厄災の魔法師   作:無為の極

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第3話

「おい貴様!昨日は世話になったな。お前は何者だ!」

 

「今どきそんな恥ずかしい言葉を良く言えるな。普通は自分の名前を先に名乗るのがマナーだろ?なんだ山田(なにがし)か?」

 

昨日の事が腹に据えかねたのか、帰宅の際にを狙い撃ったかの様に蒼は昨日の集団に絡まれていた。

 

「誰が山田(なにがし)だ。俺の名前は森崎だ。森崎の本家に連なる者だ」

 

こんなくだらない挑発じみた子供のやりとりで逆上するとは随分と簡単な頭だと蒼は考えていた。幼稚な考えなのか、それとも単に世間知らずなのかは分からないが、目の前にいる森崎は何故か根拠のない自信に満ち溢れていた。そもそも本家かどうかは今の状況においてはどうでも良い話にも関わらず、それを口にするのであれば随分と幼稚だと考えていた。

 

 

「で、その森崎様が俺に何の要件だ?こう見えて俺も暇じゃないんだが」

 

「五月蠅い。貴様昨日は魔法は使ってないと言ったが、俺の魔法は確かに発動直前まで行っていた。貴様は俺に何をしたんだ!」

 

「言う必要なんて無いだろうが。って言うか、お前は馬鹿か?昨日折角問題にならなかったのに、今の発言で自白した様な物だぞ?お前こそ本当に頭は大丈夫か?」

 

蒼の言葉に気が付いたのか、この時点で森崎は周囲を見渡せば何人かの生徒はヒソヒソと話している。こんな安物の挑発に引っかかる様では今後の学校生活は危ういなどと場違いな事を考えていた。

 

 

「蒼。今度は何してるんですか?もう時間はありませんよ。森崎君はどうかしたんですか?」

 

「あ、四条さん。いえ、これは…その…」

 

蒼を見つけたのか、アヤが近寄ると、今度は森崎とその仲間が顔を赤くしていた。今年の新入生の総代でもある司波深雪は絶世の美少女と言われているが、ここに来た四条アヤはその双璧と言われる程の妖艶なイメージがピッタリの美貌だった。

そんな女性に近寄られた森崎は耐性が無かったのか、それ以上の事は何も出来なかった。

 

 

「アヤ。俺帰るからこいつらの相手しておいてくれ。時間の無駄だからな」

 

「ちょっと蒼。それはどう言う意味ですか?」

 

「言葉の通りだ。自分達の無能さを棚に上げて、無関係な俺をどうにかしたいんだろ?俺は暇じゃないんだ。後の事は頼んだぞ」

 

アヤの肩を軽く叩くと蒼は何も無かったかの様に、そのまま帰宅の途についていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう将輝。お前の所も確か一高と同じだったよな?」

 

「ああ。でもなんでお前が一高に行くんだ。俺はてっきり魔法科大学かここに来るもんだと思ったんだがな。親父もお袋も残念がってたぞ」

 

自宅に戻ると同時に通信回線が開く。電話の相手は旧金沢に本拠がある一条将輝だった。佐渡の侵攻戦以降、一時期一条家で保護された事もあってか家族ぐるみでの親交が短い間ではあったものの確かに存在していた。

そんな中で突如として世間を見たいとの名目で袂を分けてからは何度か連絡はあっただけではなく、時として蒼の能力を頼る事もあってか時折一条家に訪れはしたが、そんな時に限って将輝と会う事は一度も無かった。

 

 

「そっか。親父さんには随分と世話になったからな。でも、何度かそっちに行ったけど、お前はいつも居ないがどこで何してるんだか。……まぁそれよりも、CADのプログラムの件だが、あれはどうだった?」

 

「あれか…問題ないんだが、肝心のハードが追い付かない。家にあったもので試したが、すぐに壊れた。って言うか、あの術式はなんだ?今まで見た事無いぞ。ジョージでさえも知らないって言うんだ。何でお前が知ってるんだ?」

 

「その件に関しては前にも言った通り黙秘だ。これ以上の事は今は言えない」

 

「今はって事は時期がくれば教えてくれると考えて良いんだな?」

 

「今はそう考えてくれ」

 

高校に入学する直前、蒼は生存確認がてらで時間をかけて開発した術式を一条家に送っていた。この術式は自身が元々構築していた物を顕現しやすくした物だったが、その解析をした瞬間これが現代に通じる内容では無い事が直ぐに分かっていた。

一番の要因は発動の際のプロセスがあまりにも複雑になりすぎた結果、蒼の手元にあるCADでは起動すらせず、念の為にとCADのオーバクロックまでしたにも関わらず、魔法が発動する前にCADが壊れると言った事が起きていた。

そんな事もあってか一条ならば多少なりとも高性能なCADを所有しているだろうと考えた結果だった。

 

