厄災の魔法師   作:無為の極

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第43話

 

「結局のところはあの魔法が何だったのかは分かったのか?」

 

 今回の戦いを一方的に決着付けた魔法の正体は不明のままだった。蒼もいつもならそうまで気にならないが、やはり遠目からとは言え直接見た以上は気にはなっていた。

 一条家であれば多少なりとも軍部にも顔が効くからといった極めて可能性が低い希望に賭けていた。

 

 

「いや。いくら確認しても何も回答はなかった。完全に機密事項にしてるんだろうな」

 

「だろうな。俺だって同じ立場なら確実に秘匿する」

 

 一高だけでなく三高も同じく数日間の休校が余儀なくされていた。今回の戦闘そのものに関してはあまり干渉していないが、やはりバスのタイヤ交換の隙を狙われた行為は一部の使徒には少なからず影響を与えた結果だった。

 いくら将来はそれなりの道に進む可能性があるとは言っても、まだ魔法師としてはヒヨコでもなく卵の状態。既に魔法が現代に使われる様になってから100年程が経過しているが、実際にはまだそのメカニズムが完全に解析された訳では無い。

 些細なキッカケで魔法が使えなくなる事が多々ある事からの措置はある意味では当然のは配慮だった。

 

 

「しかし、あの魔法は確実に戦略級であるのは間違いないよ。もし、あれが通常の魔法として行使されるなら間違い無く十三使徒の仲間入りだろうね」

 

「十三使徒ねぇ……抑止力だと思っている人間がどれ程いるのか疑問だな。今回の件は少なくとも大亜連合が関与しているではなく、明らかに侵攻である以上は、何らかの国際的な措置は取るだろうな。でなきゃこの時点で世界中から袋叩きにあうのは間違いないだろうな」

 

「その件はどうやら極秘会談でお互いの侵攻をしない事での条約を結ぶらしいって話だな。今の時点でうちが大亜連合に攻め込む必要性はどこにも無いからな」

 

 一条家に着くと、やはり真紅郎も来ていた。三高や一高の話を他所に今回の顛末の予想をお互いが立てている。今回の事変は明らかに一方的な侵略行為であると同時に、日本がまだ大亜連合と和平交渉をしていなかった事実を改めて国民に突きつける結果となっていた。

 その影響があったからなのか、今回の件で既に官邸の前には大規模なデモが発生していた。

 

 

「実際に近代兵器が機能不全か、もしくは役に立たない事が実証された以上、今後は魔法師の見方は確実に厳しいのは間違い無いな。簡単に殺せる能力を持った人間が何の制約もなく町中を歩くなって事になれば、今度は人間主義の反魔法師団体が騒ぐだろうからな」

 

 この時点で魔法師の認識はこれまでとは違って一気に塗り替えられていた。事実、デモの中には魔法師と一般人の差別化や人権に関する話がいくつも上がっているのか、既にこの短期間でのマスコミの内容の大半はそれに関してだった。

 江戸時代に武士が刀を帯刀して歩くのと大差ない。当時とは違い、今はそれが非常識であると考える事が当然である以上、それは仕方の無い事だった。

 これまでの様な何となくではなく、確実に兵器としての役割をもたらす事は間違い無い。希少価値が高いそれが更にどうなるのかは考えるまでもないものの、現時点ではただの一学生がそこまで政治に首を突っ込む必要無いのも間違いでは無かった。

 

 

「そんな事よりも今日はなんでここに?態々来る必要は無かったんじゃないのか?」

 

「ちょっと確認したい事があったから来たんだ。悪いが、また少しだけ借りるぞ」

 

「ああ」

 

 将輝に一言だけ要件を告げる。将輝はそれを察したのか、それ以上の詮索は何もしなかった。蒼とアヤは再びCADの調整室へと足を運んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリカに使った際にどんな感じだった?」

 

「タイムラグはありましけど、結果は同じでした」

 

「そうか。それと今の段階ではまだ気にする必要は無いが、今後時間と共にCADの操作はしなくても同じレベル位までは発動する可能性が高い。面倒かもしれないが、今後はその点に注意してくれ」

 

「分かりました。でも。そうなると最終的にはCADの操作が不要になるんじゃないですか?」

 

「最終的にはそうなるな。現状はCADに魔法式をインストールして発動時間を短くする様にするが、将来的に使う時には気を付けるしかない」

 

 CADの調整は名ばかりで、実際には『無限の世界』を行使した際に感じた魔法の発動に関してだった。いくら親しいとは言え、将輝と真紅郎の本当の事を話す訳にもいかず、現状を把握する為には調整室の隣にある部屋で魔法を実際に行使するのが手っ取り早かった。

