厄災の魔法師   作:無為の極

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第32話

「当初の予定よりは遅れたが、結果オーライって所だな」

 

 新ソ連と大亜連合での目的達成までの道程が思いの外順調だった事に蒼の機嫌は終始良くしていた。

 

 

「まさか海外に行ってああまで行動するとは思いませんでしたね」

 

「基本的に魔法師の渡航は本来であれば手間がかかるからな。今回みたいな手が早々使える訳でも無いさ」

 

 帰国して直ぐに向かったのは金沢にある一条家。最終日の前日入りで顔見せが夏休みの最後の予定となっていた。

「よお、相変わらず暇なのか?」

 

「あのなあ。折角出迎えに来てその言い草は無いだろ?お前の所と同じで九校戦の出場者は課題が免除されてるんだよ」

 

 態と言った言葉ではあるが、そこに陰湿な空気は無かった。既に蒼と将輝の間に隔たりは無い。お互いの軽口はまるで挨拶の様な感覚が存在していた。

 

 

「将輝、これ以上ここに居ても仕方ないよ。蒼だってまだ用事があるんだし」

 

「そうだ、剛毅さんは会社か?」

 

「親父ならそうだけど、何かあったのか?」

 

 突如として言われたものの、朝の時点で将輝は剛毅から何も聞かされていない。蒼が剛毅の名前を出すなら間違い無く仕事絡みである以上、将輝には縁の無い事だった。

 

 

「ちょっと確認したい事があってな」

 

 蒼の考えはこの場にいた誰もが想像出来なかった。事実として蒼はIMSの主任研究員である以上、会社に向かっても何ら変な事は無い。夏休みも最終日に近い事から4人は会社へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、これから始めるぞ。準備は良いか?」

 

「いつでも大丈夫です」

 

 IMSで最初にやった事はアヤの魔法力のテストだった。

 既に一高でも上位に入る成績を収めているのは将輝や真紅郎も知っている。本来であれば魔法力が短期間で上昇する事が稀な為に、今回の能力テストには少しだけ疑問を持っていた。

 

 

「最初はこれからだ」

 

 蒼が用意した物はデコイとなる的だった。

 本来であれば単純に魔法を発動させて破壊するが、今回の用意されたのは1個だけでなく全部で30個。予想外の多さに将輝だけでなく真紅郎も驚いている。

 

 動かない的であるにもかかわらず、全部に照準を合わせるのがどれ程難しいのかをこの2人は知っているからこそ、今回用意された数が常識から外れていた。

 用意された的のうち、5個だけを残して一瞬にして破壊される。それはアヤが発動した魔法が狙って破壊した結果でもあった。

 

 

「なるほどな……じゃあ、次はこれだ」

 

 次に用意されたのは同じ的だが、今度は散らばるのではなく縦にまとまっている。恐らくは威力を測定する為だとは思ってはいるが、その数はやはり尋常ではなかった。

 アヤがCADを操作すると同時に周囲から熱エネルギーを奪った事によって出来た個体が一気に的を貫いて行く。その結果もまた2人が驚く要因となっていた。

「なあ蒼、なんでアヤさんの能力がこうまで上昇したんだ?」

 

「今はまだ言えない。その時が来れば話す」

 

「参考に聞くけど、あれはCADをチューニングしたんじゃ無いよね?」

 

「CADは何も手を付けていないな。単純に本人の能力の上昇だと思うぞ」

 

 これまで実戦を経験した将輝からすれば、アヤの使用した魔法が極ありふれた物でしか無かった。

 通常で考えれば殺傷能力は高くてもC程度の物。元来はそれほど高い物ではないと言った認識しかない。

 しかし、今目の前に発動した魔法はありふれたとは到底言えない威力を誇っている。

 とてもじゃないが、殺傷ランクは優に一段か二段は高いその魔法は、それがどの場面でどう行使されると、どんな結果を生むのかは考えるまでも無かった。

 

 

「あの、どうでした?」

 

「ああ。想定内の結果だった。念の為に測定器で確認した方が良いだろうな。将輝、真九郎、悪いがここから先は2人にさせてくれないか?」

 

「分かった。俺とジョージはカフェテリアに居るから」

 

将輝と真紅郎は疑問を持ちながら、蒼は確信めいた表情でお互いの目的の場所へと足を運んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりだったか。もう上着着ても良いぞ」

 

真っ先に向かったのはIMSにある測定器だった。新ソ連と大亜連合での結果、アヤと蒼を繋げたパスの一部が分断された事により、念の為に確認する必要があった。

 事実、測定した結果は蒼が予想した通りの内容だった。

 

 

「春の測定よりも全体的に反応速度、干渉力は格段に上昇してる。これなら実技試験の結果は大幅に見込めるだろうな」

 