蒼から送られた際には、将輝としてもこの術式の内容はともかく結果は知っていた為に興味はあったものの、これをそのまま顕現させるのは厳しいとまで考えていた。

 

 

「しかし、お前ほどの力量で二科生とはな…一高はやっぱりハイレベルなのか?」

 

将輝が蒼の制服に気が付いたのか、蒼は自身の制服の肩を指さした。

 

「これか?これはただの目印だろ?今の俺には二科の方が何かと都合が良いからな。それに試験ではCADは使っていない」

 

「……は?今なんて言った?」

 

「CADは使っていないと言っただけだ」

 

魔法科高校の入学には幾つかの試験項目がある。その中で一番顕著なのがCADを使った技能測定だった。試験会場で用意されたCADを自身の能力で発動させる事によって事象改変できるレベルが測定されるが、蒼はそれをしていないと言っていた。

 

 

「どうやって試験に合格したんだ?魔法科高校の試験はどこも同じのはずだぞ?」

 

「それも企業秘密だ。詳しい事は次回だな。じゃあな」

 

「ちょっと待て。次はいつ来るんだ?アヤさんは一緒じゃないのか?」

 

切ろうした矢先のこれには蒼も少しだけ呆れかえっていた。過去に一度保護した際に、同じ様に身元引受をお願いする為にアヤと一緒に一条家に訪れていた。何を思ったのかアヤに見惚れはしたものの、蒼が絡んでいる時点でそれ以上の事は何もしていない。

しかし、話す位なら良いだろうと話をしたものの、本人を目の前にまだ純情だったのか、将輝は沈黙をしたまま気まずい時間を過ごした黒歴史があった。

もちろん、その事実を知った蒼は盛大にからかったのは記憶に新しい。

 

 

「分かったって。連れて行くから心配するな。人の女に手を出すのはクリムゾン・プリンスとして如何なものかと思うが?」

 

まさかの単語に今度は将暉が青くなっていた。蒼に聞かれれば確実にからかわれるからと、誰の口からも言わない様にと厳しく言ったはずだったが、どうやってそれを知ったのかが分からない。

情報の出所が知りたいとさえ考えていた。

 

「誰から聞いたんだ?」

 

「香林坊歩いてたらそんな会話が度々聞こえただけだ。世間がそう呼んでると知った時は笑ったがな。流石は佐渡の若き英雄だな」

 

その言葉は苦々しい物だった。佐渡の侵攻戦の本来の功労者は間違い無く蒼だった。しかし、当時の軍部はそれを良しとせず、義勇兵として参戦していた人間だからと一条の名前を使い喧伝する事を決定していた。

当時は一条として反対したものの、友好関係がある人物からは軍部でのパワーバランスの為だと説得された事で渋々その二つ名を拝命する事になっていた。

 

 

「あれは…本来は俺が名乗るものじゃない。お前の力が無ければ俺の今は無かった」

 

「気にする必要は無いだろ?プライドでは腹は膨れないんだ。お前の方が良いだろ。それ以上は言うな。じゃあ切るぞ」

 

これ以上の言葉は無意味な物になり兼ねない。勝手に凹む分には気にしないが、今度は真紅郎から文句が出てくる。将輝は見た目とは裏腹に案外と凹みやすい部分が多々ある。蒼としてはもう少し構える位の貫禄を持ってほしいと思うが、態々口に出す必要が無かった。これ以上の面倒事は避けたいからと一方的に通信を切っていた。

 

通信を切った途端、今度は違う画面が端末から出てくる。画面には知らない人間からすればただ無意味な文字列の様にも見える物が映し出されているも、肝心の内容に関しては、本人以外には理解出来ない。

画面は知らない人間が見れば確認すら出来ないが、蒼の目には何かが映っているのか、端末を操作する手が止まる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと蒼。またトラブルなの?森崎君達なだめるの大変だったんだけど」

 

作業が一段落したかと思った矢先にアヤの怒声とも取れる事が室内に響く。詳しくは知らないがどうやら大変な目にあったのか、顔が既に疲れ切っていた。

 

 

「あのなぁ。俺は絡まれただけで手は出して無いんだぞ?なんで非難されないとダメなんだ?」

 

「また心無い事でも言ったんじゃないの?」

 

「そんな事気にした方が負けだろ?ただ事実を言っただけだぞ。それにまだやる事あるから話は後だな」

 

クラスの人間であれば恐れ多いとまで思う事はあっても蒼からすればいつも見慣れてる以上、それ以上の事は何もない。アヤは怒りの色を見せながらもまるで意にも介さない蒼を見て少しだけため息が出ていた。

一旦話を打ち切った以上、そこから何を話しても碌な返事が返って来ないのは今さらだと判断したからなのか、アヤはそれ以上の事は何も言わず、ただ自分の事をすべく自室へと戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アヤ、このあと調整するから時間開けてくれ」

 

「分かりました。これから直ぐですか?」

 

