厄災の魔法師   作:無為の極

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第65話

 臨時の師族会議はこれまでに無い程に重苦しい雰囲気に包まれていた。一条の嫡男による戦略級魔法の行使を皮切りに、佐渡での戦闘状況で行使された異質な魔法よって、更なる混迷を作り出していた。

 一人がもたらした結果がどれ程破格な内容なのかは口に出すまでもない。異様な空気の包まれた中で突如して追加の情報が飛び込んで来た。

 

 

「USNAがアラスカ付近と旧メキシコ国境付近で同時攻撃を受けている模様です。今の所はまだ大事にはなっていませんが、早晩にでも何らかの提案が政府から成される可能性があります」

 

「それは本当なのか?」

 

「まだ正式に発表はしてませんが、現地に滞在する部隊からの報告です。既に準備されているチームは移動を開始している模様です」

 

 情報だけを伝えたからなのか、情報官らしき人物からの通信が切れると僅かに騒めき立つ様な雰囲気に支配されていく。本来であれば九藤烈の下にも来るのだが、今はまだ佐渡での戦闘が完全に終了していない事から剛毅の下に送られていた。

 USNAへの同時攻撃となれば、()()()()()()()が組まない限りあり得ない作戦でしかない。まだ情報が錯綜したままだったからなのか、思考がそちらへ傾くのは仕方のない事だった。

 

 再度思考がそちらへと傾きかけた瞬間だった。先程とは違った情報官から血相を抱えるかの様に通信が入っていた。通常であれば音声による物しか無いはずが、余程慌てたからなのか、映像も込みでの通信は他の人間の視界にも飛び込んで来た。

 

 

「す、すみません。実は、監視衛星からの情報が入りましたが、これはどう捉えれば良いのでしょうか?」

 

「どう言う意味だ?」

 

「実は、先程の画像データから特定の地域からこれまで観測した事が無い物が噴出しているとの事です」

 

「君。すまないが、それはどう言う意味かね?先程USNAに対し攻撃が始まったと情報を受けたばかりにも関わらず、今の話はまるで関係無い様にも聞こえる。我々にも分かる様に話してもらえないかね」

 

 九藤烈の言葉に情報官は漸く現状を認識していた。臨時の師族会議は映像でのやりとりとなる事が多く、今回に至っても佐渡の戦いが終わった直後だった事もあってか、それ程セキュリティが高い訳では無かった。

 事実、内容に関しては秘匿されたままの開催は緊急である事は間違い無いが、それがどれ程の重要性を持っているのかが分からない。それが招いた結果に過ぎなかった。

 

 

「こちらの事は気にするな。で、先の件はどんな意味がある?」

 

 剛毅の言葉に情報官は漸く落ち着きを取り戻していた。確かに先程の話から時間は殆ど経過していない。この場に緊急で持ってくる話となれば何かしらの思惑を孕んでいるのは間違い無かった。

 事実USNAへの襲撃が確認出来るのであれば、戦闘魔法師ももれなく参戦する事になる。幾ら政府とは関係無いとは言え、ある程度の話を通さなければお互いに問題を抱える事になる為に連絡したに過ぎなかった。

 

 

「実は、大亜連合と新ソ連の特定の地域で破壊活動が確認されています。今の所、両国からの声明は出ていませんが、既に軍事施設の大半は破壊され、既に戦禍は大陸全土にまで広がりつつあります。このままでは両国ともUSNAの二の舞になるかと」

 

「そうか……話しは分かった。ご苦労だった」

 

 九藤烈の言葉に情報官はそれ以上の言葉を発する事無く通信が切れていた。退役したとは言え、九藤烈も軍に幾らかの伝手は存在している。それは剛毅も同じ事だった。

 非公式ながら万が一に備えよと言外に示された以上、この場に於いて何らかの行動を起こすのは当然の流れだった。

 

 

「老師。その件であれば間もなく終結するでしょう。先程の件に関しては、このまま放置しても問題ありません」

 

「一条殿。この国の危機に何を手緩い事を!」

 

