

そもそも、魔法を行使していると思われる人物が何をやりたいのかを判断する事は誰にも出来ない。

蒼は対戦相手でもある三高の生徒が発動する魔法の様に見せかけている事もあってか、まさか身内から攻撃されているとは考えておらず、その結果十文字だけではなく観客そのものまでもが誰一人疑う事は無かった。

 

 

「時間切れか。データは取れたから問題無いな。結果的には十分すぎる程の結果だな」

 

蒼の呟く声と同時に、三高の対戦相手はファランクスによって吹き飛ばされた事で、一時苦戦する様な場面は結果的には演出か何か程度の感覚で競技終了のブザーが会場に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一高の優勝が決定した事で、その後の予定はつつがなく始まっていた。既に会場にはゲストと思われし集団がそれぞれの思惑と同時に、早々のスカウトの為なのか、特定の競技で活躍した選手の元へと集まっていた。そんな中で異様とも思える一団が蒼を中心に

拡がっていた。

 

 

「これはローゼンの本家がこの国に来ると言う事は、いよいよ本格参入と言う事ですか?」

 

「いや。我々が今回来たのはそれが目的では無い。IMS(Ichijoh-Magi-Studio)から出した例の感応石の件だよ。あれの独占販売権の件で是非商談したいと思ったんだが、君がその主任研究員なんだろ?」

 

「あれについては自分の感知すべき事ではありませんので。詳細については社長との商談をお薦めします」

 

「いや、ローゼンではなく我社で商談を……」

 

懇親会場のはずが一転して商談の場へと変貌していた。今回の件で剛毅が来た事により、実質のトップが来れば商談の場としては最適だと判断したのか、他の生徒からもある意味違った視線が向けられていた。

 

 

「申し訳ありませんが、この場は九校戦の慰労の為に用意された物ですので、それ以上の話となれば」

 

「君の言う通りだ。では改めて商談の場を楽しみにしているよ」

 

これ以上は面倒だと判断したのか、蒼は警備の方へと視線を向ける。こちらの様子を伺って居た事に気が付いたのか商談の場は改めて検討する事にし、その場を解散させていた。

 

 

「赤城君。さっきの話は本当なの?」

 

商談の場を有耶無耶にしたかと思った矢先に、先ほどの件で何か思う事があったのか真由美とあずさが揃って来ていた。恐らくはあの時の事を見られたからあずさは来たんだとは思うも、そこに真由美が一緒に来る理由が分からなかった。

 

 

「何の話だ?」

 

「IMSの事なんだけど、貴方が主任研究員って本当なの?」

 

蒼がチラリと視線をあずさに向けると、何かを察知したのか真由美の後ろに避難するかの様に隠れている。先ほどの会話とあずさの話から信憑性が高いと判断したからなのか、どことなく懐疑的な視線の様にも見えていた。

 

 

「そうだが。それが何か問題でもあったのか?」

 

「大ありよ。それを最初に言ってくれればこんなに苦労する事は無かったかと思うと……はあ、君に言っても無駄だとは思うけど、どうしてそれを最初に言わなかったの?」

 

「聞かれてないからな。事実あの場で何が起きたのか理解出来ない人間と、適切な判断を下す事が出来た人間は居ないと俺が判断した結果だ。誰にも迷惑はかかってないはずだが?」

 

今さら当時のエンジニアの事を蒸し返された所で、今回の結果が出ているのであれば何ら問題が無いはずだった。そもそも理解しようとしないのか、しようとするのかでは大きな隔たりがある事は既に分かっている。

 

事実前向きな行動をするのであれば、本来ならば当時の状況では無いが、一年だとか二年なんて話ではなく、単に一人の技術者として聞けば済むだけの話だった。事実、この場に於いても達也に近寄る様な人間は身近に居る人間しかおらず、恐らくは腫物扱い程度にしか見てない事だけは直ぐに理解出来ていた。

 

 

「目先のつまらないプライドが優先するならば、その人間の器がそれだけの事であって、理解してくれとは思わん。それだけの話だと思うが?」

 

「そんな人生は面白く無いと思うけど?」

 

「それは俺の勝手だ。正直な所、俺はひどく失望している。そもそも教育の場は学ぶべき事を適切にやるのが本来の姿であって、訳の分からない権力を介入させたり実力も無い人間が何の根拠も無くただ優越感に浸る人間しかいないこの場が適切だとは思えないのもまた事実だからな。これならばまだ一科よりも一部の二科の方がかなりマシだと俺は思うがな」

 

直接では無いにしろ、モノリスの最終競技の事を暗に言った時点でそれが何の話であるのか真由美は理解していた。それと同時に貸しがある事も。ただそれがどんな形で返るのかを考えたくない自分がそこにいた。

 

 

「あと例の貸しだが、既に清算済みだ。十文字にもそう伝えておいてくれ」

 

「それって…まさかとは思うんだけど」

 

「知らない方が幸せな事もあるんじゃないのか」

 

含む言い方ではあったが、競技中に起きた異変がなんのかがぼんやりと見えていた。既にパーティーは生徒同士の場だけとなった事を確認したのか、蒼はひっそりとその場から消え去っていた。

 

 

 

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