「準備があるから20分後で頼む」

 

魔法師の必要な物の中で取り分けて一番重要のはCADと呼ばれる魔法発動用の術式演算装置。自身が呪文を唱えるのではなく、CADにあらかじめ組み込まれた魔法を想子と呼ばれる物を利用する事でゲートを開き、CADを経由する事で事象改変を行うのが常識だった。

本来であれば調整とはこのCADの事を指すが、アヤの場合は違っていた。そもそも魔法師は自分の脳内にある演算領域を持たない者には出来ない行為でもある。アヤも本来であればその例に漏れないはずだが、実際には違っていた。

 

蒼は一条の家を出てから、各地を回るべく様々な場所に足を運んでいた。そんな中で一人の少女を見つける。その少女は元々魔法の資質は持っていなかった。本来であれば蒼も気にする事無く放置するつもりだったが、些細な事件に巻き込まれた事で結果的にアヤを保護する事になった。その結果、本来であれば持つはずの無い物がアヤに持たされた事によって現在に至る。

その結果がこの事実だった。

 

 

「確認したが、エーテル体もアストラル体も少しづつではあるが回復傾向にあるから、今の所パスは問題なく働いている。嫌悪感や倦怠感はあるか?」

 

「ありません。いつもと同じです」

 

「そうか。ならOKだ。今日はこれで終了だ。ただ具合が悪くなるならすぐに言ってくれ」

 

「わかりました」

 

アヤが他の魔法師と異なる一番の点がそれだった。エーテル体とアストラル体は現代における想子と霊子の役割を果たす。この二つが壊れれば肉体にも大きな影響が出るが、それを蒼のエーテル体とアストラル体に無理矢理つなげた事による不具合の確認が必要不可欠だった。

全ての不具合が無い事が確認できたからなのか、確認が終わりそう言い放つと蒼は部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼。お前に聞きたい事がある。ここでは何だから、場所を変えないか?」

 

授業が終わる頃、突如として達也に呼ばれた蒼は珍しいと考えながらも、一体何の要件があるのか理解出来なかった。確かに今日のこの後の予定は空いている。それならば何も問題無いだろうと達也に付き合う事にしていた。

 

 

「で、要件ってなんだ?」

 

「お前何か隠して無いか?」

 

達也からの突然言われた言葉の意味が理解出来なかった。当初ははぐらかす事も考えたが、この場に誰も居ないのであれば、多少の情報開示位は問題無いだろうと気軽に考えていた。

 

 

「言葉の意味が分からないんだが?」

 

「…この前の一件なんだが、エリカが森崎のCADを弾き飛ばした時に風が吹いたのは知ってるか?」

 

「それがどうかしたか?」

 

「最初は突風だと思ったが、改めて考えるとあの風は異様だった。一つの意志がある様な吹き方は早々ある訳でもないのと、一定方向に対しての明確な意思があった。あれはお前が放った魔法じゃないのか?」

 

あの僅かな時間でよく見てると思いながらも、蒼には一つの懸念があった。あれが高度な偽装を施したにも関わらず、どうやって確認したのか達也は明確に魔法だと言っている。ここに来る前の安易な考えは既に無くなっていた。

 

 

「へぇ。よく分かったな。上手く誤魔化したと思ったんだが」

 

明らかな鎌をかけた内容なのは理解した上で敢えて口にする。そんな意図に気が付いたのか、目の前の達也は少しだけ表情が和らいでいた。

 

 

「今まで色んな魔法を見てきたが、あれだけは明らかに異質だ。それと入学式の際にも意図的に七草会長がお前を無視した様にも見えなかった。認識阻害の魔法があればすぐに察知できるが、それも分からないのであれば、当然だろ?」

 

「なんだ?まるで魔法の構造式が見える様な言い方だな。お前こそ、その異能はどうかと思うが」

 

見る者が居れば高度な心理戦の様な雰囲気がありありと見える。見た目は穏やかな中にも高度な心理戦は知っている者からすればハラハラする様にも見えていた。

 

 

「で、話は変わるが、エリカって誰だ?」

 

「ああ、済まない。同じクラスの友人だ。同じ二科生だが、腕っぷしはかなりのものだと思うぞ、何せあの千葉家の人間だからな」

 

あの時の顔ぶれを思い出していた。確かに見た目から腕はたちそうな圧倒的な雰囲気が見て取れる事が思い出されていた。

 

「そうか。そのうち紹介してくれ」

 

「ああ分かった。機会があればな」

 

一定の情報を引きだしたまま終わるとなれば、今後警戒される可能性は捨てきれない。だからこそ、一旦内容をクリアにする為に話題を振った事が功を奏する事になったのか、その場は穏やかなままに終わっていた。

 

 

 

 

 




エーテル体とアストラル体との関係に関しては独自理論です。
魔法の発動の仕方についてはかなり適当な部分が多分にあります。
気が付いた時点で直す予定です。


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