厄災の魔法師   作:無為の極

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第61話

 

「またなのか?」

 

「はい。今回も恐らくは示威行動の可能性が高いかと」

 

 USNAは公表こそしていないが、ここ最近になって頻繁に示威行動とも取れる行為を何度も許していた。破壊された航空機の中でも使える物だけをピックアップし、使える様にしたまでは良かったが、今度は肝心の燃料が底を付きかけていた。

 

 同盟国でもある日本からも建前としての物資の供給は成されていたが、あくまでも防衛に関する面についてだけだった。当初は全面的な支援の下での契約ではあったが、USNAも事実を公表しなかった事が災いし、現地入りした際に初めて今回の惨劇とも取れる状況が今後の防衛に於いて厳しい結果しか生まない事だと理解させられていた。

 その結果、派遣された当初はかなり険悪なムードが漂っていた。事実上の近代兵器が何も無い状態であれば、何かが起こった際には日本側が全面的に行動に出る事になる。幾ら条約に基づく行使だとしても、最初から騙すつもりかと言われればUSNAとしても弁解する余地は無かった。

 そんな中での折衷案として、使用可能な部品を完全に分けた上での兵器の再構築までの条件付きで日本側が兵器の使用を特例措置として運用する事にしていた。

 

 

「だと良いがな。ここ最近はかなり頻繁に来ている。まるで我々の軍備の確認をしている様にも思えるがな。で、所属はやっぱりか?」

 

 バランスの率直な意見に情報官も同じ事を考えていたのか、それ以上の事は口にはしなかった。事実、今スクランブルで飛んでる機体はUSNAの物。IFFでは確認出来なくても接近した際にどこの国の戦闘機なのかは一目瞭然だった。目視で確認するも国籍を示す物は何一つ無く、飛んでくる機体はその国の軍隊でも配備している平均的な物。

 このまま頼り続ければ自国に兵器は存在しないと喧伝しているに等しい。そんな思惑があったからこそ無理にでも飛ばす必要性があった。

 

 

「確認した所、その可能性が極めて高いと」

 

「随分と高いツケを払わされているな」

 

 敵機は既に防衛ラインを大幅に離れていたからなのか、既に周囲には何も映っていない。挑発なのか、それとも確認なのか。

 今の軍部にそこまで詳細を確認する術はどこにも無い。出来るのは万が一に備える事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな話があってたまるか!何故、今になってそんな話が出てくるんだ!」

 

「自分とて聞いたのは、つい先程の事ですから」

 

 剛毅の目の前には七草の当主でもある弘一がこれまでに見た事が無い様な表情で糾弾していた。臨時での師族会議の際には原因不明だった事実が、突如として判明された事に驚きはあったが、問題なのはその中身だった。

 

 剛毅は悩んだ末に自分の先輩でもある七草弘一に相談を持ち掛けていた。今の状況を考えると確実に一条は師族会議の中でも異端扱い、若しくは糾弾される可能性がある事は間違い無いと判断した結果だった。当初は弘一も剛毅に対し世迷い言だと一笑に付したが、剛毅が見せたそれに対し、弘一の表情は一気に変わっていた。

 臙脂に金箔が捺されたファイルが何を意味するのかは考えるまでも無かった。本来であれば一個人がそんな物を持っているはずがない。しかし、剛毅の手に握られたそれが偽物だとは考える必要が無かった。

 

 七草家としても色んなチャンネルを各方面に持っている為に、今回の件に関しても非公式ながら一個人に対し何かしらの約定を示した事だけは知っていた。内容はともかく、それを一個人がやったとなれば、それが元で何かしらのトラブルが発生する可能性も高い。

 これが師族会議の場で無くて良かった。そう考えると同時に弘一は一つの懸念事項を考えていた。今の時点で誰がやったのかは分からないが一条の手の者である以上、巨大な戦力ともなりうるだけでなく、時期を考えると来年の師族会議での選定に大幅な変更が余儀なくされる可能性が高くなる。そんな考えがあったからこそ剛毅に対し糾弾していた。

 

 