「でも、何でこんな結果が?」

 

 蒼の言葉にアヤは疑問しか無かった。今の状態だけを言うならば、パスが切れた事位しか無い。

 それがどんな結果を生み出すのか迄は理解の範疇の外でしかなかった。

 

 

「原因は俺とのパスが切れ、元々の性能がそのままアヤに残っただけだ。お互いの身体能力を維持させる事だけに使われていたのが、今度はアヤの為だけに使われているのが一番の要因だな。

 実際にエーテル体もアストラル体も以前よりも良くなってる。これなら将輝の相手は厳しいかもしれないが真紅郎なら互角になるかもな」

 

 蒼の説明は尤もだが、それだけで納得できる物は無かった。しかし、実際に魔法を行使すると確かに反応速度が格段に良くなってるのはアヤだけで無く、この場に居ない将輝と真紅郎にも分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、確認したい事があったんだけど、最後の懇親会に居なかったのはどうしてなんだ?」

 

 IMSでの用事の後、蒼とアヤは真紅郎と一緒に一条家で夕食を取っていた。

 アヤの両隣には茜と瑠璃が並び、まるで姉妹の様に姦しい雰囲気で団欒が進んでいるのか、終始和やかな空気が漂っていた。

 

 

「予定していたフライトと重なったんだ。どうせ仲良く話しをする程度だったんだろ?事前に通達はしてあるから問題は無かったはずだ」

 

 将輝は事前に蒼から九校戦の後の日程は簡単には聞いていたが、何処に行ってるのか迄は聞いていない。

 あの後の一高が何かやっていた程度は知っているが、それは他校の話しなだけに、それ以上の事は何も分からなかった。

 

 

 

 

 

 

「ここって何処なんだろ?」

 

「良いな~私も行きたいな。景色もすっごく綺麗だよね」

 

将輝が風呂から出ると、そこには茜と瑠璃が手元の端末を触りながら何かを見ていた。

 

 

「お前達、何見てるんだ?」

 

「これ?これならアヤさん達が行ってきた所だって。お兄ちゃんも見る?」

 

 そう言いながら瑠璃から渡された端末に写った画像はドバイのホテルと香港、上海の写真だった。

 何処へ行ったのかを知らない以上、この場所が何処にあるのかを判断する事が出来ない。

場所が何処なんだろうかと思った瞬間、不意に将輝の手が止まる。突然止まった手だけでなく視線が何かを一心不乱に見ている事を不審に思ったのか、茜は将輝が見ていた画像を後ろから覗き込んでいた。

 

 

「うわ。お兄ちゃん最低~」

 

 茜の一言で将輝は漸く後ろから見られていた事を察知していた。目に止まっていたのはアヤの水着姿。

 惜しげも無く晒された身体に青地に白のハイビスカスが鮮やかにプリントされたビキニの写真は将輝の意識を奪うには過ぎた内容だった。

 旧時代とは違い、今の日本はどこか封建的な部分が存在していた。江戸時代にあった貞淑さやその規律が大戦以降に見直された事もあってか、現代事情では余程の事が無い限り肌が露出する様な服装は殆ど無い。

 

 画像の元となった国が日本では無い為に、そんなお国事情は全く関係無いとばかりに写ったその画像は、いささか将輝には刺激が強すぎていた。

 場所が何処なのかを知らないのであれば、こんな格好で大丈夫なのかと思う程だった。

 

 

「ち、違う。ちょっと驚いただけだ」

 

「え~。だってガン見してたし、鼻の下も伸びてるよ」

 

 茜の言葉に慌てて鼻の下を隠したが、その行為は暗に認めたのと同じ事。そんなつもりは無かったが、妹から言われた事で将輝は弁解の余地は無かった。

 

 

「将輝どうかした?」

 

「真紅郎君、お兄ちゃんがアヤさんの…」

 

「ちょっと待て茜!それは…」

 

口止めしようと将輝が動いたが、距離があったからなのか茜の言葉を止める事が出来ない。茜から耳打ちされた事で何を聞いたのか、真紅郎の将輝を見る目は冷たかった。

 

 

「将輝、人の事言ってる場合じゃないよね、これ」

 

 

「だから誤解なんだよ」

 

 一つの画像をめぐり、将輝は真紅郎と妹二人の糾弾を受ける。そんな中で当事者でもあったアヤがお盆に麦茶を載せて居間へときていた。

 

 

「騒がしいけど、どうかしたの?」

 

「お兄さんがアヤさんの写真を…」

 

「あ、茜!今度、欲しかったあれ買うから」

 

「え~。でもどうしようかな~」

 

「アヤさん、これって何処に行ってきたの?蒼からは何も聞いてないから知らないんだけど」

 

