厄災の魔法師   作:無為の極

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第45話

「随分と面倒な事になってるみたいだな」

 

「まさかこうまで大事になってるとは思いませんでしたけど」

 

 仮面の者とエリカの激闘が終わる頃、蒼とアヤはこの場に迫る何かを察知していた。

 本来であれば気が付ける要素はどこにも無いが、未だ上空に留まっていた事からもその状況はハッキリと見えていた。

 2人が見たのは数人の集団が先ほどの場所めがけて移動している事だけ。それが何を意味しているのかは分からないままではあるものの、その尋常では無い雰囲気に疑問を持つには十分すぎていた。

 

 

「…警察だけじゃないな。七草と十文字、どうも連携している様子も無い。各々が捜しているのか?」

 

 時間の経過と共に、先ほどのエリカと仮面の人間が交戦していた場所へと集まっている。上空から見る状況は一目瞭然ではあるが、その詳細までは何も分からない。既に目的の物が無いのであればそのまま帰るしかなかったが、それぞれの表情はどこか必死な様相に蒼は少しだけ様子を見ようかと考えていた。

 眼下にはお互いが見つからない程度の距離で周囲を探索している。何が目的なのかは本人に確認するのが手っ取り早いと少しだけ考えていた。

 

 

「…いや。勝手にやった方が楽だな」

 

 目的が分からないにも関わらず話を聞く事になれば、こちらの目的をある程度開示する必要が出てくる。正体不明の物を探す場合は一定の協力は必要となるのは間違い無いが、そもそもの結論が違うだけでなく、最悪は何かしらの情報が漏洩する可能性も否定出来ない。

 既に一度探索に成功している以上、他の事は放っておいても問題ないだろうと考えなおしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは確か……」

 

 一度探索に成功してからはパラサイトの探索は容易になっていた。最大の理由は一度確認した際に、当時の情報をそのまま利用した事によって探索時に同系統の物を識別した点だった。

 これまでにも何度か探索した際に、エリカや七草などのチームは完全に捜しきれなかったのか、その姿を見る機会は殆ど無かった。そんな中で一つの反応が示す。その先には以前見た白い仮面とは違う仮面を付けた者が何かと戦っていた。

 

 

「以前に見たのとは違う様ですね」

 

「しかし、どう見てもあれはパラサイトを捕獲か抹殺しようとしている。折角だ、こちらの予想出来る物か確かめるぞ」

 

「はい」

 

 上空を漂う2人の眼下で戦っているその光景は明らかに不自然な様に見えていた。最大の理由は片方はCADらしき物を使用しているが、もう片方はそんな気配すら感じられない点だった。

 これまでに目視で確認した結果、明らかにそれが目的の物なのは間違い無かった。このまま見ている訳にもいかず、その結果蒼はパラサイト側に就く事を決めていた。

 

 

「すまないが、貴様はここで退場願おうか」

 

 パラサイトと思われし人物と、それを追跡していた人間が突如聞こえた声にその場で立ち尽くしていた。

 いくら周囲を見渡しても声のする範囲には人影すらないだけでなく、この場所の周辺には隠れる様な場所すら存在していない。既に接近している事は間違いないが、それがどこなのかを特定する事は出来なかった。

 隠形を解いた蒼はまるでその場に湧き出たかの様に姿を現す。それは両者の中間地点での出来事だった。

 

 

「貴様は何者だ。今はその後ろの物を捕縛する為の作戦中だ。そちらこそ退場してもらおう」

 

 仮面を付けた人間は敢えて抑揚が無い様に話をする。突然現れたその存在が敵である事だけは言葉で理解しているが、現時点でどんな能力を所有しているのかが分からない以上迂闊な事をせず、まずは警告していた。

 

 

「それはそれは。だが俺も生憎とこの後ろの人間に用事があるんでな」

 

 突如現れた闖入者と仮面の人間のやりとりを見たパラサイトは自分に意識が向いていない事を悟ったのか、直ぐに撤退の準備を始めていた。

 

 

「態々逃がすとでも?」

 

 蒼の言葉と同時にパラサイトの身体は突如として動かなくなっていた。魔法を行使するのであればCADの操作は必須となるが、お互いが対峙した時点でそんなそぶりはどこにも無い。

 一体何が起きたのかを理解するまでに時間はさほど必要としなかった。

 

 

「この者は私が捉えました。目的は達成しましたのでこれで失礼します」

 

 蒼とは違う誰かの声が響く。元々の姿をそのままに捉えると何かと都合が悪いからと2人の様相は何時もとは大きく異なっていた。

 蒼は何時もの黒髪ではなく鈍く光る銀髪に燃え盛る炎をイメージする様な赤い瞳に褐色の肌。一方のアヤもいつもの黒髪ではなく黄金の絹をイメージさせる様な金髪に、瞳もまた何時もの翡翠の様な緑ではなく海の様に深い青色をしていた。