「……だとして、それをどうするつもりだ?」

 

「七草殿。いや、弘一さん。自分は正直な所、序列そのものに大きな関心は持っていません。当人の言葉を信じるのであれば、火の粉がかからなければ何もしないと聞いています。だとすれば、このままにしておくのが一番かと」

 

「その言葉に信憑性がどこにあると?今の話だと、事実上自分の行動先に障害があったから排除しただけにしか聞こえない。USNAは事実上の一夜で崩壊した様な物だ!そんな気まぐれに近い理由で起こったのであれば、何かしらの措置を取るのが当然だろうが!」

 

「では、誰がその役割を果たすと?有体に言えば、相手は強大な国を一瞬にして亡ぼす力を持っている訳です。少なくとも自分と彼の間には信頼があります。が、鈴をつける行為はそれを侵害する事になる。一条家当主としてでなく、一個人として言わせて貰えば恩義に感じて今に至るのであれば、それ以上の事は出来ません。やれば確実にこの国は滅びます」

 

「十師族としての立場を失う事になってもか?」

 

「先程の言葉通りです。()()()その程度の事に、この国を差し出す様な真似は出来ないので。それとも、弘一さんは己の我を通してこの国の崩壊を望まれますか?」

 

 剛毅の言葉と実直な視線に、弘一はそれ以上の言葉が出なかった。大国を一夜にして崩壊させる能力があるのであれば、この国など一瞬でUSNAの二の舞にとなるのは間違い無かった。

 剛毅は口にこそ出さないが、その根拠は既に佐渡での戦いで証明され、自分の目で確認もしている。当時の規模であの戦果であれば、大国を崩壊に追い込んだ今回は更に苛烈な事に違いなかった。

 仮に個人に対し十師族が事を起こせば、その影響力は計り知れないだけでなく、日本の国内に大きな火種がある事を世界中に知らしめるのと同じ意味でもある。事実、今回の災厄に関しては七草の表の仕事でもあるベンチャーキャピタルや政界にまで大きく波及している。既にこの国も宣言こそしていないが、事実上の戦時中であるのは魔法師であれば誰もが理解している。だからこそ、大学や高校に関しては即戦力となるべき人材の確保の為に、これまでとは大きく方針を転換している事実があった。

 

 一旦話が途切れたからなのか、弘一も冷静になりつつあった。何をどう言おうが剛毅は間違い無く意見を曲げる事はしない。これ以上の言葉は無駄であると徐々に思い始めていた。

 元々十師族はこの国を防衛する為に創立された組織の様な面が多分にあった。事実、十師族に連なる家はそれぞれの範囲を監視し、保護する役割を持っている。国を護る存在が国を破壊する原因となれば、少なくともこの国での魔法師はまともな生活を送る事は困難になるのは容易に想像出来る。

 幾ら法律で取り締まっているとは言え、それはあくまでも抑止力であって防衛は出来ない。一部の地域では魔法師と一般人の見えない対立がある地域が少なからずある以上、剛毅の言葉に対し、弘一は反論すべき材料は何一つ無かった。

 

 

「この件に関しては改めて老師とも話合いをする必要があるだろう。近日中に再度、臨時での師族会議が開かれるのは間違いないな」

 

「是非も無し。ですね」

 

 時間にしてどれ程が経過したのか、通信が切れると同時に剛毅は疲れ切った表情を見せていた。一方的に四葉に対しライバル視している事実が、どんな結果をもたらすのかは予想していたが、まさかこうまで感情を表すとは思っても居なかった。

 度重なる師族会議でも衝突するのは日常茶飯事に近い。自己顕示欲から来る物なのか、それとも個人的なしがらみから来る物なのかは考える事すら無駄だと思える程だった。

 しかし、それと同時に、自分が弘一に対し放った言葉もまた事実だった。佐渡での自分達が施した恩義は実にささやかな物でしかない。これまでに一条の家にもたらした物を考えれば、ある意味ではこちらが恩義に報いる必要があると考えていた。

