厄災の魔法師   作:無為の極

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ここからは暫くオリジナルの展開が少しだけ続きます。

原作からは大きく逸脱する可能性がありますのでご容赦下さい。





探索編
第28話


「漸く着いたか」

 

「そうですね。結構迂回しましたから時間はかかってますね」

 

 蒼の言葉にアヤも同じ気持ちがあった。九校戦が終わると同時に、事前に予約した飛行機で日本から遠く離れた新ソ連のドモジェドヴォ国際空港の地に降り立っている。

 既に手続きが終わり、今はに荷物を待つべく、カウンターで待っている途中だった。

 

 

「まさか九校戦の最終日のフライトなんて思ってませんでしたけどね」

 

「それしか無かったからな。ある意味こっちが今回のメインなんだ。どのみち仲間内で騒ぐだけなら、俺には関係ないがな」

 

 

 この時代の魔法師の海外渡航は極めて厳しいのが常識となっていた。

 一番の要因が魔法師の能力が遺伝的な物であるのと同時に兵器としての能力を各国が見出している以上、旧時代のワッセナーアレンジメント並みに厳しい部分が多分に存在しているのが要因だった。

 

 実際にはそれだけでなく、兵器を持たないまま搭乗し、テロとしての対処を未然に防ぐ役割もそこには存在していた。

 

「いい加減座り続けるのは流石に堪えるな」

 

「トランジットがあったからまだマシですよ」

 

 九校戦の祝賀会を最後まで待つ事なく、蒼は直ぐに行動を起こしていた。元々の計画でもあった古代魔法の探索の為のスケジュールではあったが、想定外の参加により大幅な変更を余儀なくされていた。

 

「でも本当に大丈夫なんですか?確かに手続きの際には何も反応しませんでしたけど」

 

「それは既に実証済だ気にする必要が無いからここに居るだろ」

 

「それはそうなんですが、まさかこんな方法だとは思わなかったので」

 

 一番の心配は想子の感知だった。テロ対策と同時に魔法師を容易く出国させない様に、旧時代よりも厳しいセキュリティが施されていた。

 既に実証している事からも蒼は心配する事は無かったが、アヤは何も知らない為に表面上は穏やかではあったが、入国審査の際に内心は終始冷や汗をかいていた。

 

「とにかく時間が足りない以上、素早い行動が必要だ。チェックインの後は目的地に向かうぞ」

 

「でも、本当なんです?」

 

「事前に調べた情報が間違ってなければだな。結局は行かない事にはどうにもならんだろうな」

 

 現代魔法とも古式魔法とも違うそれは、知っている人間からすれば聖遺物と同等でもあった。建前としては知的探究心だが、本来の目的はそれでは無い。それがどんな結果をもたらすのかは蒼だけが知る事だった。

 

「ここにあるはずなんだが……ここか」

 

 世界大戦がもたらしたのは世界情勢が大きく変化した事だった。

 国家を国家として維持するには膨大なコストを必要とする。世界同時多発の寒冷化現象による食糧難が発端となった世界大戦は、人類の歴史の転換点となったのか旧時代の文明は一部を除きその殆どが消失していた。

 

 それは貴重な文化遺産も例外では無い。三大欲求が発端となった戦争は人間の尊厳すら奪う結果となっていたからなのか、過去の遺産よりも目先の食料を優先した結果が今日に至っていた。

 その被害一番受けたのは書籍。知識は平穏な時代には必要な物だが、混乱時には無用の長物とばかりに捨てられていた。そんな中での今回の目的は残された物の確認でもあった。

 

「これがどうかしたんですか?」

 

 目的の物はほどなくして見つかっていた。本来であれば目的はこれで完了だが蒼の様子が何かおかしい。まるで目の前の物が偽物であるかの様に感じたのか、動く気配はなかった。

 

「……これはレプリカだ。本物は恐らく別の場所に保管されているはずだ」

 

 目の前のガラスに囲まれて鎮座している本の何かを感じ取っていたのか、蒼は周囲を見渡す。まるで何かを探しているかの様にも見えていた。

 

「通常は本物を展示するんじゃないんです?」

 

「本来ならな。恐らくは真の価値を知っている人間が対策をとった可能性は高いな」

 

 真の価値の意味が理解できない。目の前の本にはどれほどの価値があるのだろうか、それ以上の事は何もわからない以上、ただ黙ってアヤは蒼を見ていた。

 

 目的の物がレプリカであれば直ぐに引き返すのが手っ取り早いが、問題は本物がどこに保管されているのかとなる。見つからない事にはその先の展開が難しくなる事だけが予測出来ていた。

 

 

「じゃあ、このまま帰ります?」

 

「いや。せめて敷地内部と状況の確認は最低限必要になる以上、このまま今日は過ごそう」

 