 流石にこれ以上は将輝が気の毒だと判断したのか、真紅郎の強引とも取れる方向転換で会話を断ち切る事に成功していた。

 

 

「これはリゾートホテルのプールよ。場所は私も詳しくは知らないの」

 

 まさかドバイと言う訳にもいかず、場所の件だけは誤魔化す必要があった。恐らく本当の事を話しても問題無いとは思っても、今度はどうやって渡航したのかを説明する必要が出てくる。

 そんな考えがあったからなのかアヤはそれ以上の事は言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「態々お手数おかけして申し訳ありませんでした」

 

「君達の事だ。何か考えがあっての事だろうから、それ以上気にする必要は無い。それよりもここだけの話なんだが、新ソ連で何か起きたのか?確か今回の計画の中にも渡航先にあったはずだが?」

 

 一条家は十師族の中でも北陸方面の守護の役割がある。これまでの戦いの中で尤も苛烈だった佐渡の防衛戦は3年が経過したものの、記憶にはまだ新しかった。

 この時に初めて蒼と共に新ソ連を撃退した事もあってか、一条家の中には新ソ連はある意味鬼門の様な部分が多分にあった。

 

 

「いえ。特に何が起こっているのかはニュースで知った程度です。ただ…」

 

「何かあったのか?」

 

「いえ。これは自分の勘ですが、恐らく新ソ連はこれまでの様な戦争を仕掛ける可能性は低いかと考えます」

 

「で、その根拠は?」

 

「すみません、今はただ勘であるとしか……ただ、何となくですが国の空気が地震が起きてから変わった様にも思えます」

 

 地震の原因は、まさか自分が原典奪取の際に戦った思念体との成れの果てだと言う訳にもいかず、恐らくはその事を話したとしてもにわかに信じる事が難しい事は蒼にも分かっている。

 今はその力が自分の中で沈黙している以上、それを口にするつもりは毛頭無かった。

 

 

「そうか。我々としてはあの戦いを公的に認めていない以上、相手の所属は不明となっている。君がそう言うのであれば多分そうなんだろう」

 

 いくら身内に近いと言ってもどこか見えない部分で確実に線引きしているのを剛毅は感じていた。

 本来であれば十師族の当主でもある剛毅の前で虚偽の報告などはあり得ないが、これもまた蒼の性格であると同時に、ビジネスパートナーでもある。

 会話の内容は次第に新ソ連からビジネスへと移り変わっていた。

 

 

「そう言えば、例の感応石の件だが、主任研究員の立場としてはどう思う?」

 

「例のローゼンとの件であれば断った方が良いかと。そもそも我々のコンセプトとローゼンのコンセプトは真逆です。勿論魔法師としての力量も重要ですが、それはあくまでも補助装置があっての話。

 国益に基づく事を勘案すれば、契約はしない方が良いかと思われます。それならば国内企業でもあるFLT社の方がまだマシかもしれません。何と言っても向こうにはトーラスシルバーも居ますから」

 

「なるほどな。ただ、商売敵が商売相手なのは中々皮肉が効きすぎてるかもな」

 

 深海から取れる海洋資源はIMSの一番の商品なのは既に魔法師の業界では常識となりつつあった。

 元来の物と比べるまでもなく魔法師の力量を補助装置を付けるだけで底上げが出来る。今回の九校戦でのアプローチがその最たる物であれば、こちらとしては態々出向く必要はどこにも無い。

 既に代表が剛毅であるのは知っている事もあってか、ほぼ毎日の様に商談のアポイントが入っていた。

 

 

「その辺りは役員会の議題にかけてみてはどうでしょうか?」

 

「そうする様にしよう。その際には今の発言も議事録に乗るが、構わないな?」

 

「それは構いませんので。そろそろ時間も遅いですし、今日の所はこれで」

 

 既に時間はそれなりに経過していた。居間と剛毅の居る居室は距離がある為に喧噪は聞こえないが、これ以上ここに居るのは申し訳ないと思ったのか、蒼は話を一旦中止しこのまま帰るつもりだった。

 

 

「折角だ。今日は真九郎君もいるし、ホテルをキャンセルしたらどうだ?」

 

「家族団欒に我々が居るのは気を使うかと」

 

「どのみち夏休みも最後だ。我が家の事なら気を使う必要は無いだろう」

 

 剛毅にそう言われると、蒼としてもそれ以上の事は何も言えなかった。元々ここにはアヤの能力の確認と今回の旅券に関する報告の為だけに来たにしか過ぎない。

 そんな事を考えていた矢先の言葉に蒼はそのまま受け入れる事にした。

 

 

「分かりました、では、お言葉に甘えて今晩はここに逗留させて頂きますので」

 

こうして今夜は一条家に逗留する事が決定していた。

 

 

 

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