厄災の魔法師   作:無為の極

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第33話

 茜と瑠璃の提案で、夏休みの最終日は地元でブラブラする事が決定していた。

 九校戦が終わってからずっと日本に居なかった事もあってか、久しぶりに和食が恋しいからと食事を兼ね、先日の将輝の名誉の為に茜が口を開かなかった報酬を買う為に繁華街へと足を運んでいた。

 

 

「お兄様ありがとうございます」

 

 一条家は魔法師の家系だけで無く、地元でも有数の名家である為に一歩外に出れば淑女としての振舞いが要求されていた。

 勿論、剛毅の性格から考えるとそんな事を言う筈もなく、結果的には美登里の教育の賜物でもあった。

 

 

「大事な妹の為だ気にするな」

 

 昨日の経緯が分からない蒼とアヤは何時もの事だと何も言う事は無かったが、真紅郎と瑠璃は笑いを堪えていた。

 

 これが何でも無い友人であれば面白可笑しく言う事でこの場が盛り上がる可能性はあるが、流石に水着の画像をガン見して鼻の下が伸びているなどと言うのは、友人と言うよりも同じ男性として気の毒であると言った感情の方が優先していた。

 ましてやそれが蒼の耳に入ればアヤからはドン引きされ、蒼の口からはどんな言葉が飛び出るのかが容易に想像出来る。

 瑠璃に至ってもまさか兄の醜態を世間に広めたいとは思っておらず、結果的には自分の利益と2人の笑いの種を提供をしただけに留まっていた。

 

 

「茜ちゃん良かったですね。でもどうしてまた?」

 

 茜の手には普段から愛用しているブランドの紙袋が2つあった。

 何故そうなったのかを知らないアヤからすれば、こんな半端な時期に服を購入するのは珍しいと考えて茜に質問したが、その答えを口にしたのは将輝だった。

 

 

「大事な妹の我儘を聞くのも兄としての度量の内。夏休みの最終日に折角皆んなで出たので有ればと思ってね」

 

「なあ、誰も聞いてないから何時もの様に話したらどうなんだ?毎回思うが、その話し方は気持ち悪い」

 

「あのな……まあ、色々あったんだよ。それ以上の事は聞かないでくれ」

 

 よほど話したく無いのか、将輝は蒼に対し口を割るつもりは無いと思った矢先だった。

 この時点で将輝は失念していた。あの場に居たのは茜だけでは無い。もう一人居たはずだった。

 

 

「茜ちゃんには良くて、私には無いんだ。アヤさん、昨日の話しはね…」

 

「ちょっ、ちょっと待て!瑠璃にも…瑠璃にも欲しかった物を買うから!」

 

「え?良いの!やった!欲しい物はね……」

 

 将輝の叫びと共に財布の中身は一気に寂しさを感じる事となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼さん。ご馳走様でした」

 

 将輝は想定外の出費が祟ったのか、予定していた食事は蒼の払いとなっていた。

 そもそもが久しぶりに和食が食べたいとの要望から始まった事もあり、まさかファミレスと言う訳にも行かない事だけでなく、一条の兄妹は世間でも顔を知られている。

 せめて食事位は落ち着いて食べた方が良いだろうと判断したからなのか、店もそれなりに格調高い場所となっていた。

 

 金沢は元々新鮮な海の幸が堪能出来る事からも出された料理のレベルは総じて高く、またそれに比例する様に値段も手頃とは言い難い場所だった。

 

 

「でも良かったんですか?」

 

「何がだ?」

 

「結構なお値段のようにも思えました。お刺身も美味しかったですし、出てきた物はどれも新鮮でしたから」

 

 アヤが言う様に出された料理の全てが新鮮そのものの魚が使われていた。

 確かに和食に違い無いがこんな場面であればもう少しお値打ちな店でも良かったのではと考えていた。

 

 