 そんな中で不意に思う部分があった。息子の将輝は事実をどこまで理解しているのだろうか。既に時間も遅くなっている。明日にも一度確認した方が良いだろうと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かあったのかしら?」

 

「さあ?でもあんなに激昂しているのは初めて見た様な……」

 

 七草家では珍しく弘一は厳しい表情を浮かべながらブランデーを煽る様に飲んでいた。普段であれば自室にこもる事が多く、食事でさえも一緒にする事は数える程しかない。そんな日常が大きく変わったかの様にリビングに居る姿は真由美だけでなく香澄や泉美に取っても珍しい光景だった。

 ここに居れば何かしらのトバッチリを食うかもしれない。そんな考えが蔓延したのか、3人はこの場から離れようとしたした矢先の事だった。

 

 

「真由美。一高に特異な魔法を使う生徒はいたか?」

 

 弘一の言葉に真由美は暫し言葉を失っていた。特異な魔法の言葉に該当するのは2人いる。一人は自分が目にかけていた人物。それともう一人は自分に呪詛をかけた人物。それ以外に該当する人間は居ない。

 先程まで誰かと自室で会話していたはずが、突如としての言葉に理解が追い付かない。どうしてそれが今になって出てくるのかが真由美には分からなかった。

 

 

「どうして急に?」

 

「少しばかり確認したかっただけだ。他意は無い。で、該当する人物はいるのか?」

 

 何時もの様な冷静さが今の自分の親には無いのだと真由美はそう感じていた。何かしらの自己顕示欲が強い事は知っているが、それとこれがどう繋がるのかが判断出来ない。

 父親の目的は不明だが、今その該当する人物の名前を出せば自分が危うくなるかもしれない。事実、香澄の言葉に対し強烈な警告を既に受け取っている。首の傷は何も無かったかの様に消えているが、それがどう繋がるのかを考えると、おいそれと口には出来なかった。

 

 

「居ないのか……となれば、やはり三高なのか。いや、大学か……」

 

 沈黙していた事を知らないと判断したのか、弘一はそれ以上の事は真由美に聞く事はなかった。既にこの話は終わりだと言わんばかりに弘一は再びブランデーを口にしている。何かしらの空気を察知したのか、3人はそれぞれの自室へと戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これまでと何か違う様な……」

 

 バランスは目の前にあるモニターで戦局を眺めながら不意に呟いていた。これまでに何度もあった示威行動に加え、大陸南部の国境付近でいざこざが徐々に大きくなりだしていた。

 既に出動している部隊からの通信によれば魔法師は居ないが、これまでの様に銃火器での威嚇で撤退する様な雰囲気は微塵も無い。その結果、多大な時間を消費していた。

 これまでのUSNAの戦術は大量の物量による力押しでこれまで戦ってきたが、既に現状は力押し出来るだけの物は持ち合わせていない。戦闘魔法師の部隊も事実上の1個師団程度しか無い為に、無駄な戦闘を本来であれば避けたい気持ちが勝っていた。

 何時もと同じだと思った空気は既に無くなっている。目の前に映し出されたモニター情報には目新しい物は何も映っていない。どこか異質な雰囲気が漂い出しているからなのか、基地内部の空気も徐々に変化し始めていた。

 

 

「このままでは悪戯に時間だけを失う。相手は魔法師は居ないと聞いているが、現状はどうだ?」

 

「特に兵装に関しては変わりありません」

 

「戦闘魔法師に出動要請。様子を見る為に1個小隊を派遣させろ。それと作戦本部にアンジー・シリウス少佐の召喚を急げ!」

 

 USNAの南部にはリーナとは違う、もう一人の戦略級魔法師でもあるローラン・バルトが所属している。当初はジブラルタにそのまま在中させる話もあったが、未曽有の危機に対し外部への示威は不要とばかりに本国へと召還していた。

 既に命令が打電されたのか、命令書が国境警備の基地へと送られる。このまま一気に解決を見出す予定だった。

 

 

「バランス准将。アラスカ付近に国籍不明の船団が近づいています。警備船が停船命令を出していますが、応じる気配はありません。このままでは我が国の領海に侵入まで然程かかりません!」