「待て。一条殿。先の言葉の意味を我々にも明確に教えてはくれぬだろうか?ここには先程のやりとりを理解出来る人間がおらぬのでな」

 

 全員の視線が剛毅に向いたかの様に集中する。元々今回の件で公表するのであれば、好都合だと考えたからなのか、剛毅は口をゆっくりと開いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼。これは一体……」

 

「見ての通りだ。この国の滅亡をこの地で眺める。それだけの特等席だ」

 

 先程までゆっくりと食事をしていたはずの光景が一転してまるで地獄にも落ちたかの様な状況に将輝と真紅郎は何も言う事が出来なかった。遮音と結界によってこちらの周囲に人が来る事は無いが、走りながら逃げる者すべてが悲鳴を上げながら走っている。

 建物は瞬時に崩壊すると同時に、あちらこちらから火の手が一気に上がる。蒼は何も操作してなかれば魔法を行使した形跡すらない。日常が一瞬にして崩壊する様相は、少なからず2人にも動揺を誘っていた。

 

 

「だが、ここには無関係の人も居る。助けるのが道理じゃないのか?」

 

「確かにそうだろうな。本来であれば……だがな」

 

「どう言う意味だ?」

 

「あのな。忘れてるかもしれないが、今はまだ交戦中なんだよ。ここの連中が逃げているのは情報が遮断されているから何も知らないだけだ。上空から殲滅目的で爆弾を落とす際に一般市民の事など考慮するか?これはあくまでも俺達が先程まで戦っていた連中なんだ。人道的に考える必要は無い」

 

「だが……」

 

「将輝。一度しか言わない。これは戦争だ。そしてこの国の連中がやった事はただの侵略行為だ。それを防衛して報復したに過ぎない」

 

 蒼の言葉に佐渡で戦った際に聞いた蒼の言葉を思い出していた。この国は無くなる国である事。それと個人的な行動に基づく事。それらの意味が全て合致していた。

 見えない何かが一方的に攻撃を繰り返す。時折上空には戦闘機らしきものが飛んでいるが、視界に入った途端、炎に包まれながら落下する最中に爆散している。劇的とも取れる戦闘機の撃墜シーンに視線が固定されていた。どこかリアリティが無いB級の戦争映画。

 今の将輝と真紅郎にとってそんな風にしか感じる事は出来なかった。

 

 

「これは幾ら何でも……」

 

「真紅郎。まだ分からないのか?佐渡の惨状で何をお前は学んだんだ。あいつらが来た時に、お前はどうなっていた?保護しようと考えたとでも思うのか?」

 

「それは……」

 

「攻め込む以上は逆の可能性を考える。これは当然の話だ。覚悟無き戦いなどありえん」

 

 佐渡の侵攻の言葉は真紅郎の記憶を深く抉っていた。火の手があがり、周囲からは悲鳴だけが聞こえる。自分は結果的には助かったが、それは単に運が良かったにすぎなかっただけだった。

 全てが偶々で来た今、蒼の言葉に対し説得できる様な言葉が見つからない。条約によって守られてるとは言うが、それはあくまでも勝った側が声高く宣言するだけの話でしかない。

 事実、蒼は既にUSNAを壊滅に追い込んだだけでなく、政府との調印まで行っている。平然とそれが出来る人間を説得できる程、真紅郎は聖人君子では無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか……これは本物なのか」

 

「態々贋物を作る必要はありませんので」

 

 剛毅の口から出た内容は、まさに異質な物だった。一人の人間が大国を破壊し、あまつさえ全面降伏させた事を物語るのは常識の枠内から大きく逸脱した事実だった。剛毅の口から出た言葉に誰もが信用する事は出来ない。もちろん剛毅とてそれを織り込んでの話をしている。

 決定的なだったのは臙脂のファイルに入った中身だった。事実上の機密事項ではあるが、本人から渡された以上、それは口外しても問題無いと同意だった。印刷不可の書類は目視するしか出来ない。画面に一杯に映し出された内容に誰も言葉を発する事は出来なかった。

