厄災の魔法師   作:無為の極

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第31話

 新ソ連を後にした蒼とアヤはドバイでのトランジットから大亜連合へと入国していた。

 大亜連合は旧時代の中国だった頃の影響が未だに強いのか、香港国際空港に降り立ったものの、何処か雑多な雰囲気が何処か他の国とは違う事を印象付けていた。

 

 

「今回の最終地だが、実は目的の物が何処にあるのか詳細はハッキリしてない。暫くは周囲を探索しながらになるな」

 

「未確定なままは珍しいですけど、何か問題あったんです?」

 

 普段であれば用意周到な蒼には珍しく、おおよその当たりだけを付けての行動はある意味珍しかった。一見行き当たりバッタリで行動してる様にも見えるが、実際には綿密な計画の中での行動が殆どだった。

 

 

「この国特有の問題があるんだ。アヤも成り立ち位は知ってると思うが、今回はそれが仇になった」

 

 大亜連合の成り立ちは世界大戦の際に半ば強引とも取れるやり方で周辺国を呑み込んで大きくなっていた。前身の中国だった頃の軍拡主義は大亜連合の名に変わった所で本質が変わる事はなく、そのまま現在に至る。

 そもそも魔法師の世界からすれば国こそ大きいが魔法技術の点から見れば明らかに後進国であるのは周知の事実でもあった。

 

 

「特有の問題ですか?」

 

「簡単に言えば、人間の本質を理解しない結果と目先の事しか見ていないツケが原因だな」

 

 魔法技術に乏しい最大の特徴は自国開発が疎かになっているにも関わらず、摂取した国から半ば強引とも取れる手法で聞き出す事を常習的にやっていた点だった。

 

 強引な併合は人の軋轢を生む。本来ならば相手から技術を引き出す為にはそれなりに綿密な計画と時間をかけてやるのが理想だが、当時の上層部はそんな事は不要だとばかりに公開を迫っていた。

 

 本来魔法の技術は秘匿されることが多く、周辺国から情報を引き出そうと躍起になった所でそう簡単に秘匿する物を差し出す国は無かった。無理矢理出そうとすれば内乱が生じる可能性が高く、秘匿した物を差し出させるには大亜連合がその存在を調べるしかない。

 秘匿された物は結果的には公表される事は微塵も無く、結果的には大亜連合の中でも魔法技術に差があるのはそれが原因だった。

 

 

「十三使徒が居るにも関わらず、古式魔法を使うのはそれが原因だな。札の意味と使い方さえ分かれば後は何とか出来るからな」

 

「だとしたら、この国に蒼が求める物が有るとは思えないんですけど?」

 

「確かに技術そのものは期待してない。ただ、ここは旧時代から色んな物を取得してきてるからな。本来ならばこの国には過ぎたる物だとしても、所有している物の価値が分からないなんて物がゴロゴロある。今回の目的の一つが正にそれだな」

 

 ホテルにチェックインした後は周辺の探索とばかりに、色々と見て回る。名物の屋台の通りに入った頃、蒼は不意に気になる物があった。

 

 

「アヤ、少しだけ良いか?」

 

「私は構いませんよ」

 

 気になる点心を買っていたからなのかアヤが気が付いてない。

 これは本人も知り得ない事だが、パスが切れた事によって本来であれば蒼が持っている力の一部がそのままアヤに流れ込んだ影響で知覚能力が格段に向上していた。

 しかし、そのアヤが気が付いて無いとなれば、それが異質の物であると判断するのに時間は然程かからなかった。

 

 蒼が気になったのは屋台に隠れる様にも構えた一軒の古書店だった。蒼が本当に気が付いたのは偶然とも言える程に、観光客はおろか地元の住民ですらも気が付いていない様にも思えている。

 まるで吸い寄せられるかの様に蒼とアヤは古書店の中に足を運ぶと、まるで存在を示すかの様に黒い装丁された本が目に止まっていた。

 

 

「店主、この本は売り物なのか?」

 

「ほう。それが何なのかお主には分かるか」

 

 まるで試すかの様な物言いに、蒼は少しだけ違和感を感じていた。売り物かと確認したにも関わらず、見当違いの店主の言葉はまるで売るつもりすら感じる事が出来ない。

 店主が何を考えているのかを考えてあぐねていた時だった。

 

 

「お主が目に止まったなら資格があるのかもしれんな。代金なら不要だ。持って行くがいい」

 

 そう言うと店主は蒼に本を渡す。代金は不要だとばかりにそれ以上は何も告げなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの方は何だったんですかね?」

 

「さあな。ただ、これを渡したいだけだったのかもしれん」

 

 まるで幻でも見ていたかの様な感覚と共に古書店を出たまでは良かったが、改めて行こうとすれば有るはずの店舗は見当たらなかった。

 

 

「結局それは何が書いてあったんですか?」

 