 旧時代から続くエルミタージュ美術館は大勢の観光客でにぎわいを見せている。いくらお目当ての物が無いからとそのまま帰る事無く、各要所を回りながら情報を引き出すべく探索をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんな所にあったとはな」

 

 時間は既に深夜の時間帯。蒼は単独でこのエルミタージュ美術館へと忍び込んでいた。本来であれば重要な物を展示してある国立美術館であれば常時厳重なセンサーの監視体制が整っている。

 

 まぬけな盗人が平然と来る様な所では無いはずの場所に蒼は侵入に成功していた。一番厄介なはずのセンサーは魔法師にとっては大した障害にはなりえない。

 重量を感知するセンサーは飛翔魔法を駆使する事で一切の重力から干渉されず、温度や視認センサーに関しても体表の温度の変更や視界から遮断する魔法を駆使する事で、一切の懸念材料を取り払っていた。

 

 本来であれば国立美術館に魔法師が入るとは思ってもいなかったのか、当初に予想した想子の感知器は結果的には見当たらず、そのまま侵入する事を許す結果となっていた。

 

 蒼の言葉通り、日中アヤと一緒に回った際に、不意に気になる部屋があった。見取り図では本来そこには何も無いはずのスペースが何故か気になって仕方ない。まさかと思いながらもセンサーの反応を気にしながら周囲の警戒を最低にまで引き下げた結果、隠し扉がある事が発覚していた。

 目立つ場所ではないものの、それがどこに繋がっているのかは考えるまでも無い。その入り口の先にあるのが今回の目的の品に間違い無かった。

 

 蒼は当たり前の様にその扉を容易に開く。施錠がされていようが開錠できる魔法の前には鍵は無いに等しかった。どれ程の距離を歩いたのだろうか、既に方向は横では無く縦へと変化している。

 公称では地下の様な部屋が無かったと記憶しているも、それでも移動の方向は下へと向かっている。まるで何かから隠すかの様な雰囲気がただ続いていた。

 

 

「やっぱりか」

 

 薄暗い部屋と思われし場所に、無造作にお目当ての本が置かれている。周囲を見渡せばトラップの様な物はどこにもなく、ただ手に取ってくれと言わんばかりの様相は少なからず警戒心を湧き起こす。

 蒼も同様に周囲に対し、注意を払った矢先だった。

 

 

 

『小童風情が我に何の要件だ』

 

 

 頭に直接響く様な声が気配が無いはずの場所から聞こえている。それがどこからか聞こえるのかは確認するまでも無かった。

 

 

「要件?ここまで来たならやる事は一つだろ。貴様こそ思念体風情が何をほざく」

 

 蒼の一言がキッカケとなったのか、突如として閉じた本が開くと同時にページが次々と捲れていく。規則的な早さで右へ左へと開くと同時に、その声の主が姿を現していた。

 

 

「よりによってこいつかよ」

 

 蒼の言葉がその心情を表していた。どこからか出没したのか、白い馬にまたがっているのは骸骨の騎士。既に生前の面影はどこにもなく、窪んだ空虚な目の部分には何が映し出されているのか判断する事が出来ない。

 頭に乗せられた王冠が悠久の時間を意識させる程に朽ち果てていた。

 

 

『我の力を求める理由は?』

 

「貴様に答える必要は無い。下僕が主に逆らう道理は無い」

 

 一言だけ言うと同時に、薄暗い部屋の景色が今までに見た事が無い模様を浮かび上がらせる。その瞬間骸骨の騎士は手に取った弓を大きく引くと同時に黒い雷の如き光が襲い掛かってきた。

 

 現代魔法ではありえない程の速度と同時にこの魔法は今まで散々見てきた魔法だった。黒い雷は蒼の顔面めがけ黒い閃光だけを残す。何もしなければ直撃するはずだった。

 

 

『ほう、あれを凌ぐか。久しぶりに戦いに興じる事が出来そうだ』

 

 蒼に直撃する寸前、無造作に差し出された手に黒い閃光が止まる。それが何を示すのかは最早言うまでも無かった。

 

 

「お前、何人の魔法をパクッてるんだ。自らの魔法で滅べ」

 

蒼は呪文を唱えようと考えたが、先ほどまでとは打って変わって身体の状況が異なっている。まさかとは思いながらに試すべく、そのまま右の手の掌を相手に向けただけだった。

 

 

「黒き雷」

 

一言発すると同時に同じく黒い閃光が10本放たれた。その本数は今まで一度も放った記憶はどこにも無く、またそれが何を意味するのかを理解していた。

 黒い雷はまるで最初から決められていたかの様に回避する白い馬を追い立てる。先ほどは異なった黒い閃光とは格段に違う威力がそのまま発揮されたのか、白い馬はそこには無く、骸骨の騎士が弓を携えこちらに狙いを付けていた。