 事実上のCADの操作を必要とせずともかなりの威力を発揮するとなれば、何かと問題が生じる可能性が高い。既に一高が休校している以上、蒼はここで確認するしか無かった。

 

 

「今回戦ったのが目的の一つだった物だ。あと残すは一つだ。それが完了すればそれで終わりだ」

 

「そう……ですか。いよいよなんですね」

 

「ああ。時間がかかったのは仕方ないが、これは結果的には良しとするのが一番だからな」

 

 蒼の言葉にアヤの表情は暗くなっていた。それが何を意味するのかを知っているだけに、その未来が何を示すのかを考えたくは無かった。

 既にその結論が決まっている以上、今のアヤにはどうする事も出来ない。

 来るであろう未来がいつまでも来ないでほしい。そんな感情だけがアヤの胸中を支配していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しだけ聞きたい事があるんだけど」

 

「何の事だ?」

 

 休校明けに蒼は真由美に呼び出されていた。話の内容は聞くまでもなく、あの時の事。当初は無視する事も考えたが、あの時にこちらも言うべき事を失念したからと蒼は人気の無い場所で真由美と会う事になっていた。

 呼ばれたのは生徒会室。既に人払いされてたのか、その場に居たのは当事者でもあった真由美と摩利の2人だけだった。

 

 

「呂剛虎と対峙した後の事よ。あなたの使っていた魔法は何?少なくとも私の知る範囲であんな魔法を行使できるなんて聞い事が無い。何を隠してるの?それとあの化け物は一体なんなのよ?」

 

「魔法は魔法だろ?なんでお前らに一々説明する必要があるんだ?今回来たのは俺もその件で言いたい事があったから来ただけだ」

 

 真由美と摩利があの後感じたのは既に既存の魔法の範疇を大きく逸脱している点だった。

 魔法に関しては秘匿する部分もあるが、呂剛虎の後に出てきたあれは既に化け物だと言わざる得ない。にも関わらず既に知っているかの様に戦っていた蒼は何なのか、興味を通り越して既に畏怖すら感じる部分が多分にあった。

 

 

「あの戦いの件に関してだが、今後誰かに公言するのであれば、遠慮なくその命を刈り取らせてもらう。それが仮に十師族の人間であってもだ」

 

「なっ……」

 

 聞きたい事に関しては回答を得られるとは思ってなかったが、まさか逆に脅されると思ってもなかったのか真由美は少しだけ呆然としていた。蒼が出した十師族の言葉だけでない。あの時見た魔法がどれ程の殺傷能力を有しているのかを身をもって体験している。 目の前に襲い掛かった魔法師が短期間で灰塵と化した現象が全てを物語っていた。いつもとは違う雰囲気が2人に冷や汗を呼んでいた。

 

 

「魔法は個人のパーソナリティなんだろ?だったら見なかった事にするのがお互いの為だと思うが、それでもまだ知りたいのか?」

 

 既に蒼の目には殺意が存在していた。仮にこの場に他の人間が居た所で役に立たないのは間違い無かった。

 いくら現代魔法の発動速度が優れていると言ってもCADを操作する瞬間に魔法が行使されているのであれば、既に比べる以前の話となっている。この時点で2人はCADを所持しているが、蒼は所持していない。本来であればCADの所有は絶対的なアドバンテージとなるはずだが、あの戦いを見た2人からすればCADを操作しない魔法の行使は既に常識を超えている。

 ましてや確実に命を刈り取ると宣言している人間の目の前で今さら抵抗する事は最早無駄以外の何者でも無かった。

 

 

「因みに聞くが、それを知ったらどうするつもりだ?」

 

「この場で処分するだけだ」

 

 摩利の言葉に冷徹に答える。その言葉が全てを物語っていた。

 

 

「…そうか。ならば私達はそれ以上の事を詮索するつもりはない。真由美もそれで良いだろ?」

 

「摩利……」

 

 何時もの様な空気は既に存在してなかった。平和なはずの生徒会室に死が充満し始める。これ以上の詮索をすれば答えが無くとも実行する様な空気を察知したのか、それ以上の言葉を口から出すのは憚られていた。

 

 

「警告は二度しない」

 

 蒼の背後には以前に見た女性の様な騎士が大きな鎌を持ち、いつの間にか姿を現していた。気配を微塵も感じさせないそれが確実な死をイメージさせるのか、女性の騎士は鎌を何気に横に振るう。何も無かったはずの空間を伝播したのか2人の首には赤い筋が刻まれていた。

 

 