 

 情報官の言葉に基地内部の緊張感は一気に高まりだしていた。今だ南部の国境付近では解決する気配がなく戦闘が続いている。意識を完全に向けた事により、突如として飛び込んだ情報は誰もが想定外の出来事だった。

 

 

「アラスカ付近を航行中の船団に命令を直ぐに出せ!停船命令を無視し、領海内に侵入した際には警告無しで沈めろ!」

 

「しかし、それは……」

 

「今回の件に関しては全面的に私が責任を持つ。何かが起こってからでは遅い!」

 

 バランスの言葉に情報官は既に該当部隊へと打電を開始していた。これまでに執拗な示威行動を繰り返し、半ば偵察なのかこちらの出方を確認していたのかは判断する事は出来ない。

 しかし、南部の国境付近でのいざこざの最中の最接近となれば陽動の可能性も否定出来ない事実だった。開国以来最大の危機だと判断したのか、バランスの言葉以降その場に居る職員の警戒レベルが最大限にまで引き上げられる。

 終わりの始まり。誰もが口には出さないまでもそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 USNAの状況はすぐさま日本にも伝えられていた。既に駐屯している部隊はスクランブル態勢に入り、国内にある各基地はにわかに警戒感を高くしながら様子を伺う。万が一の際には第4次大戦の可能性は極めて高い。情報統制の為にその事実は一部を除いて規制される事になった。

 

 

「……そうか。分かった。十師族としての役割を果たそう」

 

 まだ夜明け前を想像する様に僅かに白さを見せた空の下に一本の連絡が剛毅に飛び込んで来た。佐渡付近での国籍不明の船団が日本の領海侵犯を行い接近中の報告だった。領海侵犯をしている以上、接近まで然程時間はかからない。3年前の悪夢が再び襲い掛かろうとしていた。

 第一報を察知したのか、剛毅は素早く身支度を済ませいつでも出る事が出来る準備を行っている。異様な空気を察知したのか、妻の美登里だけでなく茜と瑠璃の娘2人も起きていた。

 

 

「剛毅さん。今回の件だが、俺も行く」

 

「だが……」

 

 剛毅が身支度をしている際に話かけたのは蒼だった。既に準備は出来ているのかアヤも既に用意が終わっている。恐らくは将輝も支度をしているのか、騒がしい雰囲気が出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寝ているアヤの下に珍しい時間に連絡が入っていた。通信の相手はリーナ。普段であれば時差を考慮してくるはずの連絡にアヤは胸騒ぎを覚えていた。本来であれば小言の一つも言う所だが、こちらの状況を知った上で連絡をする以上、何かしらの問題が起こった可能性が高い。寝起きにも関わらず、アヤはそのまま回線を開いていた。

 

 

「こんな時間にどうかしたの?」

 

《ご免なさい。これだけは連絡した方が良いかと思って。今国籍不明の船団がアラスカ周辺から上陸しようとしてるの。それだけじゃなくて、南部のメキシコ付近でも同じく少規模な戦いが続いてるわ。多分、これは陽動かもしれない。そっちも気を付けて》

 

 リーナの切羽詰った様な声に冗談である可能性は皆無だった。口にこそ出さないが、恐らくは厳しい直面を迎えている可能性が高く、恐らくは蒼に何かしらの助けを求めている様にも思えていた。

 しかし、今の話が本当ならば防備が手薄なのはUSNAだけではない。最悪はここにも来る可能性を秘めていた。

 

 

「そう……ありがとう。詳しい事は分からないけど、そう伝えておくわ」

 

《何かあったら連絡して。この回線はずっと開いておくから》

 

 最低限の言葉だけを残しそのまま通信が切れる。可能性を考えればある意味当然の結果でしかない。リーナの立場を考えれば口にする事は出来ない事も理解しているからこそ、警告と言う名の連絡と回線を開いておくとの言葉だけで終わっていた。

 直感が働いたのか、アヤは直ぐに飛び起きると同時に準備を開始していた。

 

 

 

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