厄災の魔法師   作:無為の極

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第37話

 

「さっきのってひょっとして……」

 

 先ほど蒼が出した虎がもたらした物が何をしたのかエリカはそれ以上口に出す事はなかった。

 このまま強引に突入すれば誰かしら負傷する可能性が否定できない以上、蒼が取った行動は最善の一手だったのは理解出来る。しかし、その方法がこの場にいた全員の斜め上の結果だった。

 

 

「ひょっとしなくてもそうだ。だが、相手の持ってる獲物からすれば合理的だぞ。仮に無理矢理動けば誰かしら負傷者が出る。ここでのそれは致命的だからな」

 

「そうれは分かるけど、もう少しやり方があったんじゃない?」

 

 エリカはそう言いながら青い顔をした美月達を見ていた。遮音障壁が展開された事で直視していないが、何が起こったのかは想像出来る。エリカはその音を聞いたからこそ蒼に確認していた。

 

 

「ハッキリ言うが、春の様な展開にはならない。既に外も囲まれている可能性が高いとなれば、これは最早戦争だ。エリカもそれ位の事は理解してるだろ?」

 

「……」

 

「一応言っておくが、世間が言う所の国際法は戦闘時には何の効果も無い。目撃者が居て相手がいて、それから判断するのは戦争が終わってからだ。それまで命の保証なんて物は存在しない。だから下手に生かす位ならそのまま完全に処分した方が手っ取り早いんだ。

 今回のこれがどんな目的なのかすら分からない以上は最低限のリスクに抑えるのは当然だろ?仮に白旗上げた所で待っているのは捕虜と言う名の蹂躙しかない。

 この国以外からすれば日本の魔法師の遺伝子は優秀らしいからな。今はどうやって生き残るかを考える方が建設的だと思うが」

 

 蒼の言葉に反応したのは女性陣だった。優秀な魔法師の遺伝子を持った人間の末路は考えるまでもなかったのか、全員の顔色が変わっている。外から感じるそれはエリカに限った話ではなく、その場に居た全員も蒼の言葉が真実である事を理解していた。

 玄関から僅かに見える外の状況はどこからか上がっている黒煙がそれを無理にでも認識させている。蒼が言う様にこの地は既に戦場へと突入し始めていた。

 

 

「このままだと埒が明かない。この近くで情報を確認出来る場所を探す必要がある。幾らなんでも行き当たりばったりではどうしようも無いからな」

 

 ここが戦場となっている以上、この場に留まるのがどれ程のリスクに繋がるのかを理解していたのは蒼だけではなかった。既に達也も周囲の情報を確認した上に現在地に居る為に、一刻も早い情報の収集が急務となっていた。

 情報が無ければ次にこの地に横たわるのは自分達となる。達也としては最悪は深雪だけ護れば事足りるが、この場ではそうも言ってられなかった。だからこそ今の流れを断ち切るかの様に言葉を口に出していた。

 

 

「ここならVIP会議室がある。政財界の会合にも使われるから大抵の情報が分かると思う。そこなら何か分かるかも」

 

 先ほどまでの惨劇から回復したのかその場所の存在を告げたのは雫だった。既にここが戦場であれば最悪の状況から脱出するにも必要な物が何なのかは言うまでもない。

 今は雫の言葉を優先し、それぞれが再び目的地へと走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これって……」

 

「嘘……」

 

 VIP会議室で確認した光景は蒼が言う様に既に一方的な侵略を受けている様にも見えていた。

 既に公共の交通機関は麻痺しているだけでなく、その場所そのものが侵攻を受けている。それが何を示すのかは考えるまでも無かった。

 

 

「状況は予想以上に悪いな。脱出するにも一苦労かもな」

 

 蒼の言葉が全てを物語っていた。脱出しようにも公共の交通機関が麻痺している以上、移動する手立ては徒歩しかない。既に玄関先でも遭遇した様に相手はパワーライフルを装備している以上、今は戦闘を避ける様に移動するしか無かった。

 

 

「って事はシェルターに移動?」

 

「ああ。だが、地下通路は必ずしも安全とは言えない。俺達は陸路で移動した方が良さそうだ」

 

 エリカの提案は極当たり前の事でもあった。幾ら魔法師とは言え、戦場を経験している人間はそう多くなく、また実戦経験済みだとしてもこのメンバーを引き連れての移動となれば警戒しながらの行動になる。

 幾ら手慣れた人間が居たと仮定しても、やはり何かあった際にどんな行動を起こすのかが分からないのであれば最悪は足を引っ張られる可能性が高く、その結果最悪の未来が待っている事だけしか今は見えなかった。