 

 

「このまま逃がす訳にはいかないのはこちらも同じだ。ならば実力行使で引き取ろう」

 

 お互いが誰なのかは分からないままに、その場の空気だけが重苦しくなっていく。

 既に仮面の人間は交戦するつもりなのか、その殺気を隠すつもりは全く無かった。お互いは対峙こそするもこれはルールがある試合ではない。何かの合図が有る訳でもなく仮面の人間が一方的に蒼に対し熱線を放っていた。

 

 

「なるほど……お互い実力行使といくか」

 

 現時点でお互いが対峙しているが、この2人には大きな差があった。この仮面の人間が以前エリカと戦っている場面を蒼は上空から見ている。

 その時点でどんな魔法を行使し、その威力がどれ程の物なのかは大よそながら予測出来ていた。しかし、一方の仮面の人間は突如現れた人間がどれほどの能力を有しているのか判断出来ないだけでなく、その背後にまだ居る為に迂闊な攻撃を仕掛ける事が出来ないでいた。

 今は一対一ではなるが、いつ何時二体一になるかは予測出来ない。既に相手方に目標物でもあるパラサイトが手中にある以上、今は撤退する事すら阻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なのこいつは!」

 

 仮面の人間の正体でもあったアンジェリーナ=クドウ=シールズは聞こえない程度に悪態をつきたくなっていた。以前に対峙したエリカや達也だけでなく、今目の前にいる銀髪の男は明らかに先の2人とは違っていた。

 今回の最大の作戦でもあるパラサイトの捕獲作戦は日本には気が付かれない様に極秘裏に進める必要があった。体面的には同盟国ではあるものの、技術面に関しては明らかにライバルとしての側面が強い。事実、USNAは日本に対し、魔法技能が大きく劣っている事を実感していた。

 横浜の魔法や実際に一高に短期留学と称した潜入で、この国がどれ程の魔法力を有しているのかを肌で感じている。しかし、今の自分からすればまだまだヒヨコか卵の程度。唯一同じクラスの深雪だけが自分の能力と対等だと感じていた矢先だった。

 

 

《聞こえますか。このまま時間をいたずらに消耗するのは得策ではありません。最悪は離脱も視野に入れて下さい》

 

 アンジェリーナは耳から聞こえる通信に少なからず苛立ちを覚えていた。自分はスターズの総隊長でもあり、世界で13人しか居ない十三使徒に数えられた人間。そんな肩書を持つ人間に対し、個人戦での撤退命令は事実上の負けに等しい言葉だった。

 

 

「私が負けるとでも?」

 

《そんなつもりはありません。ただ、このままではこの戦闘を嗅ぎつけられる可能性が高いと判断した結果であって、少佐には何ら問題ありません》

 

 既に何度も魔法を行使しているが、全ての魔法がまるで最初から無かったかの様に消滅するだけでなく、時折残った魔法も当たる事無くそのまま弾かれていた。CADすら扱わない魔法をまるで当たり前の様に行使する男は、本当に人間なのかとアンジェリーナは少しだけ考えていた。

 

 

《少佐。申し訳ありませんが時間切れです。今回の件は一先ず撤退です》

 

「現場の指揮権は私に有るはず!」

 

 その瞬間だった。どこからともなく催涙弾が落ちた瞬間に煙を発生させていた。耳からの通信が切れると同時に複数の人間がアンジェリーナを保護するかの様に攫っている。

 あくまでも撤退命令を優先させた結果である事は明白だった。

 それと同時に対峙した男に対し攻撃を当てる事で時間を稼ぐ。それが最終判断による行動となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ。もう終いか」

 

 蒼は対峙している最中にもかかわらず横槍を入れた人間に邪魔された形となっていた。 既に催涙弾は煙を出している為に収束して他に飛ばす事すら出来なくなっている。そんな中で僅かに感じた殺意に反応していた。

 

 

「少し俺を舐めた事を後悔させるか」

 

 背後に鎌を携えた騎士が姿を現していた。煙幕で姿は見えないが、現れた騎士にはそんな事は関係なかった。複数の内の2人に対し鎌の斬撃を飛ばす。知覚する事も許されないそれは確実に着弾した事でそれ以上追いかける真似はしなかった。

 

 

「さて。一旦場所を変えよう。また湧いて出てこられても困るからな」

 

「分かりました」

 

 蒼はその言葉と同時に姿をかき消す。先ほど捉えたパラサイトもまた人知れず移動させる形となっていた。

 

 

「貴様がパラサイトか。見た感じこの国の人間では無い様だが?」

 