 

 

──USNAは本戦に於いて全面的に降伏する物とする

──本戦に於ける賠償や請求は一切行わない。仮にそれが元で異議を唱えその結果、報復されたとしても異論は挟まない

──本条約に基づく当事者、及び代理人が存在する限り、この内容は保持される物とする。なお、その際には証を互いに確認する物とし、本物であると認めた場合に限る

──尚、期間が50年を迎えても公表する事は許されない。例外なく公表した際には全ての権限を剥奪され、消滅しても止む無しとする

 

 

 異質な内容にその場に居る全員の思考が停止していた。一個人が国との盟約を結ぶ可能性はゼロではないが、常識的に考えてもあり得ない事実だった。内容そのものを公表するとなれば、お互いに大打撃を受ける事になるだけでなく、その結果、大国が消滅したとなれば誰が引鉄を引いたのかと言った魔女裁判にまで発展する可能性があった。真物か贋物かの判断が出来ない。しかし世界中を駆け巡った情報には疑う余地はなかった。

 剛毅が見せた1枚の書類の事実は如何に曲解しようとしても、どうにもならない内容でしかなかった。

 

 

「一条殿。貴殿は世界の覇権を握るおつもりなのか?これが本当だと仮定し、また大亜連合と新ソ連が同じ状況になるのであれば当然の帰結かと思うが?」

 

「そんなつもりは毛頭ありません。私の良き友人でもありますが、同時に息子にとっても良き友人でしかない。態々我々が窮地に陥る様な真似はしませんので」

 

「しかし、このまま放置する訳には行かないのも事実。誰かが何かしらの制限を施すのは当然なのでは?」

 

 三矢家当主の言葉に、弘一は以前に剛毅と話した事を思い出していた。誰かが何かしらの監視を提案するのはこの国を守護する者であれば当然の流れ。当時の言葉がここで本当に伝えるつもりがあるのか、固唾を飲んで見守る事しか出来なかった。

 

 

「元々は一つの約束に基づいた結果でしかありません。彼が我々に対し恩義があるからこそお互いを尊重しあって来ている。信頼関係をこちらから覆すとなれば、その根底から全てがひっくり返されると言う事になります。

 自分とて十師族である以上、この国の守護には責任と誇りがあります。しかし、大国を消滅させる程の力を持った物に対し、我々の力はあまりにも脆弱でしかない。お言葉を返す様で申し訳ありませんが、貴殿は表の商売が立ち行かなくなるからと言った矮小な考えの下で発言している訳ではありませんか」

 

「我を愚弄するのか!そんな矮小な考えなどで発言した訳では無い。事実、世界の命運を今の時点で握っている当事者が消息不明であれば、そう考えるのは当然の事だ」

 

 強い口調が師族会議を更に混沌とした物へと変化させていた。幾ら十師族と言えど、金が無ければ生活する事は出来ない。その結果、誰もが本業とも取れる商売をしながらも今に至っている為に、三矢家当主の発言は口には出さないが誰もが感じていた。

 

 世界の大国が消滅すれば、次に待っているのは経済の面での需要と供給の消滅。事実上の商売相手が無くなれば自然と立ち行かなくなるのは当然だった。

 今の時点でも二国の被害は留まる所を知らないからなのか、剛毅の下だけでなく烈の下にもひっきりなしに情報が更新されていく。これ程までに壊滅の速度が速いのであれば最悪は自国にそれが向けば何も出来ないままなのは明白でしかない。だからこそ監視を付け、一刻も早い鎮静化の為に議論が成されていた。

 

 

「少しばかり宜しいでしょうか?」

 

 喧々諤々と言った内部は克人の発言によってすべてが停止していた。先程の会話の中身から十文字家は何かしら知っている事は誰もが理解したが、その事実にまで踏み込んだ発言をした訳では無い。ただ知っていると言う事実だけを述べたに過ぎなかった。だからこそ、この状況下で踏み込んだ発言をするのであれば、何かしらの案が浮かんだのではとの期待が僅かにあった。