 

 

「だが、移動の前に少しだけやるべき事がある」

 

「何かあるんですか?」

 

「デモ機のデータを処分しておきたい。相手の目的がデータの取得の可能性もあるからな」

 

 侵略の目的が未だ分からない以上、現時点で考えられる事を優先した結果だった。このコンペのデータも魔法科高校だけの物として扱う事はなく、秘匿された情報を元に構築された理論が使われている。既に各分野からも注目を浴びている以上、このデータはある意味垂涎の的でもあった。

 データの流出は現時点で一番あってはならない事である以上、誰もを達也の言葉に異を唱える者は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんはどうしてここに?」

 

 デモ機の場所の扉が開いた先には既に真由美や摩利だけでなく、他にも何人もの人間が居た。達也と同じ事を考えていたのかその場にいた五十里は既にデータの削除の手続きを開始していた。

 

 

「デモ機のデータの削除です。本来であれば研究の結果をこの様に廃棄するのは惜しいのですが、今はそうも言ってられません。情報や技術の流出だけは避ける必要性がありますので」

 

 今回の一高の発案者でもあった鈴音は今回のメインの発表者。その人間が致し方ないとばかりにデータを廃棄するにはある意味勇気は必要となる。

 これまでに自分の構築したデータは自分の身体の一部の様にも感じるのはその場にいた達也だけでなく、研究職でもある蒼も理解していた。

 

 

「達也君。済まないが他のデモ機のデータを削除してくれないかな」

 

「分かりました」

 

 既に断続的に振動が響くその場所がどれほど危ういのかは嫌が応にも理解出来る。ここでの時間のロスが今後の影響を及ぼすのであれば即座に行動した方が早いからなのか、すぐさま行動に移そうとした矢先だった。

 

 

「司波、赤城もか。どうしてここに?」

 

「ここでデモ機のデータを削除する為に来ました」

 

 既に全員が退避したのか、今は一部の生徒以外にこの場に居たのは十文字と服部、沢木だった。元々警備だった事もあってか逃げ遅れた人間が居ないのかを見回っていた様だった。

 

 

「そうか。既に中条達は地下からシェルターに移動している。お前達はどうるつもりだ?」

 

「データを削除してから行動しようかと。しかし、地下通路からのシェルターへの移動は些かリスクが高く、地上からの移動を考えています」

 

 何気に出た地下通路の言葉に達也が真っ先に反応していたからなのか、今後の可能性が即座に告げられてた。

 それが何を意味するのか理解したのか、服部と沢木はすぐさま後を追いかけて走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これだけのデータを破棄するとなれば時間がかかりそうだな。でもこれってそのまま壊せばいいんじゃないのか?」

 

「馬っ鹿じゃない。仮に壊してもハードディスクを復元したら意味無いでしょ」

 

「じゃあ、1台づつやるのか?」

 

 五十里に言われ他校のデータを破棄する為に少し離れた場所へと移動したまでは良かったが、既に準備された物を含めると、それは膨大な量となっていた。

 本来であれば各自に連絡を取ってからやるのが一番だが、この緊急事態ではそれすらかなわない。となればやるべき事は一つだけだった。

 

 

「仕方ないだろう。蒼、すまんが少し良いか?」

 

「いや、ここはレオの言う通りだ。面倒だから物理的に壊せば早いと思うが」

 

「だよな!絶対その方が早いって!」

 

 蒼の言葉にエリカだけなく達也もさっきの言葉を理解していなかったのかと疑いたくなっていた。

 研究者でもある蒼とてそれがどんなリスクを孕んでいるのか理解しているはずにも関わらず、物理的に壊すと言った方法を取った意味が理解出来なかった。

 

 

「要は復元出来ない状況になれば問題ないんだろ。悪いが全員少し離れてくれ」

 

 その言葉と同時に蒼は一つのCADを起動させる。それが何を意味するのかはその場に居た全員が直ぐに理解出来ていた。

 全てのデモ機が一個づつ球体の障壁に包まれたと思った瞬間、突如として内部が赤く光る。それが魔法である事は辛うじて理解したが、目の前で行使されたそれが何なのかは誰も理解出来なかった。

 球体の障壁が消えた瞬間、僅かに残った熱量が風となって周囲へと消え去る。その後に残された物は塵一つ無かった。

 

 

「今のは……魔法……なんですよね」

 

「ああ。全部が一瞬にして蒸発したから何も残らないから問題ないだろ」

 