「例の新製品の関係でボーナスも出てるし、稼ぎもある。アヤは気にしなくても良い。ここは俺が予約したんだし、最初からそのつもりだったからな。普段は中々動け無いんだ。偶には良いだろう」

 

 最初から決まっていたと言われればそれ以上の事は何も言えない。蒼からハッキリ言われた事でアヤはそれ以上の事は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楽しい時間はアッと言う間に過ぎ去ろうとしていたのか、既に時間は太陽が沈む間際になろうとしていた。

 時間的にはそろそろ東京に戻る時間となりつつある。そんな中でふと思い立ったかの様に将輝が口を開いていた。

 

 

「次に会うのは論文コンペだな」

 

「コンペ?真紅郎は分かるがお前はどう関係するんだ?」

 

「あれ、知らないのか?モノリスの出場者は全員その年の警備をする事になってるんだ。だからお前も打診があるはずだぞ」

 

「マジか?」

 

「そうだ。そんな事で嘘つくメリットは無いからな」

 

 何気に言われた言葉ではあったが、蒼は何も聞いてなかった。恐らくは最終日に言われた可能性はあったが、現時点では確認する事は出来ない。

 勿論、将輝がそんな嘘を吐くとも思え以上それは間違いでは無い事だけは理解出来た。

 

 

「毎年、優勝した学校が警備隊長してるから、今年は十文字さんがやるんじゃないかな」

 

 十文字の名前に蒼は少しだけ顔を顰めていた。これまでの事を考えると、決して友好的とは考えにくい部分が多分にあった。

 

 

「十文字がねぇ。なあ将輝、一つ聞きたいんだが十師族ってのはそんなに重い物なのか?お前も一応は次期当主だろ?」

 

 突然の質問に将輝だけでなく、真紅郎や茜までもが驚いていた。この国に於いて十師族は魔法師コミュニテイの頂点とも言える存在。

 この国に限らず魔法師であればその存在意義は説明するまでも無かった物。

 そんな当たり前の事を聞かれた事で将輝は暫し固まっていた。

 

 

「どうした急に?」

 

「三高は知らんが一高は割とそんな家が多いせいか、やたらと大袈裟なんだよ。モノリスにしてもだが実力と態度が合わない輩が多すぎる」

 

 世間での評判と個人の評価は別物である。家柄が重視されるのは仕方ないが、それは先人の努力の結果であって本人は関係無い。

 常に義務や権利を押し付ける人間を蒼は好きにはなれなかった。

 

 

「お前と比べたら殆どがそうじゃないのか?」

 

「事実を知れば言えないんだかな。しかし警備なんて鬱陶しいだけなんだがな」

 

「学生だし仕方ないよ。そんな事よりも蒼は出ないの?」

 

 これ迄の話を切ったのは真紅郎だった。将輝と違い、真紅郎は本当の意味での蒼の戦闘能力は知らなかった。

 以前に見せられた魔法の事を考えれば確かにその能力は特筆すべきものであるが、それよりも気になったのが戦闘能力に関してだった。

 

 直接見た事は一度も無く、精々がモノリスでの戦いでしかない為に将輝と剛毅から聞き及んだ程度だった事からも、十師族の批判とも取れる発言に危うさを感じていた。

 恐らく佐渡の真相を聞けば確実にそれが口だけでない事になるのは間違い無いが、それを口に出来るのは目の前の将輝か親の剛毅しか居ない。

 いつか将輝から聞いたクリムゾン・プリンスの言葉の意味がどんな物であるのかは現時点では何も分からないままだった。

 

「さあ?どのみち学生が主役なら三年の誰かが出るんじゃないのか?そもそも俺はハード面であってソフトじゃない。それなら適任者も居るだろうな」

 

 真紅郎はそんな蒼の言葉に少しだけ安堵していた。

 社会に出て魔法師の仕事をする以上、本来ならばその分野の一流でなければ主任研究員にはなれない。しかし、謙遜なのか自己評価が低いのか、蒼はあっけらかんと言った言葉は常人では考えにくい発言でもあった。