「それが証だ。公言、若しくはそれに準じたと判断した瞬間、その赤い筋を中心にお互いのパーツは勝手に離れて行く事になるだろう」

 

「ちょっと待て!私達が信用出来ないと言うのか?」

 

「信用はしている。ただ信頼していないだけだ。それは俺の存在がある限り続く。嫌ならこの事は直ぐに忘れる事だ」

 

 死刑宣告と変わらないそれに戦慄を覚えていた。元々公言するつもりは毛頭ないが、首に刻まれたそれが本当に事実なのかを実行する程の度胸はどこにも無い。既に真由美と摩利には関心を示さなくなったのか、言いたい事だけを言った蒼はそのまま生徒会室の出口に歩み始めている。

 唐突に起こった内容に驚愕したからなのか、2人は蒼の行動を妨げる事無くこの場は終了していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリカちゃん大変でしたね」

 

「いや~アヤの魔法が間に合ってなかったら私は今頃ここに居ないよ」

 

 呂剛虎の強烈な一撃はやはりエリカを死の間際にまで追い込んでいた。事実エリカが警察病院で意識を取り戻した際に、兄の寿和と修次が心配げな目で見ていただけでなく、医者からも運ばれた際の症状を聞いた際には半ばあきらめていた部分も存在していた。

 魔法で治療した脾臓と膵臓の破裂による出血性ショックはアヤの魔法によってギリギリのレベルにまで血流が制御されるだけでなく、体温も魔法によって限界にまで下げた事が功を奏した結果だった。

 これまでの様な治癒魔法の概念であらば既に手遅れだったものの、運ばれた時点で破裂は修復されていた事から、結果的には増血する事で元の状態へと戻していた。

 

 

「私がした事は大した事じゃないですよ。エリカの生命力があっての話ですから」

 

「でも、エリカが生きていた事は事実よ。アヤはもう少し自信を持っても良いと思うけど」

 

「深雪の言う通り、謙虚になる必要はどこにも無いと思う」

 

 魔法師の血統を重視した結果なのか、臓器に関しては事前の診断で問題事は確認されていた。千葉の名前が絶大だったのか、エリカは警察病院の中でも秘匿された状態で暫くの間過ごす事になったのは、ひとえに輸血ではなく自己増血の手段を選択した結果だった。

 未だマスコミが魔法師の有り方について報道している以上、幾ら警察病院と言えど、完全にプライバシーを守る事が出来るのかすら現状では分からない。ましてや輸血をせずに治療するその行為が外部に漏れれば、更なる批判が起こる可能性を考慮した結果でもあった。

 エリカの退院を聞きつけたのか、既にアヤと美月だけでなく、深雪や雫にほのかといつものメンバーがそこに顔を出している。元々魔法で治癒した事もあったのか、エリカの身体にメスが入る事は無かった。

 

 

「でも、そんなに凄い魔法をどうして今まで使わなかったですか?」

 

「使わなかったんじゃなくて使えなかったの。あの時に試しやってみたら出来ただけだから」

 

 何気に聞かれた美月の言葉にアヤはそれ以上の事は何も言えなかった。事実を話す訳にもいかず、またそれがどれほどの内容の物なのかは自分が一番理解している。当初運ばれた際にもCTで撮影した際に、腹腔内部に血が溜まっているのは確認出来たものの、臓器に何の損傷も無かった事から、救命救急は混乱していた事実がそこにあった。

 結果的に医者がやった事は腹腔内部の血液の除去とそれを活かした自家輸血のみ。

 それ以外のやるべき事は何も無く、精々が傷痕を残さない様に処置しただけに留まっていた。

 

 

「美月、それ以上はアヤも困るから」

 

「そうですね。でも何事もなかったんでしたら、結果的には良かったですね」

 

 アヤの困惑した表情に気が付いたのか、深雪がフォローに入る。個人の魔法技能は詮索すべきでは無いのがマナーとなっている。確かにアヤが行使した魔法がどんな物なのかは深雪も以前に蒼が行使していた事もあってか、多少驚く事はあったが、それ以上の事に関しては詮索するつもりは無かった。

 

 深雪は春の戦いの際に達也が半ば無意識に視た蒼のそれが何なのかもやんわりと聞いている。

 画一的な魔法とは違い、明らかに異質な治癒魔法が同一レベルで使える物なのかと言えば、答えは否でしかない。当時その可能性を達也にも問うもやはり回答に困っていたのはまだ記憶に新しかった。あれほど明晰な達也でさえも分からない魔法は明らかに異質だと言っているにも等しい。

 考え出せばキリがない。今はただエリカが何事も無く退院出来た事に深雪は意識を向けていた。

 

 

 

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