 中身か何なのかを見たまでは良かったが、問題なのはそれが今までに見た事が無い文字で書かれていた事だった。当初は驚いたが、見ていると突如として中身が頭の中へと入ってくる。

 書かれた内容を理解するまでには然程時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこうなってるとはな」

 

 事前情報で錯綜して理由が漸く理解出来たのか、蒼とアヤは香港を直ぐにはなれると同時に上海へと移動を開始していた。

 あの奇妙な古書店で取得した本がもう片方へと誘うかの様に場所を示す。その先に待ち受ける物に予想が出来るも、今はただ向かうだけだった。

 

 蒼とアヤは上海旧フランス租界エリアへと到着していた。大亜連合がまだ中国だった頃の観光エリアは未だ当時の状況を維持していたのか、何処か不思議な感覚があった。

 

 当時の中国の雰囲気を残しながらもヨーロッパの雰囲気が漂うこの場所は100年以上経過しても色褪せる気配は無く、また目的地が何処なのかも既に把握している以上ここで観光をする気にはなれず、今は目的を果たす事しか蒼は考えていなかった。

 

 ホテルにチェックインする前に目的地の最終確認とばかりに周囲を探索する。事前の予想通りなのか、そこには軍や警察の姿は何処にも見えず、まるで探されるのを嫌うかの様にも思える。

 しかし、香港で見つけた本は何かに引き寄せられるかの様に、目的の地へと誘導している様にも見えていた。

 

 

「ここって……」

 

 アヤが驚くのは無理も無かった。未だ整備されたはずの旧フランス租界の中でも目の前にある建物は整備される事もなくただ朽ち果てている様にも見える。一等地のど真ん中で無いにしても、その朽ち果てた建物が明らかにこの界隈では異質だと言わんばかりの様にも見えていた。

 

 

「お目当ての物は多分ここだ。流石にこの時間からここに入るのは少し拙い。夜が完全に迎えてからの行動だな」

 

 万が一の事があれば、ここはある意味では新ソ連よりも質が悪い場所でもあった。

 国としては一つだが、未だに完全に統治されていないこの国では場所ごとに考え方すら異なる。

 本来であれば厳重な警備と施設で保管すべき物がここにある以上、どこからか監視されている可能性も否定する事は出来ず、まさかこんなな場所で魔法を発動させる訳にも行かないのであれば、その行動はある意味当然の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼、今回は私も一緒に行きたいんですが」

 

 時間をただ待つ事なく、これからの事を考え2人で食事をしていると不意にアヤから今回の件に関しての話が出ていた。

 元々は蒼一人でやる事だったので、アヤを連れて行く選択肢は無かった。アヤの内心を図る事は出来ないが、恐らくは新ソ連での出来事がキッカケである事は容易に想像が出来ていた。

 

 

「それは無理だ。今回もだが、最悪の状況だとアヤを護り切る事が難しいかもしれない。俺としては賛同できない」

 

「じゃあ、近くまででも」

 

 普段であれば割と聞き分けが良いにも関わらず、今回に限っては妙に食い下がる。

 アヤの気持ちは分かるが、新ソ連での出来事からすれば今回も恐らくは似たような可能性が極めて高い。一般の魔法師に比べればアヤの能力は比較できない程に高い能力を誇っているが、それとこれは全くの別物でもある。

 探索している物の正体を伝える事も出来ず、今は何とかなだめる方向で話を進める以外に手は無かった。

 

 

「それもダメだ。何で夜動くのかの意味が無くなる。それとこの辺りはまだ物騒だ。女一人で身を護ろうとすれば魔法を行使する事になるが、流石にここでは拙い事になる。大人しく待っててくれないか?」

 

「でも……」

 

アヤとて我儘を言うつもりは最初から無かった。今回の件も間違い無く断る事は予想していたが、その理由があまりにも当たり前すぎていた。

 蒼とのパスが切れた事で多少なりとも分かった部分もあったと同時に、底知れない不安定な気持ちも襲い掛かる。それが何を意味するのかは分からないが、今はそれが何なのかを知りたいとさえ思っていた。

 

 

「……ある程度の事が分かれば、いずれ事の内容を言う。だからそれまでは待っていてくれないか?」

 

「その時は必ず教えてくれるんですよね?」

 

「ああ。それは必ずだ」

 

 既にこれから何が起こるのかはアヤにも何となく分かるが、それでも目の前の蒼が何をどう考えているのか時折分からなくなる事がある。得も知れない焦燥感だけがアヤに襲い掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朽ち果てた建物の扉は蒼を待ち構えていたかの様に音も無くゆっくりと開く。誰も居ない事を確認しそのまま入った瞬間、背後の扉は閉まっていた。

 

 

「さてと……そろそろご対面としゃれこむか」

 

 大広間の様な部屋を確認も碌にせずゆっくりと歩く。建物の中はかなりの時間が経過している様にも見えるが決して埃っぽい様な雰囲気は微塵も無かった。

 おそらくはそれがそうさせているのかもしれないが、今はそんな事よりも目先に起こる事に対処する必要がある。それが何なのかはこの後すぐに理解出来ていた。

 