 

 

『人間風情が何のつもりだ』

 

「さっきも言っただろ?下僕が主に対して逆らう道理はどこにも無いぞ」

 

 蒼の言葉を最後まで聞く事すら怪しい時点で再び骸骨の騎士が弓を弾く。今度は冷気を纏った弾丸が再び蒼へと襲い掛かっていた。

 

 

「骸骨風情が何様のつもりだ」

 

 避けるつもりもなく蒼はその場に佇んでいる。先ほどの一撃でどれ程のレベルなのかを判断した結果、避ける必要が無いと判断していた。

 

 絶対零度だと思わせる程に低温を纏った弾丸が蒼へと襲い掛かる。白い筋を残すかの様に迫りくる弾丸は最早魔法の概念を大きく打ち破ると同時に、一つ一つが彗星の如く襲いかかってきた。

 

 

「真言の盾よ」

 

一言つぶやくと同時に左手の掌をかざすと、彗星の如き弾丸が全て消滅する。その瞬間、蒼はニヤリと笑っていた。

 

 

「感謝するぞ。まさかこの場で全力を出しても問題無いとは嬉しい誤算だ」

 

 骸骨に向かって言葉を出すと同時に蒼の身体の輪郭が大きく揺らぐ。その瞬間、蒼の身体は骸骨の騎士へと一気に距離を縮めていた。

 自己加速術以上の速度なのか、視覚に囚われるよりも早く距離を詰めると同時に、蒼の身体の想子が一気に膨れ上がる。

 魔法師としての能力では大よそあり得ない程に膨れ上がるそれが拳を伝って顕現していた。

 

 

「このまま散れ」

 

光の如き早さで数発の拳をボクシングの様に次々と繰り出す。その一撃は核攻撃をも凌ぐほどの熱量と同時に衝撃を次々と大気に伝播させる。奥深い地下室にもかかわらず、その衝撃が地震の様に周囲へと伝わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大佐。正体不明の揺れがエルミタージュ美術館の地下より検知しました。原因は不明です」

 

 蒼が思念体と地下で戦っていると同時に、新ソ連では原因不明の地震が観測されていた。震源地が美術館であると同時に自然の物ではなく、人為的な物である事が理解出来ていた。

 ここ数日の間で新ソ連に入国した魔法師が居るなどと言った情報は入国管理局からは来ていない。しかし、場所から考えればそれが何を目的とした物なのかは考えるまでも無かった。

 

 

「そうか。今動ける魔法師団に至急打電しろ!敵に狙いは原典にある。最悪の場合はイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフを投入しろ」

 

「しかし、それは幾ら何んでも……」

 

 情報下士官が困惑するのは当然の話だった。イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフは『イグナイター』の二つ名を持つ世界で十三人しか居ない戦略級魔法師の一人でもあると同時に、その行動は世界中に注目されている。

 ここで動く様な場面があれば新ソ連で内乱ありだと世界中に喧伝するのと同義でもあった。

 

 

「仮に原典が無くなった場合の事を考えれば、それは致し方ない。貴様はどちらの方が重要なのかすら理解出来ないのか?」

 

 大佐の一言で情報下士官は漸く事の重大さに気が付いていた。世界で4冊しか無いと言われたそれは、どの国にも必ず存在する訳ではない原典。それは太古の時代からこの国の命脈を保つべくして保管されていた物だった。

 それに比べれば世間に出回る聖遺物など子供だまし程度にしか過ぎず、歴代のトップが何があってもこれを必ず死守するのは隠された至上命題でもあった。

 それが万が一紛失するとなれば、国家的な損失がどれ程の物になるのかは最早考えるまでも無かった。

 

 

「はっ!では直ぐに緊急と銘打って打電します」

 

そこから先の新ソ連軍の行動は素早かった。内容が原典に関する事であると確認すると同時に直ちに大統領命令が発動。その30分後にはイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフを含む近衛魔法師団が召集されていた。

 

 

「現在、エルミタージュ美術館の地下格納庫にて正体不明の振動を検知。場所の特定により原典の強奪と予測される。万が一の可能性を考慮し、各員殲滅を命題とする為、敵の生死は問わない。これは新ソ連の命脈を保つ為の戦いである事を肝に銘じてほしい」

 

 一方的な言葉と同時にこの場にいた魔法師全員のCADがすぐさまスタンバイ状態へと移行している。既に振動が検知されてから1時間が経過しようとしていた。

 

 

「では全員警戒しながらも突撃だ」

 

 師団長の言葉が発せられると同時に、全員がエルミタージュ美術館の地下室へと進軍していた。

 

 

 

 

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