 両腕だけでなく両足までも縛った状態で蒼は人気のない場所で尋問を開始していた。一度幹比古から妖魔の類である事は聞いていたが、実際にどんな物なのかは確認しない事には判断する事が出来ない。ましてや話だけでは理解出来ないからと捕縛の為に行動していた。

 

 

「貴様に答える必要はない」

 

「そうか。確か話によると貴様は思念体の一種で、この人間は単なる宿主なんだよな?」

 

「…………」

 

「沈黙もまた肯定だ。となれば中身を取り出すか」

 

 蒼は人差し指をその人間に対し縦に振り下ろす。その瞬間、パラサイトに寄生された人間はまるで鋭利なメスで斬られたかの様に真っ二つになり、お互いの身体は逆方向へと離れていた。その瞬間、何かの思念体が飛び出すと同時に蒼へと襲いかかっていた。

 

 

「蒼!」

 

「心配するな。この程度なら問題無い」

 

 思念体は無抵抗の蒼へと寄生すべく糸の様な物を伸ばす。本来であればそこから一気に寄生するはずの思念体はそれ以上の事は出来なかった。

 突如として思念体は苦しみ出したかのようなイメージと同時に、そのまま消滅していく。突然の出来事に何が起こったのかを理解したのは蒼だけだった。

 

 

「なるほどな。これだったら多少の使い道はあるかもしれん」

 

 既に真っ二つになったパラサイトの入れ物だった身体は黒い炎に包まれ消滅してる。その内容に満足したのか、蒼はそれ以上の事は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして邪魔をした!越権行為にも程がある!」

 

 撤退を余儀なくされたアンジェリーナは待機させていた車に乗り込んだ瞬間怒りを露わにしていた。本当の事を言えば、まさかこうまで苦戦するとは思ってもなかったのか戦闘中はどんな魔法でさえも当たる予感は一切しなかった。

 日本に来る前に情報を収集した十文字家のファランクスに匹敵する障壁はいかなる魔法も拒んでいるだけではなかった。時折ナイフを投げ集中力を削ごうとするも、そのナイフは褐色の男の眼前で、まるで勢いが死んだかの様停止し真下に落ちている。可能性があるのであれば自身が行使する分子ディバイダーかヘヴィ・メタル・バーストしか無いとまで思えていた。

 

 

「シリウス少佐。お気持ちは分かりますがあのままでは警官か若しくはそれ以外の連中が来ます。事実、あの後数分で警官が現地にいましたので」

 

「なぁに少佐。今度見つけたら倒せば良いだけですよ。あんな奴時間さえ制限が無…け…れ…ば」

 

 客観的に事実だけを述べられた事によりアンジェリーナはそれ以上の事は何も言えないままだった。既に変装用の魔法を解いただけでなく服も着替え終えている。そんな状況を確認した瞬間だった。

 一人の部下の首に突如赤い筋が浮かび上がる。その瞬間その男の首は血を噴き出しながら胴体からもれなく分離し黒い炎が燃え盛っていた。

 

 

「どうした!…直ぐに消火しろ!」

 

 突如発火した事態に車内は一気に騒がしくなっていた。いくら移動中とは言え、魔法が行使された形跡はなく、目の前にいた部下は間違い無く先ほどまで何も問題が無かったはずだった。

 

 

「少佐は下がって下さい」

 

「ダメだ!火が消えねぇ!」

 

 魔法を行使し消火しようにも黒い炎はそれを拒絶する様に燃えていた。車内に引火しなかった事だけが僥倖ではあったが、先ほど何が起きたのかを目の前で見ていた人間は想像する事も出来ない。それが何を意味するのかを理解出来た者は誰一人居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ今のは?」

 

「魔法の兆候は?」

 

 炎が消え去った今でも何が起こったのかを理解した者は誰もいなかった。魔法にしてもこんな内容の物は何一つ知らない。

 先ほどの黒い炎も通常の炎の概念を大きく逸脱している。撤退の際に煙幕を張った以上、それがどんなプロセスで発動したのかを知る術はなかった。

 

 

「お、お、俺は確かに見た。黒い炎が起こる寸前にあいつの首に赤い筋が走ったんだ」

 

「馬鹿な。そんな魔法など聞いた事が無い」

 

「嘘じゃねぇ!あの赤い筋の通りに首は切断されたんだ。それが俺の首にも……」

 

 その男はそれ以上の言葉を発する事は出来なかった。なぜならば先ほどと同じ光景がまるで再生したかの様に繰り返されている。

 既に黒い炎はまるで何も無かったかの様にその人間を消し去っていた。突如として起こった魔法が何を意味するのかを感がる余地はどこにも無かった。

 死神がまるで鎌を振るったようにしか思えないその現象は既に人智を逸脱している。仮に対峙した人間が放ったと推測されるのであれば今回の任務は更に過酷になる事だけが残された人間が唯一理解出来た事だった。

 

 

 

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