 目の前には新ソ連と同様に一冊の古びた本が置かれている。前回と同様であればそのまま開くが、今は一向にその気配が無い。これ以上はどうした物かと思った矢先に、突如として持ってきていた黒い本が大きく反応していた。

 

 

『我の眠りを妨げるのは貴様か』

 

 姿が見えないままに声だけが低く響く。あの時と同じではあったが、やはり状況が違うからなのか、蒼は改めて警戒しながらも話だしていた。

 

 

「だとしたらどうだと?お前も俺の糧となれ」

 

 蒼が言い終わった瞬間、2冊の本が突如として燃え出す。そこから出てきたのは燃え盛る炎を纏った馬と重厚な鎧を纏い、大剣を掲げた騎士が佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間の分際で対した実力の様だな。どうやら取り込んだのはまぐれではなかった様だな』

 

 炎を纏った馬が周囲に炎をまき散らしながら蒼を追い立てていた。

 馬は疲れる事を知らず、大剣を掲げた騎士も未だに活発に行動している。魔法に対して物理的な攻撃では相性の問題もあるが、その馬と騎士の攻撃はある意味では厄介な部分が多分にあった。

 

 自分の得意な土俵に出す事が出来ればこうまで苦戦する事は無いが、機動力に物を言わせた攻撃はある意味では厄介な部分があった。現状ではホーミングする魔法だけではこの戦いを勝ち抜く為の火力が完全に不足する。かと言ってそれなりの魔法を放つのであれば、今度はその隙を襲い掛かる可能性しかなかった。

 それが今回の戦闘の際に明暗を分かつ。

 既にどちらかへと向き出した天秤を戻すにはそれなりの労力が必要だった。

 

 

「見た目と動きが違いすぎるなんて詐欺だろ!デカブツはさっさとこの地から消え去れ!」

 

 蒼は言葉と同時に大気を裂く程の一撃を放つ。既に騎士が現れた瞬間から再び限界値を超える様な濃密な空気がまとわりついてた。それが合図となったのか蒼が放った魔法が騎士に当たる寸前、大気の刃は騎士に直撃する事無く消え去っている。

 その正体がなんなのかは考えるまでも無かった。

 

 

「歪曲空間か。中々面白い手品だな」

 

『貴様の攻撃は我には当たらん。このまま塵に還るがいい』

 

 騎士が振るう大剣は直接攻撃をする事は無かった。煌めく刃からは大気の刃がいくつも蒼へと襲いかかる。本来であれば回避すべき攻撃ではあったが、今の蒼には回避する気配すら無かった。

 

 お互いの大気の刃が周囲を吹き飛ばすかの様に荒く吹き付ける。既にそれなりに経過したのか、周辺に壊れる様な形の有る物は全て消滅していた。大気は粉塵を巻き上げ周囲の視界を完全にふさぐ。

 本来であれば危険な状況ではあるが、お互いそんな事には関心すら寄せる事無く再び対峙する事になっていた。

 

 

「そう言うお前も残念だったな。それが出来るのはお前だけの専売特許じゃないんでな」

 

 視界がクリアになると先ほどの攻撃がまるで無かったかの様に擦り傷一つすら存在していない。それが何故なのかは言うまでも無かった。

 

 

『先の力を完全に物にしたようだが、その程度の力で我を屈服させるなど笑止。改めて塵に還るがいい』

 

 現代魔法のエアブリットとは遥かに比較できない程の大気の歪みは一つの物質の様にも見えていた。単純に一直線に飛ぶ可能性は全く無く、これまで戦って来たのと同様に追撃する可能性が高かった。

 

 大気で作られた巨大な槍の様な塊が蒼に襲いかかる。単純に防ぐ事は可能ではあるが、万が一の事も考慮したのか防御の為の魔法を行使しながらも回避行動に移っていた。

 巨大な槍の様な塊は蒼が展開した魔法障壁に直撃した瞬間、障壁は破壊されると同時に衝撃波が襲い掛かる。この時点で蒼の予想の範疇だったのか、直撃こそは避ける事ができたものの想定外の衝撃は蒼に襲いかかる。

 完全にダメージを流しきれなかったのか、蒼の腕の皮膚が大きく裂けたのか大量の血が流れていた。

 

 

「……そうか。その程度なのか」

 

 呟く様に出した言葉と同時に裂けたはずの傷が一気に修復されていく。現代魔法の定義から外れたそれは正に人外とも言える状況に騎士は僅かに認識を変えていた。

 

 

『貴様。その魔法はどこで取得した』

 

「答える義理は無い。お前には失望した。お前こそ塵に還れ」

 

新ソ連で放ったそれと同じ魔法が大剣をかざした騎士と炎を纏った馬を同時に攻撃する。光の弾丸が貫くと同時に、蒼の言葉通り塵へと還り始めていた。

 

 

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