 美月の言葉が正しいとばかりに蒼は簡単に発言していたが、その魔法を目にした人間は驚愕以外の何物でもなかった。

 しかし、その魔法を目の前で見ていた達也と鈴音だけはそんな風には見ていなかった。

 

 

「あの、赤城君。今の魔法は?」

 

「展開した魔法障壁の中で水素の重陽子を加速させて中性子と取り出した物をそのまま加速させただけだ。あの中の温度は10億度を超える。心配しなくても全てが蒸発したから何も残らないから安心しろ」

 

 余りに簡単に言われた言葉ではあるが、それは目の前で中性子反応を利用した超高熱魔法だった。

 本来であれば極めて可能性が高い高効率熱エネルギー理論ではあるが、実際にはそれを立証しようとすれば膨大な資金と広大な施設が必要となる内容だった。

 本来であれば一人だけでやる様な代物ではなく、複数のA級魔法師が行使するそれを個人でやった事はこの場でなければ直ぐにも確かめたい内容。それが示す物が何なのかは2人以外には理解出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今後の事なんだけど、このままここに留まるのは危険すぎるからすぐにでも脱出するしかないんだけど、問題はどうるかなのよね」

 

 VIP会議室には再び重苦しい空気が漂っていた。既に画面に映し出された状況は主要の幹線道路が封鎖、若しくは占拠されている。このまままともに行けばどうなるのかは考えるまでも無かった。

 

 

「七草、俺は少しここから抜ける。アヤはここで皆と同じ様に行動してくれ」

 

「赤城君!ちょっとどこ行くつもりなの?」

 

「将輝の所だ」

 

 それ以上の言葉を聞くつもりはないとばかりに蒼は会議室から一人走り出していた。 将輝には伝えてなかったが、あのイヤーカフスにはCADとしての機能だけでなく、所有者のバイタル信号も発信していた。

 ここに来るまで気が付かなかったが、蒼に届くバイタルは既に平時の物では無く、極限にまで高められた緊張感を示している。

 それがどんな状況なのかを考えるまでも無い。恐らくは三高も既に攻撃を受けての戦闘が開始されているのは間違い無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後どれ位かかりそうだ」

 

「せめて30分程あれば」

 

 将輝達三高の人間もこの地から避難すべくここまで来たバスで脱出を図ろうとしていた。

 本来であれば何も問題無いはずが、突如としてバスのタイヤがパンクした事によってこの場からの離脱が困難な状況に陥ってた。悪い時には悪い事が重なるのか、既にテロリストに発見された事により、将輝を中心の有志での防衛戦が始まっていた。

 いくら戦場では大火力を備える可能性が高い魔法師と言えど、この場では実戦を経験していない只の高校生には荷が重すぎていた。

 将輝を除くすべての人間は攻撃するよりも先に自身とバスを護るべく情報強化によって防戦だけに留まっていた。

 戦闘中に幾ら大火力を持っていたとしても攻撃の心配が無ければ恐れる道理はどこにも無い。それを分かったからなのか、将輝が事実上一人でテロリストと対峙せざるを得なかった。

 

 

「ジョージ!バスはまだなのか」

 

「もうすぐだ。それよりも将輝の方こそ大丈夫?」

 

 真紅郎の心配は銃弾が直撃する事による負傷のリスクでは無かった。将輝は反撃の際にテロリストの頭部を爆裂の魔法を行使して次々と破裂させていく。

 戦場では極当たり前の光景も、やはり高校生には刺激が強すぎたのか、有志の人間が一人また一人とショッキングな光景に戦意を失いつつあった。

 もちろん将輝としても攻撃の方法を選びたいとは思うも、これが今の時点では最適な攻撃方法に変わりは無く、結果的にバスへと戻る人間はまるで化け物でも見るかの様に将輝に視線を向けながら去っていた。

 

 

「これは仕方ないさ。俺だって佐渡での戦いの際にはこんな物だったからな。今さら後悔した所でどうにもならん」

 

 真紅郎との会話を続けながらも将輝はひたすら相手が退却するまではこの戦線を維持できるのか少しだけ不安があった。

 将輝とて佐渡で実戦は経験しているが、それはあくまでも周囲のサポートが存在したからこその結果でしかない。真紅郎も時折インビジブル・ブリッドで攻撃するが、あくまでも援護でしか無かった。

 既に時間が経過し始めた事に焦りが出たのかテロリストは次の行動へと実行する。地面から湧き出た何かが将輝達に襲い掛かろうとしていた。

 

 

 

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