 

 

「真紅郎、誤解が無い様に言うが本当に世界で選ばれる者は超一流だけだ。それ以外は凡人と同じ。単にそれだけの話にしか過ぎないんだよ」

 

 真紅郎の考えが読まれたかの様にも思える発言ではあったが、冷静に考えると、それは当たり前の事でしか無かった。

 国際魔法協会で定めた規定の数値だけが全てではない。事実、世間で超一流と言われる人間はもれなくその規定に当てはまらないのは周知の事実だった。

 学生のうちは総合的な能力にとらわれるが、世間では結果が必ず求めれられる。少なくとも真紅郎も研究所にいる為に、その理屈だけは何とか理解していた。

「しかし、コンペは何かと注目されてるのは理解できるが、それが全てだと思うのは早計だろうな。理論と実践、理想と現実には大きな隔たりがある。その辺りの着地点をどこに持っていくのかで内容は変わるんじゃないのか?」

「確かにそうかもしれないけど、研究なんてものは本来自由であるべき物だよ。確かに世間にフィードバックできないのであれば揶揄されるかもしれないが、論文コンペはあくまでも研究理論を重視するのが建前だからね」

 論文コンペは毎年場所を変えて横浜と京都の魔法師協会で開催される。しかし、真紅郎が言うように会場によっては論文の内容は大きく影響されるのもまた事実だった。

「あの、私たちの事忘れてない?」

「そうです。今日で夏休みが終わりなんですから、そんな議論は通信でやってください」

 茜と瑠璃の言葉に2人は話に夢中になっていた事を失念していた。

 確かに最終日に話す様な内容では無い事は理解しているが、蒼と真紅郎もまた将輝と同様に高水準での理論の話が出来る人間が同世代では居ない事も手伝ってか、些細な議論が結果的にはディベートへと発展するケースもあった。

 恐らく茜と瑠璃が止めなければこのまま議論が続いた可能性だけが存在していた。

 気が付けば将輝とアヤは何かを探していたのかこの場には居ない。そんな中で蒼の端末が鳴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また明日から学校か。これを機に言っておくが、今後の件だが冬と春の休みも改めて動く事になる。念の為にそれだけは頭に入れておいてくれ」

 

 金沢を出て、蒼とアヤは一路自宅へと移動する為にリニアに乗っていた。従来の公的機関を利用すればそれなにり時間がかかるが、リニアであればそれ程の時間はかからない。

 既に時間が遅かった事もあったからなのか、周囲に乗客の姿は殆ど無かった。

 

 

「そう言えば、今回の新ソ連と大亜連合以外でどこかへ行くんですか?」

 

「ああ、これから詳しい調査をする必要があるが、恐らくはEUとUSNAの可能性が高い。ただ、詳細を知る為には少し時間が必要になるな」

 

 これまでの顛末は移動中の飛行機の中でアヤも聞いていた。

 当初は信じられない様な考えもあったが、蒼が確信し行動しているだけでなく自分自身も体感している以上、既に疑う気持ちは微塵も無かった。

 あまりに現実離れした内容に間違い無いが、これまでの経緯を考えるならば理解した方が全ての内容がしっくりくると考える事も出来た。

 

 

「あまり無理はしないでほしいんですが」

 

「無理はしたつもりは無い。ただ、それが必要だから行動するだけだ」

 

 今回の内容は概要だけが記されたが詳細は何も語られていない。ただこれまでの蒼と休みの期間中の蒼の状態が大きく変貌している事だけは理解だ来ていた。

 今回の一条家では誰も気が付いていなかった様だが、以前の様に想子の反応は極めて小さい物で無い事からも何となく伺いしれる。

 それがどんな結果をもたらすのかは誰にも分からないままだった。

 

 

 

 

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