 

 

「問題無い。先程の話からすれば術者について何かしら知っている様にも思えた。だとすれば何か良案でも?」

 

「いえ。彼は殊の外、約定に対して厳格になる部分がこれまでにも何度か見受けられました。事実、約定を破棄した際には自分の行使したファランクスなど意にも介さないと言わんばかりに貫く魔法を行使しています。だとすれば我々も何かしらの約定を構築するのが最善かと」

 

「十文字殿。ファランクスを貫いたのは本当なのか?」

 

「はい。間違いありません」

 

 十文字家のファランクスは世界の中でも類を見ない程の堅牢さを誇る魔法だと認知されている。如何な物理的な攻撃も、魔法による攻撃もその障壁の前では無に等しいとさえ思われていた魔法。しかし、この場で出た言葉はそんな常識をも打ち破っていた。

 何も無かったかの様に貫くとなれば、防御そのものが意味を成さない。絶対の防御が無いままでの戦いは、お互いが激しい損傷を抱えながらとなる。何かしらの争いが起こり、それが元で戦いに乗じるとなれば、絶対的な損傷は免れる事は出来ない。これでは自分達も大国と同じ運命をたどるしかない。

 誰もがその事実を考えたからなのか、今後の方針を大きく変更せざるを得ない状況は師族会議を更なる混沌へと導いている様だった。

 

 

「だとすれば、それも考慮する必要があるかもしれんな」

 

「ですが……」

 

「三矢殿。其方には真夜の魔法の様にファランクスを打ち破る術があるとでも?」

 

 烈の言葉に誰もが異論を出せなかった。絶対の防御を回避するとなれば、その魔法を打ち破る程の威力を要するか、それを行使させる前に何かしらの攻撃をするしかない。幾らスピードローダーと呼ばれた自分の魔法でも、全てが極大の威力を持つ訳ではなかった。

 事実、魔法には相性が存在する。お互いの相性を無視すればどんな結果が待っているのかは考えるまでも無かった。

 

 

「それと、忘れてはいないと思うが、現在進行形で進む大国の破壊活動についてはどう対処するのだ?互いの国の軍事力は既に壊滅している。このままでは後数時間もすれば確実に両国は消滅するだろう。今我々が為すべき事は何なのか、最悪の事態に陥った際にどう対処するのかを考えなければ、我が国の存在も一瞬にして消し飛ぶだろう。だとすれば一条殿の言い分や十文字殿の言い分を考慮する方が建設的ではないのか」

 

 事実の決着が付いたのか、他の誰もが異論を挟む事は無かった。ここで何かを発言できるとすれば、この場に居る誰もがを納得させるだけの根拠が必要となってくる。事実上の決着に対し、師族会議での議論は終了となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ頃合いか。将輝、真紅郎。まだ付き合うつもりなのか?」

 

「当然だ。今更、何処に行けって言うんだ?」

 

 大局が決したと感じたからなのか、蒼はこれまでの様にただ眺めていた行動を止めていた。周囲を見るまでもなく、現状については破壊活動を行使している騎士を通じ把握できる。

 自分達が見える範囲に生命活動を感じる事は完全に無くなっていた。そんな中での蒼の警告とも取れる言葉に2人は疑問を生じていた。このまま終われば何の問題も無いはず。にも拘わらず、事実上の警告と警戒は明らかに何かが起こると言っている様な物だった。

 未だ周囲に敵影は見えない。気が付けばアヤはこれから何が起こるのかを理解しているからなのか、どこか緊張した面持ちで椅子に座っていた。

 

 

「そうか。先に言っておく。これから起こるのは純然たる事実だ。恐らくは口外した所で誰も信用する者は居ないだろうな」

 

「どう言う意味なんだ?」

 

「言葉の通りだ」

 

 将輝の口から不意に出た質問に蒼はそれ以上答えるつもりは無かったからなのか、どこか一点を凝視している。それが何を意味するのかは直ぐに理解させられていた。

 

 

 

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